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第十八章
壁ごしの約束
しおりを挟む「ふっ……ふふふ、なんですかそれ」
その時、バヤジットの鼓膜をくすぐったのは
「…っ…本当 に……貴方ってひとは……」
「シアン?笑って、いるのか…?」
今まで聞いたことがなかった、シアンの 笑い声 だった。
馬鹿にした笑みも、妖艶な微笑みも…何度も見てきたバヤジットだが、こんな声は初めてだ。
『 ──…ほらね 』
ずいぶん前だ。出会ってすぐ、ウッダ村に行こうとするバヤジットに、シアンが見せた したり顔。
慌てる自分をラクダの背から見下ろした…朝陽にきらめいたどこか幼いその笑みを、思い出す。
シアンは笑いをこらえ切れないようで、しばらくの間小刻みに震えていた。
「…っ…はぁー」
「わかったっ…//…わかったからもう笑うな!」
「ふふ……すみません、つい」
きまり悪くバヤジットが怒ると、シアンは楽しそうに謝る。
「気を使っていただく必要はありません。祝いの品はいりませんよ」
「そ、そういうわけにいくか。生誕日は大切だ」
「僕にとってはあまり重要でもありません」
「…っ…俺が贈りたいんだ!それだけだ」
「ハァ……」
ようやく笑いが引いてきた。
落ち着こうとして大袈裟に息を吐き出し
ぐしゃっと濡れた髪をかきあげて、シアンはその場に座り込んだ。
「シアン?なんだ?まだ文句があるのか」
沈黙だけは勘弁してくれと、後ろでバヤジットがあたふたしている。
屈強な男のそんな姿を想像すると、ますます頬が緩んだ。
「では……ひとつだけ、僕の頼みをひとつだけ、何でも叶えるというのはどうですか?」
「そ、それは……内容によるな」
「ケチですね」
「俺にできることであれば叶えるっ!」
「クスッ……そうですか、なら」
「……ゴクッ」
贈り物としてシアンが望んだのは、物じゃない。
どんな頼みなのだろうか。バヤジットが緊張して待つ。
そんな彼に、シアンは穏やかな声色で告げたのだった。
「──…僕に剣術を教えて下さい」
「剣術を……?」
「この手で陛下をお護りできるように、貴方に稽古をつけてほしいのです。バヤジット・バシュ」
「そんなことか?俺でいいなら、か、構わんが…」
「約束ですよ」
シアンは止めていた手を動かして、身体を拭くのを再開した。
「…いつにする?」
「まだわかりませんね。僕はしばらく部屋から出られませんし」
「俺は今のところ王都にとどまる予定だから、いつでも大丈夫だ」
「ありがとうございます」
チャプン
手ぬぐいが冷めてしまったので、もう一度湯にひたす。
肌も冷えてしまうからあまり長居はできない。
「楽しみにしています、バシュ(将官)」
「……、そうだな、俺もだ」
シアンの声が穏やかだから、バヤジットもつられて顔を朗らかせた。
許されたわけじゃない
あの日に戻れるわけでもない
それでも今の二人に流れる空気は、帰ることのない日々の煌めきを懐かしむ。
『 僕は近衛兵となり、誰よりもそばで兄さまを支え……誰よりもそばでお守りするのだ 』
あの日の幼き王弟の夢は
明るい未来を信じていた純粋な言葉は
今なお、生きているのでは
“ そんなことっ…俺の願望でしかないんだがな… ”
儚い願望とわかっていても、すがらずにはいられない優しい空気が、バヤジットの目頭を熱くさせた。
───…
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