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泉の国 フリュー その三
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「俺達の勝ちだな」
森に突っ込んだ二人は一本の木にぶつかりひっくり返っていた。
「うるさい。今回は俺達の負けだが、次は負けない」
フィルムの顔に座るように気を失っているイーシャさんを起こす。
「さっきの魔法は流石に危なかったぞ」
イーシャさんを一緒に探しに来ていたルリーラに渡し、上下逆さまにひっくり返っているフィルムを見下ろす。
「まさか、あの魔法を使って負けるとは思わなかったよ」
足は天を向き頭は地面に向く。正に敗者と言った状態でフィルムがニヒルに笑う。
「それからあの最後の加速は流石だったな。危なく負ける所だったよ」
ひっくり返っているフィルムに手を差し伸べることなく俺はさっきの戦いを褒め称える。
「だが、それもお前の作戦だったんだから俺の負けだ」
天を向く足には木の蔦が絡まりわずかに浮いているフィルムの頭は、地面に辛うじてついていない。
「それとあの火球は凄かったな」
「って助けろよ! 俺待ってただろ、イーシャを助けたみたいに助けろよ!」
「結構お前が乗ってくれるから、どこまで行くかと期待していたんだ」
どうやったらそんなにきれいに絡まるのか、フィルムの足に巻き付いた蔦はなぜか腕まで綺麗に巻き込み罪人が吊るされている様に見えなくもない。
上から落下した際に手足が軽く絡まっている。
そして捕縛の最後の締めをフィルム自身の体重が行っているらしく、両手両足は綺麗に縛られ見本の様な逆さづりの格好になっている。
運が良いのか悪いのか辛うじて地面についていないために落下でのダメージもなさそうだ。
「この光景をどうにか記録できないだろうか」
「いいから助けろよ、段々と手足が冷えてきてるんだよ。頭だって血が上ってるんだぞ」
「逆さまで血が上るのはおかしいんじゃないか?」
「んなことどうでもいいだろ! 人間の上は頭なんだから血が上るで合ってるだろ!」
こいつ意外と余裕があるんじゃないだろうか。
「それはそうと自分の魔法で焼ききれるだろ」
「……」
冷静にさっきのは突っ込めたのに、これには気づかなかったらしい。
俺に指摘され炎を出し、蔦を焼き切ると体が地面に落ちる。
そして何事もなかったように立ち上がる。
「今回は俺の負けだ」
そして急に血液が循環を始めたためか、恥ずかしさのせいなのかフィルムは顔を真っ赤にし捨て台詞を吐いてみんなの元に戻って行った。
大して破損がなさそうな船を持ち俺もみんなの元に向かった。
流石にこれ以上は可哀想なので今の事は俺の胸の中にしまってあげることにした。
対決を終えた俺達は泉の国で今夜使う食材の買い出しに来ている。
泉の国は街自体には大して目を見張る部分はない。
至って普通の街並みだ。レンガ造りの家に石細工の床、先の魔獣が無ければ災害もない平和な街だ。
他よりも珍しいことがあるとすれば国中の至る所に点在する泉や湖があること。それに付随する形で発展しているのが案内所。
オールスでもあったように規模などを考え観光客に案内をする施設が何か所かある。
そんな風に発展した経緯から泉の国と呼ばれている。
「――とまあそんな国だぞ」
「へえ」
街を歩いている間に、ルリーラが泉の国がなんでそう呼ばれているかを聞いたため答えたのだが適当に流されてしまう。
「クォルテさん。この国には最初から泉があったんですか?」
「なかったらしいぞ。最初から何個かはあっただろうけど、今ある湖の大半は昔あった戦の爪痕だ」
「戦なんかあったのか? 僕の記憶だとここニ三百年はこれほどの跡が残る戦はなかったはずだが」
国の成り立ちに興味はないサラが話に入ってきた。
「そんな近代の話じゃないからな。おとぎ話ほど昔だ。神同士が戦をしていた時代だな」
今でこそどの属性の魔法使いはどの属性の国でも入れるが、その戦の時代は自分の属性の国にしか入れなかった。
別の属性とバレれば即処刑。そんな時代が太古の昔にあった。
「確かにその時代ならこの規模の穴位は開くだろうな」
その歴史を知っているサラはそれで納得する。
「神様ってやっぱり凄いね。私にはこんな穴無理だよ」
いつも戦いの度に地面に穴を開けているルリーラが感心する。
「でもこの湖は神の仕業じゃないぞ。龍だ」
俺のその言葉に全員が俺を向く。
サラもミールもその話は知らなかったらしく首をかしげている。
「龍ってクォルテが使ってるあれ?」
「まあ、あれもそうらしいが正確には知らない。見たこともないしな今現存しているのかも怪しい」
水の神辺りは知っているかもしれないが、おそらくはぐらかされるだろう。
それに調べても歴史にたまに登場するだけで、どこにも記録は残っていない。
だから俺はもう絶滅した種族だと思っている。
「ってことはその龍がここにこんなに湖を作ったの?」
「そうなるな。そうなるともう一個珍しい点はそこだな。この国は世界中を見ても稀な龍の神を信仰している国でもある」
強い存在が出てきたことによってルリーラもこの国に興味をもち始めたらしい。
「そうなんですね。泉の国ってことは水の神を信仰していると思ってました」
「水の神も信仰してるぞ。というより今はほとんどが水の神を信仰している。それでも昔からこの国に住んでいる人達にとっては重要な存在ってわけだ」
「旦那様は何でも知っているのだな」
「こういう旅に出ているんだ、色々調べるさ」
今でも移動中にはたまに書物を読んだりしている。観光案内の本に歴史や地理、その合間に魔法の研究もしている。
「私もクォルテさんに本をお借りしていますが今の話はありましたか?」
「無いな。これはロックスの家にあったもので読んだ。龍ってカッコいいからつい読みふけって覚えたんだ」
俺がそう言うとフィルがにやにやとしている。
「ご主人にもそういう時期があったんだ、男の子って感じだね」
「悪いかよ。子供の時の話だ」
「もしかして、ご主人が水の龍をよく使うのってさ」
「強いからだ。俺の魔法の中では強いから切り札に使うようになったの」
それも本当だ。だが今でもカッコいいと思っているし、そう思って練習を続けた結果強くなった。
未だにからかいたそうに、にやにやとしているフィルにこれを教えるのは嫌なので、俺は誤魔化す様に話を変える。
「それよりも食材だろ。アルシェ、今日は何を作るんだ?」
「そうですね、せっかくなので魚料理にしようかと思います」
「お肉がいい」
アルシェがそう言いルリーラが乗ってくると話は夕食の献立に移る。
それを見ていたフィルは、上手に逃げたね。と全てをわかったようにしながら話の輪に入っていく。
やっぱりこういうことに関してはフィルの方が圧倒的に上手だ。
俺達はそのまま近くの食品店で魚料理に必要な物を買いそろえ、
今日泊る宿に戻ることにした。
†
「なんで男と一緒に寝ないといけないんだよ」
「仕方ないだろ。俺が一人だと誰かしらが布団に潜り込んでくるんだよ」
俺は今夕食後にカルラギークで取っていた湖畔の側にあるロッジにフィルムと二人で居た。
全部で三棟ほど借りられており俺とフィルムの男二人でで一つ、ルリーラ達七人で一つ、イーシャ達三人で一つを使うことになっている。
カルラギーク軍全員が止まる予定だっただけあり、少数では部屋が余り過ぎるが変に喧嘩をされないようにするためこの部屋割になった。
ちなみにちゃんと一人一台ベッドはある。
「お前はそんな羨ましい状態になっているのか?」
フィルムは突然殺気立つ。
同じ苦労をしているのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
不味いこと言ったなと思ったが後の祭りだ。
「言え。全てだ。アルシェちゃんやフィルさんの大人ボディ、ルリーラちゃんやミールちゃんの未成熟ボディ、サレッドクインの健康ボディ、オレイカちゃんのギャップボディの全てを余すことなく俺に伝えろ。それが羨ましくも妬ましいお前がするべきこと全てだと理解しろ」
変態だな。
血走った目に荒い鼻息、前かがみの姿勢。まごうこと無き変態が今目の前にいる。
「イーシャさんに今のをそのまま伝えるぞ」
「なっ……、そ、それは、は、反則だろ、クォルテ・ロックス」
変態が一瞬で変質者に変化した。
泳ぐ目に、挙動不審な動き、どうしたらいいかわからずに空中に固定された手。
まあ、これなら確かにあの三人が来づらいのは仕方ないか。完全な抜け駆けになってしまうのだろう。
もしかしたら三人がけん制し合っているのかもしれない。
「俺はそろそろ寝るぞ」
「なんだ、もう寝るのか? 待てよ早く寝た方が恥ずかしがっているイーシャ達も俺を求めに来てくれるのか? そうか早く寝れば一晩は長いのか」
急に真面目な顔をしたが言っていることが最悪だった。
そんなフィルムを置いて俺は近くにあるベッドに寝転がる。
流石は国軍が止まる予定の部屋だ。変にかび臭くもないしバネが効いているらしく寝心地もいい。その辺の宿よりもランクは上ってことか。
「明日からお前達はどうするんだ?」
フィルムは妄想をやめたらしく、自分のベッドに座りこちらに話しかけてくる。
「明日は山を登る。龍の神を祭る場所があるらしいからな」
「勉強熱心だな。俺達とは違うのな」
「当たり前だろ。こっちは色々なものを見るたびに旅をしてるんだからな」
フィルムはなぜか感心したようにこっちの話を聞いている。
そう言えばこいつは自分のハーレムを作るために旅をしてるんだっけか。そのために世界を旅している。
「どこか良い所を知らないか?」
「俺が調べた限りではアリルド以外はないな」
他にいい場所があるならアリルドではなくそっちに向かっていた。
「そうなると、やっぱりお前を倒すしか道はないよな」
「それならウォルクスハルク様に相談してみたらどうだ? お前の神様だ」
「そうするか」
フィルム達の行先は火の国に決まったらしい。
それから俺は本を読み、フィルムは何かを考えており部屋には無音が響く。
やがてそろそろ寝るかと思った矢先、窓の外に一瞬何かが上から下に落下してきた。
ドンっと大きな音が響きロッジを大きく揺らす。
「なんだ今の!?」
フィルムは眠りに落ちかけていたところを起こされ反射的に起き上がり、音の正体を確かめるために窓際に走る。
俺は今一瞬だけ見えた何かを確かめるために武器を持つ。
あれは間違いなく人だった。
あんな着地の方法をするのは恐らくベルタだ。そして一番可能性があるのはパルプ。もちろんパルプがいるならクロアも当然いるだろう。
「人だぞ?」
「フィルムはルリーラ達とイーシャさんを呼んできてくれ。俺はこのまま確認に行ってくる」
そう言いロッジを飛び出す。
人らしい気配はあそこか。
何者かは未だに土埃に身を隠しているらしい。
「誰だ? こんな夜更けに何のようだ?」
盾と短槍を構える。
予想通りにパルプならこれで多少は対抗できる。クロアが居てもみんなが来る時間稼ぎくらいはできるはずだ。
「あの、道を聞きたいんですけど」
その声は少女のように聞こえた。どこか幼さの残る声音に俺は武器を下ろす。
やがて土埃が晴れるとそこに居たのは怪しい外套を着る誰かだった。
「その前に名前を教えてくれるか? 後はその服を脱いで」
武器は下ろしたが武装は外さない。クロア達なら声を変えるくらいの事はするだろう。
「そうですよね。でも、この下裸なんですけど脱がないといけないですか?」
幼い声は羞恥に震え始める。
なんか違うっぽいな。
油断はできないけど雰囲気が違う。血の匂いもしない。本当にただの迷子? いや、迷子はあんな登場しないよな。土埃を巻き上げるほどの落下を見せる迷子は普通じゃない。
「クォルテ、その子の服を脱がすの?」
「クォルテさん……」
「えー……」
最悪のタイミングから聞いていたらしい仲間達から軽蔑の言葉が飛んでくる。正確には嫉妬の言葉なのかもしれないが。
「悪い、全部じゃなくて顔だけでいいよ。ちょっと神経質になりすぎていたらしい」
「わかりました」
そう言って少女はフードを外す。
