幽くんは噛み合わない

柚木

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桜と花子さん

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 私達の通う高校にはトイレの花子さんが居ます。
 以前かすかくんに写真で見せてもらったことがあります。
 モデルの様な体型の美人で、想像していた花子さんとのギャップに驚きました。

 そんなわけで私は今トイレに閉じ込められています。
 夏休みの中盤、宿題のプリントを学校に忘れた私は猛暑もうしょにも負けず学校に来たのですが、どうしてもトイレに行きたくなりトイレに入ったまではいいのです。
 用を足し出ようと思ってもドアが開きません。
 体当たりも蹴りも入れてみましたがドアが開く気配はなありません。
 外には開けられそうな方はいるのですが、頼りたくありません。

「もう気は済んだ?」

 涼し気な声の持ち主は先ほど自己紹介してくれています。
 トイレの花子さんです。

「私を閉じ込めてどうするつもりなの?」

 最初はイタズラだと思っていました。
 何せ幽霊である花子さんの声が私に聞こえるはずがありません。
 ですが、ある条件下じょうけんかなら花子さんの声が聞こえるのだと本人から聞きました。
 女子トイレの個室の中にいることが条件らしいです。

「ようやく私と話す気になったみたいね。それじゃあ私の言うことを聞いてもらいましょうか」
「嫌です」

 私はまた改めてドアを蹴ります。
 開かないことも閉じ込められている間はドアがこわれないこともわかっているのでただのらしです。

「せめて話しを聞いてくれてもよくない?」
「話くらいならね」

 イライラが止まらない私はドアを蹴り続けます。

「幽君の話なんだけどさ」
 ドンっ!

「私は彼の事が好きなのよ」
 ドンっ! ドンっ!

「それで今カノのあなたに聞きたいんだけど」
 ドンっ! ドンっ! ドンっ!

「せめてドア蹴るのやめてくれない? 壊れないけど結構ビックリするんだよ」
「ごめんなさい。夏真っ盛りに風通しの悪いトイレの個室に閉じ込められて汗だくだし気持ち悪いし臭いし聞きたくもない話を聞かされてイライラしているので」

 最後に力の限りにドアを蹴るとドアが揺れます。

「それは悪いと思っているんだけど、あなたがもっと早く聞いてくれたらすぐに終わるのよ」

 カバンの中にはプリントしかありません。
 汗を拭く物くらい持って来ればよかったと思いました。

「じゃあ、さっさと話して解放して?」
「幽君の好きな食べ物は何かしら? 彼にお弁当を作ってあげたいのよ」

 そんなこと本人に聞いてください。
 こんな狭い空間に閉じ込められた理由は好きな人の好きな食べ物でした。

「教えても作れないでしょ、ここトイレだけど」

 あるのは水と紙くらいの物です。
 知った所で作れるはずもありません。

「家庭科実習室なら作れるでしょ?」

 どうやら花子さんはトイレ以外にも移動できるみたいです。
 そう言えば私が告白した時にもいたんでした。幽霊は意外と場所にこだわりが無いのかもしれません。

「幽くんは肉が好きらしいよ。魚はあんまり好きじゃないって」
「なるほど。ハンバーグとか好きなのかな? オムライスとか食べてくれると思う? ナポリタンとかもいいかな? バナナとパイナップルならどっちがいいと思う? でも両方高いしな」

 花子さんはいつの時代に生まれているのでしょうか。そしてどれだけ聞くつもりなのでしょうか?

「今電話して確認するから」
「ありがとう。今開けるねそこだと電波無いから」

 どうやらこれで解放してくれるらしいです。電波が無いってどういう仕組みになっているのでしょうか……。
 雰囲気が変わり、スマホで連絡を取ってみます。
 どうしたんでしょう、熱くて頭がフラフラしてきます。

『桜? どうかしたの?』
「幽くん、あのね、聞きたいことがあるんだけど……」

 幽霊がいるからでしょうか、視界がグニャグニャと歪んでいます。

『桜!? どうかしたのか!? おい――』

 幽くんの、声が、遠くなって、る……急に暗く、なって……。

「目を覚ましたか?」
「幽く――」

 体を動かそうとすると貧血ひんけつの様に体から力が抜けてしまいます。
 どうやら私は保健室のベッドにいるみたいです。

「動くなよ。熱中症ねっちゅうしょうだってさ」
「そうなんだ」

 ベッドの横で座る幽くんは私の頭のタオルを付けなおしてくれます。
 ひんやりしていてとても気持ちがいいです。

「花子から全部聞いたよ。ごめんなさいって言ってたぞ」

 そう言えば私トイレにいたんでした。
 私がここにいるということは、花子さんは幽くんに好きな物を聞けていないのでしょう。
 後で教えてあげるために聞いておくことにしました。私も改めて聞いておきたいですからね。

「そうだ、さっきの電話なんだけど、幽くんが好きなのってなに?」
「桜」

 顔から火が出たかと思いました。
 完全な不意打ちです。
 私は顔を濡れたタオルで隠します。今私はきっとだらしない顔をしているでしょうし。

「えっと、好きな食べ物なんだけど」
「そうだよ。桜が作ってくれるなら何でも好きだよ」

 これ以上聞くのは諦めました。
 このまま聞いていたらきっと私はまた倒れてしまいます。

 私は今夏の太陽より熱いと思います。
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