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6. Side ライオネル
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翌日に関係者が再度集められ、国王陛下から魔道具購入の決定を伝えられた。マーティンから使い方や注意点、支払い等についての説明を受け、オールディントン関係者からの質疑応答の時間が設けられた。
精神干渉魔法を使わせないことが目的のため、今回は魔力封じの腕輪の取り外しは予定しない。腕輪の装着による日常生活への影響はないとのことから、すぐにマーティンに魔力注入を依頼した。万が一、解除が必要となった際は、こちらから連絡して対応してもらうこととなった。
もし、短期間で魔力操作が出来るようになれば、別の腕輪と交換し、俺が新たに魔力を注げば良いということらしい。すでにマーティンの魔力を注いだ腕輪も別に回すことができるから損にはならないと言われた。マーティンの魔力を注いだ腕輪を使って、いずれ解除したい場合には連絡すれば良いとのことだ。
魔力操作が出来るようになるまで数ヶ月掛かったとしたら、その間に更に被害が広がりかねないため、今回は迅速な対応を優先することにした。
腕輪については俺から彼女へのプレゼントとして、直接彼女の腕に嵌めることとなった。明日学園で彼女に会う予定だ。特に問題なく受け取ってもらえるだろうと思うので、念入りな準備は必要ない。
話がまとまったので、その場は解散し、マーティンを連れて別室に移動した。
こらから魔力操作を教えてもらうのだ。
どんなことをやるのか、少しワクワクした。
「では早速始めましょう。昨日身につけていたネックレスは外して、こちらに置いてください」
魔道具を傷つけないように、ベルベットのトレイがテーブルに置かれたので、その上に外したネックレスを置く。
「この石を持ってもらえますか? 簡単に言えば、これは魔力探知を補助する魔道具で、これを持つだけで魔力が認識しやすくなります。何か感じますか?」
右手に石を持った状態で、右手や自分の中に違和感がないかと意識を巡らせてみるが、何も感じない。
「いや、何も感じない」
「そうですか、では、失礼しますね」
石を持っていない左手を握られる。しばらくすると、手が熱を持ち始め、そこからじわじわと熱が全身に広がっていくような感じがした。
「魔力を流してみましたが何か感じますか?」
「あぁ、なんとなくだが、熱が全身を巡っているように感じる」
「それです。それが魔力です。しばらくは、魔力が体を巡る感じを覚えてください。」
「わかった」
目を閉じて体を巡る熱に意識を集中させる。
だんだんと体をどのように巡っているか、魔力とはどんなものなのかの感覚が掴めるようになった。
「今日はここまでにしましょう」
その言葉に合わせて、左手に送られていた魔力が途絶えたのを感じた。
「魔力操作は意識を集中して行う必要があるので、慣れるまでは疲労が溜まりやすいのです。無理しないように少しづつ慣れていきましょう」
「あぁ、わかった」
確かに少し疲れている感じはするが、新しいことにワクワクして楽しいという気持ちが今は勝っている。翌日以降も同じ時間に教わることを約束して解散した。
翌日、いつものように学園の昼休みにサラと過ごしていた場所に向かうとサラはすぐにやってきた。
「ライオネル様、お待たせしました。今日もライオネル様にお会いできて、嬉しいです」
「あぁ…」
魅了無効のネックレスをつけているせいか、やはり彼女が愛しいという感情は湧かなかった。気持ちが作りものだったことを改めて実感させられて苦い気持ちになったが、それを表に出さないように努めた。
「サラ、君にプレゼントがあるんだ」
「え? ライオネル様から私にプレゼントですか?」
「あぁ、このブレスレットだ」
「わぁ、可愛いです! これを私にプレゼントしてくれるんですか? 嬉しいです! なくさないように大事にしまっておかなくちゃ」
「このブレスレットは毎日君につけておいて欲しいんだ。腕を出してくれるか?」
「ライオネル様がそこまで言うなら…」
嬉しそうな顔でサラは右手を差し出した。少しだけ緊張したが、落ち着いてサラの腕にブレスレットをつける
