謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

文字の大きさ
15 / 143
第二章

籠の鳥の境遇

しおりを挟む

「はいこれ、使ってよ」

 その少年は、ナマリでできた金属器にいっぱいの水を汲んできた。

 飲めというわけではないらしい。水入れに手拭いを添えて、勢いよくシアンに差し出す。

 中の水が跳ねた。

「身体拭きたいかと思って持ってきた!」

 その間、シアンは右手と口を使って器用に下着を巻き付けていた。

 左手を使おうとしない彼の様子を見ながら……その理由を察した少年は表情を曇らせる。

「だっだっ…大丈夫か?オレが手伝うか?」

「……」

 シアンは無言で首を横に振る。

 ……しかし、下着を巻き終わるまでずっと水入れを持って動かない相手を見て

「……ありがとうございます」

 シアンは諦めたように礼を言い、それを受け取った。

「君は…オメル、と言いましたか?」

「そう、オレは歩兵師団のオメル。キミは?」

「シアンです。近衛隊に志願して、先ほど槍兵師団の将官殿に入隊を許可されました」

「はいったばかりなんだね。はじめましてシアン!」

「…?」

 場違いにも人懐こい笑みだった。

 黄土色の肌に、栗色の髪。愛らしさが際立つ丸みを帯びた目元と、低めの鼻。

 帝国人に似た容貌をしているが、商人と旅人が常に行き交うキサラジャにおいて、異国風の容姿をした人間は珍しくない。

 身長はシアンよりも頭ひとつぶん以上小さかった。(これはシアンの背丈が他人ヒトのそれより高めなせいもある)

「ところで君はこんな所にいて良いのですか?将官殿が見回りにきているそうですが、持ち場に戻ったほうが…」

「あ~あれな。へへっ」

「?」

「実はさっき叫んだのはオレなんだ。将官が来たってのはウソ!ああでもしないとあいつ等止めないし…。声色変えてみたから気付かなかったろ?」

「そうでしたか…!」

 どうやらつい先刻、シアンは彼に助けられたらしい。

 これでは流石に、彼を無下にできない。

 今のオメルの好意丸出しの目は嘘に見えないし、…改めて一考してみれば、不快ではないのだから。


 だから笑いかけるべきと思った。


 微笑んで、礼を言おう

 シアンはそう思った。

 しかしここで彼は躊躇チュウチョする。笑い方がわからない…。

 従順な下僕ゲボクとしての媚びた顔も、遊戯中の挑戦的な口元も、客や自分自身への侮蔑の笑みも──全て、仮面を取り替えるように使い分けるコトができるのに

 こんな時に…自然に出てくる笑顔がない。

 駆け引きの表情しか知らない自分

 感謝の意は確かにあるのに、偽の笑顔を貼り付けるしかできない自分自身を省みて、シアンは笑うのを躊躇タメラった。


スゥ───


「えっ…?」

「…ありがとう、君のお陰で助かったよ」


 シアンは笑いかけるのを諦め、代わりに、上げた左手をオメルの頬に添えた。

 右手は水入れを持っている。なので左手だった。

 黒い布に巻かれた義手は、触れた感触をシアンに伝えこそしないが、オメルには伝わる。

「う、うん……どういたしまして…//」

 オメルは嬉しそうに笑っていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...