まず目に着いたのが木のように枝分かれした角が二本、黒い髪から伸びている。そして普段日に当たらないのか肌は真っ白で炎の様な真っ赤な目は怯えている。
「もう、いいでしょうか?」
「ああ、ありがとう」
身長から見るとアルシェと同じほどの年だろうか。だがこの雰囲気はルリーラと同じ年齢に見えなくもない。
そんな彼女は俺が返事をするとフードを再び被った。
「それで、私、その迷子で、道を教えていただけますか?」
幼く感じる正体はこれか。人に慣れていないような話し方のせいだ。
キュッと俯いてどこか落ち着かない姿が子供の様に感じるんだ。
「どこに行くんだ?」
武器をしまいながら話を聞くことにした。
「龍の神を祭るところへ」
「それって急ぎか?」
「いえ、別にそう言うわけじゃないです」
「じゃあ明日連れて行ってやるよ」
こうまでおどおどされると真偽のほどはわからないが、本当に急いでいるわけではなさそうだ。
それならわざわざ口頭伝える必要もない。一緒に行けばいいだろう。
「えっ、あっ、よろしくお願いします」
ぺこりと少女は頭を下げた。
「ご主人、また女の子を拾っていくの?」
「明日行くって言ったよな? 一緒に行くのは問題あるのか?」
俺が女性に優しくするとなぜかそう言う反応になるのが困る。
正直拾って旅をしているつもりはない。拾ったと自覚しているのはルリーラとアルシェくらいだ。他のは全部押し付けられたが正しい。
「フィルの言う通りだと思うよ、どうせ仲間にするつもりでしょ?」
「クォルテさんは私達を争わせたいんですか? これ以上のライバルは」
フィルを皮切りに全員が詰め寄ってくる。
その様子に少女は俺から距離を取った。そんな気がする。
「そうだ、お前の名前は?」
ナンパだなんだと後ろで言われるが構わずに俺は聞いた。
名前も知らないのはやっぱりよくない。
「私の名前は。グミ・カートリッジです」
†
「俺達は明日、龍の神の社に向かうつもりなんだがグミはどうする?」
グミは気づいているのかいないのかわからないが、うつむいたまま自分の外套を握り締める。
信用できないって感じか。別に無理に引き留めようとってわけでもないし、案内が口頭で十分だろう。
「あの、――えっ?」
何かを決めたらしいグミは顔を上げ、何かを口にしようとした瞬間動きが止まる。
「銀狼?」
そう言葉を零す。
視線の先にはオレイカが居た。
頭にある白髪に銀色の耳。グミは確かにそれを見つめていた。
「その耳は、銀狼ですね!?」
一気にオレイカの前に跳び出したグミはオレイカの手を乱暴に掴み、そして落胆する。
「耳が、もう一つ……」
「うん、当然でしょ? 人間なんだから」
「そ、うですよね……」
さっきのテンションが嘘のようにグミはまた下を向く。
「私のこの耳は狼の耳を見て作ったんだけど、グミちゃんのその角は何の動物なの?」
「私のは、その、えっと……」
オレイカが間を持たせるための質問にグミはしどろもどろになりなってしまう。
その間に変だと俺は感じた。普通なら即答できるはずの事が答えをなんで悩むんだ?
「鹿です」
「鹿なんだ。凄いね」
何とか動物を告げたグミにオレイカがそう言うと、ルリーラやアルシェがグミに群がる。
「何ですか? これ何ですか!?」
「その角触ってもいい?」
「その下裸なら何か着た方がいいですよ」
慌てふためくグミを余所にオレイカは俺の元に来る。
「王様ちょっといい?」
そう言ってオレイカは顔を近づける。
全体的に少し大き目でゆったりとした服を着ているため肩は大きく露出しており、胸の谷間がしっかりと確認できてしまう。
だがオレイカの言葉に意識が切り替わる。
「あの娘嘘ついてる」
「あの角だな、何か変なんだろ?」
鹿の角と言っているのは確かにおかしいと俺も思っている。何がおかしいかはわからないが、技術者のオレイカにとってはその何かはすぐにわかったのだろう。
「うん。まずこの耳と尻尾は私にしか作れてない。それに黒髪なのにあの角に宿っている魔力量は異常」
そう言えばオレイカだけが耳を作っていたんだっけか。神々をもして魔力の保管庫として作ったオレイカだけのオリジナル。
だがそのオリジナルが本当にオレイカだけにしか作れないのかは俺にはわからない。
「あれは私にしか作れない。精霊結晶の加工、整形はできる人はいるけど、魔力の保持や固定、自己の魔力回復を計算しての魔力の吸い上げの自動化は私の専売。ガリクラ様がそう言ってた」
地の神のお墨付きってことか。自負心ではなく神が絡んだ事実。それなら確かにオリジナルと言えるだろう。
「魔力量ってのは? 誰かから魔力を注いでもらったんじゃないのか?」
精霊結晶に魔力を込めるのは俺もルリーラにたまにやっている。それがおかしいとはどういうことなのか。
「武器とは違うんだよ。この耳と尻尾は私の体に直接埋め込まれてる。白髪とかなら魔力の扱いには慣れてるから他人の魔力でも平気だけど」
「黒髪があの魔力量を操れるのはおかしいってことか」
オレイカは頷く。
確かに言われればよくわかる。
グミの角には白髪のオレイカと同じくらいの魔力がある。それを見事に制御しているのは確かに異常と言える。
その異常にクロアの影が浮かぶが、その可能性は低いだろう。
魔法を自在に操る黒髪なんて脅威以外の何物でもない。それを先の戦いで使わなかったのはあいつにしてはおかしい。
「だからあの娘は何かを隠してるよ」
「なるほどな。でも、なんでかあいつからは敵意とかそう言うのを一切感じないんだよな」
怪しいし何かを隠しているのはわかるのに、こちらに害をなそうとは微塵も考えていないように見える。
「私もそう思うけど、気をつけないとね。王様って可愛い娘に弱いでしょ?」
「全員その認識なんだな」
男として否定はできないが、そういう基準で優しくしているつもりはない。
とりあえず今の会話で考えはまとまった。グミが一緒に行くと言ったらちゃんと案内してやろう。
「グミ、どうするか決めたか?」
「えっ? はい、お願いします」
「じゃあ、お前達の部屋に寝かしてやれ。俺はもう寝るぞ」
方針も決まり俺達はそれぞれの部屋に戻り就寝した。
翌朝、朝食を食べるためにみんなが集合している場でフィルムは開口一番こう言った。
「なんか可愛い子が一人増えてるぞ」
「グミって言うんだ。今日はこれから一緒に龍の神を祭る社に向かう」
「やっぱり行けばよかった」
「お前は結局なんで来なかったんだ?」
ルリーラ達は早々に来たのにフィルム達は一度も顔を出さなかった。
昨日は特に気にしていなかったが、来ないことに違和感はあった。
「いや、そのさ、あはは」
困ったように見せながらも頬は緩み切っている。そんな情けない表情でフィルムは誤魔化そうとしているが、まるで誤魔化せていない。
昨日イーシャさん達と何か嬉しいことがあったのだろう。
「昨日はハーレムでした」
親指を俺に向け太陽よりも眩しい笑顔を俺に向ける。
「寝てるイーシャ達が積極的でな。それはもう最高だったぞ」
「それはよかったな」
昨日は帰ってきてないみたいだし、そんな展開があったなら確かに来れないだろう。
「嘘ですので信用しないでください」
配膳をするイーシャさんが食器を乱暴に置きフィルムの言葉を否定した。
その言葉にフィルムの視線が泳ぐ。
なんだ嘘か。
「全部じゃないぞ、皆に抱かれて一晩中イーシャとリースに挟まれていたんだ」
「ええそうですね。急ごうとして倒れ後頭部を打って血を流すフィルムをヴェルスが抱きしめましたし、その血を止めるために私も抱きかかえました。それでも行こうとするフィルムをリースが抑えながら安静に眠らせました」
よくそれでさっきの顔ができるな。それほどまでに今まで接触が無かったのだろうか。
俺はフィルムが可哀想に思えてきた。
「その目をやめろ、クォルテ・ロックス!」
「強く生きろよ」
「やめろよ。そんな優しい目を向けるな」
たったそれだけで看護してくれるなんて言い仲間じゃないか。
俺は素直にそう思った。
朝食を終え、俺達は行く準備をしていた。
もうしばらくここに居るので、大きい物はなく弁当と護身用の道具をいくつか持つだけなのですぐに終わった。
「フィルム達は一緒に来ないのか?」
「これからの事を少し話すから行かない。それにお前と一緒に行っても碌なことにならないだろ」
「そうか。じゃあな」
人数は多い方が楽しいかと思ったが、あっちにはあっちの事情があるらしく断られてしまった。
俺が外に出るとまだ誰もいなかったため、俺はルリーラ達が泊まるロッジに向かう。
「俺だ。入るぞ」
「いいよ」
ノックをし声をかけるとルリーラがすぐに返事をしたためドアノブに手をかけドアを押す。
「ダメだよ、ルリーラちゃん」
そのアルシェの言葉に誰かが着替え中かと気づいたが、しかしドアは何の抵抗もなく開く。
ロッジのリビングには全員が居た。
お出かけ用のお洒落な服を着たルリーラ達の中でただ一人だけ異様に肌色の面積が広い。
黒い髪に染み一つない白い肌。その頂点には枝分かれした二本の角。
グミは全裸でルリーラ達に囲まれている。
その周りに散乱する服は恐らく彼女に着せたもの。アルシェとミールが次に着せるらしい服をしっかりと握っている。
「あっ……」
俺の姿を確認したグミは顔を羞恥の色に染める。
「やっぱりだめ!」
「いやああぁぁああ!」
ルリーラが俺を追い出すための突進をすると同時に湖畔に響き渡る絶叫がこだました。
†
「ごめんなさい。いつもの癖でつい、いいよって」
皆の準備が終わり龍の神を祭る社がある街外れの山に向かいながら、ルリーラはさっきの出来事の謝罪をした。
それはもちろん俺を盛大に突き飛ばしたことではない。
グミの裸体を俺に見せたことに対する謝罪で、ルリーラは必死にグミに何度も頭を下げている。
「ですから大丈夫です。ビックリしましたけど別にわざとじゃなさそうですので……」
謝られているグミ自身はそのしつこい謝罪をとっくに受け入れており、今はただ迷惑そうに外套のフードを深く被っている。
グミは昨日来た時と同じ外套を着ているが、もちろんその下にも服は着ている。
今日は日差しが強いおかげで外套はいらないほどに暖かいのだが、頑なに外套を脱ごうとはしない。
「オレイカ、グミの外套の下に何か変な物はあったか?」
「王様も見た通り何もないよ。黒い髪に二本の角、それと純白の綺麗な肌。変なところは何もなし」
グミは怪しいと言っていたオレイカはそう断言する。
出会ったことのない神かクロアの刺客かと考えているが、どちらにしてもしっくりとこない。
「本当に本物なのかもな。動物の体を自分に埋め込むとか、そういう風習みたいなのもどこかにあるんじゃないか?」
「それは私もしらないけど。私に言えるのは体に異常は無いってことだけだよ。あのパルプって子とは違う」
そうなるとどんどん謎は深まっていく。
敵意は無い。でも不思議な存在。
「でも、あれが埋め込まれた何かだったりしたらさ、それって――」
「可能性はあるけどな。どこの研究所でもそれは行われているだろうしな」
オレイカは俺が言葉を遮った意味を悟り、ルリーラに視線を向ける。
「王様はどうするの保護するの? それとも放っておくの?」
「……」
言葉に詰まる。
それ。つまりは人体実験。
欲に駆られた人間が分を弁えずに行う最悪の実験。
そうだとすれば異様なほどに怯えた姿にも納得はいく。凄惨な現場、自分の体を弄る研究員の姿が浮かび人を直視できない。それは旅の初めにルリーラを見ていてわかってはいた。
でも、グミのはそうじゃない気がする。
おどおどとしている姿はルリーラの時とは違って見える。
ルリーラは人間を恐れていたが、グミの場合は自分を見られることに怯えている様に見えている。
「やっぱり様子見だな。そうだとは思えないんだよな」
そうなら良いけど。とオレイカとの話を終えた。
「クォルテこの道ってどっち、右?」
ルリーラが大声で俺を呼んだ。
二つの山へ続く分かれ道。この辺りの地理を思い出しながら右が続く道はただのハイキングコースだと思い出す。
「左です」
俺が左を選ぶ前にグミが先に口にした。
目的の場所を知っているのか? それなのに俺達に案内させようとしている? 何のために?