「似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
彼女の腕に嵌った瞬間、魔道具から魔力の動きが感じられた。魔力封じは間違いなく発動したようだ。これで彼女は魅了を使えなくなったはずだ。
他の人々への影響も確認したいと思い、サラには授業が全て終わった後にまた会おうと約束した。
魅了が効かないことに気づいて逃げられても困るので、授業が終わったらすぐに馬車止めに向かって、サラが来るのを待った。
少しすると、若干顔色が悪く、泣きそうな顔をしたサラがこちらに向かってきた。
「ライオネル様…」
上目遣いでこちらを伺ってきている。
この瞬間、周りがザワついたのがわかった。
口々に何か言っているようだが、小声であるのと、少し距離があるため、何を言っているかはわからない。ただ、彼らの表情を見れば大体何を言っていたかは想像がつく。
今までの微笑ましく見守る感じではなく、大抵は驚愕や訝しげ、中にはサラを睨んでいる者までいる。
やはり周りも魅了されていたようだ。
それが解けたのが明らかになっている。
「サラ、どうかしたのか?」
今までと変わらない対応を心がけたら、サラからは安堵のため息が出た。
「い、いえ、なんでもないです」
「そうか。話があるから、馬車に乗ろう」
サラをエスコートして馬車に乗せる。すでに本日サラを王城に連れて帰ることは事前に決めていたため、王城では尋問官が待ち構えている。
王城に到着後もいつものように、たわいない話をしながら、人目につかぬように客室に誘導する。目的の部屋の前まで来ると、サラに先に客室に入るように促し、すぐに自分も入って鍵を閉めた。
「ライオネル様? ここは…? ここでどのようなお話をするのですか? それに、この人達は?」
テーブルを挟んだ向こう側には男女が座っている。彼らは尋問官で、俺達が入ってきた時に一度立ち上がっているが、座るように促した。
扉の横には、逃亡や暴れた時のための騎士が2名立っている。
「さぁ、サラも座って。これからサラに聞きたいことがあるんだ」
戸惑っているサラを座らせる。
「初めまして、サラ・フーパー嬢。私は、エルネスト・アダムスという。こちらは、ビアンカ・オークスだ。私たちは所謂、尋問官だ」
「尋問…官?」
一気に顔色を悪くするサラに構わずエルネストは続けた。
「単刀直入に聞こう。君は魅了を使っているね?」
「……」
「素直に全て話してくれるかな? 私達も令嬢を痛めつけて情報を吐き出させたい訳ではないからね」
エルネストの発言にサラの体が恐怖を感じたらしく震え始めている。
「そうそう。君が身につけているそのブレスレットだが、魅了の力を封じ込める魔道具でね、本人には外すことも出来ないし、それをつけている限り、魅了の力を使うことも出来ないから」
「えっ?!」
サラはブレスレットが魔道具だと知って、訴えるような目でこちらを見てきた。
「サラが魅了を使っていたことは俺も知っているよ。その魔道具は俺が用意してもらうように頼んだんだ。先日のお茶会で魅了無効の魔道具を使って確かめているから、今更誤魔化そうとしても無駄だよ。俺が君を慕っていたのは作られた気持ちだった。魅了無効の魔道具をつけた時、今までの愛しいと思っていた気持ちが一切湧かなかったんだ。どうしてこんなことを…?」
状況や俺たちの発言から色々察したようで、サラは諦めて素直に口に出した。
「だって子爵令嬢なんて贅沢が出来ないじゃない。高位貴族の令嬢達だけが高級でオシャレなドレスや宝石をたくさん持っているなんて不公平だわ。そんな時に気づいたの。魅了の力に。その力を使うと令嬢も令息も私にプレゼントをくれたり、チヤホヤしてくれるようになったわ。王妃になれば、国中からチヤホヤされて、好きなものがなんでも手に入ると思ったの。高位貴族だって、家の力や権力を使って色々してるのに、自分に備わった力を使って何がいけないの?」
「魅了の力は犯罪だよ。王族を相手にしていること自体が不敬罪になる。それに、以前その力を王族にかけたことによって滅んだ国もあるという。そんな力を意図して使用しているのなら国家反逆罪になり得るんだ」
「そんな! この力を使うことは犯罪だなんて知らなかったわ。それに、この力を使ったことで、まだ悪いことなんて起きていないわ。これから使わなければいいのでしょう?」
