銀狼【R18】

弓月

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還るべき地

還るべき地_1

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 ちょうどその頃──

 森の入り口に、慌ただしく駆ける数頭の馬と、手に松明タイマツを持った男達がいた。

「──…!!!…長官! あちらを!」

 先頭を走っていた若い男が馬を止めて後ろを振り返る。

「どうした?」

「あ、あれを……」

「……うっ…!! 」

 男達は皆、一様に顔をしかめた。

 それもその筈、彼等の目線の先には、無惨に喰い殺された盗賊達の死体が転がっていたからだ。

 長官と呼ばれた男は馬を降り、賊達の末路を呆然と眺める。

「これは……狼の仕業か……!!」

 それを聞いた銃士隊の部下たちは急いで馬を降りると、周りを囲むように外を向いて背にしていた銃を構えた。


 獣の気配……今は、感じないが……


「こやつ等で間違いないのか……!? 」

「はい、この者達がお嬢様を拐った賊に間違い御座いません……」

「何ということだ…っ」

 盗賊に拐われた愛娘を探してここまで来たというのに

 ……間に合わなかったのか?

 よもや狼の奇襲にあっていようとは……っ。

「セレナ──…!」

 セレナの父──アルフォード侯爵は、絶望のあまりその場に膝から崩れ落ちた。

「何故よりによってラインハルトの森に…ッッ」

 娘を狙った賊達と、それを襲った狼。

 そして、守れなかった自分自身──。

 このやりきれない思いを何処にぶつけろと言うのだろうか。

 壮年ながらも端正な顔を、激しい憤りに歪ませる。


 しかし、盗賊たちの遺体を前にして、侯爵は違和感を覚えた。


「……!? 」

セレナの亡骸が見あたらない…。


 血溜まりの惨状に目を凝らすも、ここに在るのは皆男の亡骸なのだ。


“ そんな筈は…… ”


 混乱するアルフォード侯。

 辺りを見渡すと、森の木々の隙間にひとつの古びた小屋が目に入った。

「まさか」

 彼は小屋へと向かう。

 不安と期待の入り交じった思いで、恐る恐る壊れたドアを開け──

 ……だが、中には誰もいなかった。

 家具が散乱した木の床には、土足で踏み荒らされた跡がある。


 中央の柱には、不自然に括り付けられたままのロープ。


「──…」


 その先は鋭利な刃物で切られていた。

 それはこの小屋に捕らえられていた " 誰か " が、逃げ出した跡とも考えられないだろうか。


“ セレナが、生きている…! ”


 何処にもそんな確証はない。だが彼はそう信じたかった。

 複雑な表情でアルフォード侯が小屋を出ると、入り口の周りでは部下達が指示を待っていた。

「──私はここにいつまでも留まる訳にいかない。セレナのことは…」

「お嬢様の捜索は、我ら二番隊にお任せ下さい」

「…っ…悪いな君達…」

 彼には街の統治者としての職務が待っている。

 ただの父親でいることは彼に許されていなかった。

「…くれぐれも気を付けたまえ。単独行動はしないように」

 アルフォード侯は再び馬に跨がり手綱を取ると、荒廃した道を引き返した。








───…




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