「グミの言う通り左だ。まるで道を知っているみたいだな」
踏み込んだ質問だと思うが、こいつが何かをしようとしてもこのメンバーなら負ける気はしない。
後ろの仲間達は俺の異変を察知したのか戦闘の準備をしている。
「道はわかりません。ですが、こっちの山だということはわかります。ほら、書いてますよアルトメルトスの社って」
「ルリーラ、ちゃんと書いてるんだからちゃんと読めよ」
俺の言葉に全員の臨戦態勢が解除された。
違和感は拭えないが、普通。怪しいのに、敵意はない。雲を掴むような捉えどころのないグミへの判断が俺にはつきそうもない。
「龍の神はアルトメルトスと言うんですね、初めて知りました。どの本にも名前までは記述されてませんよね?」
「そうだな、基本は龍の神、その他だと蛇の神、悪神、災害の神なんて揶揄されたりしている。それくらいに暴れていた神だ。名前なんてそうそう書かれはしない。それでも龍の神が好きなら知っていてもおかしくはない」
おとぎ話の魔王の様に悪の名前が出てくることは少ないが、もちろん史実として名前は出てくる。
だから崇拝しているなら知っていてもおかしいことはない。
そう言ってミールの疑問を払拭してやる。
失敗したな、今のはもう少し優しく聞くんだった。と俺は反省する。
オレイカ以外にも俺がグミを怪しんでいるのが伝わってしまった。先手のつもりが悪手だった。
「あの、ロックスさん。もうここまでで平気です。このまま道なりですよね。後は大丈夫ですので、私の事は気になさらないでください」
今ので自分が嫌われていると思ったのか、グミは俺の元に来てそう言った。
その姿はどこか寂し気で邪気が無いように感じられた。
「俺達も目的地は同じだ。旅は道連れだ一緒に行こう。変な態度取って悪かったな」
疑うのはやめよう。
確かに怪しいが俺達に危害を加えるつもりはないと、寂し気で怯えたような表情から伝わってきた。
俺はグミの肩に軽く触れ先に左の道を進む。
「ほら行こうよ」
ルリーラがグミの手を握り後をついてくると、他の皆も後をついてくる。
「この先に開けた場所があるはずだから、そこで弁当でも食べよう」
左の道は龍の神が祭られているとは思えないほどに心地いい場所だった。
しっかりと整備された道。その道から外れないように設置されている木で作られた手すりが並ぶ。
道を挟む森もはみ出さないようにしっかりと剪定されており、この道がとても大事にされているのがわかる。
「裏の三柱を祭っているとは思えない道だな。なんというか表の四柱を祭っている様に思える」
「それは大多数の意見です。見方が変われば移り方も変化しますから。ここで行われた他国の戦。この国にとっては関係なくただの迷惑だった戦を止めたのは、圧倒的な力で他国を殲滅した龍の神です。龍の神が持つ強大な力は地面に無数の穴を作り、雨水や湧き水が溜まり大きな泉が生まれこの国は泉の国として栄えました。そうなると戦を止めない表の神と戦を止めた裏の神どっちが善良な神かわかりますよね」
グミの説明にサラは閉口する。
やっぱりグミは龍の神について詳しく知っている。そして俺よりも詳しい。
この国に穴を開けたのは複数の龍である。それがどの文献にも載っている伝説。だがそれをグミは龍の神がと一柱でやったと断言した。
それはつまりグミは文献では何かで龍の神の伝説を知っているということ。
「グミはその話をどこで聞いたんだ? 俺の知っている話とは少し違うらしいが」
「おじいちゃんに聞きました」
やってしまったと顔を伏せながらグミは答える。
やっぱり何かを知っているのだろう。それでも俺達に危険が無ければいいが、個人的にその紙に書かれた伝説よりも人から人への口伝が気になる。
紙はどうしても大多数に向けて書かれている。そのせいで求められている場所に向けて歪曲されてしまう。それが悪いとは言わないが、口伝は完全なその人物の主観だけで繋がれていく。
だからこそ両方知りたいと俺は思ってしまった。
「グミの知っている龍の神について教えてくれないか? 弁当を食べている時だけでいいからさ」
俺がそう言うと、グミは少しだけ顔を上げる。
炎の様な赤い瞳が俺を見つめる。
†
「えっと、何をお話すればいいのでしょうか? おじいちゃんから聞いた話しか私にはお話しできませんけど」
綺麗に整備され、芝生が敷き詰められている広間で弁当を広げる俺達だが、話の中心はグミだった。
俺とミール、サラとアルシェしか興味はないらしく他の連中は黙々と弁当を摘まんでいる。
「それでいいよ。親から子に伝えられた話は、客観的に調べられた話よりもためになる場合がある。だからこそ聞かせてもらいたい」
「わかりました。それでは最初から語ります。裏の三柱の事、過去の戦の事、龍の神の事を」
そう言ってグミはフードを深く被る。
語り部に姿は必要ないというように自分の顔を隠した。
「昔々、火、水、地、風の四柱の神々は争っていました。自分が一番強い、いや自分が一番だ。そんなどうしようもない子供の様な理由から諍いは起こりました。その諍いは、争いになり戦になり戦争になりました。四柱はやがて自分達の争いに眷属も巻き込み始めました。その戦火は世界中に広がります」
過去にあった戦の始まり。それはあまり知られていない。大抵の書物には「理由が不明」そう書かれているはずだ。
それなのにグミの語りには始まりがある。人間と同じような自分の方が優れている。それを証明するための戦だと彼女は語る。つまりそれは神々がその理由を隠しているということになる。
その言葉に他の三人もこちらを見る。
俺が頷くと三人も続くグミの話に耳を傾ける。
「それを我関せずと傍観していたのが闇、光、龍の三柱。戦火の広がる世界を眺めやがて闇の神は、いいことを思いついた。と立ち上がります。奴らを倒し自分が一番の神になろう。そう思い立った闇の神は戦に関わっていない光の神、龍の神に話をしに行きます。『お二方、世界を滅茶苦茶にしているわからず屋を止めるために手を貸していただけないか?』その言葉に光の神は頷きます。『わかった。世界を守るために戦おう』しかし龍の神は『俺は自分の好きな場所を守れればそれでいい』そう言ってフリューへ飛びます」
唐突にフリューの名前が出てきた。
闇の神の名前を聞きつけ、他の四人も話の輪に入ってくる。
ただのお勉強に、決して無関係ではない名前が聞こえてきて聞かなければいけないと思ったのだろう。
「フリューは龍の神が一番気に入っていた場所でもあります。小高い山の頂上で羽を休め、そこから見える自然や人の営みを眺めながら眠るのが一番の幸せだったのです。そして闇の神と光の神が戦に加わったある日、いつも通りにフリューで眠っていた龍の神は爆音に目を覚まします。そこから見えたのは燃え盛る炎でした。戦はフリューも巻き込んでいました。草原が山が村が人が戦火に燃え、濁流に流され、地割れに呑まれ、風に裂かれる。その光景に龍の神は怒りました。大きな声で叫び二対ある翼を広げ空へ飛び、無駄に争う神々とその眷属への怒りに我を忘れ暴れます。火を噴き、風を起こし、地を割る。我に返った時には目の前は地獄の様だったのです。大地には無数の穴、吹く風は火を纏い、大地から溢れる水は血と死体に溢れていました」
それが泉の国の始まりだったのか。
その話に俺の膝に座っていたルリーラは俺の手を握り締める。
「その悲惨な現状に龍の神は思います。「この戦を止めるために闇の神に協力しよう」そう決断した龍の神は羽ばたきでフリューの火を止め、闇の神の元に向かいました。そして闇、光、龍の神々は四柱の戦を止めるために戦いました。やがて火の神が命を落とし、水、地、風の神々は手を取り合い、闇の神率いる三柱と戦います。両者の力は拮抗していましたが、水の神が自分の命と引き換えに闇の神と光の神を封印し形勢は逆転してしまい、地の神と風の神は龍の神を封印し、今までの戦の責任を封印された三柱に被せ残虐な裏の三柱と呼ぶことに決めましたとさ」
喋りすぎたのかグミはコップの水を一気に飲み干す。
「これがおじいちゃんから聞いたお話です。おそらく皆さんが知っている話とは違ってますよね」
グミそう言って苦笑気味に笑う。
確かに今までに見たことのある資料とは違っていた。
その真偽は実際に体験した神々しか知らないのだろう。だが、俺はグミの口伝が正しい気がした。
誰にでも真実を伏せることができる歴史ではなく、子孫に残すための昔話の方が正しい様なそんな気がしたから。
そんなことを思いながら弁当を食べた。
昼食後に少しの休憩を挟み俺達は再び山道を登る。
グミの話だとここに龍の神を祭る社があるのならここが龍の神が気に入っていた山ということになる。
昔話になっても名前が残り続ける程に、龍の神が好きな場所に俺達は向かう。
「兄さんはどこまでさっきの話を信じますか? 私には荒唐無稽なただの昔話に聞こえましたけど」
俺の隣に並んだミールが昔話の真偽を聞いてくる。
「俺はほとんどが本当だと思ってる。教科書に残る歴史に少し違和感もあった。戦の理由や遅れてから参戦する三柱。気にはなっていたがグミの話はしっかりと伝えられている」
それに闇の神は世界を消すため。そう言って一柱で動いていた。光の神も龍の神の手も借りていない。表の四柱への復讐なら裏の三柱全員で行くのが普通のはずだ。
何故一柱で動くのか。それは光、龍の二柱を抱き込む理由がなかったから。
「そうですね。その辺りは古いから歴史に残っていないと思っていましたけど、筋は通りますね」
ミールと二人でさっきのグミの話を語り合いながら山道を登っていく。
頂上に着くころにはさっきの話の方が記録に残る歴史よりも正しい。そういう結論になった。
「これが龍の神の社なんですね。凄いボロボロです……」
頂上について先に目が付いたのは倒壊寸前の社。しかも社というよりも家屋の方が近い。なのでこれは倒壊寸前の家屋だ。
何故か二階建てで、窓にはガラスがはめ込まれている。入口は一か所だがそこから覗くのは広い板張りの広間があるだけ。
階段らしきものは社の隣に備え付けられている。
辛うじて社だとわかるのは広間にポツンと置かれた恭しい祭壇だけだ。
「クォルテここ怖いよ。これって入ったら呪われるとかないよね?」
俺が中に入ろうとするとルリーラが怯えた表情で俺の手を掴む。
そんなわけないだろうと思っていたがグミ以外全員の腰が引けていた。
「なら待ってろ。グミと二人で参拝してくるだけだから」
グミと二人で社の中に入る。
引き戸を開けると中からは埃とカビの匂いがした。
埃に足跡を付けるとギシギシと木が軋む音が響く。
広間には祭壇以外に何もない。光を取り込む窓もなくただただ祭壇があるだけ。その唯一の調度品にさえ深く埃が積もっている。
