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epilogue
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あれから、一年
ラインハルトの森から狼達はいなくなった。
あの日、狼討伐を終えて帰還した兵士等は街の人々に英雄として迎えられ
闘いで命を落とした者にはその冥福を想い心からの祈りが捧げられた。
誰もが、彼等に感謝した。
もう……
夜、出歩くのに脅える必要もない。
森から聞こえる遠吠えに震えながら眠れぬ夜を過ごす必要もない──。
あの恐ろしい獣たちは、もういないのだ。
勝者は我々だ。
勝ったのは我々、人間なのだから……。
「──…ですので今回の調査でも、狼の目撃は0件となりました」
「そうか……、ご苦労だった」
執務室の机についたアルフォード侯爵は、報告書に目を通しながら部下に労いの言葉をかける。
狼達を一掃してから、定期的に派遣している森への調査隊。
ひと月ほどまではまだ数頭の狼が発見されたが、見つけしだいその場で処分してきた。
自らの王を失ったそれらの狼はまるで以前の生気を無くし、殆ど抵抗も見せなかったという。
「……そう言えば、セレナの姿が朝から見えないのだが何か聞いているか?」
報告を終え退室しようとした部下を呼び止め、侯爵が尋ねた。
「自分は何も伝言などは受けておりませんが」
「…わかった」
「──…ただ、今夜は満月で御座います、長官殿」
「……!! …そうか、そうだったな……」
一瞬……手を止めた侯爵は、頷きながら目線を落とした。
「構わないのですか?狼がいないとは言え、お嬢様がひとりで森に入るのをお許しになられて」
夜の森には、どんな危険があるかわからない。
「ああ……」
だがあの子が森に向かうのを止める事はできない。
「……セレナには強力な守り神がついている」
心配はいらない……
彼は部下にそう告げた。
もしかすると侯爵は、自分自身に言い聞かせているのかもしれない。
複雑な表情を見せた後、彼は報告書を引き出しに収め、窓の外に顔をむけた。
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