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儚き運命
儚き運命_5
しおりを挟む不意に、首に巻きつく指の力が弱まり
彼女は横に突き飛ばされる
そして──
突き飛ばされたセレナが草むらに倒れ込んだのとほぼ同時
彼女の耳にパァンという
一発の乾いた銃声が届いた
其の一発を皮切りに
立て続けに、さらに、数発
半身を起こしたセレナが振り返って見たものは、よろけながら尚も毅然とした彼の立ち姿──
身体に銃弾を受ける度にあがる血飛沫
彼女が悲鳴をあげた
悲鳴とともに彼に駆け寄り、庇うようにその身体に抱きついた
すると聖地に響く銃声も止む
ローは抱きつく彼女の体重を支える事ができずに……そのまま背後にゆっくりと倒れた
倒れた彼を見て
とどめを刺そうと走り出した兵士達──
アルフォード侯が彼等を制した
もう……終わっている
侯爵はそう言って、銃を下ろすように命じた
──
仰向けに倒れた彼の上に折り重なるセレナ。
「…お願い…ッ!! …目を…開けて…!! 」
「…っ…」
「ロー!」
ドクドクと溢れ出す血を止めようと、セレナは両手で傷口を押さえる。
だが彼女の小さな手におさまるような数の傷ではなかった。
いくら取り乱して足掻いたところで意味がない。
セレナの手首から流れ出る血が
彼の物と合わさりひとつになるだけ。
「…セレナ…」
「……ッ」
薄く開いた彼の瞼。
「無駄な事は、…やめ ろ」
「そんな…こと…っ…言わない で…──ッ」
「無駄だ…」
「…でも…っ」
言葉を詰まらせたセレナは、その代わりに大粒の涙をローの頬へと落としていく。
「…っ…ごめんなさい…!! 」
彼女にもわかっていた
もう無駄だということは──
もう……手遅れだということは。
「ごめんなさい…!! 」
だからこそ、早く言わなければいけない。
彼が聞いてくれる内に何かを言わなければいけない。
焦る彼女が咄嗟に選んだ言葉、それは──謝罪の言葉だった。
「…許して…っ…許して…!! …わたし達を」
あなたから全てを奪った
森も、仲間も
命も……!!
全てを奪った
欲深いわたし達を……!!
彼女の手は鮮赤な血で染まっていた。
その両手でローの顔を挟み、セレナは自らの額を彼の其れに押し付ける。
ぴたりと付いた額から、互いの熱が交換された。
「許して下さい…!! 」
「──…それ は、不可能だ…」
「──…ッ」
蚊の鳴くような小さく掠れた声でローが応える。
「我等が人間を許すことは…っ…有り得ない……」
「……っ」
怨みが消えることはない
「その怨みを背負うのも…ッ…勝者の宿命だ」
彼は力の入らぬ手を
セレナの頬へ……そっと添える。
「……」
これほど蔑み、嫌悪した
人間───
「──…だがお前は赦そう」
「…っ」
「お前だけは赦してやる…っ…セレナ…」
「ロー…」
だからお前は死ぬな
人間の、ほんの数十年という短い一生を──
お前はこのまま生きていけ
「…忘れる な‥‥」
「……ッ…?」
「‥‥‥此処に‥‥在 る‥‥」
そして、また
「───」
頬に添えられたローの指が
静かに離れる。
「……いや」
脱力した其れは岩肌に落ちて
ぺたんと弱々しく音を立てた───。
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