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本編
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入学して2週間目のイベント。
なぜか、これも私が居るところで起こった。
まぁ、場所は図書館だから仕方ないのかもしれないが……。
私が静かに本を読んで居たら、「きゃっ」と可愛らしい叫び声が本棚の奥から聴こえてきた。
そのすぐ後に「大丈夫か?」と聞き覚えのある声。
「大丈夫です、ありがとうございます」
「あれ? 君は、確か……」
「……私のことを覚えていてくださったんですか? また助けてくださり、ありがとうございます。殿下に2度もご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
「いや、気にしないでくれ。えっと、……君は」
「失礼致しました。アンナ・バジューと申します」
「……バジューというと、ポール・バジュー男爵のご令嬢か」
「はい、そうです」
「そうか、よろしく頼む。あぁ、そうだ。今度からは少しでも高い位置の本を取る時は、入り口にいる司書に頼むといい」
「はい、次からはそうします。本当にありがとうございました」
そこで会話が途切れた。
そのすぐ後に、ジェラルド様が私の目の前に現れた。
「アリー」
笑顔を向けられたが、今しがた発生したイベントによって、若干微妙な心境になっていた私は、それが表情に出てしまっていた。
「アリー? どうしたの?」
心配そうにジェラルド様が伺う様子で、自分の表情に気づき咄嗟に笑顔の仮面を被った。
「いえ、何もありませんわ。少しぼーっとしていただけですの」
「そう?」
少し納得がいかないような表情のジェラルド様だったが、私がそれ以上何も言わない事を察したのか、そこで引き下がったようだ。
「それなら、そういう事にしておこう。……では、行こうか」
ジェラルド様が差し出す手をとる。
今日は学園後に、一緒に登城予定となっていた。
王家の夕食に婚約者として招待されているためだ。
これも数ヶ月に一度の割合で予定されており、王家の皆さんとの交流を深める目的がある。
授業後、ジェラルド様は生徒会の仕事があったため、終わるまで図書室で待ってるように言われていた。
まさか、そんな中、イベントが起きるとは!
……ゲームでもそうだったのかしら?
基本的にはヒロインに合わせた視点で進んでいたから、イベント時には2人しかいないような雰囲気に見えたけど、現実では、こうなのね……。
会話しか聴こえてなかったけど、やりとりはゲームと一言一句違わない台詞だったわ。
なんというか、複雑な気分だわ……。
アンナとジェラルド様の状況がわかるのは、確かに私の今後の行動に役立つかもしれないけれど、やはり、アンナとジェラルド様が距離を縮めていくのを間近で見ていくのは、辛いものがある……。
ゲームの後半では2人のラブラブっぷりを見せつけられるんでしょうけど、昔からのアイリスの想いがあるから、やはり簡単に気持ちは割り切れないわね。
次のイベントを経て仲良くなり始めるんだわ。次のジェラルド様のイベントが起こるのは、今から一ヶ月後くらいだったはず。
王城に向かう馬車に乗り込み、目の前にはジェラルド様が座っているにも関わらず、私はただ、ボーッと窓の外を眺めながら、イベントの事を考えていた。
そう、ゲームでの次のジェラルド様のイベントは、入学から1カ月半後ーー5月半ば頃になる。
その頃には、アンナは攻略対象者達と仲良くなっている。クリストファーとルイは日々のやりとりで、クロードも出逢いイベントさえ達成していれば、その後の会う頻度は多い。ジェラルド様と宰相候補のセバスチャンの2人のみ、数回しか会っていない状況となる。
これは、全ルートで発生するイベントである。令嬢達にアンナが呼び出され、人気のない校舎裏に連れていかれる。
「あなたは何様のつもりなのかしら!?」
「たかが、男爵令嬢のくせに、クリストファー殿下に話しかけるなんて」
「身の程を弁えなさい!」
「あなたごときが相手にされると思うなんて、勘違いも甚だしいわ」
と、口々に罵倒される。
原因は第二王子だ。全ルートでクリストファーが隣の席のため、発生してしまう。第二王子と隣の席だからといって、親しく会話をするというのが許せないご令嬢達によって、罵られるのだ。
そこで、選んだキャラが助けに来ることになる。
ちなみに、ヒロインが第二王子を選択している場合は、アイリスが第二王子の婚約者となるため、アイリスを筆頭に他のご令嬢達がアンナと向き合う。そこにクリストファーが通りがかり、アイリスは話しているだけと誤魔化す。
こんな場所で?と訝しげにいうクリストファーに対して、人前で公爵令嬢の自分が諌めたら、誰もアンナに近寄らなくなってしまうから、アンナのためであると詭弁を弄するのである。その場でクリスは納得するものの、その後も王子に近づいていくアンナに、親しくなっていく2人に嫉妬し、憤り、失態を犯してしまうのだが。
まぁ、ゲームでの第二王子ルートの展開は置いといて……。
第一王子とのイベントは、人気のないところに集まっているご令嬢達をジェラルド様が見かけて声をかける。
「こんな所で何をしているんだ?」
「皆さんとお話をしていただけですわ」
自然ににっこりと微笑んでジェラルド様に返すが、第一王子の登場にさすがに不味いと思ったご令嬢達は、そそくさと退散する。
ご令嬢達が去っていくのを見ていたジェラルド様は、その場にまだ誰かが残っている事に気づく。そちらを向くと、アンナだった。その場には2人だけ。
「アンナ嬢」
ジェラルド様が話しかけた時に、アンナの左手の甲が擦りむけていて、軽く血が出ている事に気づき、保健室に連れて行く。
ジェラルド様は聡明で、先ほどのご令嬢達がアンナをいじめようとしていた事を察していた。生徒会長としても、把握しておくべき問題だと考えたジェラルド様は、保健室に向かう間、アンナに淡々と質問をした。
「何があったんだ?」
「いえ、何もございません。ただ、お話していただけです」
「では、その手の傷はどうしたんだ?」
「どこかで擦りむいてしまったようですね。気づかずに、またご迷惑をおかけしてすみません」
頑なに先ほどのご令嬢達は関係ないという姿勢を崩さないアンナ。そして、ジェラルド様はアンナに聞こえないくらいの声でボソッと呟いた。
「……君は自分のことよりも他人のことなんだな」
自分を虐めようとしているもの達を庇うなんて、なんて心が優しいのか、それに堂々と意見を述べるアンナは、外見だけでなく、内面も美しい。それを目の当たりにしたジェラルド様は少しづつアンナに心が惹かれていく。
それからは、アンナの事を知りたいと思い、図書館や庭園にも頻繁に出向くようになり、偶然を装っての出会いを繰り返しながら、どんどん距離を縮めていく。
ーー約一カ月後のジェラルド様のイベントの詳細を思い出して、更に複雑な心境になった。次のイベントでは、ジェラルド様がアンナに興味を持ち始める。その場面は実際には見たくないなと、心の底から思い、しばらくは校舎裏と保健室近くには一切近寄らないようにしようと心の中で決める。
「…リー」
集中していた私は、ジェラルド様に話しかけられていた事に気付かなかった。
ジェラルド様が立ち上がり、私の前まで来て、膝の上に置いてある私の両手を彼の両手で上からそっと握って、私の名前を優しく呼んだところで、ジェラルド様に話しかけられていた事に気付いた。
「アリー?」
ハッと意識を戻して、ジェラルド様を見ると、とても心配そうな表情をして、私を見ていた。
「申し訳ございません、ジェラルド様」
慌てて謝ると、そのままジェラルド様は私の左横に座った。彼の左手はそのまま私の両手の上に被せたまま、彼の右手は私の左頬をそっと包んだ。
ジェラルド様の顔が近いっ!睫毛長いし、瞳もすごく綺麗だわ……その美しい顔が間近にあるだけでもやばいのに、少し憂いを帯びた顔が、なんか色気もあってドキドキする。
自然と顔が赤く染まっていく。それでも目をそらせずにいると、ジェラルド様のとても優しい声が耳に響いた。
「アリー、大丈夫? 体調でも悪い? それとも何か悩みごと? 何か気になることがあるなら聞くよ。もし、体調が悪いのなら、今日の夕食は無理して参加しなくても大丈夫だよ」
気遣いの言葉に優しい声、それと、頬に添えられた手からの暖かいぬくもりに少し心が和らいだ。
「大丈夫ですわ。ありがとうございます。少し考え事をしてしまっていただけですの。私、陛下や王妃様との夕食はとても楽しみにしておりますの」
表情を緩めた私を見て、ジェラルド様の表情は少しだけ安心した微笑みに変わる。
「わかった。それなら少しでも気分が悪くなったら、すぐ俺にいうんだよ。無理はダメだからね」
「はい、わかりました」
返事をした直後、馬車が停車した。
王城に着いたようだ。ジェラルド様にエスコートされ、食事の時間まで彼の私室でお茶を飲みながら、ジェラルド様に質問されたので、入学してからのアイリスの学園生活についての話をして過ごした。
