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還るべき地
還るべき地_2
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『 ──…ねぇお父様!銃を持ったお兄さん達が、ラーイを引っ張ってどこかに行くんです! 』
屋敷の階段を上る父親を見つけて、幼き日のセレナが後を追う。
『 …… 』
『 ねぇどこに行くのですか!? ラーイはどこに行ってしまうのですか!?』
足を止めて振り返った父親は不安に染まった彼女の顔を見て難しい表情をした。
そして彼女を安心させようと、仮初めの笑顔を作ってみせる。
『 ラーイはね、セレナ。もっと、…ずっと楽しい所に行くんだ 』
『 ……!? …楽しい、ところ…? 』
『 そうだよ。そこでラーイは自由に広い草原を駆け回り…仲間たちと一緒に遊んで暮らせるのだよ 』
『 …お友だち…っ…いっぱいいるの…? 』
『 ……ああ 』
『 でも…っ 』
セレナは泣きじゃくった。
涙と鼻水がいっしょくたになり、彼女はそれを小さな腕で乱暴に拭う。
『 …でも! セレナだってお友だちですッッ…ラーイはセレナと仲良しだもん! 』
『 セレナ…落ち着きなさい 』
『 わたしもラーイと一緒に行く!! 』
セレナはそう叫び階段を駆け降りて玄関へ向かった。
父親は急いで外に駆け出したセレナを追った。
『 待ちなさい! 』
『 やだぁ! 離して、離してよ! 』
庭へ飛び出した彼女の目の前には、数人の銃を持った部下達がいた。
そして彼等が運ぶ鉄製の檻の中には
一匹の、黒毛の犬が──。
『 ラーイ!! 』
『 …ッ…君達!早く連れていきなさい 』
暴れる彼女を後ろから捕まえ、父親は部下達に急ぐように指示する。
クゥン・・・
『 …いやぁ…っ…ラーイ!行かないで! 』
檻の中の犬は彼女の姿を見つけると、悲しそうな鳴き声をあげた。
部下達はきまりの悪い表情をして再び檻を運びだす。
『 行かないで! 連れていかないでー!!! 』
ワンッ、・・・ワン!
『 …ラーイ…!! お願いッ… 』
・・・・ワンッ!!!
去り行く部下達の後ろ姿に
すがるように叫び続ける。
『 ──…お願い…っ…殺さないで! 』
ごめんなさいっ、ごめんなさい…!!
わたしがお父様の言いつけを守らなかったから…!!
『 悪いのはわたしなの……ッ 』
ラーイはいい子なの──!!
『 …グスッ‥‥殺さないで‥‥ッ…ぅ、殺さないで!! ‥‥‥ラーイを、殺さ ないで……!! 』
──誰も殺すだなんて言っていない。
けれどもそんなことは…、幼い彼女にも直感的にわかってしまう。
『 …ぅ、ぅ、…!! …殺さないでぇ‥‥ッ…!! 』
その姿が見えなくなり
ラーイの鳴き声が聞こえなくなった時…
セレナは父親の腕に力なく泣き崩れた。
…───
翌朝
「──…」
古き日の記憶──。
父の腕に抱かれて泣き叫ぶ無力な自分を遠目に眺めながら……セレナは、夢の中から静かに目を覚ました。
この夢を見るのは久しぶりだった。
思い出すのも辛いかつての友達は、胸の奥深く──容易には取り出せない場所に鍵をかけてしまわれていたのだろう。
にも関わらず、こんな時に思い出してしまうのが余計に辛かった。
そして……思い起こす事すら拒否していた自分自身が残酷に思えた。
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