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第二章
籠の鳥の境遇
しおりを挟む「はいこれ、使ってよ」
その少年は、鉛でできた金属器にいっぱいの水を汲んできた。
飲めというわけではないらしい。水入れに手拭いを添えて、勢いよくシアンに差し出す。
中の水が跳ねた。
「身体拭きたいかと思って持ってきた!」
その間、シアンは右手と口を使って器用に下着を巻き付けていた。
左手を使おうとしない彼の様子を見ながら……その理由を察した少年は表情を曇らせる。
「だっだっ…大丈夫か?オレが手伝うか?」
「……」
シアンは無言で首を横に振る。
……しかし、下着を巻き終わるまでずっと水入れを持って動かない相手を見て
「……ありがとうございます」
シアンは諦めたように礼を言い、それを受け取った。
「君は…オメル、と言いましたか?」
「そう、オレは歩兵師団のオメル。キミは?」
「シアンです。近衛隊に志願して、先ほど槍兵師団の将官殿に入隊を許可されました」
「はいったばかりなんだね。はじめましてシアン!」
「…?」
場違いにも人懐こい笑みだった。
黄土色の肌に、栗色の髪。愛らしさが際立つ丸みを帯びた目元と、低めの鼻。
帝国人に似た容貌をしているが、商人と旅人が常に行き交うキサラジャにおいて、異国風の容姿をした人間は珍しくない。
身長はシアンよりも頭ひとつぶん以上小さかった。(これはシアンの背丈が他人のそれより高めなせいもある)
「ところで君はこんな所にいて良いのですか?将官殿が見回りにきているそうですが、持ち場に戻ったほうが…」
「あ~あれな。へへっ」
「?」
「実はさっき叫んだのはオレなんだ。将官が来たってのはウソ!ああでもしないとあいつ等止めないし…。声色変えてみたから気付かなかったろ?」
「そうでしたか…!」
どうやらつい先刻、シアンは彼に助けられたらしい。
これでは流石に、彼を無下にできない。
今のオメルの好意丸出しの目は嘘に見えないし、…改めて一考してみれば、不快ではないのだから。
だから笑いかけるべきと思った。
微笑んで、礼を言おう
シアンはそう思った。
しかしここで彼は躊躇する。笑い方がわからない…。
従順な下僕としての媚びた顔も、遊戯中の挑戦的な口元も、客や自分自身への侮蔑の笑みも──全て、仮面を取り替えるように使い分けるコトができるのに
こんな時に…自然に出てくる笑顔がない。
駆け引きの表情しか知らない自分
感謝の意は確かにあるのに、偽の笑顔を貼り付けるしかできない自分自身を省みて、シアンは笑うのを躊躇った。
スゥ───
「えっ…?」
「…ありがとう、君のお陰で助かったよ」
シアンは笑いかけるのを諦め、代わりに、上げた左手をオメルの頬に添えた。
右手は水入れを持っている。なので左手だった。
黒い布に巻かれた義手は、触れた感触をシアンに伝えこそしないが、オメルには伝わる。
「う、うん……どういたしまして…//」
オメルは嬉しそうに笑っていた。
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