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第18章 「蛇殺し」の英雄と、別れのロイヤルキス
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翌日。世界は「ある日本人」の話題で持ちきりだった。
『謎の投資家K、サーペント・ダイナミクスを粉砕』 『ウォール街が震撼! 東京の「神の手」を持つ男とは?』 『オリオン・テクノロジー、株価ストップ高連発。時価総額は一週間で十倍に』
テレビのニュースも、ネットのトレンドも、私の名前(イニシャルだが)とオリオン社の話題で埋め尽くされている。 ペントハウスの電話は回線がパンクするほど鳴り響き、一ノ瀬玲奈が十人のオペレーターを雇って対応に当たらせていた。
「……すごい騒ぎだな」 「当然です。貴方はたった一日で、世界最大の軍産複合体に土をつけ、五百億円を稼ぎ出したのですから。『ジャイアント・キリング』にも程があります」
一ノ瀬は目の回るような忙しさの中でも、どこか誇らしげだった。彼女のロジックを超えた結果を出した私を、もはや信仰に近い目で見ている。
*
午後。私たちは羽田空港のプライベートジェット専用ターミナルにいた。 エレナが帰国する時が来たのだ。 滑走路には、ルクセンブルク公国の紋章が入った白亜の機体が待機している。
「……カシワギ様。本当に、何とお礼を言えばよいか」
エレナは、今日は王族としての正装に身を包んでいた。凛とした美しさは、先日ゲームセンターでプリクラを撮った少女と同じ人物とは思えない。
「お礼なんて結構ですよ。私はただ、自分の資産を守っただけです。それに……」
私は彼女に近づき、小声で言った。
「あの『ペヤング』の味が、世界を救う活力になったと思えば、安いものです」
エレナはクスリと笑った。その笑顔で、周囲の空気が華やぐ。
「ふふっ。ええ、あの味は忘れません。……それと、これは公的な決定事項としてお伝えします」
彼女は表情を引き締め、宣言した。
「我が国の次世代エネルギープロジェクト『アイギス』は、オリオン・テクノロジー社の製品を公式採用します。これは、我が王家からの『勅許(ロイヤル・ワラント)』です」
一ノ瀬が息を呑んだ。 一国の国家プロジェクトへの独占供給。しかも王家のお墨付き。これは単なるビジネス契約を超えた、最強のブランド価値(ステータス)だ。これでオリオン社に手を出そうとする輩は、ルクセンブルク公国、ひいてはEU全体を敵に回すことになる。
「……最高の盾をありがとうございます」 「いいえ、これは貴方が勝ち取った信頼の証です」
エレナは一歩前に進み出た。 そして、少し背伸びをすると――私の頬に、そっと唇を寄せた。
「――ッ!?」
柔らかい感触と、高貴な香りが鼻腔をくすぐる。 一ノ瀬が「ひゃっ」と声を上げ、護衛のベルンハルト氏でさえ目を丸くしている。
「……これは、私個人からの感謝の印です。また会いましょう、私の英雄(ヒーロー)」
彼女は顔を赤らめながらも、優雅に微笑み、タラップを上っていった。 機上の人となった彼女に向けて、私たちは見えなくなるまで手を振り続けた。
ジェット機が空の彼方へ消えると、隣にいた堂島剛が、ニヤニヤしながら私の肩を小突いた。
「おいおい、やるじゃねえか『蛇殺し』の英雄さんよ。王女様のキスなんて、金じゃ買えねえぞ?」 「……からかわないでください。寿命が縮むかと思いましたよ」 「ガハハ! 謙遜するな。だがな、柏木」
堂島さんの声色が、ふと真剣なものに変わった。
「覚悟しておけよ。お前はもう、ただの『運が良い成金』じゃねえ。世界中の投資家や企業が、お前の一挙手一投足に注目する『プレイヤー』になっちまったんだ。これからは、有象無象の連中が、お前のその豪運を利用しようと群がってくるぞ」
「……望むところです」
私は滑走路の向こうに広がる青空を見上げた。
「利用されるつもりはありません。俺の運は、俺と、俺の仲間のために使う。……それに、退屈しなくていいじゃないですか」
私の言葉に、堂島さんは満足そうに頷いた。 「違いない。俺も退屈しないで済みそうだ」
*
空港からの帰り道。 一ノ瀬がタブレットを見ながら、興奮気味に言った。
「柏木様。五百億円の使途ですが、税金対策も含めて早急に計画を立てる必要があります。不動産、海外債券、あるいは新たなベンチャーへの投資……」
「少し休ませてくれ。ここ数日、ジェットコースターに乗りっぱなしだった気分だ」
私はシートに深く体を沈めた。 金はある。名声も得た。最高の仲間もいる。 今の私に必要なのは……そう、「癒やし」だ。
「……今日はミナちゃんの店に行こう。あそこの出汁巻き卵が無性に食いたい」 「ふふ、了解しました。彼女も、貴方の凱旋を心待ちにしているはずです」
ハイヤーが都心へ向けて走り出す。 窓の外を流れる東京の景色。 ふと、路肩の看板が目に入った。