なぜか、これも私が居るところで起こった。
まぁ、場所は図書館だから仕方ないのかもしれないが……。
私が静かに本を読んで居たら、「きゃっ」と可愛らしい叫び声が本棚の奥から聴こえてきた。
そのすぐ後に「大丈夫か?」と聞き覚えのある声。
「大丈夫です、ありがとうございます」
「あれ? 君は、確か……」
「……私のことを覚えていてくださったんですか? また助けてくださり、ありがとうございます。殿下に2度もご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
「いや、気にしないでくれ。えっと、……君は」
「失礼致しました。アンナ・バジューと申します」
「……バジューというと、ポール・バジュー男爵のご令嬢か」
「はい、そうです」
「そうか、よろしく頼む。あぁ、そうだ。今度からは少しでも高い位置の本を取る時は、入り口にいる司書に頼むといい」
「はい、次からはそうします。本当にありがとうございました」
そこで会話が途切れた。
そのすぐ後に、ジェラルド様が私の目の前に現れた。
「アリー」
笑顔を向けられたが、今しがた発生したイベントによって、若干微妙な心境になっていた私は、それが表情に出てしまっていた。
「アリー? どうしたの?」
心配そうにジェラルド様が伺う様子で、自分の表情に気づき咄嗟に笑顔の仮面を被った。
「いえ、何もありませんわ。少しぼーっとしていただけですの」
「そう?」
少し納得がいかないような表情のジェラルド様だったが、私がそれ以上何も言わない事を察したのか、そこで引き下がったようだ。
「それなら、そういう事にしておこう。……では、行こうか」
ジェラルド様が差し出す手をとる。
今日は学園後に、一緒に登城予定となっていた。
王家の夕食に婚約者として招待されているためだ。
これも数ヶ月に一度の割合で予定されており、王家の皆さんとの交流を深める目的がある。
授業後、ジェラルド様は生徒会の仕事があったため、終わるまで図書室で待ってるように言われていた。
まさか、そんな中、イベントが起きるとは!
……ゲームでもそうだったのかしら?
基本的にはヒロインに合わせた視点で進んでいたから、イベント時には2人しかいないような雰囲気に見えたけど、現実では、こうなのね……。
会話しか聴こえてなかったけど、やりとりはゲームと一言一句違わない台詞だったわ。
なんというか、複雑な気分だわ……。
アンナとジェラルド様の状況がわかるのは、確かに私の今後の行動に役立つかもしれないけれど、やはり、アンナとジェラルド様が距離を縮めていくのを間近で見ていくのは、辛いものがある……。
ゲームの後半では2人のラブラブっぷりを見せつけられるんでしょうけど、昔からのアイリスの想いがあるから、やはり簡単に気持ちは割り切れないわね。
次のイベントを経て仲良くなり始めるんだわ。次のジェラルド様のイベントが起こるのは、今から一ヶ月後くらいだったはず。
王城に向かう馬車に乗り込み、目の前にはジェラルド様が座っているにも関わらず、私はただ、ボーッと窓の外を眺めながら、イベントの事を考えていた。
そう、ゲームでの次のジェラルド様のイベントは、入学から1カ月半後ーー5月半ば頃になる。
その頃には、アンナは攻略対象者達と仲良くなっている。クリストファーとルイは日々のやりとりで、クロードも出逢いイベントさえ達成していれば、その後の会う頻度は多い。ジェラルド様と宰相候補のセバスチャンの2人のみ、数回しか会っていない状況となる。
これは、全ルートで発生するイベントである。令嬢達にアンナが呼び出され、人気のない校舎裏に連れていかれる。
「あなたは何様のつもりなのかしら!?」
「たかが、男爵令嬢のくせに、クリストファー殿下に話しかけるなんて」
「身の程を弁えなさい!」
「あなたごときが相手にされると思うなんて、勘違いも甚だしいわ」
と、口々に罵倒される。
原因は第二王子だ。全ルートでクリストファーが隣の席のため、発生してしまう。第二王子と隣の席だからといって、親しく会話をするというのが許せないご令嬢達によって、罵られるのだ。
そこで、選んだキャラが助けに来ることになる。
ちなみに、ヒロインが第二王子を選択している場合は、アイリスが第二王子の婚約者となるため、アイリスを筆頭に他のご令嬢達がアンナと向き合う。そこにクリストファーが通りがかり、アイリスは話しているだけと誤魔化す。
