銀狼【R18】

弓月

文字の大きさ
58 / 63
儚き運命

儚き運命_5

しおりを挟む


 不意に、首に巻きつく指の力が弱まり


 彼女は横に突き飛ばされる


 そして──


 突き飛ばされたセレナが草むらに倒れ込んだのとほぼ同時


 彼女の耳にパァンという


 一発の乾いた銃声が届いた


 其の一発を皮切りに


 立て続けに、さらに、数発


 半身を起こしたセレナが振り返って見たものは、よろけながら尚も毅然とした彼の立ち姿──


 身体に銃弾を受ける度にあがる血飛沫

 
 彼女が悲鳴をあげた


 悲鳴とともに彼に駆け寄り、庇うようにその身体に抱きついた


 すると聖地に響く銃声も止む


 ローは抱きつく彼女の体重を支える事ができずに……そのまま背後にゆっくりと倒れた


 倒れた彼を見て


 とどめを刺そうと走り出した兵士達──


 アルフォード侯が彼等を制した


 もう……終わっている


 侯爵はそう言って、銃を下ろすように命じた









──




 仰向けに倒れた彼の上に折り重なるセレナ。


「…お願い…ッ!! …目を…開けて…!! 」


「…っ…」


「ロー!」


 ドクドクと溢れ出す血を止めようと、セレナは両手で傷口を押さえる。

 だが彼女の小さな手におさまるような数の傷ではなかった。

 いくら取り乱して足掻いたところで意味がない。

 セレナの手首から流れ出る血が

 彼の物と合わさりひとつになるだけ。


「…セレナ…」


「……ッ」


 薄く開いた彼の瞼。


「無駄な事は、…やめ ろ」


「そんな…こと…っ…言わない で…──ッ」


「無駄だ…」


「…でも…っ」


 言葉を詰まらせたセレナは、その代わりに大粒の涙をローの頬へと落としていく。


「…っ…ごめんなさい…!! 」


 彼女にもわかっていた

 もう無駄だということは──

 もう……手遅れだということは。


「ごめんなさい…!! 」


 だからこそ、早く言わなければいけない。

 彼が聞いてくれる内に何かを言わなければいけない。

 焦る彼女が咄嗟に選んだ言葉、それは──謝罪の言葉だった。


「…許して…っ…許して…!! …わたし達を」


 あなたから全てを奪った

 森も、仲間も

 命も……!!

 全てを奪った

 欲深いわたし達を……!!


 彼女の手は鮮赤な血で染まっていた。

 その両手でローの顔を挟み、セレナは自らの額を彼の其れに押し付ける。

 ぴたりと付いた額から、互いの熱が交換された。


「許して下さい…!! 」


「──…それ は、不可能だ…」


「──…ッ」


 蚊の鳴くような小さく掠れた声でローが応える。


「我等が人間を許すことは…っ…有り得ない……」


「……っ」


 怨みが消えることはない


「その怨みを背負うのも…ッ…勝者の宿命だ」


 彼は力の入らぬ手を

 セレナの頬へ……そっと添える。




「……」




 これほど蔑み、嫌悪した


 人間───






「──…だがお前は赦そう」


「…っ」


「お前だけは赦してやる…っ…セレナ…」


「ロー…」





 だからお前は死ぬな


 人間の、ほんの数十年という短い一生を──


 お前はこのまま生きていけ





「…忘れる な‥‥」


「……ッ…?」


「‥‥‥此処に‥‥在 る‥‥」





 そして、また





「───」





 頬に添えられたローの指が


 静かに離れる。




「……いや」




 脱力した其れは岩肌に落ちて

 ぺたんと弱々しく音を立てた───。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

処理中です...