銀狼【R18】

弓月

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逃走

逃走_1

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───…



 翌日、既に太陽は上空に姿を見せていた。

 中心にそびえる祭壇は巨大な影をその足元に落とし、聖地へ吹き込む一陣の風が、絶壁を垂直に滑り下りて野を駆ける。


ザザーー……


「──…」


 そんな中──風も光も入らない洞穴で、静かに瞼を上げたセレナ。

 意識を取り戻した彼女の耳に届いたのは、滝の音。

 思えばセレナを此の場所へ導いたのも同じ水音だ。

「……っ」

 敷かれた毛皮の上に丸まる彼女は、清らかな自然の声にさえ憎悪の気持ちを隠せない。

 今の彼女は何も身に付けていなかった。

 この状況は昨夜の恐ろしい悪夢が──夢などではなかったことを、セレナに突き付ける。

 全身が鉛のように重たい。

 突かれ続けた秘部が、ヒリヒリと痛む。

 そして喉も痛いのは……酷く喘ぎ続けたからだろう──。

 無情にも奪われた純潔。

 粉々になるまで徹底的に砕かれたプライド。

「どうして……ッ…こんな……」

 セレナは暫く起き上がる事もできずに、ただ小さく丸まって、悔しさと悲しみに身を震わせていた。

 そういえば……

 あの男がいない。

 あの男、いや、恐ろしい化け物が。

 美しい顔を不敵に歪ませて、自分を見下ろすあの冷酷な笑みを思い出すだけで、背筋が凍る。

「…逃げ…ないと…」
 
 セレナは彼から逃げなければならない。

 このまま此処にいれば喰われるだけではすまされない。

 いやむしろ、今、こうして食べられずに生きていることが不思議なくらいなのに。

“ …あなたはまだ……わたしを侮辱し足りないと言うのね…… ”

 羞恥の陵辱と、淫らな自分──

 セレナにはもう……堪えられるものではなかった。




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