こんな場所で?と訝しげにいうクリストファーに対して、人前で公爵令嬢の自分が諌めたら、誰もアンナに近寄らなくなってしまうから、アンナのためであると詭弁を弄するのである。その場でクリスは納得するものの、その後も王子に近づいていくアンナに、親しくなっていく2人に嫉妬し、憤り、失態を犯してしまうのだが。
まぁ、ゲームでの第二王子ルートの展開は置いといて……。
第一王子とのイベントは、人気のないところに集まっているご令嬢達をジェラルド様が見かけて声をかける。
「こんな所で何をしているんだ?」
「皆さんとお話をしていただけですわ」
自然ににっこりと微笑んでジェラルド様に返すが、第一王子の登場にさすがに不味いと思ったご令嬢達は、そそくさと退散する。
ご令嬢達が去っていくのを見ていたジェラルド様は、その場にまだ誰かが残っている事に気づく。そちらを向くと、アンナだった。その場には2人だけ。
「アンナ嬢」
ジェラルド様が話しかけた時に、アンナの左手の甲が擦りむけていて、軽く血が出ている事に気づき、保健室に連れて行く。
ジェラルド様は聡明で、先ほどのご令嬢達がアンナをいじめようとしていた事を察していた。生徒会長としても、把握しておくべき問題だと考えたジェラルド様は、保健室に向かう間、アンナに淡々と質問をした。
「何があったんだ?」
「いえ、何もございません。ただ、お話していただけです」
「では、その手の傷はどうしたんだ?」
「どこかで擦りむいてしまったようですね。気づかずに、またご迷惑をおかけしてすみません」
頑なに先ほどのご令嬢達は関係ないという姿勢を崩さないアンナ。そして、ジェラルド様はアンナに聞こえないくらいの声でボソッと呟いた。
「……君は自分のことよりも他人のことなんだな」
自分を虐めようとしているもの達を庇うなんて、なんて心が優しいのか、それに堂々と意見を述べるアンナは、外見だけでなく、内面も美しい。それを目の当たりにしたジェラルド様は少しづつアンナに心が惹かれていく。
それからは、アンナの事を知りたいと思い、図書館や庭園にも頻繁に出向くようになり、偶然を装っての出会いを繰り返しながら、どんどん距離を縮めていく。
ーー約一カ月後のジェラルド様のイベントの詳細を思い出して、更に複雑な心境になった。次のイベントでは、ジェラルド様がアンナに興味を持ち始める。その場面は実際には見たくないなと、心の底から思い、しばらくは校舎裏と保健室近くには一切近寄らないようにしようと心の中で決める。
「…リー」
集中していた私は、ジェラルド様に話しかけられていた事に気付かなかった。
ジェラルド様が立ち上がり、私の前まで来て、膝の上に置いてある私の両手を彼の両手で上からそっと握って、私の名前を優しく呼んだところで、ジェラルド様に話しかけられていた事に気付いた。
「アリー?」
ハッと意識を戻して、ジェラルド様を見ると、とても心配そうな表情をして、私を見ていた。
「申し訳ございません、ジェラルド様」
慌てて謝ると、そのままジェラルド様は私の左横に座った。彼の左手はそのまま私の両手の上に被せたまま、彼の右手は私の左頬をそっと包んだ。
ジェラルド様の顔が近いっ!睫毛長いし、瞳もすごく綺麗だわ……その美しい顔が間近にあるだけでもやばいのに、少し憂いを帯びた顔が、なんか色気もあってドキドキする。
自然と顔が赤く染まっていく。それでも目をそらせずにいると、ジェラルド様のとても優しい声が耳に響いた。
「アリー、大丈夫? 体調でも悪い? それとも何か悩みごと? 何か気になることがあるなら聞くよ。もし、体調が悪いのなら、今日の夕食は無理して参加しなくても大丈夫だよ」
気遣いの言葉に優しい声、それと、頬に添えられた手からの暖かいぬくもりに少し心が和らいだ。
「大丈夫ですわ。ありがとうございます。少し考え事をしてしまっていただけですの。私、陛下や王妃様との夕食はとても楽しみにしておりますの」
表情を緩めた私を見て、ジェラルド様の表情は少しだけ安心した微笑みに変わる。
「わかった。それなら少しでも気分が悪くなったら、すぐ俺にいうんだよ。無理はダメだからね」
「はい、わかりました」
返事をした直後、馬車が停車した。
王城に着いたようだ。ジェラルド様にエスコートされ、食事の時間まで彼の私室でお茶を飲みながら、ジェラルド様に質問されたので、入学してからのアイリスの学園生活についての話をして過ごした。
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