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枕になりなよ
しおりを挟む翌日の朝、事態は急展開を見せた。
DK-mind社のビルに取り残されていた社員数名が、自力で中から出てきたのだ。
対テロ用の頑丈なシャッターが集まった警察官の前でひとりでに開き、妨害されていた電波回線も復活した。
それは警察がビル内部への突入を強行しようとした矢先のことである。
全員の安全を確保した後、スミヤからの情報提供を受けて警察は犯人の居場所を突き止め、拘束。すぐに連行された。
混乱に包まれたこの事件はこれをもって解決した。
事件発生から40時間後の解決である──。
いったいこの間に、ビル内部では何が起こっていたのか。
報道官はこのように話していた。
「犯人によってハッキングされ制御不能になっていたDK-mind社のコンピューターでしたが……」
「会長の警護をしていたガードマンの青年が、セキュリティ室から会社のメインシステムにアクセスを試み……」
「犯人との、30時間を越える不眠不休のハッキング対決を繰り広げたもようです」
その青年とは
あのボディーガード育成の名門校、LGAの生徒
東城 カルロ氏
──…
“ カルロさん……! ”
午前の授業を終えたミレイは、無事に出てきたカルロに会うべく、校舎から東城家にすっ飛んでいた。
いつものように鍵のかかっていない玄関扉を開けて家に入る。
彼女が中を走り回り、キッチンやダイニングを覗くも人影はなく、リビングにさえ誰もいなかった。
そして長い廊下にさしかかった時──
彼は、いた。
「……よか……った」
道をふさぐように廊下の途中で眠っているカルロ。
「スー……、スー……」
いつもの寝息だ。
いつものフワフワの髪。身体が痛くなりそうな変わった体勢。
何故だろう、それだけで……!
眠っているカルロを見るだけで、この安心感。
仰向けの体勢で動かないカルロに近付いて、ミレイは静かに膝をついた。
「カルロ……さん?……こんな所で寝たら、風邪を引いちゃいますよ……」
カルロは返事をしない。
だが寝息が止まったので、彼が起きたことは明白だった。
「……、カルロさん」
「……」
部屋に戻って、ちゃんとベッドの上で疲れを取って欲しいのは山々だ。
けれどカルロは反応しないので、動く気はゼロだと言うことだろう。
“ 30時間不眠不休って、言ってたものね ”
報道官の話を思い出す。
「ごめんなさい。疲れてますよね」
やはりそっとしておこうと決めて、ミレイはゆっくり腰を上げた。
おかえりなさいと
一言を添えて。
「──…あんた」
「……!」
「あんた、そこに……いろ」
けれどミレイが立ち去ろうとした時、彼女の足首をカルロが掴んで引き留めた。
「…!? どうかしました…?」
「──枕」
「ぇ…」
ミレイが再度そこに座ると、うっすらと片目を開けた彼がずるずると動いてくる。
「……枕に、なりなよ」
「でも…っ」
「いいからそこ、座れ」
寝起きの声で彼女に命令する。
ぺたんと床に尻を付けたミレイの太ももに彼が頭をのせた。
“ え?これっどうすればいいの……? ”
突然だからミレイは戸惑う。けれどカルロはマイペースだ。
寝息はすぐに始まった。
スー…
スー……
「……//」
ミレイはその場から動くことができなくなって、彼に膝枕をしたまま、仕方なく後ろの壁に背を付けた。
走って帰ってきたから汗をかいていたらどうしよう。
今はそんなことしか考えられない。
下を向けば、横向きに寝るカルロの頭がすぐ近くにある。
ただ寝顔を見たくても覗きこむ勇気はないからできなかった。
深い寝息が規則正しく廊下をぬける──。
“ 人の気も知らないで…… ”
こんな状況でも熟睡できてしまう彼が、ミレイは恨めしくて仕方がなかった。
スー……、スー……
「……おかえりなさい」
「……」
正体不明の感情で、胸がつまるのがわかった。
───…
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