謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第十六章

霹靂

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──…

 午前の執務を終えたタラン侍従長が、王宮からラティーク公爵邸に戻っていた。

 彼はいたって平然と振る舞っていた。細かな刺繍がほどこされた長丈衣エンターリの裾をさばき、冬の庭園をゆったりとした足取りで渡る。

 途中、大神殿へ向かう裁判官達と出会ったタランは、西の国から仕入れた珍しい色の染物キリトについてなど、実にどうでもよい会話を聞かされたうえで、話は昨夜の騒ぎについてになった。

「そうそう、侍従長様は昨夜の地鳴りを聞きましたかな?ここら一帯に響いたとか」

「そうですね…地震ほどではないがいくつか振動がありました。キサラジャでは珍しい現象でしたね」

「念のため調査をおこなうそうですな」

「ええ、今朝の議でサルジェ公爵がそのように申されましたよ」

 事を深刻と思わない連中に対し、丁寧に礼をして別れる。


 …しかしそんなタランは今朝の食卓にもつけぬほど、切迫した事態に直面していたのだ。


「侍従長様」

「……報告しろ」

 公爵邸の門をくぐろうとしたタランは、見張りの王宮警備兵に呼び止められる。

 門を前にして横に並ぶ二人は互いの顔を見ることなく話し始めた。

「昨夜の爆発はやはり地下でのものでした。原因は火槍シャルク・パトで、まず間違いございません」

「…どこまで確かめた?」

「水のやしろからのルートは完全に崩れておりましたので…別の…」

「…っ…まさか王宮の隠し通路は使っていないであろうな」

「も、勿論です!南の神殿跡から地下におりました。ただ…爆発で火の手があがったようで、奥は煙が充満し近付けませんでした。平民達の姿がないため奥で息絶えている可能性もありますが…っ」

「わかった。それで  は終えたのか」

「少し前に別の者が完了させました。これで地下の調査は不可能です」

 " 例の処理 " という意味深なやり取りを終え、タランは門戸を開けるようにと所作で示した。

「ならば次は、逃げた平民を探し出せ。見つけた場合は…適切に、処分だ」

「かしこまりました」

 指示を聞いた王宮警備兵が、持ち場である公爵邸を離れる。タランは門をくぐり抜けた。


“ 面倒な事態になった…… “

 昨夜におこった地下での暴発は、タランにとって大きな痛手である。何がきっかけだったのか、その確証はまだ何も無い。

 火種の管理は徹底していた……。その為に、リスク承知で、目の届く場所を密造所に選んだというのに。

 もちろん万一の事態にそなえ、自らの関与に繋がるような物証は残さないようにしているが、作業手である平民が逃げ出したのなら想定外だ。

 地震でないことはすぐに気付かれる。



「タラン侍従長殿!」

「……」
 
 突然、ひとりとなったタランのもとへ声がかかった。

 相手は十数人の近衛兵。彼等はタランを呼び止めた後、ラティーク家の門前まで走りよる。

「何用でしょうか、……おや」

 兵達が慌ただしい足音で集まってくるのを、門を開けずに待ってやる。

「君は確かバヤジット将官殿のところの部下ではないか。慌てた様子でいかがされた?」

「バヤジット・バシュ麾下きか十五名の近衛兵です。将官の指示で、昨夜王都地下から逃げ出したとされる不審な平民達を捕らえました」

「……」

 バヤジットより少し歳上のその男は、騎兵師団の副官だった。

「捕らえた者達への審問により、彼等がクオーレ地区の地下空間で、何かしらの兵器を製造していた事がわかっております」

「地下、でございますか。何やら不穏な事態ですか……、どうして私の元へ?」

「地下に集められた平民はウッダ村に民兵として徴用された者達でした。侍従長殿の関与が疑われます!」

「……私の?ふっ」

 彼等の用はやはり地下での事だった。爆発騒ぎで外へ逃げていた平民は、ひと足早く近衛隊に見つかったようだ。

 つめよる副官に対し、タランは落ち着いた態度でこたえた。

「何のことやらさっぱりですな。確かに私は、稼ぎを失った民の為に私財を投げうち徴兵するよう進めましたとも。…だから、何だという話です。仮に別の場所へ連れて行かれた者がいたとして、私とは関係ありません」

「あっ…貴方が集めた平民ではないですか!何者かが手引きしたのは明らかだ。知らぬ存ぜぬで押し通せるとお思いか?」

「当然。何の証拠にもなっておらぬ。むしろ責任があるとすればウッダ村に駐屯している近衛兵ですな」

「くっ…!」

「私の関与を疑うならまず証拠をそろえなさい。…それと、裁判院からの令状をね」

「非常事態ですぞ!」

「であれば尚更、冷静な対応を求めますよ」

 タラン侍従長は冷ややかな目で彼等を一瞥した。

 裁判院からの令状?

 そんなもの、ラティーク・タラン・ウル ヴェジールに対して、裁判官らが許すはずもない。

 その時だった。別の近衛兵が慌てた様子で馬を走らせてきた。

「副官!大変です!」

「どうした?」

「証拠を押さえに神殿跡地に向かいましたがっ…隠し階段の下は水没しておりました!中に入れません!」

「な…ッッ」

 調査をしに向かった現場は水に浸かっているという。何者かが隠蔽の為に沈めたのだ。

 副官の男は咄嗟にタランを睨んだが、奴は涼しい顔で沈黙している。

 まだ話そうとする男を残して邸宅の中へと去って行った。




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