謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第五章

不在の将官

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──…


「騎兵師団の将官がジゼルに戻ってくる?」

「うん、そうらしい。さっき廊下であいつらが話してるの聞いたー」

 練兵所の脇にある武具の保管庫。

 シアンとオメルは上官の命令に従い、砂で汚れた武具の手入れをおこなっていた。

 だが途方もない量を前にそのうち飽きがきたので、今朝シアンが食堂で盗んだ果実をかじりながら、日影で休憩をとっている。

「確か、帝国との国境で隊の指揮をとっているんだろう?」

「そうそう、そこで、帝国と近衛隊でにらめっこしてるらしいけど、なぜか将官だけ帰ってくるんだ」

「そうか……」

 薄赤色の実に果皮ごと歯を立て、少量を口に含んだシアンが眉をひそめる。

「反応暗いな。シアンもそいつが嫌い?だってやっぱり《指切り将軍》だもんな。ちょっと怖いよな」

「…指切り将軍って何のこと?」

「あっシアンは知らないのか。騎兵師団のバシュはさ、昔からそう呼ばれてるらしいんだ。面と向かって呼んでるかは知らねぇけど…──っ、わ、ニガイ……」

 会話中も果実にかじりつくオメルは、中の種を噛んでその苦さに顔をしかめた。

「…ッ…俺は隊が違うから会ったことないけどすっげー気難しくてコワイ奴なんだって」

「へぇー……」

 心境の読み難い声で、シアンが相づちを打つ。

「でもよかったじゃん。そいつが戻ってきたら、シアンも別の仕事もらえるかもしれないんだろ?」

「そうだね。そうだといいな」

「オレはゴメンだけど……シアンは変わってるなぁ」

 騎兵師団のバシュが不在の間、シアンの所属は槍兵師団となっている。

 だが初日の入隊試験以降、シアンは訓練の参加も認められていない。このまま警備や巡察も命じられないままでいては、王宮周辺へ近付けられない。

 以前オメルに、どうすれば王宮の警備兵になれるのかを聞いた時は、とんでもないと大慌てで止められた。


『なに考えてるんだよシアン!あのあたりは国王さまや公爵さまが住んでてっ…それに、水の社もあるだろ?勝手に近付いちゃいけない』

『だが仮にも僕らは近衛隊の一員だ。まったく可能性がない訳ではないだろう?』

『でもオレたちは貴族じゃない…。王宮の警備をまかされるのはメイヨなことってみんな話してる。信頼できるやつだけを、バシュが直接選ぶらしいんだ』


 貴族社会は面子めんつが全てだ。君主の警備に身分の低い者を抜擢したとなれば、将官の面子に傷が付く。

 貴族の中でも身分の差はある。まして、貴族どころか平民ですらないクルバンに役職を与えたとあっては──。

「……ハァ」

 さて、どこから潜るべきか。



「おいオメルどこ行ってんだ!時間だ!水を運んでこい!」

「…っ…げ、あいつらが呼んでる」

 シアンが思索にふけていると、保管庫の裏からオメルの名を叫ぶ声があった。

「ほんと、ひと使い荒いんだよなあ…ったく。まぁシアンが来る前よりマシになったけど?ちょっと行ってくるね」

「僕も行こうか?」

「いいよオレしか呼ばれてないし」

 残った丸い実を口に放り込んでオメルは走って行った。


 …あんなに口の中をパンパンにして彼等の前に出たら、十中八九咎められると思うが大丈夫だろうか。


「おいちょっと待てオメルてめぇ何を食ってる!? 俺達が訓練してる間につまみ食いか!?」

「ふがッッ…もごっ、ごっごめんなさいーー!水運んできまーーす!」

 ……シアンの予想は当たったらしい。

 これはオメルの落ち度なので助けるつもりはないが、せめて無事を祈るくらいはしておいた。


「…ッ…僕も少し、食べ過ぎたか」

 そんなシアンも今日はオメルのペースに呑まれて、いつもより多めに朝食を取ってしまった。

 胃の中に居座る重力がたとえ僅かであろうと不快に感じる。

 …仕方ない。

「…‥ン‥ッ──フ、グ‥…」

ゴボッ

「ン─ッッ‥‥……ゲホッ ゲホッ!‥く、ぅ…」

 彼は建物の陰に頭を垂れ、その長い指を自らの喉へ押し込んだ。

 喉奥を強く掻きむしる。ちょっとの刺激では慣れてしまっているから、これくらいしなければむせることができない。


 そして彼は少量の胃液とともに、ナカの異物を地面に吐き出した。


「──…ふん、なんだ」

「ゲホっ、‥…!? ハァっ…‥ハァっ‥‥!!」

「貴様は豚の餌でも食べるのか?やはり穢わらしいことこの上ないな」

「……!?」

 すると、地面にうつ伏せるシアンの背後にあの男が立っていた。

 初めてシアンを見た時のように軽蔑の眼差しを向け、──それでも口許は愉悦をこめて笑っている。

 シアンはおもては上げずにカフタンのすそだけを見て口を開いた。

「これ は……スレマン・バシュ。お見苦しいトコロをお見せして申し訳ありません」

「まったくだ」

「入隊を許可して頂いたとき以来ですね。お久しぶりです。…ご要件は?」

 高官の衣服を身に付けてシアンを見下ろしているのは、槍兵師団のスレマン・バシュ。

 シアンの推薦状を受け取り、入隊を認めた将官だ。
 
「暇ができたので貴様の様子を見に来ただけだ」

「…僕を " 見に " わざわざ?」

「そうだ。聞けば貴様…入隊試験とやらで私の部下を負かしたらしいな。その細腕で剣技の才もあるとは驚いた」

「相手が短絡的だったのが勝因かと」

「ふ、ははは!面白い小僧だ。さらにその夜から、部下共に上等な酒を振舞っているとも聞いたが?」

「上等な酒なんて僕に用意できません。ただ彼等が粗悪な酒を流し込んで満足していたようなので、多少、味を整えて目を覚まさせただけです」

「……ふん、相変わらず生意気だな」

「ですが、お好きでしょう?」

「…っ…ああそうだな。私に気に入られるすべを心得ておる」


·······


「今からその酒を、私の部屋まで運ぶがいい」

「──…」

「穢れた身体は清めて来い。……わかったか」


 スレマンの命令を聞いて、一瞬の刻、シアンの呼吸が止まった。

 それまで咳き込んでいた口を引き結ぶ。

 薄汚い男によこしまな劣情を向けられれば、ますます気分が悪くなると言うものだ。


········ニコリ


 しかしその劣情に──利用する価値があるならば

 それは彼にとって……途端に甘美な蜜へと変わる。


「……喜んでお持ちしましょう。スレマン様」


 シアンは面を上げると、極上の色香を漂わせて微笑んだ。






──…



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