歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

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元凶

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フッ...


「──…君は笑うと、実に母親そっくりだ」

「…?…、母、ですか?」

「ああ」

 つられるようにヒデアキも笑みを見せ

 頭に置いた手を滑らせると、ミレイの目の下に軽く触れた。

 一瞬だけくすぐられて、すぐに手は離れる。

「理事長はわたしの母をご存知ですか?」

「よく、知っているとも」

 急に母のことを言われて、予想外だった彼女はすぐさまヒデアキに聞き返した。

 早口で聞くミレイに対して、彼はゆっくりと話す。

 もともと寡黙な人なのだろう。そういうところもカルロに似ている。

「初耳です…!母とはどこで会ったんですか?やっぱりお仕事とか、それとも学生時代に?」

「彼女がLGAに入学した時、私はここの教官見習いだったのだよ」

「そうなんですね!」

 ミレイの母が入学といえば20年以上も前のこと。

 そんな昔から " 教える側 " だっただなんて、彼もやはりハルトのようなエリートコースを歩んできたというわけか。

“ ハルトくんの場合、そこにはきっと大きな努力があったのだけれど…… ”

 前言撤回。

 ハルトの人生を、エリートコースというひと言でまとめるのは不適切だった。

「母はどんな人でしたか?」

 基本的に母の詳しいことを知らされていないミレイは、まさかの知人が現れて興奮ぎみだ。

 自分が熱で体調を崩していることも忘れて、いっこうに横になろうとしない。

「……彼女はとても、優秀な生徒だった」

 ヒデアキは問われるままにひとつずつ答えていく。

「母は入学して4年で銀バッジを貰ったのだと……」

「その通りだ」

「結構おてんばな感じでしたか?」

「──…いや。知的で物静かな……しかし、正義感は人一倍のものを持っていた」

「へぇ…っ」

 自分の知らなかった母親像が、彼の口から語られていく。

 その事実が新鮮で、ミレイは嬉しくて仕方がない。

「ずっと昔の事なのによく覚えていらっしゃるんですね、理事長」

「忘れるわけがない」

 彼の方はというと、ベッドに座るミレイにその視線を注いでいた。

 彼女は母親と似ているらしいから。きっと懐かしんでいるのだろう。


「……忘れる筈がない。彼女ほどの女には、私は出会ったことがない。今までもこれからも……」

「……?」

「……アンナ」


 その時、彼が呟いたのは母の名前──。

 その声があまりにも甘くて、ミレイはその瞬間、聞き間違いかと思ってしまった。


「…!?」


 彼はミレイをじっと見ていた。


“ 違う──… ”


 いや、……彼女の向こうの、アンナを見ていた。

 しかもただ見ているだけではない。その視線は……熱っぽい。

 それに気付いてしまったから、ミレイの背中に震えが走った。

 それをきっかけに彼女は他にも気付いてしまう。

 扉が……

 もともと開け放たれていた部屋の扉が、いつの間にか閉まっていたのだ。

 ヒデアキが、中に入った時に閉めたのだろう。

“ ……あ、怖い ”

 少し前まで何も感じていなかったのに、ここでミレイは、初めて怖いという感情を抱いた。

「震えているね。寒いのか?」

「あ‥ッ」

パシッ──

 熱が悪化したのかと心配して伸ばされた手を、ミレイは思わず振り払う。

「…あ…っ、ごめんなさい」

「……」

「わたしはもう大丈夫です…!だから理事長も、お仕事に戻ってください」

 あまりにもあからさまに避けてしまったと、ミレイは直後に気付いたが、もう遅い。

「急にどうかしたのかい」

「別に、っ…何も」

「……そうか。私を怖がっているのか」

 払われた手をおとなしく下ろして、艶のある低い声で呟く。

 彼は怒っているわけではなかった。

 むしろ、口元は軽く緩んでいて、ミレイの動揺を愉しんでいるように見える。

「そういうところも、同じだ」

「…な、にを…!? …言って…──?」

「アンナもそうやって私から逃げた。逃げ切れると……本気で思っていたらしい」

「……っ」


 イヤだ

 怖い

 何を言ってるのかわからない


“ この人…怖い……!! ”


 ミレイはベッドの縁を痛いほど強く握る。

 目の前の紳士の、知ってはいけない部分を垣間見てしまったのだ。

「──…ッ」

 彼女は何も言えなくなった。

 相手も次の言葉を発しない──。

 不気味な沈黙が続き、ミレイは熱のせいもあってか気が飛びそうになる。






......



「──…開けな よ」


 そんな、会話の途切れた密室に

 気怠い声が、横入りした──。


“ この 声… ”

 ミレイは扉に顔を向ける。

 一度閉じたその扉は、彼女の手をスキャンしない限り外から開けることはできない。

「ここを開けろ……」

「……!」

 そんな扉の向こうから、確かに声がするのだ。

 誰の声なのか一瞬で聞き取ったミレイは、ベッドから腰を跳ねあげてそこへ走った。

 ヒデアキは彼女を止めず

 一歩も動かずに、やれやれと息を吐いた。

 ミレイはドアノブに手をかけてそれを回し、走った勢いのまま扉を開けた。

「──…ァっ…カルロさん!」

「…ッ──!!」

 開いた扉の隙間から飛び出してきた彼女を、ドアの向こうに立っていた男は驚いて受け止める。

 そして部屋の中に目を向けると、そこに立つ実の父親を冷たい目で睨み据えた。





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