恋って大変ですね

神村結美

文字の大きさ
3 / 3

後編

しおりを挟む
勉強会もついに終わり、来週の期末に向けて、出来ることはやった。

「はい、ここまでね。お疲れ様。今の調子なら、来週のテストもきっと良い結果になると思うよ。頑張ってね」

「はい。桜井先輩、勉強を教えてくれて、ありがとうございました。先輩は教え方が上手で、すごく分かりやすくて、助かりました」

「そう? なら、良かった」

「はい。来週も頑張ります! それじゃあまた……」

帰り支度をしながら、お礼を伝え、帰りの挨拶をしようとしたところで、話を遮られた。

「待って、藤崎さん。あのさ、8月6日の土曜日って忙しい?」

「8月6日ですか?」

「うん。もし、良かったら、一緒に花火大会行かない?」


……は?
一瞬、先輩が何を言っているのか、訳がわからなかった。その場で固まってしまったが、なんとか頭を動かそうとした。

今、先輩はなんて言った?
花火大会と聞こえた気がする……。
花火大会に一緒に行かないか、と誘われた?
いや、そんなバカな! 幻聴だよね……と聞き返す。

「えっと、すみません、何か聞き間違えたみたいで、もう一度言ってくれませんか?」

「うん、8月6日の花火大会に一緒に行かない?」

ん?
聞き直したのに、やっぱり花火大会に誘われている?

なんで!? 先輩には彼女居るでしょ!
しかも、振った私を花火大会に誘うなんて、どういう神経してるの?! 嫌がらせ? 何なの? 
頭の中で段々と怒りと悲しみが大きくなりながら、
先輩の誘いを断ろうと、口を開きかけたその時ーー


「あ、やっと見つけた。海里かいり~!」


誰かが先輩を呼んだ。
足音でその人物が近づいてきているのがわかった。


そちらを見ると、桜井先輩が居た。


え!? 何?!
どういうこと?! 夢? 幽霊?!
それとも、ドッペルゲンガーか何かなの!? 
パニックになった。

よく見ると、一緒に居た桜井先輩は眼鏡を掛けており、登場した桜井先輩は、眼鏡がない。
あれ、これ、間違い探し?
間違い探しなら、最初は眼鏡でしょ!
えっと、他には……。

半ば現実逃避しかけた私に浴びせられた言葉で、一気に正気に戻った。


「あれ? この前、俺に告白してくれた子だよね~? 名前聞こうとしてたのに、聞けなかったから。こんなところで会えるとは」

「ちょっと待て! お前、今何て言った?」

「え? こんなところで会えるとは?」

「違う。その前だ」

「名前聞こうと」

「それじゃない! お前に告白って言ったか?」

「うん、そうだよ~」

「は? 藤崎さんと面識あったのか?」

「いや、ないよ~。その時、初めて会ったと思うけど」


目の前で繰り広げられる会話で、段々と状況が掴めてきた。そして、ダラダラと冷や汗が止まらない……。

目の前には、同じ顔が2人。
私が告白したのは、この眼鏡を掛けていない方らしい。ここから考えられる結論は1つだけ。
勇気を出して、聞いてみる。

「あ、あの、桜井先輩……。つかぬ事をお伺いしますが、先輩ってもしかして、双子、だったりします?」

「そうだよ、こっちは弟の空我くうが。見てわかる通り、一卵性双生児だよ」

あぁっ、肯定されてしまった!
……ということは、私が先輩だと思って告白したのは、先輩ではなく弟さんだったと。
じゃあ、ショッピングモールで見かけたのは?

ちょっと待って! 告白後に、先輩が何もなかった様な態度だったのは、からだったってこと?

「あれ? 双子だって知らなかった? なら、もしかして、あの告白」

「あ、あ、あ、あの、すみません! 私ちょっと急用を思い出したので、これで失礼します」


まさか先輩が双子で、間違って別の人に告白してしまっていたなんて恥ずかしすぎる! 穴があったら入りたい! 今までの自分の勘違いや、やらかしていた事が色々と発覚し、叫びたくなる衝動を何とか抑え、とりあえず逃げようと思った。


その場から急いで立ち去ろうと、振り返って一歩踏み出したところで、手首を掴まれ、引っ張られた。
先輩の胸に倒れこむ様な形となり、気づいたら、桜井海里さくらい かいり先輩の腕の中だった。

