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epilogue
epilogue
しおりを挟む狼の消えた聖地にはただ沈黙だけが立ち籠める。
唯一の滝音が虚しく響くばかりだ……。
──あの日討伐を終えた兵士達が、此処で見た事を他言することはなかった。
誰が取り決めた訳でもないが、彼等はひとりとして口を開こうとしない。
秘められた此の地と
此処で散った魔狼の男の存在は
彼等の記憶にしまわれたのだ。
それは滅びゆく者への礼儀、敬い、恐れ。
自らが銃口を向けた森の王への、畏怖の念と言ったところか……。
だがいずれ、人間が此処を見つける時が来るであろう。
切り立つ崖の向こう側
洞窟を抜けた先に在る円形の聖地。
その上に広がる妖しの森……
セリュスの木々と豊かな湖。
風と獣が駆け抜ける広大な草原。
その存在に人が気付くのも遠い先ではない。
そして人の支配が及び手が加えられ、様が変わってしまうことになるだろう。
──しかし、人々は知り得ない。
此の地に君臨した孤高の魔狼と
彼を愛したひとりの女性の哀しい物語を。
想い合い──結ばれることの赦されなかった、人と獣の禁忌の愛が、決して語られることはない。
妖しの花びらが美しく舞う季節
森の沈黙が、ただ知るのみぞ───。
『 銀狼 』完
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