悪役令嬢はチート能力でゲーム展開から離脱した

神村結美

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5. Side ライオネル

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 魔法大国と呼ばれるマジアは大陸の最も西に位置し、そこから幾つかの国を挟んでオールディントンがある。距離が離れているため、両国間での交流は、ほとんどない。各国にて要人を招く催し物で王家が出向く程度の関わりで、それも数年に一回の割合だ。


 読み込んだ書物にマジアの記載がいくつか見られたため、父上に魔法大国に相談するように進言した。

 外交担当のトラヴァーズ公爵には、マジアに手紙を送るよう指示した。内容は精神干渉魔法に関する相談、魔道具の購入や取引の要望、そして詳細については直接話を伺いたい旨をしたためてもらった。

 オールディントンから送った手紙は片道で3日程掛かるため、返答は早くても1週間後と想定していたが、なんと3日後にはマジアの外交担当者から返答が届いた。

 あまり詳しくは知らないが、マジアはあらゆる魔法を駆使しており、交流のある国には手紙の転移装置を置いているらしい。だから、今回の手紙も2つ隣の国に送られ、そこから転移装置を通してマジアに送られているはずだ。

 それでも6日は掛かるはずだが、とても早く返信が届いたのは、どうやら急ぎと判断されたのか、魔法で直接トラヴァーズ公爵に返信が届けられた。


 相談と商談への了承の返答に安堵した。すぐにオールディントンを訪問してくれる旨も書かれていた。今回の『魅了』は、国を揺るがす程の事態に発展する可能性があり、焦る気持ちもあったが、まさか早急に対応してくれるだけでなく、本来ならこちらから出向くべきところを来訪までしてくれるとは、マジアの外交担当者には感謝しかない。

 翌日訪問する旨が書かれていたが、トラヴァーズ公爵に手紙が届いた時に、返信用の紙と封筒も同封されていた。その返信用封筒に封をした瞬間にマジアに転送される仕掛けが施されており、問題もなく予定が整った。関係者にも即座に周知され、最優先での対応となった。


 予定された時間より少し早く謁見の間に集い、マジアの外交担当者を待つ。時間通りに現れたのは、堂々とした立ち振る舞いのローブ姿の男性だった。

「お初にお目にかかります。マジアの外交担当をしておりますマーティン・グライナーと申します。以後、お見知り置きを」

 他国の王族達を前にしても一切の動揺もなく、笑顔で挨拶を述べた。見た目が20代にも見える男性の優雅な動作には、皆感心した。

「此度は、こちらの要望にも関わらず、ご足労いただき、早急な対応にも誠に感謝する。早速だが、今回の件について話を進めたいのだが、まずは場所を移そう」


 今回の本来の訪問目的は限られた者にしか明かされていない。表向きは、近隣諸国を回っている外交担当者が挨拶に来た事になっているため、最初の対面は謁見の間で行った。詳細については、状況の説明も含めて長くなるため、会議室へ移動した。国王陛下をはじめ、各々が席についたところで、陛下が口を開く。

「まず、この話は、ここだけの話としていただけるだろうか?」

「もちろんでございます。精神干渉魔法に関わることは、他国にも影響を及ぼす可能性があるため、細心の注意を払っております。口外する事もございませんので、ご安心ください」

「そうか。では、詳しくは、こちらのライオネルから説明してもらう」

 陛下から指名されたので、まずは挨拶から。
 他国の外交担当であり、こちらの要望に協力してもらうことを念頭に出来る限り丁寧な対応を心がけた。彼に協力を断られてしまったら、成す術も無くなってしまう。


「はじめまして、マーティン・グライナー卿。第一王子のライオネル・オールディントンと申します。この度は、ご協力いただき感謝します。どうやら、学園に魅了の力を使う生徒がいるようで、対策方法を教えていただきたいのです。ご存知でしょうが、我が国にはあまり魔法が浸透しておらず、魅了とは何か、どのように対処すべきなのかを知っている者がいないのです」

「わかりました。魅了の対策についてお話しする前に、一つ質問させていただきたい。どうして魅了を使っている、とわかったのですか? 魅了を知らなければ、普通は気づくことはできません」

「これです。この魅了無効の魔道具を身につけて彼女に対面したら、彼女に対する考えや感情が正反対と言っていいほどに変わりました」

 首から下げていたネックレスを服の中から表に出し、マーティンに見えるように掲げた。

「なるほど。そちらを見せていただいても?」

 要望に従い、ネックレスを首から外してマーティンに手渡す。

「おぉ! これは、確かに魅了無効の効果が付与されていますね。しかし、手に取らないと効果がわからないようになっているなんて! これはとても素晴らしい魔道具ですよっ! このネックレスは、どこで入手されたのですか?!」

 少し興奮気味で、目を輝かせながら聞いてくるマーティンに驚きながらも、質問に答える。

「あ、あぁ。それは……友人から……」

「そうですか! それなら、ぜひその方にお会いして話を伺いたいのですが、お会いできますか?!」

「それは……」

 これを残して去ったディアナは、俺以外の記憶を消している。ディアナの事をこの場で言っても、誰にも理解してもらえない。それに、どこに消えたのか、居場所すらわからないのだから、会いたいと言われても困る。

