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討伐
討伐_1
しおりを挟む...コンコン
執務室の扉をノックする音。
「……!!…入りなさい…っ」
椅子に座っていたセレナの父親──アルフォード侯爵は、入ってきた部下を立ち上がって迎えた。
「セレナは…っ…見つかったのか…!? 」
「いえお嬢様はまだ…──っ。ご報告です。お嬢様を捜索していた二番隊の兵士三名が…!」
アルフォード侯の前で敬礼し、話し始めたのは、まだ黒い隊服が初々しい……セレナよりも若い茶髪の青年であった。
「……狼に襲われ、殉職いたしました」
「──…!」
アルフォード侯は、前に乗り出していた身体を椅子に戻した。
机に片肘をついて額に手をやる。
「何と言う事だ…!! 」
セレナが賊に拐われたあの日から、もう十日が過ぎている。
未だ娘の手掛かりは掴めず、そんな状況で後を追う新たな悲報に、彼はひとりの父親として、そして上官として、激しい憤りの中にいた。
「で、ですが長官殿!新しい手掛かりがあります」
そんな上官の様子を心配しながら、若いその部下は彼に報告書を渡した。
「兵士は森の中で発見されました。そして、遺体のそばのえぐられた大木にこれが……」
続けざまに提出したのは、長い動物の毛──。
「これは何だ…!? 」
それは一見白くも見えるが、光を反射させるとキラリと鋭く輝く。
……銀色の毛だった。
しかもかなりの長さで、持ち主の類い希な大きさを示している……。
「これが本当に動物の毛なのか」
そこまで言って、侯爵はある事を思い出した。
” 銀色の毛だと……!? “
それは自分がまだ子供だった時に聞かされた話。
ラインハルトの森に棲み付くと言い伝えられる伝説の生き物。
──…銀狼、という化け物を。
青年は報告を続けた。
「更に先日、奇妙な男が現れたと街人から情報が──」
その男は真っ黒な長毛のマントに身を包み
森に生息する珍しい薬草を商人達に差し出して、女物のドレスと食料を代わりに受け取って行ったという。
「その男は……それは見事な……銀髪の持ち主だったと、街で噂になっています」
「銀髪…──」
“ 馬鹿な…あれはただのおとぎ話 ”
「……」
だが確かに
消えたセレナ、同時期に現れた不審な男。
異様に長いこの、銀色の獣毛。
あの伝説の「銀狼」がいるのならば、同じく伝説の……奴等の聖地もまた存在する筈。
「…この銀毛が見付かったのは森のどの辺りだ」
アルフォード侯の声が冷静な上官の物へと戻った。それに対して部下の青年は静かに答える。
「お嬢様の行方が途絶えた場所──賊達の死体を発見したあの場所の、すぐ近くでございます」
「やはりそうか」
森の形状が示された地図を机いっぱいに広げ、アルフォード侯は再び椅子から腰を上げると落ち着いた口調で命じる──。
「街にいる全ての銃士隊に招集の命をかけなさい。狙いを定めた上で、この周辺を徹底的に調べ上げる必要がある」
これはセレナを救うためだけではない
「狼の巣窟がこの近くにあるのだ。必ず見つけ出す。そして銀狼……」
「……」
「いよいよ決着の時だ」
「では長官、ぜひ僕にも参加の許可を!」
「……、しかし君にはまだ銃の所持を許可していない」
「はい、ですが…っこのサーベルで」
「……」
「せめて、ひと太刀」
「そうか……君は確か母親を狼に…。
──いいだろう、同行を許可する」
「──…はっ!」
力強く敬礼をした青年は、一礼を済ませた後で執務室を出て行った。
───…
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