爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。

柚木

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一章 門番との出会い

15話 決着

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「拳が最強って言ってたのは嘘じゃなかったんだ」

 焔は現の攻撃を愛刀なしで全て捌いていた。
 燃え盛る炎を従え、相手の武器を溶かし砕きながらの戦いは、普通なら十分に勝機はある。
 しかし、百目木現は普通ではなく、門番の宿敵だ。

 次々に武器が出てくるのは厄介だな、武器を破壊しても意味がない。
 槐を取りに行きたいけど、そんな余裕があるはずないしな。

「焔の戦い方もわかったから、対策するね。顕現装束 天叢雲」

「まあ、当然それだよな」

 武器が変わると、周囲には雨雲が現れ雨が降る。
 その雨は焔の炎に触れ霧に変わり、周囲を白く染める。

「すぐには死なないでね」

「それ、今回は悪手だぞ」

 焔は槐の方を向き、一歩踏み出す

「その可能性を考えてないと思った?」

 一直線に走るであろう焔を現は当然警戒していた。
 焔が一歩踏み出した段階で、槐に近寄り、向かってくる焔を一刺しするつもりだった。

「思うわけないだろ」

 そのはずなのに、焔の一歩は進むための一歩ではない。
 攻撃をするための踏み込みだった。

「鬼石流炎技 火燕竜爪かえんりゅうそう

 炎王を使っている時だけに使える一撃、雨の影響下にあり弱まっているが、触れた全てを気化させる程度の火力は残っている。

「当然生きてるよな」

「今のはビックリした」

 校舎が飴細工のように溶けている中、水で編まれた衣に覆われた現は生きていた。
 互いに無事を確認した二人は再びぶつかり合う。
 炎と水を纏い、武器も無く殴り合う。
 炎は水を、水は炎を互いに打ち消しあい、拳が足が互いの体を叩き合う。

「段々炎が弱まってきてるんじゃない?」

「そう見えるだけだ」

「そろそろ諦めたら? それで現たちの勝ちだから」

「勝てるのに、諦める必要がどこにあるんだ?」

 傍から見れば、はったりにしか聞こえない。
 炎も弱まり、動きもどこか繊細さにかけ、弱っているようにしか見えない。
 それでも、焔の目は勝利を確信していた。

「これで、終わりだね」

「ああ、終わりだ。鬼石流炎技 炎王の轟砲えんおうのごうほう

 止めを刺すために現は拳を真っすぐに突き出す。
 それを迎え撃つは、焔が今撃てる最大の攻撃。
 焔の拳からは、白く燃える炎が、現の体を飲み込みながら放出される。

 その炎の余波は、体育館跡にいる氷美湖の元まで届いた。
 氷美湖の動きを止めた糸は、その余波で燃え尽き、鬼蜘蛛の攻撃は外れた。

「まさか、こんな離れ技で糸を切るとは思わなかったかな」

「偶然よ、日頃の行いがいいからかもね」

 今の炎はお姉ちゃん? 本当に助かったわ、危なくあの蜘蛛に串刺しにされるところだった。

「あれ、虚? もしかして体育館まで飛ばされた?」

「そっちも大変みたいだけど、丁度よかった。一緒にこいつを倒してくれない?」

「そうしたいんだけど、こっちももう来てるんだ」

 現が指さした先から、赤く融解している地面の上を歩き、槐を取り返した焔が氷美湖達と合流する。

「お姉ちゃん、相談なんだけど、虚の相手してくれない?」

「奇遇だな。あたしも同じことを言おうとした」

 短く言葉を交わし、焔はわざと現を指名する。

「全員ここに集まったんだ、決着をつけよう」

 向かい合う四人は一斉に動き出し、今まで戦っていた相手とぶつかる直前、焔と氷美湖は立ち位置を入れ替わる。
 突然の行動に現は対応するが、虚の反応はわずかに遅れた。

「鬼石流居合術 地裂き・炎月」

 焔は先手必勝の一太刀を虚ではなく、鬼蜘蛛に放つ。
 融解と切断を同時に放つ一撃は、硬い甲殻を持つはずの鬼蜘蛛の体を一刀両断した。

 なんで、鬼蜘蛛から? ガードしていたと言っても、私の腕を切り落とすくらいはできたはずなのに?

