142 / 143
第二十一章
春待つ砂丘の花々よ
しおりを挟む「シアン様はどこにいるのでしょうか」
男は、腰布の隙間に大事にしまっていた物を、新たに二人に差し出した。
「花は咲きました!故郷の……庭にっ……たくさん咲いているのです!持ってきたぶんは枯れちまいましたが、戻れば、まだっ…」
パッとひらいた掌で、舞い散る花びら──。
「シアン様にお会いしとうございます。息子の、オメルの夢だった花の中に……シアン様をお連れしとうございます」
「……」
「お連れしとう…ございます……!」
肩を震わして話す男は、すっかりしぼんだ花の残骸を、また同じように腰布に戻す。
そこから逃れたいくつかが……宙に浮いてバヤジットの鼻先をかすめた。
思わず追った先の視界で、青く突き抜ける空を背負い
花びらの純白が、まばゆく光を身に纏う。
不自然にきらめいて…ぼやけた時
バヤジットは、自分の視界が涙で潤んでいたと気が付いた。
「……っ」
大粒の涙は彼の目尻に溜まったまま、頬を流れず堪えていた。
…瞳の奥が焼けるように熱い。
なのに宙をひらめいた花弁は自由で楽しげで、ゆっくりと旋回したかと思えばひらひらと降りてくる。
それはバヤジットに見つめられながら、前に立つ青年の肩に落ちた。
青年は読み終えた手筒を凝視したまま、帽子から垂れた紗の向こうに…その表情を隠している。
そして声を発した。
「貴方は……」
「……!」
「貴方たち親子はまるで、魔法使いのようだ…」
「…………、シアン」
目の前のバヤジットだけは見ていたのだ。
穏やかに目尻をさげて、困ったようにも映る複雑な表情で、泣き笑う彼を。
「自由に夢をかかげ、それを託し、そして…こうして叶えてみせた。それはこの広大無辺な砂の地で……もっとも尊い奇跡のひとつだ」
…彼はきっと悲しんでいる。
…今もずっと苦しんでいる。
それでも涙が温かいのは、優しい気持ちを思い出したからだ。
嘘のない喜びが、確かにそこにあるからだ。
「……見てくれ、バヤジット」
「──…」
「花が…咲いた…。オメルは夢を…叶えたんだ」
肩にのった花びらを指ではさんで、彼はそれを空へと見せる。
くしゃりと目を細めた横顔は、バヤジットが心を奪われ…本気で愛し、助けたいともがいた、シアン、──その人であった。
1
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる