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奪還
しおりを挟む「……!」
「あんたは早く……っ、車に乗れ」
僅かに息をきらしたカルロは、戦闘の余韻を残したまますぐに車に戻ってきた。
呆然とするミレイより先に運転席に回り込み、さっさと座って扉を閉める。
「おい」
「……っ」
いけない、急がないと。
まだ追っ手が来るかもしれない、早く逃げないと。
しかし
カツン──
静かな駐車場に靴音が響いた時、車に乗ろうとするミレイの足が止まった。
「ジンさん……!」
そこには会場にいた筈の彼が立っていて、少しの距離をとった場所からこちらを見ていた。
「相手にするな。……さっさと乗れ」
「は い……っ」
すぐに二人を止められるような近さじゃない。
カルロは彼を無視し、邪魔をされる前に逃走しようとする。
動きを止めていたミレイも思い直して助手席に座ろうとした。だが
「十数年ぶりに再会した実の娘を手元に引き取ったかと思えば。──…こうもすぐに、嫁に出す事になろうとはな」
「……!!」
「本気でその男について行くのかい」
怒りとも違うジンの言葉を背中に投げかけられて、彼女はまた止まってしまった。
すでに車に乗り込んでいるカルロは、そんなミレイを急かすこともせず……かと言って、何か言葉をかけることもしなかった。
「……」
グローブを付けた片手をハンドルに添えて黙っている。
「カルロさん。少しだけ、いいですか」
「……勝手にしなよ」
彼女が遠慮がちに問うと、素っ気なく承諾する。
ミレイはドアを開けたまま車から数歩離れて、ジンの方に振り向いた。
「ジンさん…っ…わたし、あなたに、聞きたいことが」
「なにかね」
駐車場の真ん中で突っ立っているジンは、二人を止める気は無いようだ。
ミレイは恐る恐る……そんな彼に質問する。
「どうして今さら、わたしと一緒に暮らそうと思ったの?」
「……」
「お母さんがいなくなって何年も経ちました。わたしを探しだそうとすれば、あなたならいくらでも手段があったのに……。これまでのあなたは、そうしなかった」
「……その通りかもしれないね」
ミレイからの質問に即答しないジン。
「確かに私は、逃げたアンナの死を知った後も、君に干渉しようなどとは考えなかったさ。血のつながりこそあれど、……ほぼ他人のようなものだ」
微笑みながら軽く頷き
だがね……と
彼は話を続けた。
「……だがね、こう歳をとると突然、思ってしまうんだよ。自分だけを構って生きるには、人間の命は長すぎる──と。誰かに何かを、残したくなる」
……年寄りのお節介。
私もすっかり老けてしまったなと、ジンは愉快そうに笑っていた。
「それだけだ」
「ジンさん……」
「家族ごっこに付き合わせて申し訳なかったね」
何か言葉を返そうとして口ごもるミレイ。
カルロは何も聞こえていないかのように無反応で、ただミレイにだけ声をかけた。
「……戻れ」
「は、はい」
ミレイの口からは何も言葉が出ないまま、彼に言われて車に戻る。
近づいた彼女の腕をカルロが掴んで、無理やり車に引き込んだ。
「…ぁ…っ」
ドアはすぐに閉まってエンジンがかかる。
発車した車は出口へと躊躇なく進み
カルロはバックミラー越しに、ほんの一瞬だけ男と視線を交わした──。
また逃げられた……か
「あの時も…──もっと必死になって君を追いかけていたら、よかったのかね、アンナよ」
駐車場に残されたジンのところには、その後、部下達が集まってきた。彼らはすぐに負傷した仲間を病院に運ぶ。
追跡すべきという部下に対し、ジンはその必要は無いと言って諭した。
──…
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