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一章
上司の悩み
しおりを挟む新しい部下ができた。その部下の名前は月宮という。無愛想だが器用でよく働くやつだ。月宮は異世界から来た者らしく上層部からは大切に扱えと言われているが、ここの所属になったということはそれなりに危険な任務をやらせるつもりなのだろう。これまた扱いに困る部下をくれたものだ。
今回はその月宮と遠征に行けとのことだった。月宮は本部から離れることをかなり渋り、引っ張り出すのにかなり時間がかかった。なにやら月宮には大事にしている後輩がいるらしく政府にきたのも仕事をしてるのも全て後輩のためらしい。そこまでしてやっているのにその後輩とは恋人でもなんでもないらしい。月宮がどうしてその後輩にこだわるのかはわからないが、そう何日も離してやるのは可哀想だ。月宮は変なやつだが悪いやつじゃない。よく働くし、月宮にはこれからも頑張ってもらいたい。そんな考えで少し早い帰路の途中、月宮と話していた。
「おい月宮、聞いているか?」
ぼーっとした月宮を心配する。遠征に出てからずっとこの調子だが、少し早く帰れると教えてやったときは犬のような尻尾の幻覚が見えるくらいには喜んでいた。
「あっ......すみません。聞いてませんでした。」
「そんなに後輩が気になるのか?」
そういえば動揺したように目を泳がす。後輩のことになると途端にこいつは分かりやすくなるから面白い。
「月宮の特別ってやつ。おじさん気になるなあ。」
茶化してみれば子供のようなキラキラした目で見つめてくる。
「後輩はとても不器用なんですよ。早起きをしたから朝食を作ったなんて言って生焼けの料理をだしてきたり、クッションカバーを作ろうとしてクッションをいれる穴がなかったりするんです。だから、つい自分がしてしまうんですよ。」
オーバーなリアクションで頷いては話を促し月宮の話を聞いてやる。
「後輩はとても不器用で寂しがりやで。なんでもしてあげたくなります。俺がいないと駄目な気がするからどうしても離れるのが嫌で。」
月宮は普段なら考えられないほど饒舌になっていく。
「今でも、後輩があの約束を持ち出してくれたことが嬉しくて。後輩が頼ってくれる度に俺は役に立ててるんだと思えて。」
「別にお前がいなくてもあいつは生きていけそうだけどな。」
突然横槍が入った。月宮に突っかかってくるのは大抵あいつしかいないだろう。
「なに、鶴羽さん。」
月宮に並んで期待されている新人。
鶴羽白雲。赤い髪に金色の目が特徴で、最近例の後輩と仲がいいと噂になっている。そのせいか月宮とは仲が悪いため最近はこいつらの仲を取り持つことが一番の役目だ。
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