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消えた招き猫は笑わない
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商店街の端にある古道具屋「三河屋」は、昼でも薄暗かった。
照明が暗いのではない。物が多すぎるのだ。
使われなくなった時計、欠けた茶碗、色の抜けた提灯。
それらが折り重なるように置かれ、店の奥まで影を落としている。
「招き猫が、消えたんです」
店主の女は、低い声でそう言った。
白峰探偵は、無言で店内を見回す。雨宮は、その横顔を盗み見るように観察していた。
「売れたわけじゃない、と」
「ええ。あれは……うちの“看板”みたいなものでしたから」
女が指さした先の棚には、ぽっかりと空白があった。
埃の輪郭が、そこに何かがあったことを雄弁に物語っている。
「消えたのは、いつだ?」
「三日前です。その翌日から、不運続きで」
レジが止まり、雨漏りが始まり、常連客が店先で転んだ。
どれも偶然と片づけられる出来事だが、重なれば心は削られる。
「付喪神、でしょうか」
雨宮が言うと、女は縋るような目で白峰を見た。
「さてな」
白峰は煙管に火を点け、ゆっくりと煙を吐いた。
「招き猫は福を呼ぶ。だが――
福を抱え込もうとした瞬間、福は逃げる」
女の指先が、きゅっと握りしめられる。
「……質屋に、行ったな」
一瞬の沈黙。
それだけで、答えは十分だった。
「生活が苦しくて……。少しの間だけ、と思ったんです」
嘘ではない。
だが、胸を張れる正直さでもなかった。
「悪いとは言わん」
白峰は、棚の空白に視線を戻す。
「だが、黙って連れ出したのはまずかった」
その夜、雨宮は夢を見た。
暗い店の中で、招き猫がじっとこちらを見ている。
笑っていない目で。
翌朝、三河屋の棚には、何事もなかったかのように招き猫が戻っていた。
「……戻ってきたんです」
女は震える声で言った。
「朝、開けたら、ここに」
白峰は、猫を一瞥しただけで頷いた。
「もう、どこにも出すなよ」
それだけ言って、店を出る。
商店街を歩きながら、雨宮はぽつりと呟いた。
「付喪神、怒ってたんでしょうか」
「さあな」
白峰は空を見上げる。
「だが、あれは罰じゃない。
思い出させただけだ。何を大事にしてたかをな」
招き猫は、相変わらず笑っていなかった。
だがその店は、少しだけ明るくなった気がした。
照明が暗いのではない。物が多すぎるのだ。
使われなくなった時計、欠けた茶碗、色の抜けた提灯。
それらが折り重なるように置かれ、店の奥まで影を落としている。
「招き猫が、消えたんです」
店主の女は、低い声でそう言った。
白峰探偵は、無言で店内を見回す。雨宮は、その横顔を盗み見るように観察していた。
「売れたわけじゃない、と」
「ええ。あれは……うちの“看板”みたいなものでしたから」
女が指さした先の棚には、ぽっかりと空白があった。
埃の輪郭が、そこに何かがあったことを雄弁に物語っている。
「消えたのは、いつだ?」
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どれも偶然と片づけられる出来事だが、重なれば心は削られる。
「付喪神、でしょうか」
雨宮が言うと、女は縋るような目で白峰を見た。
「さてな」
白峰は煙管に火を点け、ゆっくりと煙を吐いた。
「招き猫は福を呼ぶ。だが――
福を抱え込もうとした瞬間、福は逃げる」
女の指先が、きゅっと握りしめられる。
「……質屋に、行ったな」
一瞬の沈黙。
それだけで、答えは十分だった。
「生活が苦しくて……。少しの間だけ、と思ったんです」
嘘ではない。
だが、胸を張れる正直さでもなかった。
「悪いとは言わん」
白峰は、棚の空白に視線を戻す。
「だが、黙って連れ出したのはまずかった」
その夜、雨宮は夢を見た。
暗い店の中で、招き猫がじっとこちらを見ている。
笑っていない目で。
翌朝、三河屋の棚には、何事もなかったかのように招き猫が戻っていた。
「……戻ってきたんです」
女は震える声で言った。
「朝、開けたら、ここに」
白峰は、猫を一瞥しただけで頷いた。
「もう、どこにも出すなよ」
それだけ言って、店を出る。
商店街を歩きながら、雨宮はぽつりと呟いた。
「付喪神、怒ってたんでしょうか」
「さあな」
白峰は空を見上げる。
「だが、あれは罰じゃない。
思い出させただけだ。何を大事にしてたかをな」
招き猫は、相変わらず笑っていなかった。
だがその店は、少しだけ明るくなった気がした。
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