「君が知らないだけで、すでに魅了の影響により変わってしまったこともあるんだ…」
そう。その魅了がきっかけとなり、元々の婚約者であったディアナ・ヘンリットという存在が消えてしまった。婚約者が居たのに、その事実さえなくなった。ディアナのことは俺以外に誰も覚えていないが、俺にとって、その事実は消えない。さらに子爵令嬢に魅了された愚かな王族となってしまった。
「素直に話してくれてありがとう。フーパー嬢が意図して魅了の力を使用したことは理解した。君のご両親はその力のことを知っているのかな?」
「っ!! 両親は何も知らないわ!」
「これから色々と調べることになるし、他にも話を聞くことになるだろう。しばらくはよろしく頼むよ。さぁ、連れて行け」
エルネストが扉の前に立っていた騎士2人に指示を出す。騎士2人に連れられて、ビアンカに付き添われて、サラは地下の牢屋に入れられた。
サラは学園を退学になり、しばらくは牢屋での生活となった。子爵夫妻はサラが言った通り、魅了のことは知らず、むしろ被害者であった。家でもやりたい放題だったらしい。王妃になりたかっただけという動機だったが、王族やたくさんの人に魅了をかけていたため、最終的に処刑されることになった。
処刑前に2人で話をした時に、俺のことを本当はどう思っていたかも聞いた。王子だから、王子の肩書きがあったから自分に興味を持っていたと聞いて、色々複雑な思いがあったが、ある意味吹っ切れた。
サラの件が片付き、魔道具に魔力も注げるようになったため、マーティンのサポートも終了した。
「色々とありがとう」
「いえいえ、魔力も使えるようになって良かったですね。今後もご贔屓によろしくお願いします。では」
マーティンはそれだけ言うと、笑顔でサッと転移魔法でその場から消えた。
転移魔法もすごいものだな。魔力操作も魔道具に魔力を注ぐやり方も覚えたことで、俄然魔法に興味が出た。もしかしたら、国を良くするための魔道具や魔法もあるのかもしれないと思うと興味を抑えられなかった。
幸い、国王陛下はまだまだ現役で、私もすぐに立太子しなければならない状態でもない。まだ婚約者もいないから、婚約者探しも必要だ。1、2年程の時間をもらって、魔法大国に留学させてもらおうと決意して、周りに根回しを始めた。
精神干渉魔法を使わせないことが目的のため、今回は魔力封じの腕輪の取り外しは予定しない。腕輪の装着による日常生活への影響はないとのことから、すぐにマーティンに魔力注入を依頼した。万が一、解除が必要となった際は、こちらから連絡して対応してもらうこととなった。
もし、短期間で魔力操作が出来るようになれば、別の腕輪と交換し、俺が新たに魔力を注げば良いということらしい。すでにマーティンの魔力を注いだ腕輪も別に回すことができるから損にはならないと言われた。マーティンの魔力を注いだ腕輪を使って、いずれ解除したい場合には連絡すれば良いとのことだ。
魔力操作が出来るようになるまで数ヶ月掛かったとしたら、その間に更に被害が広がりかねないため、今回は迅速な対応を優先することにした。
腕輪については俺から彼女へのプレゼントとして、直接彼女の腕に嵌めることとなった。明日学園で彼女に会う予定だ。特に問題なく受け取ってもらえるだろうと思うので、念入りな準備は必要ない。
話がまとまったので、その場は解散し、マーティンを連れて別室に移動した。
こらから魔力操作を教えてもらうのだ。
どんなことをやるのか、少しワクワクした。
「では早速始めましょう。昨日身につけていたネックレスは外して、こちらに置いてください」
魔道具を傷つけないように、ベルベットのトレイがテーブルに置かれたので、その上に外したネックレスを置く。
「この石を持ってもらえますか? 簡単に言えば、これは魔力探知を補助する魔道具で、これを持つだけで魔力が認識しやすくなります。何か感じますか?」
右手に石を持った状態で、右手や自分の中に違和感がないかと意識を巡らせてみるが、何も感じない。
「いや、何も感じない」
「そうですか、では、失礼しますね」
石を持っていない左手を握られる。しばらくすると、手が熱を持ち始め、そこからじわじわと熱が全身に広がっていくような感じがした。
「魔力を流してみましたが何か感じますか?」
