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逃走
逃走_1
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翌日、既に太陽は上空に姿を見せていた。
中心にそびえる祭壇は巨大な影をその足元に落とし、聖地へ吹き込む一陣の風が、絶壁を垂直に滑り下りて野を駆ける。
ザザーー……
「──…」
そんな中──風も光も入らない洞穴で、静かに瞼を上げたセレナ。
意識を取り戻した彼女の耳に届いたのは、滝の音。
思えばセレナを此の場所へ導いたのも同じ水音だ。
「……っ」
敷かれた毛皮の上に丸まる彼女は、清らかな自然の声にさえ憎悪の気持ちを隠せない。
今の彼女は何も身に付けていなかった。
この状況は昨夜の恐ろしい悪夢が──夢などではなかったことを、セレナに突き付ける。
全身が鉛のように重たい。
突かれ続けた秘部が、ヒリヒリと痛む。
そして喉も痛いのは……酷く喘ぎ続けたからだろう──。
無情にも奪われた純潔。
粉々になるまで徹底的に砕かれたプライド。
「どうして……ッ…こんな……」
セレナは暫く起き上がる事もできずに、ただ小さく丸まって、悔しさと悲しみに身を震わせていた。
そういえば……
あの男がいない。
あの男、いや、恐ろしい化け物が。
美しい顔を不敵に歪ませて、自分を見下ろすあの冷酷な笑みを思い出すだけで、背筋が凍る。
「…逃げ…ないと…」
セレナは彼から逃げなければならない。
このまま此処にいれば喰われるだけではすまされない。
いやむしろ、今、こうして食べられずに生きていることが不思議なくらいなのに。
“ …あなたはまだ……わたしを侮辱し足りないと言うのね…… ”
羞恥の陵辱と、淫らな自分──
セレナにはもう……堪えられるものではなかった。
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