『会員制オークション・ハウス 来週開催 ~歴史に埋もれた秘宝たち~』
一瞬で通り過ぎた看板。だが、私の直感が、チリリと反応した。 秘宝。オークション。 ……また何か、面白そうな匂いがする。
私はスマホを取り出し、メモアプリに『オークション』とだけ打ち込んだ。 私の休日が、ただの休息で終わる確率は、限りなく低そうだ。
『謎の投資家K、サーペント・ダイナミクスを粉砕』 『ウォール街が震撼! 東京の「神の手」を持つ男とは?』 『オリオン・テクノロジー、株価ストップ高連発。時価総額は一週間で十倍に』
テレビのニュースも、ネットのトレンドも、私の名前(イニシャルだが)とオリオン社の話題で埋め尽くされている。 ペントハウスの電話は回線がパンクするほど鳴り響き、一ノ瀬玲奈が十人のオペレーターを雇って対応に当たらせていた。
「……すごい騒ぎだな」 「当然です。貴方はたった一日で、世界最大の軍産複合体に土をつけ、五百億円を稼ぎ出したのですから。『ジャイアント・キリング』にも程があります」
一ノ瀬は目の回るような忙しさの中でも、どこか誇らしげだった。彼女のロジックを超えた結果を出した私を、もはや信仰に近い目で見ている。
*
午後。私たちは羽田空港のプライベートジェット専用ターミナルにいた。 エレナが帰国する時が来たのだ。 滑走路には、ルクセンブルク公国の紋章が入った白亜の機体が待機している。
「……カシワギ様。本当に、何とお礼を言えばよいか」
エレナは、今日は王族としての正装に身を包んでいた。凛とした美しさは、先日ゲームセンターでプリクラを撮った少女と同じ人物とは思えない。
「お礼なんて結構ですよ。私はただ、自分の資産を守っただけです。それに……」
私は彼女に近づき、小声で言った。
「あの『ペヤング』の味が、世界を救う活力になったと思えば、安いものです」
エレナはクスリと笑った。その笑顔で、周囲の空気が華やぐ。
「ふふっ。ええ、あの味は忘れません。……それと、これは公的な決定事項としてお伝えします」
彼女は表情を引き締め、宣言した。
「我が国の次世代エネルギープロジェクト『アイギス』は、オリオン・テクノロジー社の製品を公式採用します。これは、我が王家からの『勅許(ロイヤル・ワラント)』です」
一ノ瀬が息を呑んだ。 一国の国家プロジェクトへの独占供給。しかも王家のお墨付き。これは単なるビジネス契約を超えた、最強のブランド価値(ステータス)だ。これでオリオン社に手を出そうとする輩は、ルクセンブルク公国、ひいてはEU全体を敵に回すことになる。
「……最高の盾をありがとうございます」 「いいえ、これは貴方が勝ち取った信頼の証です」
エレナは一歩前に進み出た。 そして、少し背伸びをすると――私の頬に、そっと唇を寄せた。
「――ッ!?」
柔らかい感触と、高貴な香りが鼻腔をくすぐる。 一ノ瀬が「ひゃっ」と声を上げ、護衛のベルンハルト氏でさえ目を丸くしている。
「……これは、私個人からの感謝の印です。また会いましょう、私の英雄(ヒーロー)」
彼女は顔を赤らめながらも、優雅に微笑み、タラップを上っていった。 機上の人となった彼女に向けて、私たちは見えなくなるまで手を振り続けた。
ジェット機が空の彼方へ消えると、隣にいた堂島剛が、ニヤニヤしながら私の肩を小突いた。
「おいおい、やるじゃねえか『蛇殺し』の英雄さんよ。王女様のキスなんて、金じゃ買えねえぞ?」 「……からかわないでください。寿命が縮むかと思いましたよ」 「ガハハ! 謙遜するな。だがな、柏木」
堂島さんの声色が、ふと真剣なものに変わった。
「覚悟しておけよ。お前はもう、ただの『運が良い成金』じゃねえ。世界中の投資家や企業が、お前の一挙手一投足に注目する『プレイヤー』になっちまったんだ。これからは、有象無象の連中が、お前のその豪運を利用しようと群がってくるぞ」
「……望むところです」
私は滑走路の向こうに広がる青空を見上げた。
「利用されるつもりはありません。俺の運は、俺と、俺の仲間のために使う。……それに、退屈しなくていいじゃないですか」
私の言葉に、堂島さんは満足そうに頷いた。 「違いない。俺も退屈しないで済みそうだ」
*
空港からの帰り道。 一ノ瀬がタブレットを見ながら、興奮気味に言った。
「柏木様。五百億円の使途ですが、税金対策も含めて早急に計画を立てる必要があります。不動産、海外債券、あるいは新たなベンチャーへの投資……」
「少し休ませてくれ。ここ数日、ジェットコースターに乗りっぱなしだった気分だ」
私はシートに深く体を沈めた。 金はある。名声も得た。最高の仲間もいる。 今の私に必要なのは……そう、「癒やし」だ。
「……今日はミナちゃんの店に行こう。あそこの出汁巻き卵が無性に食いたい」 「ふふ、了解しました。彼女も、貴方の凱旋を心待ちにしているはずです」
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