 ただ、一つだけハッキリとしたことがある。マーティンは、これが魔道具であり、魅了無効の効果があると証明した。これをつける前とつけた後で印象が違ったサラが、やはり魅了を使っていることは間違いないようだ……。

 落胆を滲ませながら、どう答えるべきかと困惑していたのが表に出ていたようで、それに気づいたマーティンが、話を切り替えた。

「すみません、話が逸れてしまいましたね。申し訳ない。あまりにも素晴らしい魔道具だったので。その話については、また後ほど聞かせてください。……では、早速、魅了について説明しますね。まず、魅了とは、人の心を惹きつけて夢中にさせる能力です。魅了されてしまうと正しい判断が出来なくなりますが、おかしいとは気づけません。力が強いと意のままに操ることも可能です。無意識に使う者もいます。能力の強さによって、魅了にかかる範囲や度合いが変わりますが、とても厄介な能力の一つである事は間違いありません。実際、その力によって国も滅んでいますしね」

 ご参考までにと、過去に魅了で滅んでしまった国々についての資料が配られた。実際に魔法を扱う国の人間がまとめている詳細な資料を見ると、放置しておけるような事柄ではなく、対処が必要な現実問題であることを改めて認識させられた。

「対策としては、魔道具を城に設置すれば、王城は安全にはなりますが、城を覆うほどの物ですから、莫大な費用がかかります。殿下がお持ちの様な魔道具を使うとしても大量に必要となりますし、これから用意するには時間も費用も掛かります。例えば、牢屋に入れて、限られた人との接触程度なら少数の魔道具を共有して使うという方法もありますが、不特定多数の人間と接触する場合の対策は難しい。ですから、私からは『魔力封じの腕輪』を提案します。その腕輪を魅了の力を持つ者につけさせるだけで、言葉通り能力を封じることができます」

 皆、真剣にマーティンの話を聞いている。確かに魅了が国に多大な影響を及ぼすとしても、そのためだけに莫大な費用が掛かるのは理想ではない。提案された魔力封じの腕輪は、魅了の力を持つ者につける、即ち一つあれば済みそうだ。ただ、魔法の知識が乏しく、いまいち想像がつきにくい。

「魔力封じ、の腕輪、ですか?」

「えぇ。魔力封じの腕輪は、こちらになります」

 実際見せた方が早いと思ったのか、マーティンは手持ちのバッグを漁り、テーブルの上に腕輪を数個並べながら、説明を続けた。

「最初に魔力を込めて呪文を唱えると腕輪に認証されます。その後に対象者に身に付けさせるのです。認証された者が再度魔力を流すことによって、腕輪を外すことも出来ます。しかし、それ以外は誰が何をしても壊れませんし、外せません。魅了の力を抑えるだけであれば、その魔道具一つで対策は出来ますよ。これには魔石も使っていますが、半永久的に使用出来るように精霊魔法も組み合わせてありますから、自然から自動的に魔力を摂りこんで効果が続きます。さすがに自然のエネルギーがない枯れた土地に行けば魔道具は機能しなくなりますが、この国なら大丈夫でしょう」

 何を言っているのか理解できない部分もあったが、要するに、この腕輪があれば魅了を抑えることが出来て、腕輪を本人が外せないなら、それで十分ではないかと思えた。

「初回の使用なので、アフターケアも行いますよ。何かお困りの際には連絡ください。この魔道具の値段や性能については、こちらをご覧ください」

 テーブルに置かれた商品の説明資料と請求書を財務担当と国王陛下で確認していく。それを見守っていると、マーティンから声をかけられた。

「ライオネル殿下、あなたには魔力がありますね。この腕輪に魔力を注げば、すぐに使えますよ」

 魔力があると言われ、驚いた。そんなものを感じた事もない。

「私に魔力があるんですか?」

「はい。一般人よりも少し多いくらいの魔力を感じます」

「では、私にも魔法が使えるということでしょうか?」

「えぇ。ただ、魔法を使うとなると専門の知識が必要にはなります。知識なしでは危険も及びますしね。ですが、『魔力を注ぐ』ことは初級レベルです。最初に習いますから、それほど難しくはありませんよ」

「そうなんですね。魔力を注ぐ……」

「興味があるのでしたら、魔力を注ぐ方法などもお教えしますよ」

「それは、すぐに出来るのですか?」

「人によりますね。魔力操作はすぐに出来る者もいれば、中には数ヶ月かかる者もいますから」


 そんな風に言われて興味がわいた。今まで魔法と関わることなんてなかった。魔法に対する知識は全然ないが、魔力があって、魔法も使えるなら試してみたいとの好奇心が湧き上がる。ぜひ教えてもらいたいと答えようとしたタイミングで国王陛下が割り込んだ。

「グライナー殿、こちらの魔道具の購入についてだが、一日検討させてもらっても良いだろうか?」

「もちろんです。王城に設置する魔道具よりかなり安いと言っても、腕輪一つにかける値段としては高額ですし、即決できる金額ではございませんので、ゆっくりとご検討いただければと思います」

「ありがたい。では、話の続きは明日させていただこう」

 そこで話が終わり、解散となった。数日間は城に滞在することが決まったため、マーティンに城を案内しながら、魔力操作について教えてもらうこととなった。
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