「あぁ、なんとなくだが、熱が全身を巡っているように感じる」
「それです。それが魔力です。しばらくは、魔力が体を巡る感じを覚えてください。」
「わかった」
目を閉じて体を巡る熱に意識を集中させる。
だんだんと体をどのように巡っているか、魔力とはどんなものなのかの感覚が掴めるようになった。
「今日はここまでにしましょう」
その言葉に合わせて、左手に送られていた魔力が途絶えたのを感じた。
「魔力操作は意識を集中して行う必要があるので、慣れるまでは疲労が溜まりやすいのです。無理しないように少しづつ慣れていきましょう」
「あぁ、わかった」
確かに少し疲れている感じはするが、新しいことにワクワクして楽しいという気持ちが今は勝っている。翌日以降も同じ時間に教わることを約束して解散した。
翌日、いつものように学園の昼休みにサラと過ごしていた場所に向かうとサラはすぐにやってきた。
「ライオネル様、お待たせしました。今日もライオネル様にお会いできて、嬉しいです」
「あぁ…」
魅了無効のネックレスをつけているせいか、やはり彼女が愛しいという感情は湧かなかった。気持ちが作りものだったことを改めて実感させられて苦い気持ちになったが、それを表に出さないように努めた。
「サラ、君にプレゼントがあるんだ」
「え? ライオネル様から私にプレゼントですか?」
「あぁ、このブレスレットだ」
「わぁ、可愛いです! これを私にプレゼントしてくれるんですか? 嬉しいです! なくさないように大事にしまっておかなくちゃ」
「このブレスレットは毎日君につけておいて欲しいんだ。腕を出してくれるか?」
「ライオネル様がそこまで言うなら…」
嬉しそうな顔でサラは右手を差し出した。少しだけ緊張したが、落ち着いてサラの腕にブレスレットをつける
「似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
彼女の腕に嵌った瞬間、魔道具から魔力の動きが感じられた。魔力封じは間違いなく発動したようだ。これで彼女は魅了を使えなくなったはずだ。
他の人々への影響も確認したいと思い、サラには授業が全て終わった後にまた会おうと約束した。
魅了が効かないことに気づいて逃げられても困るので、授業が終わったらすぐに馬車止めに向かって、サラが来るのを待った。
少しすると、若干顔色が悪く、泣きそうな顔をしたサラがこちらに向かってきた。
「ライオネル様…」
上目遣いでこちらを伺ってきている。
この瞬間、周りがザワついたのがわかった。
口々に何か言っているようだが、小声であるのと、少し距離があるため、何を言っているかはわからない。ただ、彼らの表情を見れば大体何を言っていたかは想像がつく。
今までの微笑ましく見守る感じではなく、大抵は驚愕や訝しげ、中にはサラを睨んでいる者までいる。
やはり周りも魅了されていたようだ。
それが解けたのが明らかになっている。
「サラ、どうかしたのか?」
今までと変わらない対応を心がけたら、サラからは安堵のため息が出た。
「い、いえ、なんでもないです」
「そうか。話があるから、馬車に乗ろう」
サラをエスコートして馬車に乗せる。すでに本日サラを王城に連れて帰ることは事前に決めていたため、王城では尋問官が待ち構えている。
王城に到着後もいつものように、たわいない話をしながら、人目につかぬように客室に誘導する。目的の部屋の前まで来ると、サラに先に客室に入るように促し、すぐに自分も入って鍵を閉めた。
「ライオネル様? ここは…? ここでどのようなお話をするのですか? それに、この人達は?」
テーブルを挟んだ向こう側には男女が座っている。彼らは尋問官で、俺達が入ってきた時に一度立ち上がっているが、座るように促した。
扉の横には、逃亡や暴れた時のための騎士が2名立っている。
「さぁ、サラも座って。これからサラに聞きたいことがあるんだ」
戸惑っているサラを座らせる。
「初めまして、サラ・フーパー嬢。私は、エルネスト・アダムスという。こちらは、ビアンカ・オークスだ。私たちは所謂、尋問官だ」
「尋問…官?」
一気に顔色を悪くするサラに構わずエルネストは続けた。
「単刀直入に聞こう。君は魅了を使っているね?」
「……」