何年、下手をすれば何十年もの間人が足を踏み入れていないらしい。
「これが龍の神アルトメルトスなのですね」
祭壇まで歩いて行くと真ん中に三つ置かれている。
向かって右には水を入れていたであろう空のコップ。反対には金の彫刻が置かれ、それに挟まれているのは黒い塊。
グミはその中から左にある金の彫刻を手に取った。
埃を手で払う。トカゲの様な見た目だが、頭には二本の分かれた枝の様な太い角、胴体は太く強靭そうで、大木の様な手足には三本ずつ杭のような爪が生えている。そしてその体を包み込めるような大きな二対四枚の翼。
両手に乗る大きさにも関わらず、これが龍の神だと何の疑いもなく信じてしまうほどに見事の造形。
埃を全て払うとグミは再びその彫刻を祭壇に戻した。
「この黒い塊はなんだ? 岩とかではないよな」
「龍の神の鱗です。ここでの休むんだ後にはたまにこれが落ちていたらしいです」
グミの説明に鱗に手を伸ばす。
触れただけで重量感が伝わってくる。わずかにざらついた表面、こんなものを体に纏っていたのか。
彫刻を見ながらその大きさを想像する。
俺の顔くらいの大きな鱗が体に無数についていただろう。その大きさはこの山と同じほどに大きかったんじゃないだろうか。
そうなるとここの山は実は隣の山と同じ大きさだったんだろうか。そんな大きな山に体を休める龍の神。
気持ちよさそうに眠るその周りにはきっと動物が寄ってきていただろう。
そんな動物に怒るでもなく目を覚ましても、ただ自然と人々を見守ってきたのだろう。
そんな妄想のような過去を描いていた。
その隣でグミは真剣に手を合わせていた。
穏やかな表情で手を合わせ目を閉じ祈る。
「やっと会えました」
無意識に零れた言葉に涙が伴う。
一筋に涙がそのまま床に落ちる。
「さあ、行きましょう。あまり戻らないと心皆さんが配してしまいますよ」
「出る前に少しだけ話をしないか?」
社を出ようとするグミを俺は引き留めた。
†
「お話ってなんですか? 皆さんの所に戻ってからではダメなんですか?」
グミは急に俺から距離を取りフードを深く被り直す。
何かに怯えているようなので一歩近づくと、グミは同じく一歩後ろに下がる。
グミと俺の距離はちょうど俺の手が届かない程に離れている。
急に怯えだしたな。この調子だと俺の予想は当たっているはずだ。
龍の神の口伝、この社に入ってからの態度、それにあの木のように枝分かれした角。間違いなくグミは龍の神の眷属だ。
それを確認しようとグミのフードに手を伸ばすがグミはその手を避けるように遠ざかる。
「グミそれを脱いでくれ。どうしても確認しておきたいことがある」
俺は真剣にそう訴えかけた。
手を伸ばし軋む床を進みグミにフードを外してくれと呼びかける。
「嫌です!」
俺の訴えは力強く拒否される。
そしてなぜかフードではなく、体を抱え込むようにして一歩後ろに下がる。
おや? なんか反応がおかしいぞ。
そこで俺は違和感に気が付いた。
グミは体を抱えるように抱きしめ、動いた衝撃でめくれたフードから覗く怯えた目、そして俺の発言。
「すまん。俺の言葉が足りなかった。俺が言いたいのは確かめたいことがあるからフードを外してくれないか? そう言いたいんだ。別にお前を襲うつもりはない」
古ぼけた社で男と二人。みんなと合流する前に話がある。そう言われれば確かに勘違いもするだろう。
だけど俺はそんなに見境が無いように見えるんだろうか、見えるんだろうな……。
「フードだけでいいんですよね。ということは気が付いていたんですよね」
そう言ってさっきとはまた違う不安げな表情を見せる。
フードの下にある自称鹿の角は、祭壇に祭られている龍の神の像と同じものだった。
「それで聞きたいんだが、お前は龍なのか? オレイカを見た時の反応からして龍の他にも種族は居そうだな」
「お察しの通り私は龍の一族です。この姿はあくまで擬態で本当の姿は龍の神とは違います。もっと細長い蛇のような龍です」
おそらく俺の使う水の龍と似た姿なのだろう。
そうなるとフィルムが使っていた炎の龍の方が上位の姿って感じなのだろうか。
「オレイカさんを見た時に言った銀狼とは種族ではありません。獣が長い時間をかけ変化の魔法を覚え人に擬態する。そんな方々です」
人に偽装する獣……。獣が魔法を覚え使う。そんなものが実在するのか?
信じられない。と言いたいが目の前にいる少女は間違いなく龍の神の眷属だ。そうなるとそういう獣もいるのかもしれない。
予想以上の話に俺は埃塗れの床に腰を下ろす。
「正直信じられない。そう言いたいが、その角と髪は確かに俺は知らない。黒髪からその魔力量は異常だ。だからお前の本当の姿ってのを見せてくれないか?」
「それは無理です。この建物が無くなってしまいますし他の人に見られたくないので。本当の姿を見ないと信じられないならそれでもいいです」
「他の人に見られない。それでいて広い所なら見せてくれるってことでいいんだよな」
俺は一つの案を思いついた。
こんなチャンスが今後いつあるかわからない。どうしても見てみたいと俺は思った。
「そうなりますけど、そんなところがどこにあるんですか?」
俺はグミに微笑みながら社を出て行く。
来た道を戻り、俺は自分達の泊まった湖のほとりに立つ。
フィルム達も火の国に向かったらしくすでにここにはいない。
遊べるほどの広さ、水深もそれなりに深く森に囲まれているこの湖なら周りからみられることはまずありえない。
「これなら戻れるだろ?」
「そうですね。それほどまでに見たいですか?」
俺が頷くとグミはため息を吐きながら外套の中の服を脱いでいく。
全て脱ぎ終わるとゆっくりと水の中に入っていく。
何も知らない他の連中が止めようとするが俺が制すと素直に従う。
グミはすでに首まで水に浸る。
そして次の瞬間グミの角が発光する。
淡い青色の光が辺りを照らすと湖の水が陸に溢れる。
その内に侵入した存在の体積を思い出したように湖が溢れかえる。
波と光が収まった時に湖の中に居たのは一頭の巨大な龍。
発光した色と同じ淡い青色の鱗を纏い、体躯は蛇のように細長く湖の中を漂う。
俺が使う水の龍と変わらない容姿だが、その瞳と相貌はグミらしくどこか怯えた雰囲気を醸し出している。
「すげえな。それしか言葉にならない」
頭部だけで俺よりも大きなその姿を見て、社に祭られていたあの鱗は本当に龍の神が落とした鱗なんだとわかった。
「これってグミなんだよね? これってクォルテのアクアドラゴン? えっ? どっち?」
あまりの出来事にルリーラでも混乱している。
さっきまで人間だったのに気が付くと人なんて足元にも及ばない程に大きな龍に姿を変えた。
「そうだよ。私は龍なんだ」
その声はまぎれもなくグミの声だった。
恐る恐るだがどこか自慢げなその声にみんなが本当なんだと確信する。
存在していないと思っていた存在が目の前に現るという現象にみんながただ見上げる。
「もういいかな? あんまり長くいると姿を見られちゃうから」
そう言うとまた淡い青色の光を放つ。
その光が収まると水が消えた湖の中心にグミが立っていた。
ここまで見せられたら信じるほかない。
「なあ、俺達と一緒に行かないか?」
俺はそう提案した。
大して深い意味はなかった。ただ一緒に居たら楽しいと思ったからだ。
「そうだよ一緒に行こう。きっと楽しいよ。世界を回るから」
ルリーラの言葉にみんなも次々に勧誘していく。
「気持ちは嬉しいけど、ごめん一緒に行けない。龍だってばれたらいけないんだよね。だから世界を回るのは無理かな」
ここまではっきりと断られると何も言えない。
よく考えると龍なんて厄介事を引き受ける器量など俺には無い。
今の人数でもいっぱいいっぱいなのに更に人を抱えることは確かに無理だ。
「わかった。また何かあったら俺達を尋ねて来い。道案内くらいなら手伝ってやるよ」
「ありがとう。その時はお願いするね」
龍の少女グミ・カートリッジと握手を交わす。
その手は先ほど見た鱗からは信じられないほどに柔らかく人間のように滑らかだった。
森に突っ込んだ二人は一本の木にぶつかりひっくり返っていた。
「うるさい。今回は俺達の負けだが、次は負けない」
フィルムの顔に座るように気を失っているイーシャさんを起こす。
「さっきの魔法は流石に危なかったぞ」
イーシャさんを一緒に探しに来ていたルリーラに渡し、上下逆さまにひっくり返っているフィルムを見下ろす。
「まさか、あの魔法を使って負けるとは思わなかったよ」
足は天を向き頭は地面に向く。正に敗者と言った状態でフィルムがニヒルに笑う。
「それからあの最後の加速は流石だったな。危なく負ける所だったよ」
ひっくり返っているフィルムに手を差し伸べることなく俺はさっきの戦いを褒め称える。
「だが、それもお前の作戦だったんだから俺の負けだ」
天を向く足には木の蔦が絡まりわずかに浮いているフィルムの頭は、地面に辛うじてついていない。
「それとあの火球は凄かったな」
「って助けろよ! 俺待ってただろ、イーシャを助けたみたいに助けろよ!」
「結構お前が乗ってくれるから、どこまで行くかと期待していたんだ」
どうやったらそんなにきれいに絡まるのか、フィルムの足に巻き付いた蔦はなぜか腕まで綺麗に巻き込み罪人が吊るされている様に見えなくもない。
上から落下した際に手足が軽く絡まっている。
そして捕縛の最後の締めをフィルム自身の体重が行っているらしく、両手両足は綺麗に縛られ見本の様な逆さづりの格好になっている。
運が良いのか悪いのか辛うじて地面についていないために落下でのダメージもなさそうだ。
「この光景をどうにか記録できないだろうか」
「いいから助けろよ、段々と手足が冷えてきてるんだよ。頭だって血が上ってるんだぞ」
「逆さまで血が上るのはおかしいんじゃないか?」
「んなことどうでもいいだろ! 人間の上は頭なんだから血が上るで合ってるだろ!」
こいつ意外と余裕があるんじゃないだろうか。
「それはそうと自分の魔法で焼ききれるだろ」
「……」
冷静にさっきのは突っ込めたのに、これには気づかなかったらしい。
俺に指摘され炎を出し、蔦を焼き切ると体が地面に落ちる。
そして何事もなかったように立ち上がる。
「今回は俺の負けだ」
そして急に血液が循環を始めたためか、恥ずかしさのせいなのかフィルムは顔を真っ赤にし捨て台詞を吐いてみんなの元に戻って行った。
大して破損がなさそうな船を持ち俺もみんなの元に向かった。
流石にこれ以上は可哀想なので今の事は俺の胸の中にしまってあげることにした。
対決を終えた俺達は泉の国で今夜使う食材の買い出しに来ている。
泉の国は街自体には大して目を見張る部分はない。
