私が壊した宝物

キンネス

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2章

契約の証

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「......不老不死?」

止めていた息を吐き出すようにかすれた声がでた。初耳だ。誰もそんなことは教えてくれなかった。政府も瑠璃くんも先輩も。どういうことだ。


「この世界ではお前という存在の時間が止まっているんだよ。いや、どっちかつうとこの世界にいる時間分を奪われ続けてるかな。まあ、ここまでは不老の意味がわかるだろ?不死はどういう意味かわかるか?」


日頃から鶴羽さんの意地悪な笑みしかみたことはなかったが、これほどまでに苛立ちを感じたことはない。が、今はそんなことは言ってられなかった。自分が人間でなくなっている、なんて現実味のない事態に頭をどうにか追い付かせようと必死に考える。この世界で異物な私の体の時間が止められるのは解る。変に力をつけられたら困るのは予想できる。だけど私を不死にする必要はない。私がさっさと死ねば先輩というイレギュラーはいなくなるのだから。ということは、先輩が私になんらかの術を施した。なーんてそんなことはない。先輩は確かにおかしい部分が多いが、人間の範囲を越えたことはできない。だって、先輩も生きた人間なのだから。


「そーいや、気付いてないっぽいから言っとくが、お前の先輩は人間じゃないぞ。お前の契約相手。つまるところ、死人だ。」


先輩が死人。
体温もあり、感情も意志もある。そんな先輩が死人。なにかの間違いではないだろうか。そんな必死なこじつけも鶴羽さんに砕かれた。


「契約の証。お前の首にしっかり絡み付いてるだろ?」


とんとんと首に手を当てる鶴羽さんの首には鶴羽さんの髪色と同じ焔が絡み付くように刻まれていた。
私の首には確かに葡萄の蔦のようなものが刻まれているし、瑠璃くんにも鎖が絡み付いたように刻まれていた。人によって様々だったが、それでも刻まれていない人だっていたはずだ。
眼鏡、近所に住んでたおばあちゃん。他にも首に刻まれていない人は多くいた。私は今まで力ない人とある人の明確な差だと思っていた。おばあちゃんに関しては疑問だったけど。
この契約の証が首にあるのが生者の証だと言うならば先輩はどうなる。先輩だって、首に私と同じ証がある。先輩も同じはすだ。


「死人の特徴はふたつ。契約の証は自分に死をもたらした部分に証が現れること。でもこれじゃあ首を絞めて死んだ人と生者の見分けがつかない。それで、もうひとつ。これは俺のとっておき。死人には日光の耐性がなくなっている。この世界じゃあまず日光に当たることはないけどな。」



この世界がなぜこんなにも薄暗いのか。
それは死人のためであり。
生者のためだった。




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