 想定外の連続に、虚の思考は更に遅れた。

「鬼石流居合術――」

 連続技? 拙い、逃げないと切られる!

「――裂空・波紋れっくう・はもん

 焔の放つ二度目の斬撃は虚の肌をわずかに切る程度に終わった。

「今ので仕留められないとか、あんたは未熟な様ね」

 技が外れたことで虚にわずかだが、落ち着く時間が取れた。
 こいつは会長とは違う、現と同じ直情タイプだ。
 挑発しながら距離を取れば、挑発には乗る。
 それがわかれば、会長よりも容易い。

「無駄話している時間はないぞ」

「えっ……」

 いつの間にか目の前にいた焔は鞘に収まった刀に手を当てていた。

 この距離は避けられない。

 そう思った時には何もかもが遅かった。
 キンと鍔鳴りが虚の耳に届いた時には、虚の右腕は地面に落ちていた。
 切り口からはカルマと同じ黒い霧が溢れ出す。
 もう虚が気づいたそれは、抜刀の構えではなく、抜刀を終え納刀の残身だった。

「お前の負けだ」

 突然腕が無くなりバランスを崩し転倒する虚に、焔は刀を向ける。

「あんたみたいな馬鹿に私が負けるわけない! あんたみたいな馬鹿は私の予定通りに動いてればいいの! 死ね! 今すぐに死んでしまえ!」

 もはや挑発にすらならない低レベルの暴言に、焔は憐れみさえ覚えた。

「知将ぶりたいなら、こんな時こそ冷静になれよ」

 悪態を吐き続ける虚の体は二つに割れ、大量の黒い霧が溢れ、そのまま霧散した。

「氷美湖なら、命の火が消えたとしてもそんな言葉は使わない」

 焔と虚の勝負が決しても、氷美湖と現の戦いは終わっていない。
 氷美湖の武器、細雪で攻め立てるが、現の身体能力の前に決め手に欠けているように見えた。

「焔の方が会長よりも強いんだ、武器を持ってるのに現に攻撃が当たってない」

「その通り、お姉ちゃんの方が強いわ。でも、あなたよりは強いわよ」

 そう断言した通り、氷美湖の攻撃が現の頬を掠める。

「もう十分よ。このまま一気に決めさせてもらうわ。鬼石流氷術 氷帝ひょうてい

 氷美湖を中心に、気温が急激に下がる。
 空気中の水分を凍らせるほどの冷気を纏い、再び薙刀を構えた。

「寒くして動きを鈍らせるとかじゃないよね?」

「もちろん。鬼石流氷術 氷雨ひさめ

 薙刀を振ると、纏う冷気によって作られた氷の礫が飛ぶ。

 それなりの威力だけど、この程度じゃ現には届かないかな。

 軽々と氷の礫を弾くと、目の前に刃先が迫っていた。
 反射で避けるが、まるで自分の動きを追尾するように動く刃に、目を剥いて驚く。
 今はまだ、薄皮一枚掠る程度だが着実に刃は現を捕らえ始めていた。

 現の動きが読まれてる? それなら、逃げてても駄目だ。
 一気に距離を詰めて、主導権を奪わないと。

 そんな当然の焦りも、ここ数分の戦いで氷美湖は予測していた。
 一歩踏み出し膝が伸びる所に柄をぶつける。
 三毒ならではの頑丈さで、折れることはなかったが、動きはそこでピタリと止まった。
 そのまま薙刀の柄は現の体をひっかけ百八十度回転し、ひっくり返した。

「鬼石流薙刀術 逆さ雪さかさゆき

 何が起ったかわかっていない現も、何かをされたことは理解できた。
 返す刃先が現の首を落とされ、現は未来永劫何をされたのかを理解することはできない。

「あなたみたいなタイプは、中途半端に考えるよりも、お姉ちゃんみたいに攻め続けないとね。もう聞こえてないでしょうけど」

 首が切り離された現の死体は黒い霧になり空気に溶けていった。
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