先輩の両腕が私の腰に回っている。軽く抱きしめられる様な感じで、逃げようとしても、先輩の手に軽く力が入っていて、逃げられない。

「逃さない」

耳元で囁かれて、一気に顔に熱が集中した。
ひゃあと叫びそうになったのを、咄嗟に両手で口を塞ぎ、押し留めた。

「あ~、なんか、俺、お邪魔虫っぽいね。帰るわ~。じゃあ、海里、夜に時間作っといてね。じゃあね~」

ひらひらと右手を振って、桜井空我先輩は去っていった。


至近距離で先輩の顔を見る事はできず俯いたままでいたら、先輩が話掛けてきた。

「ねぇ、藤崎さんは、空我の事が好きなの?」

「ち、違います」

「じゃあ、空我に告白したのは、俺だと思ったから? 俺のこと好き?」

「……」

うぅ、恥ずかしい。
答えるのに戸惑っていたら、別の問いかけをされた。

「俺のこと、嫌い?」

「そ、そんな事は」

「ねぇ、顔上げて」

そんなに切なそうな声で言われたら、従わざるを得ない! ゆっくり顔を上げ、先輩と目を合わせる。

「俺は、佳純かすみちゃんが好きだよ」

優しく蕩けそうな笑顔だった。でも、先輩の耳が少し赤くなっていて、それが嬉しかった。

「俺のこと、どう思ってるか、聞かせて」

「す、好きです」

「じゃあ、俺の彼女になってくれる?」

「は、はい」

「花火大会ももちろん一緒に行けるよね? ところで、告白したのっていつ?」

「えっと、7月に入ってすぐなので、大体2週間ほど前です」

「あぁ、だから、ちょっと様子がおかしかったんだね」

「気づいてたんですか?」

「もちろん。佳純ちゃんのこと見てたからね」

そうして、悪戯っぽく笑う先輩に聞かれて、一連の流れを説明することとなった。

図書館近くでの告白。彼女がいると振られたこと。その後の先輩の態度は何もなかったかの様に変わらず、ショックを受けたこと。ショッピングモールで彼女といるところを目撃したことを話した。

「なるほどね。もし、佳純ちゃんが俺が双子だって気付かないままだったら、振られてたのは、俺の方だったんだね……」

先輩にギュッと抱きしめられ、続いてホッとした様に呟かれた。

「危なかった……。手遅れにならなくて良かった。……でも、空我ってモテるし、学校内でも有名らしいけど、知らなかったの?」

「はい、全く。噂に疎くてすみません」

「いや、それで空我を好きになってたら、俺が困るから良かったよ。でも、間違えて空我に告白は、ちょっと悲しいけど」

「す、すみません。告白の時、ちゃんと顔見れてなくて。一瞬違和感があったんですけど、あの時はいっぱいいっぱいで……ごめんなさい」

「いいよ、許してあげる。だから、俺のことは、海里って呼んでね」

「か、海里先輩」

先輩は、よく出来ましたと、私の頭を数回撫でた。

「でも、次からは絶対に間違えないで。眼鏡以外に違うところあるから。アイツの方が少し垂れ目で、俺はピアスあけてない。ほら、ここにもわかりやすい黒子あるから」

左手でシャツの襟を掴み、首元を少しはだけさせ、右手でうなじに近い部分を指して見せてくれた。

その仕草がセクシーで、思わず赤面してしまった。私の顔を見て、先輩の口角が少し上がり、嬉しそうな表情で『帰ろっか』とさり気なく、恋人繋ぎをされた。私が狼狽えているのは構わず、図書室を出る。

これ本当に桜井先輩?
新たな一面にドキドキが止まらないよ!
うぅ……心臓持つかなぁ?
やっぱり恋って大変なのね!?
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼馴染同士が両想いらしいので応援することにしたのに、なぜか彼の様子がおかしい

今川幸乃
恋愛
カーラ、ブライアン、キャシーの三人は皆中堅貴族の生まれで、年も近い幼馴染同士。 しかしある時カーラはたまたま、ブライアンがキャシーに告白し、二人が結ばれるのを見てしまった(と勘違いした)。 そのためカーラは自分は一歩引いて二人の仲を応援しようと決意する。 が、せっかくカーラが応援しているのになぜかブライアンの様子がおかしくて…… ※短め、軽め

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 7月31日完結予定

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

処理中です...