公爵様、私は「ざまぁ」されましたので優雅な余生を過ごします。【連載版】

村井田ユージ

文字の大きさ
33 / 34

【お礼SS】レベッカの手紙

しおりを挟む


第19回恋愛小説大賞に投票頂き、
ありがとうございました。
こちらは投票して下さった方に捧げたいなと
思い、感謝を込めて書きました

───────────



 舞踏会から数日が経った、静かな朝のことだった。
 レベッカは机の前に座り、薔薇柄の便箋をじっと見つめていた。

 バリー・チェンバース氏へのお礼の手紙を、なんと書けばいいのだろう。
 一度も会ったことのない人。顔も声も知らない人。奥様がランドルフ家の遠縁だということしか、彼女は知らなかった。

 それでも、あの月の光を宿したようなドレスを贈ってくれた人だ。
 あのドレスを纏った夜、自分は確かにシンデレラの魔法に掛かったようだった。

 レベッカはペンを取り、溢れる感謝を書き始めた。


 ◇

 バリー・チェンバース様

 先日、大変素晴らしいドレスを贈っていただき、ありがとうございました。
 あのドレスのおかげで、恐ろしくてたまらなかった舞踏会を、なんとか乗り越えることができました。

 不躾ながら、一つだけお聞きしてもよいでしょうか。
 なぜ、これほどまでに美しいドレスを、私に贈ってくださったのですか。

 あなたがどのような方なのか、少しだけ知りたいと思っております。

        レベッカ・ランドルフより

 ◇◇◇



 レベッカから届いた手紙を、アダムは就寝前のベッドで眺めていた。

「──……それを聞くか」

 問いかけに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

 あのドレスのことは、アダムもよく知っていた。亡き母が何年もかけて、少しずつ仕立てた特別な一着だ。

 母は生前、語ってくれた。
 生まれてすぐに逝ってしまった娘のために、いつか舞踏会で踊る姿を夢見て、異国の生地に針を刺し続けたのだと。

 そして、俺が社交界デビューをする時には、対になるタキシードまで作ってくれた。
 いつか愛する人と一緒に着て、舞踏会に行ってねと言いながら。

 だが、あの日。
 レベッカにワインを掛けられ、台無しにされた……。俺にとっては悪夢のような、散々な思い出。
 母の想いが詰まったドレスを、かつて彼女は汚し、踏みにじった。そして、母を泣かせたのだから。

 とは言え、アダムは、こっそりと彼女の部屋に忍び込んだ。レベッカが愛らしい寝息を立てている隙に、震える手でメジャーを当て、その身体の曲線を測る。

 翌朝には信頼できる使用人にスリーサイズを伝え、ドレスの調整を命じた。


 母さん、ごめんね。

 まさか、あのレベッカ・ランドルフに、大切なドレスを着せてしまうなんて。

 君はそのドレスの意味も知らずに纏って、あんなにも美しく輝いていた。

 渡すことを、何度もためらった。

 それでも──あの夜、月の光を纏って踊る彼女は、残酷なほどに美しかった。

 アダムは静かに、ペンを取った。


 ◇


 レベッカ・ランドルフ様

 お手紙、嬉しく読みました。舞踏会、よく頑張りましたね。

 どうしてドレスを贈ったのか、というあなたの問いにお答えするには、少し長い話になります。

 私の妻は、アンナと申しました。気が強くて、よく笑う、元気な女性でした。
 私たちにはなかなか子供が授かりませんでしたが、長い年月の末、ようやく娘を得ました。けれど、その子はほんの短い命だったのです。

 アンナはその後も前を向いて生きましたが、ただ一つだけ、手放せないものがありました。
 それが、あのドレスです。

 もしも娘が舞踏会で踊れたらと想像し、アンナは何年もかけて仕立てていました。
 月の光の中で踊る娘の姿を、夢見ながら。

        バリー・チェンバースより

 ◇◇◇


 手紙を読み終えたレベッカの手が、小刻みに震えた。

 何度も、何度も読み返す。
 言葉が胸に刺さるたび、呼吸が浅くなっていく。

 あのドレスは。あの月のドレスは。
 見ることのできなかった娘のために、一針一針、母親が願いを込めて縫い上げたものだったのか。

(私は……そんなに大切な、尊いものを纏って、踊っていたの……?)

 視界が涙で歪んでいく。

 アンナという女性のことも、
 送り主のバリー・チェンバース氏のことも、
 レベッカは何も知らない。

 顔も、声も、温もりも。

 けれど今、この瞬間。

 ドレスを縫い上げた母親の深い愛情と、それを着るはずだった娘への祈りが、自分の胸の奥へと静かに流れ込んでくるのを感じた。

 レベッカは溢れる涙を拭い、震える手でペンを握った。

 その温かな祈りに応えるために。
 今度こそ、偽りのない心からの感謝を綴るために。






(レベッカの手紙/END)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...