「素直に全て話してくれるかな? 私達も令嬢を痛めつけて情報を吐き出させたい訳ではないからね」
エルネストの発言にサラの体が恐怖を感じたらしく震え始めている。
「そうそう。君が身につけているそのブレスレットだが、魅了の力を封じ込める魔道具でね、本人には外すことも出来ないし、それをつけている限り、魅了の力を使うことも出来ないから」
「えっ?!」
サラはブレスレットが魔道具だと知って、訴えるような目でこちらを見てきた。
「サラが魅了を使っていたことは俺も知っているよ。その魔道具は俺が用意してもらうように頼んだんだ。先日のお茶会で魅了無効の魔道具を使って確かめているから、今更誤魔化そうとしても無駄だよ。俺が君を慕っていたのは作られた気持ちだった。魅了無効の魔道具をつけた時、今までの愛しいと思っていた気持ちが一切湧かなかったんだ。どうしてこんなことを…?」
状況や俺たちの発言から色々察したようで、サラは諦めて素直に口に出した。
「だって子爵令嬢なんて贅沢が出来ないじゃない。高位貴族の令嬢達だけが高級でオシャレなドレスや宝石をたくさん持っているなんて不公平だわ。そんな時に気づいたの。魅了の力に。その力を使うと令嬢も令息も私にプレゼントをくれたり、チヤホヤしてくれるようになったわ。王妃になれば、国中からチヤホヤされて、好きなものがなんでも手に入ると思ったの。高位貴族だって、家の力や権力を使って色々してるのに、自分に備わった力を使って何がいけないの?」
「魅了の力は犯罪だよ。王族を相手にしていること自体が不敬罪になる。それに、以前その力を王族にかけたことによって滅んだ国もあるという。そんな力を意図して使用しているのなら国家反逆罪になり得るんだ」
「そんな! この力を使うことは犯罪だなんて知らなかったわ。それに、この力を使ったことで、まだ悪いことなんて起きていないわ。これから使わなければいいのでしょう?」
「君が知らないだけで、すでに魅了の影響により変わってしまったこともあるんだ…」
そう。その魅了がきっかけとなり、元々の婚約者であったディアナ・ヘンリットという存在が消えてしまった。婚約者が居たのに、その事実さえなくなった。ディアナのことは俺以外に誰も覚えていないが、俺にとって、その事実は消えない。さらに子爵令嬢に魅了された愚かな王族となってしまった。
「素直に話してくれてありがとう。フーパー嬢が意図して魅了の力を使用したことは理解した。君のご両親はその力のことを知っているのかな?」
「っ!! 両親は何も知らないわ!」
「これから色々と調べることになるし、他にも話を聞くことになるだろう。しばらくはよろしく頼むよ。さぁ、連れて行け」
エルネストが扉の前に立っていた騎士2人に指示を出す。騎士2人に連れられて、ビアンカに付き添われて、サラは地下の牢屋に入れられた。
サラは学園を退学になり、しばらくは牢屋での生活となった。子爵夫妻はサラが言った通り、魅了のことは知らず、むしろ被害者であった。家でもやりたい放題だったらしい。王妃になりたかっただけという動機だったが、王族やたくさんの人に魅了をかけていたため、最終的に処刑されることになった。
処刑前に2人で話をした時に、俺のことを本当はどう思っていたかも聞いた。王子だから、王子の肩書きがあったから自分に興味を持っていたと聞いて、色々複雑な思いがあったが、ある意味吹っ切れた。
サラの件が片付き、魔道具に魔力も注げるようになったため、マーティンのサポートも終了した。
「色々とありがとう」
「いえいえ、魔力も使えるようになって良かったですね。今後もご贔屓によろしくお願いします。では」
マーティンはそれだけ言うと、笑顔でサッと転移魔法でその場から消えた。
転移魔法もすごいものだな。魔力操作も魔道具に魔力を注ぐやり方も覚えたことで、俄然魔法に興味が出た。もしかしたら、国を良くするための魔道具や魔法もあるのかもしれないと思うと興味を抑えられなかった。
幸い、国王陛下はまだまだ現役で、私もすぐに立太子しなければならない状態でもない。まだ婚約者もいないから、婚約者探しも必要だ。1、2年程の時間をもらって、魔法大国に留学させてもらおうと決意して、周りに根回しを始めた。
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