魔力がなかったので能力を磨いてみたら、新しい幸せに巡りあえそうです!

泳ぐ。

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29 夜。

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 夕方、お借りした馬車で商会の訪問や挨拶周りを済ませて戻ると、ヒューとフィーが出迎えてくれた。

「おかえりなさい、ニナ。聞いたよ、明日帰っちゃうんだって……?」
「ただいま。そうなの、今日あらかた顔を出せるところは顔を出せたから」
「そっか……。じゃあさ、ごはん食べたら花火しよ! 最後の夜だもん、パ――っと遊ぼうよ!」
「うん!」

 いつもの部屋でごはんを食べていると、アークも帰ってきて部屋に来た。
 アークは、フィーのお皿にあったパンを後ろからひょいっと取り上げて、フィーに手をぴたんと叩かれてつつも口に入れて、立ったままもぐもぐしていた。
 気楽な感じでいられる幼馴染どうしっていいなと心底思った。

 アークは「花火すんの?」と驚きながらも、年長者らしくロウソクやバケツを探しに行ってくれた。


 山のようにたくさんの花火を手分けして持ち、あの砂浜まで四人で歩いた。
 ヒューとフィーは道中、花火を二人で抱えたり、バッグの持ち手を片方ずつ持ってぶらぶらと揺らして歩いたり、わちゃわちゃと喜んでいる姿がとても可愛らしかった。

 だんだんと細かな砂が道に混ざるようになり、地を踏みしめる感触が変わってくると、波の音が近づいてくる。
 そうだ、昨日兄さんがここにお礼を言いに来てくれたんだっけ、わたしもちゃんとお礼を言わなくっちゃ。そう思って海の沖の方へ目を凝らした。
 日の暮れた海はより厳かだった。あの岩はここからは見えなかった。


 砂浜の比較的平たいところにバケツを固定し、ロウソクを立てる。
 フィーがロウソクの先に指先をちょんと当てるだけで、火は簡単に灯った。

「そういえばね、北のご当主様がお帰りになる前にね、ニナはどんな魔力の吸収もとても上手にできるから、私の火の魔法もニナにちょっとのせてみるといいよって仰ってたの」
「ラディ兄さんが……?」
「そう。私が火の魔法を使えるって見ただけでわかっちゃうのと、ヒューを見て、あの彼が魔力を均すのもできるでしょって仰ったの、これもわかっちゃうんだね。本当にすごいよね、北のご当主様って」
「あ、なんか聞いたことがあるのは、兄さんは人の周りに魔力の粒子みたいなのがふわふわと待っているのが見えるんだって。それである程度はわかるみたい。ヒューのはなんでわかったんだろうね? 今度帰ったら聞いてみる」

「うん。ね、ヒュー! 私の魔力をちょっとニナにのせることできる……?」
「やってみる。だけど水と火って共存できるの……?」
「少しにすればいいんじゃない?」
「うん、じゃあ少しで……」

 ヒューがフィーの手首を包んで目を閉じた。
 フィーは慣れている言わんばかりに、花火を選びながら手だけヒューに預けている感じだった。

 暫くしてヒューが無言でフィーの腕を離すと、「ニナ」と手を伸ばしながら私を呼んだ。
 私はゆっくりとヒューに近付いて、手首を差し出す。

「なんか具合が悪くなりそうだったり、変な感じがしたらすぐに言って、止めるから」

 心配そうに私を覗きこみながらそう言った。
 私が頷くと、それを見届けたヒューはゆっくりと目を閉じた。

 元々の自分の中のものが軽く整えられたような、やわらかな感覚に包まれた後。
 ヒューの手のひらは熱を更に増したように温かくなり、ゆっくりと別の何かが流れ込んでくるような感覚に小さく心臓がドキっと鳴った。

 お義姉さんの風の魔法は何度か扱ったことがあるけれど、火の魔法は初めてで少し緊張しながらも、ワクワクもしている自分がいた。
 でも兄さんが「やってみたら」と言ったのなら、きっと大丈夫なはず。
 私はヒューの手のひらと兄さんを信じて、流れに身を任せるように力を抜いた。

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