41 / 44
第43章 消失する口座と、存在しない摩天楼
しおりを挟む
ルシフェル撃退から数日後の朝。 私は、いつものように目覚め、いつものようにスマホでニュースと株価をチェックしようとした。
「……ん?」
画面に表示されたのは、『認証エラー』の文字。 銀行アプリを開く。『口座が存在しません』。 証券口座も。『ユーザーが見つかりません』。
「一ノ瀬。ちょっとWi-Fiの調子が悪いみたいだ」
私はリビングへ向かい、コーヒーを飲んでいる一ノ瀬に声をかけた。 だが、彼女は青ざめた顔で、真っ白なノイズだけが表示されている自分のタブレットを見つめていた。
「……違います、柏木様。通信障害ではありません」
一ノ瀬が震える声で言った。
「『オリオン・テクノロジー』『K・プロモーション』……それから、貴方の個人資産管理会社。……すべての登記情報が、データベースから消滅しています」
「消滅? ハッキングか?」
「いいえ。ログごと消えています。まるで……『最初から存在しなかった』かのように」
背筋に悪寒が走る。 その時、テレビのニュースキャスターが信じられないことを口にした。
『……続いてのニュースです。先日、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したのは、フランスの巨匠による作品で……』
「は?」 カレンが飛び起きた。「違う! 受賞したのは私たちの『リベリオン・ガール』よ!?」
しかし、画面に映し出された受賞リストに、カレンの名前も、我妻監督の名前もなかった。 ネット検索をかけても、『如月カレン』は「数年前に引退した元アイドル」という情報しか出てこない。
「……修正、されちゃいました」
ソファの隅で膝を抱えていたシルヴィアが、絶望的な声で呟いた。
「運命監査局の『強制執行(リセット)』です。柏木さんが豪運で手に入れた成果、実績、富……すべてを『バグ』として処理し、歴史を書き換えたんです」
私は窓の外を見た。 六本木の街並みは変わらない。だが、私の手に入れた「証」だけが、綺麗さっぱり消え去っている。
昨日の今日で、私は数百億の資産家から、ただの「無職の中年男」に逆戻りさせられたのだ。
「……やってくれるな」
私は乾いた笑い声を漏らした。怒りを通り越して、感心するほどの手際の良さだ。
「……でも、変ですね」 一ノ瀬が眼鏡を直した。「歴史が改変されたなら、なぜ私たちの『記憶』は残っているのですか? 私たちも、貴方のことを忘れて、元の他人同士に戻るのが筋では?」
「それは……皆さんが『特異点(柏木さん)』と深く関わりすぎて、運命の因果から外れちゃったからです」
シルヴィアが私の服の裾を掴んだ。
「世界中が柏木さんを忘れても……私たちだけは、覚えている。それだけが、唯一の救いです」
金は消えた。名誉も消えた。 だが、仲間はここにいる。
「……十分だ」 私は強く拳を握った。「記憶があるなら、何度だってやり直せる」
その時、窓の外に異変が起きた。 東京の空に、巨大な「黒い塔」が蜃気楼のように出現したのだ。 雲を突き抜けるほどの高さ。周囲の空間が歪み、デジタルノイズのようなものが走っている。
「あれは……『運命のサーバータワー』。監査局の本部への入り口です」 シルヴィアが指差した。
「あそこに行けば、元に戻せるのか?」 「……はい。中枢にある『運命の原簿(アカシック・レコード)』にアクセスして、修正プログラムを破壊すれば……。でも、あそこは神の領域です。人間が入れば、存在ごと分解されます」
「分解か。……リストラされるよりはマシだな」
私は立ち上がった。
「行くぞ。俺たちの『人生』を取り返しにな」
「……ん?」
画面に表示されたのは、『認証エラー』の文字。 銀行アプリを開く。『口座が存在しません』。 証券口座も。『ユーザーが見つかりません』。
「一ノ瀬。ちょっとWi-Fiの調子が悪いみたいだ」
私はリビングへ向かい、コーヒーを飲んでいる一ノ瀬に声をかけた。 だが、彼女は青ざめた顔で、真っ白なノイズだけが表示されている自分のタブレットを見つめていた。
「……違います、柏木様。通信障害ではありません」
一ノ瀬が震える声で言った。
「『オリオン・テクノロジー』『K・プロモーション』……それから、貴方の個人資産管理会社。……すべての登記情報が、データベースから消滅しています」
「消滅? ハッキングか?」
「いいえ。ログごと消えています。まるで……『最初から存在しなかった』かのように」
背筋に悪寒が走る。 その時、テレビのニュースキャスターが信じられないことを口にした。
『……続いてのニュースです。先日、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したのは、フランスの巨匠による作品で……』
「は?」 カレンが飛び起きた。「違う! 受賞したのは私たちの『リベリオン・ガール』よ!?」