至って普通の街並みだ。レンガ造りの家に石細工の床、先の魔獣が無ければ災害もない平和な街だ。
他よりも珍しいことがあるとすれば国中の至る所に点在する泉や湖があること。それに付随する形で発展しているのが案内所。
オールスでもあったように規模などを考え観光客に案内をする施設が何か所かある。
そんな風に発展した経緯から泉の国と呼ばれている。
「――とまあそんな国だぞ」
「へえ」
街を歩いている間に、ルリーラが泉の国がなんでそう呼ばれているかを聞いたため答えたのだが適当に流されてしまう。
「クォルテさん。この国には最初から泉があったんですか?」
「なかったらしいぞ。最初から何個かはあっただろうけど、今ある湖の大半は昔あった戦の爪痕だ」
「戦なんかあったのか? 僕の記憶だとここニ三百年はこれほどの跡が残る戦はなかったはずだが」
国の成り立ちに興味はないサラが話に入ってきた。
「そんな近代の話じゃないからな。おとぎ話ほど昔だ。神同士が戦をしていた時代だな」
今でこそどの属性の魔法使いはどの属性の国でも入れるが、その戦の時代は自分の属性の国にしか入れなかった。
別の属性とバレれば即処刑。そんな時代が太古の昔にあった。
「確かにその時代ならこの規模の穴位は開くだろうな」
その歴史を知っているサラはそれで納得する。
「神様ってやっぱり凄いね。私にはこんな穴無理だよ」
いつも戦いの度に地面に穴を開けているルリーラが感心する。
「でもこの湖は神の仕業じゃないぞ。龍だ」
俺のその言葉に全員が俺を向く。
サラもミールもその話は知らなかったらしく首をかしげている。
「龍ってクォルテが使ってるあれ?」
「まあ、あれもそうらしいが正確には知らない。見たこともないしな今現存しているのかも怪しい」
水の神辺りは知っているかもしれないが、おそらくはぐらかされるだろう。
それに調べても歴史にたまに登場するだけで、どこにも記録は残っていない。
だから俺はもう絶滅した種族だと思っている。
「ってことはその龍がここにこんなに湖を作ったの?」
「そうなるな。そうなるともう一個珍しい点はそこだな。この国は世界中を見ても稀な龍の神を信仰している国でもある」
強い存在が出てきたことによってルリーラもこの国に興味をもち始めたらしい。
「そうなんですね。泉の国ってことは水の神を信仰していると思ってました」
「水の神も信仰してるぞ。というより今はほとんどが水の神を信仰している。それでも昔からこの国に住んでいる人達にとっては重要な存在ってわけだ」
「旦那様は何でも知っているのだな」
「こういう旅に出ているんだ、色々調べるさ」
今でも移動中にはたまに書物を読んだりしている。観光案内の本に歴史や地理、その合間に魔法の研究もしている。
「私もクォルテさんに本をお借りしていますが今の話はありましたか?」
「無いな。これはロックスの家にあったもので読んだ。龍ってカッコいいからつい読みふけって覚えたんだ」
俺がそう言うとフィルがにやにやとしている。
「ご主人にもそういう時期があったんだ、男の子って感じだね」
「悪いかよ。子供の時の話だ」
「もしかして、ご主人が水の龍をよく使うのってさ」
「強いからだ。俺の魔法の中では強いから切り札に使うようになったの」
それも本当だ。だが今でもカッコいいと思っているし、そう思って練習を続けた結果強くなった。
未だにからかいたそうに、にやにやとしているフィルにこれを教えるのは嫌なので、俺は誤魔化す様に話を変える。
「それよりも食材だろ。アルシェ、今日は何を作るんだ?」
「そうですね、せっかくなので魚料理にしようかと思います」
「お肉がいい」
アルシェがそう言いルリーラが乗ってくると話は夕食の献立に移る。
それを見ていたフィルは、上手に逃げたね。と全てをわかったようにしながら話の輪に入っていく。
やっぱりこういうことに関してはフィルの方が圧倒的に上手だ。
俺達はそのまま近くの食品店で魚料理に必要な物を買いそろえ、
今日泊る宿に戻ることにした。
†
「なんで男と一緒に寝ないといけないんだよ」
「仕方ないだろ。俺が一人だと誰かしらが布団に潜り込んでくるんだよ」
俺は今夕食後にカルラギークで取っていた湖畔の側にあるロッジにフィルムと二人で居た。
全部で三棟ほど借りられており俺とフィルムの男二人でで一つ、ルリーラ達七人で一つ、イーシャ達三人で一つを使うことになっている。
カルラギーク軍全員が止まる予定だっただけあり、少数では部屋が余り過ぎるが変に喧嘩をされないようにするためこの部屋割になった。
ちなみにちゃんと一人一台ベッドはある。
「お前はそんな羨ましい状態になっているのか?」
フィルムは突然殺気立つ。
同じ苦労をしているのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
不味いこと言ったなと思ったが後の祭りだ。
「言え。全てだ。アルシェちゃんやフィルさんの大人ボディ、ルリーラちゃんやミールちゃんの未成熟ボディ、サレッドクインの健康ボディ、オレイカちゃんのギャップボディの全てを余すことなく俺に伝えろ。それが羨ましくも妬ましいお前がするべきこと全てだと理解しろ」
変態だな。
血走った目に荒い鼻息、前かがみの姿勢。まごうこと無き変態が今目の前にいる。
「イーシャさんに今のをそのまま伝えるぞ」
「なっ……、そ、それは、は、反則だろ、クォルテ・ロックス」
変態が一瞬で変質者に変化した。
泳ぐ目に、挙動不審な動き、どうしたらいいかわからずに空中に固定された手。
まあ、これなら確かにあの三人が来づらいのは仕方ないか。完全な抜け駆けになってしまうのだろう。
もしかしたら三人がけん制し合っているのかもしれない。
「俺はそろそろ寝るぞ」
「なんだ、もう寝るのか? 待てよ早く寝た方が恥ずかしがっているイーシャ達も俺を求めに来てくれるのか? そうか早く寝れば一晩は長いのか」
急に真面目な顔をしたが言っていることが最悪だった。
そんなフィルムを置いて俺は近くにあるベッドに寝転がる。
流石は国軍が止まる予定の部屋だ。変にかび臭くもないしバネが効いているらしく寝心地もいい。その辺の宿よりもランクは上ってことか。
「明日からお前達はどうするんだ?」
フィルムは妄想をやめたらしく、自分のベッドに座りこちらに話しかけてくる。
「明日は山を登る。龍の神を祭る場所があるらしいからな」
「勉強熱心だな。俺達とは違うのな」
「当たり前だろ。こっちは色々なものを見るたびに旅をしてるんだからな」
フィルムはなぜか感心したようにこっちの話を聞いている。
そう言えばこいつは自分のハーレムを作るために旅をしてるんだっけか。そのために世界を旅している。
「どこか良い所を知らないか?」
「俺が調べた限りではアリルド以外はないな」
他にいい場所があるならアリルドではなくそっちに向かっていた。
「そうなると、やっぱりお前を倒すしか道はないよな」
「それならウォルクスハルク様に相談してみたらどうだ? お前の神様だ」
「そうするか」
フィルム達の行先は火の国に決まったらしい。
それから俺は本を読み、フィルムは何かを考えており部屋には無音が響く。
やがてそろそろ寝るかと思った矢先、窓の外に一瞬何かが上から下に落下してきた。
ドンっと大きな音が響きロッジを大きく揺らす。
「なんだ今の!?」
フィルムは眠りに落ちかけていたところを起こされ反射的に起き上がり、音の正体を確かめるために窓際に走る。
俺は今一瞬だけ見えた何かを確かめるために武器を持つ。
あれは間違いなく人だった。
あんな着地の方法をするのは恐らくベルタだ。そして一番可能性があるのはパルプ。もちろんパルプがいるならクロアも当然いるだろう。
「人だぞ?」
「フィルムはルリーラ達とイーシャさんを呼んできてくれ。俺はこのまま確認に行ってくる」
そう言いロッジを飛び出す。
人らしい気配はあそこか。
何者かは未だに土埃に身を隠しているらしい。
「誰だ? こんな夜更けに何のようだ?」
盾と短槍を構える。
予想通りにパルプならこれで多少は対抗できる。クロアが居てもみんなが来る時間稼ぎくらいはできるはずだ。
「あの、道を聞きたいんですけど」
その声は少女のように聞こえた。どこか幼さの残る声音に俺は武器を下ろす。
やがて土埃が晴れるとそこに居たのは怪しい外套を着る誰かだった。
「その前に名前を教えてくれるか? 後はその服を脱いで」
武器は下ろしたが武装は外さない。クロア達なら声を変えるくらいの事はするだろう。
「そうですよね。でも、この下裸なんですけど脱がないといけないですか?」
幼い声は羞恥に震え始める。
なんか違うっぽいな。
油断はできないけど雰囲気が違う。血の匂いもしない。本当にただの迷子? いや、迷子はあんな登場しないよな。土埃を巻き上げるほどの落下を見せる迷子は普通じゃない。
「クォルテ、その子の服を脱がすの?」
「クォルテさん……」
「えー……」
最悪のタイミングから聞いていたらしい仲間達から軽蔑の言葉が飛んでくる。正確には嫉妬の言葉なのかもしれないが。
「悪い、全部じゃなくて顔だけでいいよ。ちょっと神経質になりすぎていたらしい」
「わかりました」
そう言って少女はフードを外す。
まず目に着いたのが木のように枝分かれした角が二本、黒い髪から伸びている。そして普段日に当たらないのか肌は真っ白で炎の様な真っ赤な目は怯えている。
「もう、いいでしょうか?」
「ああ、ありがとう」
身長から見るとアルシェと同じほどの年だろうか。だがこの雰囲気はルリーラと同じ年齢に見えなくもない。
そんな彼女は俺が返事をするとフードを再び被った。
「それで、私、その迷子で、道を教えていただけますか?」
幼く感じる正体はこれか。人に慣れていないような話し方のせいだ。
キュッと俯いてどこか落ち着かない姿が子供の様に感じるんだ。
「どこに行くんだ?」
武器をしまいながら話を聞くことにした。
「龍の神を祭るところへ」
「それって急ぎか?」
「いえ、別にそう言うわけじゃないです」
「じゃあ明日連れて行ってやるよ」
こうまでおどおどされると真偽のほどはわからないが、本当に急いでいるわけではなさそうだ。
それならわざわざ口頭伝える必要もない。一緒に行けばいいだろう。
「えっ、あっ、よろしくお願いします」
ぺこりと少女は頭を下げた。
「ご主人、また女の子を拾っていくの?」
「明日行くって言ったよな? 一緒に行くのは問題あるのか?」
俺が女性に優しくするとなぜかそう言う反応になるのが困る。
正直拾って旅をしているつもりはない。拾ったと自覚しているのはルリーラとアルシェくらいだ。他のは全部押し付けられたが正しい。
「フィルの言う通りだと思うよ、どうせ仲間にするつもりでしょ?」
「クォルテさんは私達を争わせたいんですか? これ以上のライバルは」
フィルを皮切りに全員が詰め寄ってくる。
その様子に少女は俺から距離を取った。そんな気がする。
「そうだ、お前の名前は?」
ナンパだなんだと後ろで言われるが構わずに俺は聞いた。
名前も知らないのはやっぱりよくない。
「私の名前は。グミ・カートリッジです」
†
「俺達は明日、龍の神の社に向かうつもりなんだがグミはどうする?」
グミは気づいているのかいないのかわからないが、うつむいたまま自分の外套を握り締める。
信用できないって感じか。別に無理に引き留めようとってわけでもないし、案内が口頭で十分だろう。
「あの、――えっ?」
何かを決めたらしいグミは顔を上げ、何かを口にしようとした瞬間動きが止まる。
「銀狼?」
そう言葉を零す。
視線の先にはオレイカが居た。
頭にある白髪に銀色の耳。グミは確かにそれを見つめていた。
「その耳は、銀狼ですね!?」
一気にオレイカの前に跳び出したグミはオレイカの手を乱暴に掴み、そして落胆する。
「耳が、もう一つ……」
「うん、当然でしょ? 人間なんだから」
「そ、うですよね……」
さっきのテンションが嘘のようにグミはまた下を向く。
「私のこの耳は狼の耳を見て作ったんだけど、グミちゃんのその角は何の動物なの?」
「私のは、その、えっと……」
オレイカが間を持たせるための質問にグミはしどろもどろになりなってしまう。
その間に変だと俺は感じた。普通なら即答できるはずの事が答えをなんで悩むんだ?
「鹿です」
「鹿なんだ。凄いね」
何とか動物を告げたグミにオレイカがそう言うと、ルリーラやアルシェがグミに群がる。
「何ですか? これ何ですか!?」
「その角触ってもいい?」
「その下裸なら何か着た方がいいですよ」
慌てふためくグミを余所にオレイカは俺の元に来る。
「王様ちょっといい?」
そう言ってオレイカは顔を近づける。
全体的に少し大き目でゆったりとした服を着ているため肩は大きく露出しており、胸の谷間がしっかりと確認できてしまう。
だがオレイカの言葉に意識が切り替わる。
「あの娘嘘ついてる」
「あの角だな、何か変なんだろ?」
鹿の角と言っているのは確かにおかしいと俺も思っている。何がおかしいかはわからないが、技術者のオレイカにとってはその何かはすぐにわかったのだろう。
「うん。まずこの耳と尻尾は私にしか作れてない。それに黒髪なのにあの角に宿っている魔力量は異常」
そう言えばオレイカだけが耳を作っていたんだっけか。神々をもして魔力の保管庫として作ったオレイカだけのオリジナル。
だがそのオリジナルが本当にオレイカだけにしか作れないのかは俺にはわからない。
「あれは私にしか作れない。精霊結晶の加工、整形はできる人はいるけど、魔力の保持や固定、自己の魔力回復を計算しての魔力の吸い上げの自動化は私の専売。ガリクラ様がそう言ってた」
地の神のお墨付きってことか。自負心ではなく神が絡んだ事実。それなら確かにオリジナルと言えるだろう。
「魔力量ってのは? 誰かから魔力を注いでもらったんじゃないのか?」
精霊結晶に魔力を込めるのは俺もルリーラにたまにやっている。それがおかしいとはどういうことなのか。
「武器とは違うんだよ。この耳と尻尾は私の体に直接埋め込まれてる。白髪とかなら魔力の扱いには慣れてるから他人の魔力でも平気だけど」
「黒髪があの魔力量を操れるのはおかしいってことか」
オレイカは頷く。
確かに言われればよくわかる。
グミの角には白髪のオレイカと同じくらいの魔力がある。それを見事に制御しているのは確かに異常と言える。
その異常にクロアの影が浮かぶが、その可能性は低いだろう。
魔法を自在に操る黒髪なんて脅威以外の何物でもない。それを先の戦いで使わなかったのはあいつにしてはおかしい。
「だからあの娘は何かを隠してるよ」
「なるほどな。でも、なんでかあいつからは敵意とかそう言うのを一切感じないんだよな」
怪しいし何かを隠しているのはわかるのに、こちらに害をなそうとは微塵も考えていないように見える。
「私もそう思うけど、気をつけないとね。王様って可愛い娘に弱いでしょ?」
「全員その認識なんだな」
男として否定はできないが、そういう基準で優しくしているつもりはない。
とりあえず今の会話で考えはまとまった。グミが一緒に行くと言ったらちゃんと案内してやろう。
「グミ、どうするか決めたか?」
「えっ? はい、お願いします」
「じゃあ、お前達の部屋に寝かしてやれ。俺はもう寝るぞ」
方針も決まり俺達はそれぞれの部屋に戻り就寝した。
翌朝、朝食を食べるためにみんなが集合している場でフィルムは開口一番こう言った。
「なんか可愛い子が一人増えてるぞ」
「グミって言うんだ。今日はこれから一緒に龍の神を祭る社に向かう」
「やっぱり行けばよかった」
「お前は結局なんで来なかったんだ?」
ルリーラ達は早々に来たのにフィルム達は一度も顔を出さなかった。
昨日は特に気にしていなかったが、来ないことに違和感はあった。
「いや、そのさ、あはは」
困ったように見せながらも頬は緩み切っている。そんな情けない表情でフィルムは誤魔化そうとしているが、まるで誤魔化せていない。
昨日イーシャさん達と何か嬉しいことがあったのだろう。
「昨日はハーレムでした」
親指を俺に向け太陽よりも眩しい笑顔を俺に向ける。
「寝てるイーシャ達が積極的でな。それはもう最高だったぞ」
「それはよかったな」
昨日は帰ってきてないみたいだし、そんな展開があったなら確かに来れないだろう。
「嘘ですので信用しないでください」
配膳をするイーシャさんが食器を乱暴に置きフィルムの言葉を否定した。
その言葉にフィルムの視線が泳ぐ。
なんだ嘘か。
「全部じゃないぞ、皆に抱かれて一晩中イーシャとリースに挟まれていたんだ」
「ええそうですね。急ごうとして倒れ後頭部を打って血を流すフィルムをヴェルスが抱きしめましたし、その血を止めるために私も抱きかかえました。それでも行こうとするフィルムをリースが抑えながら安静に眠らせました」
よくそれでさっきの顔ができるな。それほどまでに今まで接触が無かったのだろうか。
俺はフィルムが可哀想に思えてきた。
「その目をやめろ、クォルテ・ロックス!」
「強く生きろよ」
「やめろよ。そんな優しい目を向けるな」
たったそれだけで看護してくれるなんて言い仲間じゃないか。
俺は素直にそう思った。
朝食を終え、俺達は行く準備をしていた。
もうしばらくここに居るので、大きい物はなく弁当と護身用の道具をいくつか持つだけなのですぐに終わった。
「フィルム達は一緒に来ないのか?」
「これからの事を少し話すから行かない。それにお前と一緒に行っても碌なことにならないだろ」
「そうか。じゃあな」
人数は多い方が楽しいかと思ったが、あっちにはあっちの事情があるらしく断られてしまった。
俺が外に出るとまだ誰もいなかったため、俺はルリーラ達が泊まるロッジに向かう。
「俺だ。入るぞ」
「いいよ」
ノックをし声をかけるとルリーラがすぐに返事をしたためドアノブに手をかけドアを押す。
「ダメだよ、ルリーラちゃん」
そのアルシェの言葉に誰かが着替え中かと気づいたが、しかしドアは何の抵抗もなく開く。
ロッジのリビングには全員が居た。
お出かけ用のお洒落な服を着たルリーラ達の中でただ一人だけ異様に肌色の面積が広い。
黒い髪に染み一つない白い肌。その頂点には枝分かれした二本の角。
グミは全裸でルリーラ達に囲まれている。
その周りに散乱する服は恐らく彼女に着せたもの。アルシェとミールが次に着せるらしい服をしっかりと握っている。
「あっ……」
俺の姿を確認したグミは顔を羞恥の色に染める。
「やっぱりだめ!」
「いやああぁぁああ!」
ルリーラが俺を追い出すための突進をすると同時に湖畔に響き渡る絶叫がこだました。
†
「ごめんなさい。いつもの癖でつい、いいよって」
皆の準備が終わり龍の神を祭る社がある街外れの山に向かいながら、ルリーラはさっきの出来事の謝罪をした。
それはもちろん俺を盛大に突き飛ばしたことではない。
グミの裸体を俺に見せたことに対する謝罪で、ルリーラは必死にグミに何度も頭を下げている。
「ですから大丈夫です。ビックリしましたけど別にわざとじゃなさそうですので……」
謝られているグミ自身はそのしつこい謝罪をとっくに受け入れており、今はただ迷惑そうに外套のフードを深く被っている。
グミは昨日来た時と同じ外套を着ているが、もちろんその下にも服は着ている。
今日は日差しが強いおかげで外套はいらないほどに暖かいのだが、頑なに外套を脱ごうとはしない。
「オレイカ、グミの外套の下に何か変な物はあったか?」
「王様も見た通り何もないよ。黒い髪に二本の角、それと純白の綺麗な肌。変なところは何もなし」
グミは怪しいと言っていたオレイカはそう断言する。
出会ったことのない神かクロアの刺客かと考えているが、どちらにしてもしっくりとこない。
「本当に本物なのかもな。動物の体を自分に埋め込むとか、そういう風習みたいなのもどこかにあるんじゃないか?」
「それは私もしらないけど。私に言えるのは体に異常は無いってことだけだよ。あのパルプって子とは違う」
そうなるとどんどん謎は深まっていく。
敵意は無い。でも不思議な存在。
「でも、あれが埋め込まれた何かだったりしたらさ、それって――」
「可能性はあるけどな。どこの研究所でもそれは行われているだろうしな」
オレイカは俺が言葉を遮った意味を悟り、ルリーラに視線を向ける。
「王様はどうするの保護するの? それとも放っておくの?」
「……」
言葉に詰まる。
それ。つまりは人体実験。
欲に駆られた人間が分を弁えずに行う最悪の実験。
そうだとすれば異様なほどに怯えた姿にも納得はいく。凄惨な現場、自分の体を弄る研究員の姿が浮かび人を直視できない。それは旅の初めにルリーラを見ていてわかってはいた。
でも、グミのはそうじゃない気がする。
おどおどとしている姿はルリーラの時とは違って見える。
ルリーラは人間を恐れていたが、グミの場合は自分を見られることに怯えている様に見えている。
「やっぱり様子見だな。そうだとは思えないんだよな」
そうなら良いけど。とオレイカとの話を終えた。
「クォルテこの道ってどっち、右?」
ルリーラが大声で俺を呼んだ。
二つの山へ続く分かれ道。この辺りの地理を思い出しながら右が続く道はただのハイキングコースだと思い出す。
「左です」
俺が左を選ぶ前にグミが先に口にした。
目的の場所を知っているのか? それなのに俺達に案内させようとしている? 何のために?
「グミの言う通り左だ。まるで道を知っているみたいだな」
踏み込んだ質問だと思うが、こいつが何かをしようとしてもこのメンバーなら負ける気はしない。
後ろの仲間達は俺の異変を察知したのか戦闘の準備をしている。
「道はわかりません。ですが、こっちの山だということはわかります。ほら、書いてますよアルトメルトスの社って」
「ルリーラ、ちゃんと書いてるんだからちゃんと読めよ」
俺の言葉に全員の臨戦態勢が解除された。
違和感は拭えないが、普通。怪しいのに、敵意はない。雲を掴むような捉えどころのないグミへの判断が俺にはつきそうもない。
「龍の神はアルトメルトスと言うんですね、初めて知りました。どの本にも名前までは記述されてませんよね?」
「そうだな、基本は龍の神、その他だと蛇の神、悪神、災害の神なんて揶揄されたりしている。それくらいに暴れていた神だ。名前なんてそうそう書かれはしない。それでも龍の神が好きなら知っていてもおかしくはない」
おとぎ話の魔王の様に悪の名前が出てくることは少ないが、もちろん史実として名前は出てくる。
だから崇拝しているなら知っていてもおかしいことはない。
そう言ってミールの疑問を払拭してやる。
失敗したな、今のはもう少し優しく聞くんだった。と俺は反省する。
オレイカ以外にも俺がグミを怪しんでいるのが伝わってしまった。先手のつもりが悪手だった。
「あの、ロックスさん。もうここまでで平気です。このまま道なりですよね。後は大丈夫ですので、私の事は気になさらないでください」
今ので自分が嫌われていると思ったのか、グミは俺の元に来てそう言った。
その姿はどこか寂し気で邪気が無いように感じられた。
「俺達も目的地は同じだ。旅は道連れだ一緒に行こう。変な態度取って悪かったな」
疑うのはやめよう。
確かに怪しいが俺達に危害を加えるつもりはないと、寂し気で怯えたような表情から伝わってきた。
俺はグミの肩に軽く触れ先に左の道を進む。
「ほら行こうよ」
ルリーラがグミの手を握り後をついてくると、他の皆も後をついてくる。
「この先に開けた場所があるはずだから、そこで弁当でも食べよう」
左の道は龍の神が祭られているとは思えないほどに心地いい場所だった。
しっかりと整備された道。その道から外れないように設置されている木で作られた手すりが並ぶ。
道を挟む森もはみ出さないようにしっかりと剪定されており、この道がとても大事にされているのがわかる。
「裏の三柱を祭っているとは思えない道だな。なんというか表の四柱を祭っている様に思える」
「それは大多数の意見です。見方が変われば移り方も変化しますから。ここで行われた他国の戦。この国にとっては関係なくただの迷惑だった戦を止めたのは、圧倒的な力で他国を殲滅した龍の神です。龍の神が持つ強大な力は地面に無数の穴を作り、雨水や湧き水が溜まり大きな泉が生まれこの国は泉の国として栄えました。そうなると戦を止めない表の神と戦を止めた裏の神どっちが善良な神かわかりますよね」
グミの説明にサラは閉口する。
やっぱりグミは龍の神について詳しく知っている。そして俺よりも詳しい。
この国に穴を開けたのは複数の龍である。それがどの文献にも載っている伝説。だがそれをグミは龍の神がと一柱でやったと断言した。
それはつまりグミは文献では何かで龍の神の伝説を知っているということ。
「グミはその話をどこで聞いたんだ? 俺の知っている話とは少し違うらしいが」
「おじいちゃんに聞きました」
やってしまったと顔を伏せながらグミは答える。
やっぱり何かを知っているのだろう。それでも俺達に危険が無ければいいが、個人的にその紙に書かれた伝説よりも人から人への口伝が気になる。
紙はどうしても大多数に向けて書かれている。そのせいで求められている場所に向けて歪曲されてしまう。それが悪いとは言わないが、口伝は完全なその人物の主観だけで繋がれていく。
だからこそ両方知りたいと俺は思ってしまった。
「グミの知っている龍の神について教えてくれないか? 弁当を食べている時だけでいいからさ」
俺がそう言うと、グミは少しだけ顔を上げる。
炎の様な赤い瞳が俺を見つめる。
†
「えっと、何をお話すればいいのでしょうか? おじいちゃんから聞いた話しか私にはお話しできませんけど」
綺麗に整備され、芝生が敷き詰められている広間で弁当を広げる俺達だが、話の中心はグミだった。
俺とミール、サラとアルシェしか興味はないらしく他の連中は黙々と弁当を摘まんでいる。
「それでいいよ。親から子に伝えられた話は、客観的に調べられた話よりもためになる場合がある。だからこそ聞かせてもらいたい」
「わかりました。それでは最初から語ります。裏の三柱の事、過去の戦の事、龍の神の事を」
そう言ってグミはフードを深く被る。
語り部に姿は必要ないというように自分の顔を隠した。
「昔々、火、水、地、風の四柱の神々は争っていました。自分が一番強い、いや自分が一番だ。そんなどうしようもない子供の様な理由から諍いは起こりました。その諍いは、争いになり戦になり戦争になりました。四柱はやがて自分達の争いに眷属も巻き込み始めました。その戦火は世界中に広がります」
過去にあった戦の始まり。それはあまり知られていない。大抵の書物には「理由が不明」そう書かれているはずだ。
それなのにグミの語りには始まりがある。人間と同じような自分の方が優れている。それを証明するための戦だと彼女は語る。つまりそれは神々がその理由を隠しているということになる。
その言葉に他の三人もこちらを見る。
俺が頷くと三人も続くグミの話に耳を傾ける。
「それを我関せずと傍観していたのが闇、光、龍の三柱。戦火の広がる世界を眺めやがて闇の神は、いいことを思いついた。と立ち上がります。奴らを倒し自分が一番の神になろう。そう思い立った闇の神は戦に関わっていない光の神、龍の神に話をしに行きます。『お二方、世界を滅茶苦茶にしているわからず屋を止めるために手を貸していただけないか?』その言葉に光の神は頷きます。『わかった。世界を守るために戦おう』しかし龍の神は『俺は自分の好きな場所を守れればそれでいい』そう言ってフリューへ飛びます」
唐突にフリューの名前が出てきた。
闇の神の名前を聞きつけ、他の四人も話の輪に入ってくる。
ただのお勉強に、決して無関係ではない名前が聞こえてきて聞かなければいけないと思ったのだろう。
「フリューは龍の神が一番気に入っていた場所でもあります。小高い山の頂上で羽を休め、そこから見える自然や人の営みを眺めながら眠るのが一番の幸せだったのです。そして闇の神と光の神が戦に加わったある日、いつも通りにフリューで眠っていた龍の神は爆音に目を覚まします。そこから見えたのは燃え盛る炎でした。戦はフリューも巻き込んでいました。草原が山が村が人が戦火に燃え、濁流に流され、地割れに呑まれ、風に裂かれる。その光景に龍の神は怒りました。大きな声で叫び二対ある翼を広げ空へ飛び、無駄に争う神々とその眷属への怒りに我を忘れ暴れます。火を噴き、風を起こし、地を割る。我に返った時には目の前は地獄の様だったのです。大地には無数の穴、吹く風は火を纏い、大地から溢れる水は血と死体に溢れていました」
それが泉の国の始まりだったのか。
その話に俺の膝に座っていたルリーラは俺の手を握り締める。
「その悲惨な現状に龍の神は思います。「この戦を止めるために闇の神に協力しよう」そう決断した龍の神は羽ばたきでフリューの火を止め、闇の神の元に向かいました。そして闇、光、龍の神々は四柱の戦を止めるために戦いました。やがて火の神が命を落とし、水、地、風の神々は手を取り合い、闇の神率いる三柱と戦います。両者の力は拮抗していましたが、水の神が自分の命と引き換えに闇の神と光の神を封印し形勢は逆転してしまい、地の神と風の神は龍の神を封印し、今までの戦の責任を封印された三柱に被せ残虐な裏の三柱と呼ぶことに決めましたとさ」
喋りすぎたのかグミはコップの水を一気に飲み干す。
「これがおじいちゃんから聞いたお話です。おそらく皆さんが知っている話とは違ってますよね」
グミそう言って苦笑気味に笑う。
確かに今までに見たことのある資料とは違っていた。
その真偽は実際に体験した神々しか知らないのだろう。だが、俺はグミの口伝が正しい気がした。
誰にでも真実を伏せることができる歴史ではなく、子孫に残すための昔話の方が正しい様なそんな気がしたから。
そんなことを思いながら弁当を食べた。
昼食後に少しの休憩を挟み俺達は再び山道を登る。
グミの話だとここに龍の神を祭る社があるのならここが龍の神が気に入っていた山ということになる。
昔話になっても名前が残り続ける程に、龍の神が好きな場所に俺達は向かう。
「兄さんはどこまでさっきの話を信じますか? 私には荒唐無稽なただの昔話に聞こえましたけど」
俺の隣に並んだミールが昔話の真偽を聞いてくる。
「俺はほとんどが本当だと思ってる。教科書に残る歴史に少し違和感もあった。戦の理由や遅れてから参戦する三柱。気にはなっていたがグミの話はしっかりと伝えられている」
それに闇の神は世界を消すため。そう言って一柱で動いていた。光の神も龍の神の手も借りていない。表の四柱への復讐なら裏の三柱全員で行くのが普通のはずだ。
何故一柱で動くのか。それは光、龍の二柱を抱き込む理由がなかったから。
「そうですね。その辺りは古いから歴史に残っていないと思っていましたけど、筋は通りますね」
ミールと二人でさっきのグミの話を語り合いながら山道を登っていく。
頂上に着くころにはさっきの話の方が記録に残る歴史よりも正しい。そういう結論になった。
「これが龍の神の社なんですね。凄いボロボロです……」
頂上について先に目が付いたのは倒壊寸前の社。しかも社というよりも家屋の方が近い。なのでこれは倒壊寸前の家屋だ。
何故か二階建てで、窓にはガラスがはめ込まれている。入口は一か所だがそこから覗くのは広い板張りの広間があるだけ。
階段らしきものは社の隣に備え付けられている。
辛うじて社だとわかるのは広間にポツンと置かれた恭しい祭壇だけだ。
「クォルテここ怖いよ。これって入ったら呪われるとかないよね?」
俺が中に入ろうとするとルリーラが怯えた表情で俺の手を掴む。
そんなわけないだろうと思っていたがグミ以外全員の腰が引けていた。
「なら待ってろ。グミと二人で参拝してくるだけだから」
グミと二人で社の中に入る。
引き戸を開けると中からは埃とカビの匂いがした。
埃に足跡を付けるとギシギシと木が軋む音が響く。
広間には祭壇以外に何もない。光を取り込む窓もなくただただ祭壇があるだけ。その唯一の調度品にさえ深く埃が積もっている。
何年、下手をすれば何十年もの間人が足を踏み入れていないらしい。
「これが龍の神アルトメルトスなのですね」
祭壇まで歩いて行くと真ん中に三つ置かれている。
向かって右には水を入れていたであろう空のコップ。反対には金の彫刻が置かれ、それに挟まれているのは黒い塊。
グミはその中から左にある金の彫刻を手に取った。
埃を手で払う。トカゲの様な見た目だが、頭には二本の分かれた枝の様な太い角、胴体は太く強靭そうで、大木の様な手足には三本ずつ杭のような爪が生えている。そしてその体を包み込めるような大きな二対四枚の翼。
両手に乗る大きさにも関わらず、これが龍の神だと何の疑いもなく信じてしまうほどに見事の造形。
埃を全て払うとグミは再びその彫刻を祭壇に戻した。
「この黒い塊はなんだ? 岩とかではないよな」
「龍の神の鱗です。ここでの休むんだ後にはたまにこれが落ちていたらしいです」
グミの説明に鱗に手を伸ばす。
触れただけで重量感が伝わってくる。わずかにざらついた表面、こんなものを体に纏っていたのか。
彫刻を見ながらその大きさを想像する。
俺の顔くらいの大きな鱗が体に無数についていただろう。その大きさはこの山と同じほどに大きかったんじゃないだろうか。
そうなるとここの山は実は隣の山と同じ大きさだったんだろうか。そんな大きな山に体を休める龍の神。
気持ちよさそうに眠るその周りにはきっと動物が寄ってきていただろう。
そんな動物に怒るでもなく目を覚ましても、ただ自然と人々を見守ってきたのだろう。
そんな妄想のような過去を描いていた。
その隣でグミは真剣に手を合わせていた。
穏やかな表情で手を合わせ目を閉じ祈る。
「やっと会えました」
無意識に零れた言葉に涙が伴う。
一筋に涙がそのまま床に落ちる。
「さあ、行きましょう。あまり戻らないと心皆さんが配してしまいますよ」
「出る前に少しだけ話をしないか?」
社を出ようとするグミを俺は引き留めた。
†
「お話ってなんですか? 皆さんの所に戻ってからではダメなんですか?」
グミは急に俺から距離を取りフードを深く被り直す。
何かに怯えているようなので一歩近づくと、グミは同じく一歩後ろに下がる。
グミと俺の距離はちょうど俺の手が届かない程に離れている。
急に怯えだしたな。この調子だと俺の予想は当たっているはずだ。
龍の神の口伝、この社に入ってからの態度、それにあの木のように枝分かれした角。間違いなくグミは龍の神の眷属だ。
それを確認しようとグミのフードに手を伸ばすがグミはその手を避けるように遠ざかる。
「グミそれを脱いでくれ。どうしても確認しておきたいことがある」
俺は真剣にそう訴えかけた。
手を伸ばし軋む床を進みグミにフードを外してくれと呼びかける。
「嫌です!」
俺の訴えは力強く拒否される。
そしてなぜかフードではなく、体を抱え込むようにして一歩後ろに下がる。
おや? なんか反応がおかしいぞ。
そこで俺は違和感に気が付いた。
グミは体を抱えるように抱きしめ、動いた衝撃でめくれたフードから覗く怯えた目、そして俺の発言。
「すまん。俺の言葉が足りなかった。俺が言いたいのは確かめたいことがあるからフードを外してくれないか? そう言いたいんだ。別にお前を襲うつもりはない」
古ぼけた社で男と二人。みんなと合流する前に話がある。そう言われれば確かに勘違いもするだろう。
だけど俺はそんなに見境が無いように見えるんだろうか、見えるんだろうな……。
「フードだけでいいんですよね。ということは気が付いていたんですよね」
そう言ってさっきとはまた違う不安げな表情を見せる。
フードの下にある自称鹿の角は、祭壇に祭られている龍の神の像と同じものだった。
「それで聞きたいんだが、お前は龍なのか? オレイカを見た時の反応からして龍の他にも種族は居そうだな」
「お察しの通り私は龍の一族です。この姿はあくまで擬態で本当の姿は龍の神とは違います。もっと細長い蛇のような龍です」
おそらく俺の使う水の龍と似た姿なのだろう。
そうなるとフィルムが使っていた炎の龍の方が上位の姿って感じなのだろうか。
「オレイカさんを見た時に言った銀狼とは種族ではありません。獣が長い時間をかけ変化の魔法を覚え人に擬態する。そんな方々です」
人に偽装する獣……。獣が魔法を覚え使う。そんなものが実在するのか?
信じられない。と言いたいが目の前にいる少女は間違いなく龍の神の眷属だ。そうなるとそういう獣もいるのかもしれない。
予想以上の話に俺は埃塗れの床に腰を下ろす。
「正直信じられない。そう言いたいが、その角と髪は確かに俺は知らない。黒髪からその魔力量は異常だ。だからお前の本当の姿ってのを見せてくれないか?」
「それは無理です。この建物が無くなってしまいますし他の人に見られたくないので。本当の姿を見ないと信じられないならそれでもいいです」
「他の人に見られない。それでいて広い所なら見せてくれるってことでいいんだよな」
俺は一つの案を思いついた。
こんなチャンスが今後いつあるかわからない。どうしても見てみたいと俺は思った。
「そうなりますけど、そんなところがどこにあるんですか?」
俺はグミに微笑みながら社を出て行く。
来た道を戻り、俺は自分達の泊まった湖のほとりに立つ。
フィルム達も火の国に向かったらしくすでにここにはいない。
遊べるほどの広さ、水深もそれなりに深く森に囲まれているこの湖なら周りからみられることはまずありえない。
「これなら戻れるだろ?」
「そうですね。それほどまでに見たいですか?」
俺が頷くとグミはため息を吐きながら外套の中の服を脱いでいく。
全て脱ぎ終わるとゆっくりと水の中に入っていく。
何も知らない他の連中が止めようとするが俺が制すと素直に従う。
グミはすでに首まで水に浸る。
そして次の瞬間グミの角が発光する。
淡い青色の光が辺りを照らすと湖の水が陸に溢れる。
その内に侵入した存在の体積を思い出したように湖が溢れかえる。
波と光が収まった時に湖の中に居たのは一頭の巨大な龍。
発光した色と同じ淡い青色の鱗を纏い、体躯は蛇のように細長く湖の中を漂う。
俺が使う水の龍と変わらない容姿だが、その瞳と相貌はグミらしくどこか怯えた雰囲気を醸し出している。
「すげえな。それしか言葉にならない」
頭部だけで俺よりも大きなその姿を見て、社に祭られていたあの鱗は本当に龍の神が落とした鱗なんだとわかった。
「これってグミなんだよね? これってクォルテのアクアドラゴン? えっ? どっち?」
あまりの出来事にルリーラでも混乱している。
さっきまで人間だったのに気が付くと人なんて足元にも及ばない程に大きな龍に姿を変えた。
「そうだよ。私は龍なんだ」
その声はまぎれもなくグミの声だった。
恐る恐るだがどこか自慢げなその声にみんなが本当なんだと確信する。
存在していないと思っていた存在が目の前に現るという現象にみんながただ見上げる。
「もういいかな? あんまり長くいると姿を見られちゃうから」
そう言うとまた淡い青色の光を放つ。
その光が収まると水が消えた湖の中心にグミが立っていた。
ここまで見せられたら信じるほかない。
「なあ、俺達と一緒に行かないか?」
俺はそう提案した。
大して深い意味はなかった。ただ一緒に居たら楽しいと思ったからだ。
「そうだよ一緒に行こう。きっと楽しいよ。世界を回るから」
ルリーラの言葉にみんなも次々に勧誘していく。
「気持ちは嬉しいけど、ごめん一緒に行けない。龍だってばれたらいけないんだよね。だから世界を回るのは無理かな」
ここまではっきりと断られると何も言えない。
よく考えると龍なんて厄介事を引き受ける器量など俺には無い。
今の人数でもいっぱいいっぱいなのに更に人を抱えることは確かに無理だ。
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0
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物語は、まだ始まったばかりだ。
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