今更謝ってももう遅い!落ちこぼれ無能者の復讐譚~使えないスキルだと言われ『廃棄』された能力者のスキルは実は最強だった~

三浦ウィリアム

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第9話~二者択一~

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 俺は服装を変えた後、再び連絡橋の研究棟側にテレポートした。さてここからどうやって研究棟に入ろうか。研究棟にはほとんど窓が設けられていない。そして連絡橋周辺には1つもない。
 未だに会わないアイシス、そしてあの白衣の男の反応からすれば彼女はまだ発見されていない。一体彼女はどうやって研究棟に入ったんだろうか。

 俺がそんなことを思いながら連絡橋から研究棟に入る扉を見ると、なんと扉が開いていた。一体どういうことだ。
 俺と白衣の男がやりあった時から開いていたのか?いやまさか、それならヤツの怒鳴り声で他の奴が出てきても良さそうなものだが。
 じゃあ閉め忘れか?俺はしばらく扉を注視したが扉が閉まる気配が全く無い。居住棟から連絡橋に出る扉の前に見張りが居て、研究棟から連絡橋に繋がる扉の前に見張りが居ないなどあり得るのか?
 考えれば考えるほど意味が分からない。これは罠なのか?だがこの扉を抜けなければ研究棟には入れないのは間違いない。俺は白衣の男の命を奪った短剣を再び抜いた。

 透明化スキルを使用しながら前に進み、扉の前に立つ。そして扉の中に短剣を差し入れてゆっくり剣を上下させて何か罠が無いかを確かめる。
 白衣の男の言葉からすれば透明化スキルを持っているのは最低でも2人。2人の内1人は俺が始末したがもう1人残っている。もしかすると半開きになった扉の向こうで剣でも構えて待ち構えているのではないかと思ったのだ。
 だが俺の短剣に何かが当たることは無かった。俺は左右を確認しながら研究棟に入っていく。居住棟には居た扉の前の見張りはこの研究棟には居なかった。どう考えても怪しい。そう思いながらも俺はこの扉から研究棟に足を踏み入れていった。

 とりあえずはこの周辺には何か危害を加えるような罠は仕掛けられていないようだ。本当にただの閉め忘れでただのザル警備なのだろうか。だがいつまで考えても分からないものを引きずっていても仕方がない。俺は警戒を緩めないようにしながら進む。

 研究棟の内壁や天井は基本的には居住棟と同じものだが、間取りは大きく違う。これは居住部屋が並んでいるだけの単純な建物ではなく、様々な研究を行うためだと思う。
 部屋の扉には部屋の名前が書かれている。おそらく間違って入るとまずい部屋が存在するためだろう。まあそうは言っても『処置室』とか書かれていても何の処置なのかはよく分からない。

 研究棟3階を歩いていると、『資料室』と書かれた部屋が見えてきた。ここにもしかすると見取り図があるかもしれない。だがアイシスが先行しているとなるともう地図は無い可能性が高い。
 アイシスの目的は妹のアイリスの救出。恨みつらみはあるだろうがその目的を後にしてまで行うことはないだろう。そのためアイリスが居る場所さえ分かれば俺もそちらに向かうのだが。

「そういえば、ヌーマニカはどこに行ったんだっけ?」
「あの女は5階の『スキル研究室』だろ」
「そうだったそうだった」
「しかし双子で運が悪かったよなあの女」
「ああ、妹が希少スキル持ちで姉はゴミ同然のスキル。ナザリー送りにも出来やしねえ役立たずの身体だったしな。まるで妹が全部吸い取っちまったみてえだぜ」
「ハハハ。違いねえな」

 通りの角から聞こえてきた会話。双子の姉妹として生まれた娘たちの話だった。『ヌーマニカ』という娘が妹で姉は無能者判定を受けたようで廃棄されてしまったらしい。
 名前が違うがアイシスとアイリスの姉妹に似た状況。双子がどれほどの割合で生まれるのかは分からないが、前に完全記憶のスキルを持っていた男を尋問した際に、能力者はその処置の副作用で男として生まれるのが圧倒的多数だという情報を聞き出していた。
 そして女の場合は無能者判定をされてもナザリーに回されることがほとんど。それにも関わらずアイシスは廃棄されている。そのヌーマニカという娘の姉のように。
 たまたま重なったということもあるかもしれないが、このヌーマニカがアイシスが言うところのアイリスである可能性は高い。
 仮に違ったとしてもアイシスがこの情報を聞いていたら間違いなくそちらに向かうはずだ。俺は5階にあるというスキル研究室に向かってみることにした。

 俺は通りの角を相変わらず短剣で空を探りながら確認して曲がる。彼らの後ろには階段。ここから階の移動ができるようだ。
 研究員と思わしき2人の男はまだ談笑を続けている。彼らが急にこちらに動いたりしないことを祈りながら2人の横をすり抜けて階段へ。

 だがこの階段、何か補修作業を行っているようだ。補修用具や土台が置かれているのが見える。
 そして3階階段入り口に札が立っていて『補修工事中、迂回せよ』と書かれていた。迂回せよということは階段はここ以外にもあるということだ。
 問題は全員がその迂回した階段を使うので接触の危険性が上がるという面だが、この補修工事している階段も補修工事をしている者が動き回り、工具なども多いのでこちらを無理に上るよりは危険性は低いか。

 俺は仕方なく来た道を戻る。男2人はまだ話している。研究員とはそんなに暇なものなんだろうか?
 来た道を戻っていき、再び連絡橋に繋がる扉の近くの通路に戻る。さっき進んだ方とは逆の方へ進むともう1つの階段が見える。さっきの階段とほとんど同じ様子。幅が2メラー弱ほど。俺はなるべく研究員が来ないことを祈りつつ階段を上っていった。

 前から二人組の研究員が歩いてきた。俺から見て右端に2人並んで降りてくる。俺は左側に身体を寄せてやり過ごそうとした。

「それでアイツがこうやって!」
「それでそれで?」
「まあ俺が返り討ちにしてやったけどな!」

 いきなり腕を振ってきた男。たまたま俺がすぐ近くに居る辺りだった。俺はヤツの動きを逃さず観察していたので、身体を前に倒して何とか避けたが危なかった。今こんな状態じゃなければ今すぐにでも地獄に送ってやりたいところだが、今はアイシスが先だ。ツラは完全記憶した。今度キッチリと代償を支払わせてやろう。
 次は上から太った白衣姿の男が降りてくる。この男、ど真ん中を歩いていてその脂肪で満たされた腹が左右両方の道を狭くする。今すぐそのどてっぱらに風穴を開けてやりたいが、我慢しなくてはならない。俺は天井を見上げて高さを測ってから跳び上がり、何とか太った男を飛び越えた。コイツは後で丸焼きにしてやる。
 俺の邪魔をする奴のツラをしっかりと頭に刻みつけながら5階にたどり着いた。

 階層が高い部屋の方が重要度が高いのだろうか。その辺りは分からないが、5階は何となく覚えがあるような気がする。だがスキルを得る前の記憶だ、完全記憶のスキルを以ってしても引き出せない。
 そして男たちが話していたスキル研究室と書かれた扉の前に立つ。ここにも覚えがあるような気がする。しかしこの扉の向こうは研究室という感じではなかった気がするのだが定かではない。

 だがとりあえずスキル研究室なる場所に到着した。果たしてここにアイシスやアイリスが居るのか。俺はこの場所に侵入することにした。
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