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第二章
籠の鳥の境遇
しおりを挟むオメルはシアンと同じように、《 クルバン 》の慣習に従って近衛隊に入った賤人だった。
貧しい生活を送る中で、ある日村で出会った貴族の男に推薦状を渡され、大喜びで近衛隊にはいったそうだ。どんな扱いを受けるとも知らず。
誰も尋ねていないのに、父親と二人暮らしだったことも勝手に説明された。
「母ちゃんはオレが小さい頃に、ガラの悪い商人達に襲われて……」
「……」
驚くまでもなく、そんなところだろう。賤人の家族の事情なんて聞くだけムダだ。
何故、彼がこう自分の境遇をペラペラ話したがるのか…。対等な立場で話せる相手が久しぶりなのだ。
それが嬉しくて堪らないのだろう。
オメルはあっという間にシアンに気を許してしまった。
「オレの母ちゃん、すごくキレイだったんだぞ?あ、シアンには負けるかもだけどっ…」
「それはどうも。それで、君はいつ近衛隊に入ったの?」
「十四歳だったから…二年くらい前だな。そうそう、オレはいま十六歳な!」
「それなりに先輩だね。歳は僕が上だけれど」
二人は今、食堂の脇にあるベッドに腰掛けて話していた。もとは仮眠用のベッドだ。
濡らした手拭いで身体を洗うシアンの背後で、おせっかいなオメルが背中を拭いている。
「シアンは何歳?」
「二十歳だよ」
「え、意外と若いね」
「……老けて見えるって?」
「い、いやいやいやいやそんな事ないよっ…雰囲気が…大人っぽいから」
焦っているのが丸わかりだ。
背中をこする力が無意識に強くなって、少し痛い。
オメルのほうこそ十六歳には見えなかった。もっと幼く見える。
生まれつきの目鼻立ちもあるが、痩せた身体、低い背丈、それらが彼を小さく見せていた。
「大人っぽいしっ…なんか品があるしっ…」
「…ッ…わかったよありがとう。あと背中も拭き終わって大丈夫」
「あ、うん、わかった」
これ以上擦られると背中の皮を持って行かれそうなので、シアンは身体を拭くのを切り上げて立ち上がった。
そういえばと机に置き去りにしていた荷物を思い出し取りに行く。
その間にも、ベッドに座ってあたふたしているオメルがいた。仔犬か。
あの真っ直ぐな人懐こさも彼を幼く見せてしまう原因だ。
シアンは自分に注がれる視線を感じたまま荷物を取った。
支給された隊服。
「……」
「…!シアンってさ、キレイな身体してるよねっ」
隊服を手にシアンが押し黙っている最中も、まだオメルは喋っていた。先ほどのヘマを挽回したいらしい。
「顔だけじゃなくて身体もキレイなんだな。痩せてるのはオレと一緒だけど─…でもぜんぜん違う」
「オメル……」
「背が高くて足長くて、司令部に置いてある彫刻みたいだ。…ん?ん~?いや違うな…あんなゴツゴツしてないか」
「…ハァ」
「そうだ!貴族の奴らが壁に飾ってる絵画から出てきたみたいだ!たとえばーたとえば、あれ、太陽神のとなりにいつも女神さまがいるだろ?その──」
「オメル、黙るんだ」
「ッ…?」
突然、シアンの声色が厳しくなった。
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