謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第二十一章

春待つ砂丘の花々よ

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 シアンは何処にも消えていない。

 散らばる手筒のひとつひとつが…
 ここに咲いた小さな奇跡が…

 すべて、シアンが生きた証じゃないか。


「…っ…、陛下」


 バヤジットが膝をついてその場に屈む。


「この花を国中に咲かせましょう…!

 シアンが何処にいたとしても、ひとりで戦っていたとしても、…花に囲まれていられるように」


 数え切れない傷を負い
 健気にいだいた夢のひとつさえ…

 追いかけることを許されず

 大切な友と、愛した兄を手にかけて

 …それでもシアンは、今も死ねずに生きている。

 兄を犠牲にして救った国を、そこに生きる民を守るために、玉座で孤独に戦っている。

 そんな自分をシアンは愛してやれないだろう。

 だからあの日──生き長らえた命を嘆き、生かしたバヤジットを呪い叫んだ。


 だからこそ


「シアンを愛する者がいるのだと…思い出せるように、してやりたい」


「──…」


努努ゆめゆめ、忘れてはなりません…!」


 足元にひざまずくバヤジットが、真っ直ぐシアンを見上げて話す。


「…………愛して、くれるのだろうか」


「──…必ず」


「そうか……」


 バヤジットの眼差しを受け止めたシアンは微笑んだまま、それきり言葉を呑み込んだ。

 それから、そっと、左手を彼に差し出した。

 すぐさまバヤジットが、下から自身の手を添える。

 布でくるんだ偽物の手だが、伝わる筈のない身体の熱が二人の間を交差した。

 祈るように両手で握る。

 もう傷付けられないように、包み込む。

 そしてバヤジットが手の甲に口付けを落とした。

 この時 彼の鼻をかすめたのは

 ほのかに甘い香油の匂いと、その奥の、太陽をあびて焼け付いた…鼻腔から頭までを貫く紫煙にも似た力強い香りだった──。












───




 砂嵐が襲う苛酷な地に、数百年と建ち続ける国──キサラジャ王国。

 砂漠の貴重な給水地であり、多くの人や商品だけでなく、技術や情報が集まるこの国は、街道をわたる隊商キャラバンや旅人で賑わっていた。

 とくに春の訪れとともに始まる《 白砂祭シュケル・バイラム 》の季節は、珍しい光景をひと目見ようと、見物客で溢れるようになった。

 暗く、寒く、長い冬を終えた人々が…

 愛する家族や、恋人、友人、故人へ、白い花束を送りあうのだ。

 首都ジエルだけでなく、他の街も村もいっせいに華やぐこの季節を…人々は踊りや料理で盛り上げる。

 そんな《 白砂祭シュケル・バイラム 》の起源は、ほんの十五年前。

 農地の開拓と合わせてこの政策を進めたのは、若く美しく気高い、当時のスルタンであった。

 名君として後の史書でも語り継がれる王の隣には、いつも、国一番の武人が控えていた。

 誰よりも献身的に王を支え、王の治世を最も近くで見届けたその武人は、《 砂竜の将官 》の異名で、今も国を守り続けている。

 己の罪と信念と、愛した人への誓いを胸に──。





 
 















『 謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く』

 ────(終)

 







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感想 1

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みんなの感想(1件)

にこまる
2023.01.19 にこまる

更新ありがとうございます。
悲しいお話ですが、毎日続きが気になり読ませて頂いております。
シアンの辛い日常の中で唯一友人に近い位置にいたオメルの存在は大きかったですね
後々シアンと共に幸せになってほしかった。
今後のシアンが心配です。

2023.01.20 弓月

あともう少しストックあるので、そこまでは毎日更新で頑張りますm(_ _)m ご感想ありがとうございました!

わたし自身も心を痛める展開の連続です…。早くシアンには幸せになってほしいです。

解除

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