2 / 3
友人宅にて
しおりを挟む「よう、遅かったな。入れよ」
友人宅に着いたのは十一時半だった。商店街でおしゃべりをしすぎたのが原因だ。
「遅くなってすまん。商店街で八百屋のおっちゃんとか、魚屋のおばさんに捕まってた」
「まあそんなことだろうと思ってたよ。別に気にしてない」
俺の謝罪に対して、友人は特に気にした素振りも見せず、自室へと案内してくれた。こいつとは結構長い付き合いだ。そのため、見慣れた部屋に通されても特に何も感じない。雑な性格なのに几帳面なのは昔から変わらない。
「んで、どしたん喧嘩なんて。お前ママと仲良しだろ?」
いきなり突っ込んだ質問を投げかけてくる。今更遠慮しろとか言うつもりもないが、こういうとこは変わって欲しいと思う。
「別に、大したことじゃない。ただのすれ違いだよ。」
「そっか、まあゆっくりしていけよ。」
俺があまり話したがらないのに気がついたのか、それ以上の追求はされなかった。こういうところに気がつくのもまたタチが悪い。
「そだ、昼飯どうする? うちで食う?」
「ああ、何かあれば」
そういえばもう昼飯の時間になるのか。飯が出てくるのなら食べるのも吝かではない。いや、食べさせてくださいごめんなさい。
「たぬきしかないけど、いいか?」
「俺きつねの方が好きなんだが。」
「うちはたぬきしか食わないから、きつね派に人権ないから。」
友人の家族は全員が緑のたぬき派であるということを今日初めて知った。なかなかどうでもいい情報だが、赤いきつね派の俺としては友人が別派閥の人間だと知って驚いた。しかもきつね派には人権がないとまで言う。これはせんそうがはじまるかもしれないか。
「人権ないとか酷いな。まあたぬきも嫌いじゃないからいいんだが。」
「お? そんな態度でいいのか? たぬきあげないよ?」
「オレ、タヌキダイスキ。タヌキタベサセテクダサイ。」
「よろしい。作ってきてやろう。」
おかしな掛け合いの後、友人はそう言って部屋を出ていった。
そういえば、うちの母親は緑のたぬきが好きだった。俺が赤いきつね派ということで、何度か揉めたことがある。ホントにしょうもない。
「ほーれ、できたぞー。」
友人が二匹のたぬきをおぼんに乗せて部屋へと入ってくる。そんなに時間は経っていないはずなので、できたとは言ったがおそらくお湯を入れてきただけだ。
「お湯入れただけでまだ食えないだろ?」
「え? いや、もう食えるけど。」
友人は時計を指さす。彼が部屋を出てから四分経っていた。俺はこの四分間何もせずぼーっとしていたのか。
「あー、すまん。ぼーっとしてたわ」
「はは、まあそういうこともある。ほれ、食え食え」
その後は特に会話もなく、二人で麺をすする。たぬきだろうときつねだろうと、この無言で麺を食べる時間は心地いいと感じる。
ものの数分で平らげ、二人同時に立ち上がり、器諸々を片付けに行く。
「美味かっただろ? たぬき。」
「ああ、うまかったよ。別にたぬきが嫌いってわけじゃないしな。」
これは本当のことだ。別に俺は緑のたぬきが嫌いってわけじゃない。食事の決定権は母にあるので、緑のたぬきを食べることも少なくないからだ。
「この後どうする?」
友人の問いかけに少し悩む。元々なにか約束をしていた訳では無いので、特にやることは無い。
「とりあえずウイイレでもやろうぜ」
やることがない時はとりあえずウイイレ。それが俺たち二人で自然と決まったことだ。
実在する選手や、過去の選手を自分で操作し、ひたすらサッカーゲームをする。時間を忘れて試合をしていると、十七時を知らせるチャイムがなった。
「やべえな、五時間近くやってた。」
「このゲームが面白すぎるのが悪い。」
「言えてる。俺らのせいじゃないな。」
ずっとゲームをやっていた責任をそのゲームに擦り付け、俺たちは笑った。
「どうすんの? 今日は泊まってく?」
友人は俺に問いかけた。正直、ここで友人の家に泊まって母から逃げたいという気持ちが無いわけでもなかった。
しかし、それ以上に母と仲直りをしたいという気持ちも強くなっていた。このままではいけないと。
「いや、今日はもう帰るよ。」
「そっか、頑張れよ。」
友人の言った「頑張れよ」とは一体どういう意味だったのか。真意はわからなかったが、俺はこの言葉に背中を押されたのは確かな事だ。
「おう、がんばるわ。じゃあな。」
「じゃあな。またいつでも来い。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる