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【お礼SS】レベッカの手紙
しおりを挟む第19回恋愛小説大賞に投票頂き、
ありがとうございました。
こちらは投票して下さった方に捧げたいなと
思い、感謝を込めて書きました
───────────
舞踏会から数日が経った、静かな朝のことだった。
レベッカは机の前に座り、薔薇柄の便箋をじっと見つめていた。
バリー・チェンバース氏へのお礼の手紙を、なんと書けばいいのだろう。
一度も会ったことのない人。顔も声も知らない人。奥様がランドルフ家の遠縁だということしか、彼女は知らなかった。
それでも、あの月の光を宿したようなドレスを贈ってくれた人だ。
あのドレスを纏った夜、自分は確かにシンデレラの魔法に掛かったようだった。
レベッカはペンを取り、溢れる感謝を書き始めた。
◇
バリー・チェンバース様
先日、大変素晴らしいドレスを贈っていただき、ありがとうございました。
あのドレスのおかげで、恐ろしくてたまらなかった舞踏会を、なんとか乗り越えることができました。
不躾ながら、一つだけお聞きしてもよいでしょうか。
なぜ、これほどまでに美しいドレスを、私に贈ってくださったのですか。
あなたがどのような方なのか、少しだけ知りたいと思っております。
レベッカ・ランドルフより
◇◇◇
レベッカから届いた手紙を、アダムは就寝前のベッドで眺めていた。
「──……それを聞くか」
問いかけに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
あのドレスのことは、アダムもよく知っていた。亡き母が何年もかけて、少しずつ仕立てた特別な一着だ。
母は生前、語ってくれた。
生まれてすぐに逝ってしまった娘のために、いつか舞踏会で踊る姿を夢見て、異国の生地に針を刺し続けたのだと。
そして、俺が社交界デビューをする時には、対になるタキシードまで作ってくれた。
いつか愛する人と一緒に着て、舞踏会に行ってねと言いながら。
だが、あの日。
レベッカにワインを掛けられ、台無しにされた……。俺にとっては悪夢のような、散々な思い出。
母の想いが詰まったドレスを、かつて彼女は汚し、踏みにじった。そして、母を泣かせたのだから。
とは言え、アダムは、こっそりと彼女の部屋に忍び込んだ。レベッカが愛らしい寝息を立てている隙に、震える手でメジャーを当て、その身体の曲線を測る。
翌朝には信頼できる使用人にスリーサイズを伝え、ドレスの調整を命じた。
母さん、ごめんね。
まさか、あのレベッカ・ランドルフに、大切なドレスを着せてしまうなんて。
君はそのドレスの意味も知らずに纏って、あんなにも美しく輝いていた。
渡すことを、何度もためらった。
それでも──あの夜、月の光を纏って踊る彼女は、残酷なほどに美しかった。
アダムは静かに、ペンを取った。
◇
レベッカ・ランドルフ様
お手紙、嬉しく読みました。舞踏会、よく頑張りましたね。
どうしてドレスを贈ったのか、というあなたの問いにお答えするには、少し長い話になります。
私の妻は、アンナと申しました。気が強くて、よく笑う、元気な女性でした。
私たちにはなかなか子供が授かりませんでしたが、長い年月の末、ようやく娘を得ました。けれど、その子はほんの短い命だったのです。
アンナはその後も前を向いて生きましたが、ただ一つだけ、手放せないものがありました。
それが、あのドレスです。
もしも娘が舞踏会で踊れたらと想像し、アンナは何年もかけて仕立てていました。
月の光の中で踊る娘の姿を、夢見ながら。
バリー・チェンバースより
◇◇◇
手紙を読み終えたレベッカの手が、小刻みに震えた。
何度も、何度も読み返す。
言葉が胸に刺さるたび、呼吸が浅くなっていく。
あのドレスは。あの月のドレスは。
見ることのできなかった娘のために、一針一針、母親が願いを込めて縫い上げたものだったのか。
(私は……そんなに大切な、尊いものを纏って、踊っていたの……?)
視界が涙で歪んでいく。
アンナという女性のことも、
送り主のバリー・チェンバース氏のことも、
レベッカは何も知らない。
顔も、声も、温もりも。
けれど今、この瞬間。
ドレスを縫い上げた母親の深い愛情と、それを着るはずだった娘への祈りが、自分の胸の奥へと静かに流れ込んでくるのを感じた。
レベッカは溢れる涙を拭い、震える手でペンを握った。
その温かな祈りに応えるために。
今度こそ、偽りのない心からの感謝を綴るために。
(レベッカの手紙/END)
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