魔力がなかったので能力を磨いてみたら、新しい幸せに巡りあえそうです!

泳ぐ。

文字の大きさ
10 / 33

10 雨。

しおりを挟む

 目を閉じたまま私の両手首をやわらかく手のひらで包んでいたヒューをじっと見つめ続けていると、時折、元々濡れていた髪の毛から雫が小さく滴り落ちた。
 ヒューの黒い髪にある雫たちは、キラキラとしていてとても綺麗だった。

 雨はまだまだ強く降り続いている。


 暫くしてヒューがやっと目を開けた時、穏やかな顔をしてとろけるように微笑んだから。なんだか私もとても満ち足りた気持ちになって。

「ありがとう。吸収して整えてくれたの解った。疲れちゃってない? 大丈夫……?」
「大丈夫。こちらこそありがとう、整えたかったの、とっても。だから嬉しい」

 意外な答えが返ってきて。
でもその笑顔が嘘は言っていないことを証明してくれていたから、少しむず痒い気持ちになった。
 急にヒューの手のひらで包まれたままの腕が恥ずかしくなって、雨を避けていたシールドを解除してヒューの手からも抜け出して屋根から飛び出した。

 雨に濡れるのも、水に濡れるのも、本当は苦になることは一つもなくて。
 いつもラディ兄さんの豊かな水の魔力があったから、どちらかというと水は得意な方だった。


「ニナ! 濡れちゃうからダメだよ」

 慌てて私の手を引いて屋根の下へ戻そうとするヒューを逆に引っ張って、二人で雨の中へ出た。
 ヒューの黒い髪に、あれよあれよという間にキラキラな雫が増えていく。そして私の髪も、同じ雫に包まれていったから。それがとても嬉しくて。

「気持ちいいね、南の雨は」

 そう言って雨の中でヒューを見たら。
 ―――急に近づいてきたヒューの赤い瞳、とても大きく見えて。

 それからすぐ、私の唇にさっきのアイスティーの香りがちょこんとのった。


 あ、キスだ。暫くしてそう気付いた時にはもう唇は離れていて。
 目の周りを赤く染めた余裕のない瞳のヒューがいた。私を上から覗きこむように見ていた。

 どうして? 本当はそう聞きたかったけど、雨も降り続いていたし余計なことはどうでもよくなって。

「唇からも【吸収】ってできるの……?」

そう聞いてみたら。「やったことない」ってぶっきらぼうに答えて目を逸らすから。「やってみて」そう答える代わりに雨の中、ヒューの首筋に巻き付いてみた。背の高いヒューだから、それはうんと背伸びをしなければならなかった。

 ヒューの胸が思ったより広くて頼もしくて心強いなと思った。

 私の頬から耳へ流れるように触れてきたヒューの指先に、私は絡め取られてもう一度、ただただくちづけを受け入れるしかなかった。
 私の頭の後ろを支える大きなヒューの手のひらが、勢いで少し震えた感じがして、なんだかとても可愛いと思ってしまった。そしてとても心地がよかった。

 さっき手首から感じた澄んでいくような感覚が、唇からぐんぐん伝わってくるような気がした。


 唇がゆっくりと離れると、はぁ……と溺れる少し前のような熱い息をヒューが漏らすように吐いた。
 九年前を除けばまだ会って二日目だよねと、その軽さに呆れた気持ちに全くならないかったのは。ヒューの赤くなった頬と、慣れてなさそうな息遣いがあったからかもしれない。

 雨を降らせる黒い雲に覆われた空のせいで、辺りはいつもより薄暗くて。
 傘もささずにずっと雨に濡れ続けていることが非現実すぎて、いつもと自分が違うような気がした。

 それだけのこと。
 何かが始まりそうとかスイッチが入るとか、そういうのは今はどうでも良かった。
 嬉しそうに喜んだ人が、もっと喜んでくれたらそれだけでいいと思った。


「だいぶ濡れちゃったね、大丈夫?」

ヒューが私の髪を手にとって、雨の中でそう言った。

「うん、大丈夫。泊まっているホテルここから近いし、着替えもあるから。ヒューは大丈夫? そろそろお姉さんも仕事終わった頃じゃない……?」
「……うん。中に入ろうか」

 そう言って階段を駆け上がり、もうとっくにずぶ濡れだったけれど屋内まで並んで走った。
 扉の前で濡れた雫を払おうと試みたけど、払いきれないほどに服はずぶ濡れで。二人でどうしようか考えていると、廊下の向こう側からホルヴァートさんとフィーが歩いてきて

「ちょっと、びしょ濡れじゃない……! 何やってるのよ!」

 またしても私はフィーに怒鳴られた。
 ホルヴァートさんが慌てて取りに行ってくれたタオルで髪を拭きながら、ヒューと二人だけの秘密をヒューと二人だけでこっそり笑いあった。


 私はホルヴァートさんに傘を借りてまだまだ強い雨の中を濡れた服のままホテルへ戻ると、すぐに着替えて借りたタオルと濡れた服を洗濯して。
 遠方と話ができきる魔導具の通信機に魔力を流し込み、北の本家に居るラディ兄さんに連絡をした。

 その答えを聞いて、明日ヒューに私の魔力を起こして貰うことにした。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました

たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」 幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。 あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。 しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。 俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる! 「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」 俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。 その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。 「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」 「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」 『コメント:なんだこの配信……神か?』 『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』 これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。

処理中です...