しかし、画面に映し出された受賞リストに、カレンの名前も、我妻監督の名前もなかった。 ネット検索をかけても、『如月カレン』は「数年前に引退した元アイドル」という情報しか出てこない。
「……修正、されちゃいました」
ソファの隅で膝を抱えていたシルヴィアが、絶望的な声で呟いた。
「運命監査局の『強制執行(リセット)』です。柏木さんが豪運で手に入れた成果、実績、富……すべてを『バグ』として処理し、歴史を書き換えたんです」
私は窓の外を見た。 六本木の街並みは変わらない。だが、私の手に入れた「証」だけが、綺麗さっぱり消え去っている。
昨日の今日で、私は数百億の資産家から、ただの「無職の中年男」に逆戻りさせられたのだ。
「……やってくれるな」
私は乾いた笑い声を漏らした。怒りを通り越して、感心するほどの手際の良さだ。
「……でも、変ですね」 一ノ瀬が眼鏡を直した。「歴史が改変されたなら、なぜ私たちの『記憶』は残っているのですか? 私たちも、貴方のことを忘れて、元の他人同士に戻るのが筋では?」
「それは……皆さんが『特異点(柏木さん)』と深く関わりすぎて、運命の因果から外れちゃったからです」
シルヴィアが私の服の裾を掴んだ。
「世界中が柏木さんを忘れても……私たちだけは、覚えている。それだけが、唯一の救いです」
金は消えた。名誉も消えた。 だが、仲間はここにいる。
「……十分だ」 私は強く拳を握った。「記憶があるなら、何度だってやり直せる」
その時、窓の外に異変が起きた。 東京の空に、巨大な「黒い塔」が蜃気楼のように出現したのだ。 雲を突き抜けるほどの高さ。周囲の空間が歪み、デジタルノイズのようなものが走っている。
「あれは……『運命のサーバータワー』。監査局の本部への入り口です」 シルヴィアが指差した。
「あそこに行けば、元に戻せるのか?」 「……はい。中枢にある『運命の原簿(アカシック・レコード)』にアクセスして、修正プログラムを破壊すれば……。でも、あそこは神の領域です。人間が入れば、存在ごと分解されます」
「分解か。……リストラされるよりはマシだな」
私は立ち上がった。
「行くぞ。俺たちの『人生』を取り返しにな」
10
あなたにおすすめの小説
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます
天宮有
恋愛
水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。
それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。
私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。
それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。
家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。
お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。
私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
聖女になんかなりたくない! 聖女認定される前に…私はバックれたいと思います。
アノマロカリス
恋愛
この作品の大半はコメディです。
侯爵家に生まれた双子のリアナとリアラ。
姉のリアナは光り輝く金髪と青い瞳を持つ少女。
一方、妹のリアラは不吉の象徴と言われた漆黒の髪に赤い瞳を持つ少女。
両親は姉のリアナを可愛がり、妹のリアラには両親だけではなく使用人すらもぞんざいに扱われていた。
ここまでは良くある話だが、問題はこの先…
果たして物語はどう進んで行くのでしょうか?
私が張っている結界など存在しないと言われたから、消えることにしました
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私エルノアは、12歳になった時に国を守る結界を張る者として選ばれた。
結界を張って4年後のある日、婚約者となった第二王子ドスラが婚約破棄を言い渡してくる。
国を守る結界は存在してないと言い出したドスラ王子は、公爵令嬢と婚約したいようだ。
結界を張っているから魔法を扱うことができなかった私は、言われた通り結界を放棄する。
数日後――国は困っているようで、新たに結界を張ろうとするも成功していないらしい。
結界を放棄したことで本来の力を取り戻した私は、冒険者の少年ラーサーを助ける。
その後、私も冒険者になって街で生活しながら、国の末路を確認することにしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる