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第二十一章
春待つ砂丘の花々よ
しおりを挟むシアンは何処にも消えていない。
散らばる手筒のひとつひとつが…
ここに咲いた小さな奇跡が…
すべて、シアンが生きた証じゃないか。
「…っ…、陛下」
バヤジットが膝をついてその場に屈む。
「この花を国中に咲かせましょう…!
シアンが何処にいたとしても、ひとりで戦っていたとしても、…花に囲まれていられるように」
数え切れない傷を負い
健気にいだいた夢のひとつさえ…
追いかけることを許されず
大切な友と、愛した兄を手にかけて
…それでもシアンは、今も死ねずに生きている。
兄を犠牲にして救った国を、そこに生きる民を守るために、玉座で孤独に戦っている。
そんな自分をシアンは愛してやれないだろう。
だからあの日──生き長らえた命を嘆き、生かしたバヤジットを呪い叫んだ。
だからこそ
「シアンを愛する者がいるのだと…思い出せるように、してやりたい」
「──…」
「努努、忘れてはなりません…!」
足元に跪くバヤジットが、真っ直ぐシアンを見上げて話す。
「…………愛して、くれるのだろうか」
「──…必ず」
「そうか……」
バヤジットの眼差しを受け止めたシアンは微笑んだまま、それきり言葉を呑み込んだ。
それから、そっと、左手を彼に差し出した。
すぐさまバヤジットが、下から自身の手を添える。
布でくるんだ偽物の手だが、伝わる筈のない身体の熱が二人の間を交差した。
祈るように両手で握る。
もう傷付けられないように、包み込む。
そしてバヤジットが手の甲に口付けを落とした。
この時 彼の鼻をかすめたのは
ほのかに甘い香油の匂いと、その奥の、太陽をあびて焼け付いた…鼻腔から頭までを貫く紫煙にも似た力強い香りだった──。
───
砂嵐が襲う苛酷な地に、数百年と建ち続ける国──キサラジャ王国。
砂漠の貴重な給水地であり、多くの人や商品だけでなく、技術や情報が集まるこの国は、街道をわたる隊商や旅人で賑わっていた。
とくに春の訪れとともに始まる《 白砂祭 》の季節は、珍しい光景をひと目見ようと、見物客で溢れるようになった。
暗く、寒く、長い冬を終えた人々が…
愛する家族や、恋人、友人、故人へ、白い花束を送りあうのだ。
首都ジエルだけでなく、他の街も村もいっせいに華やぐこの季節を…人々は踊りや料理で盛り上げる。
そんな《 白砂祭 》の起源は、ほんの十五年前。
農地の開拓と合わせてこの政策を進めたのは、若く美しく気高い、当時のスルタンであった。
名君として後の史書でも語り継がれる王の隣には、いつも、国一番の武人が控えていた。
誰よりも献身的に王を支え、王の治世を最も近くで見届けたその武人は、《 砂竜の将官 》の異名で、今も国を守り続けている。
己の罪と信念と、愛した人への誓いを胸に──。
『 謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く』
────(終)
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更新ありがとうございます。
悲しいお話ですが、毎日続きが気になり読ませて頂いております。
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後々シアンと共に幸せになってほしかった。
今後のシアンが心配です。
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