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第2章 調教
3.父子
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四方田家の屋敷は、城下に建ち並ぶ武家屋敷のなかでも、ひときわ広大な敷地にあった。
「父上、ただいま帰りました」
小十郎が居間の障子を開けると、内蔵助は静かに顔を上げた。
「馬場で佐々木殿に話しかけられました」
簡潔に小十郎は述べた。
「馬廻の佐々木殿に? なにか訊かれたか?」
内蔵助は問うた。
穏やかそうな顔をしているが、眼光は鋭い。
「竹丸について探りを入れてきました。当家と遠縁にあるとの噂を聞きつけてきたのでしょう」
「……ほう。それで、どう答えた?」
内蔵助は湯呑みを置き、わずかに眉を寄せた。
「遠い枝葉の話で、縁はとうに切れている、そう申し上げました。於松は曾祖父が女中に生ませた子で、妾腹ですらなかったことも。すべて正直に話して差し上げました」
内蔵助は小さく息を吐いた。
「すべて、か……。まあ、佐々木殿は口が堅い。他言はせぬだろう」
小十郎は口元に薄い笑みを浮かべる。
「なにやら必死な顔をしておりました。まるで、当家で助けてくれまいかと言わんばかりに」
「だろうな」内蔵助は目を伏せる。「実千代殿の記憶が、まだ生々しく残っておるのだろう。あの子も……結局、わしらは何もできなんだ。竹丸も気の毒に……」
小十郎は肩をすくめた。
「父上、まだ甘いことを仰せられますか。たった一度の戯れで孕ませた女中の娘を養女にし、小身ながらも武家に嫁がせてやった。それで充分すぎるほどの義理は果たした。その孫がどんな目に遭おうと、当家の与り知らぬことにございまする」
「わかっておる。ただ、藩が傾くような騒ぎにだけはするな」
内蔵助はそこで一息つくと、苦々しく先を続けた。
「竹丸一人の命なら、泣こうが喚こうが知らん顔でよいが、若様が御寵愛されているがゆえに厄介なのだ。若様は山坂藩の次代を担う御方、お守りせねばならぬ」
「心得ております」
小十郎は静かに一礼した。
「父上、ただいま帰りました」
小十郎が居間の障子を開けると、内蔵助は静かに顔を上げた。
「馬場で佐々木殿に話しかけられました」
簡潔に小十郎は述べた。
「馬廻の佐々木殿に? なにか訊かれたか?」
内蔵助は問うた。
穏やかそうな顔をしているが、眼光は鋭い。
「竹丸について探りを入れてきました。当家と遠縁にあるとの噂を聞きつけてきたのでしょう」
「……ほう。それで、どう答えた?」
内蔵助は湯呑みを置き、わずかに眉を寄せた。
「遠い枝葉の話で、縁はとうに切れている、そう申し上げました。於松は曾祖父が女中に生ませた子で、妾腹ですらなかったことも。すべて正直に話して差し上げました」
内蔵助は小さく息を吐いた。
「すべて、か……。まあ、佐々木殿は口が堅い。他言はせぬだろう」
小十郎は口元に薄い笑みを浮かべる。
「なにやら必死な顔をしておりました。まるで、当家で助けてくれまいかと言わんばかりに」
「だろうな」内蔵助は目を伏せる。「実千代殿の記憶が、まだ生々しく残っておるのだろう。あの子も……結局、わしらは何もできなんだ。竹丸も気の毒に……」
小十郎は肩をすくめた。
「父上、まだ甘いことを仰せられますか。たった一度の戯れで孕ませた女中の娘を養女にし、小身ながらも武家に嫁がせてやった。それで充分すぎるほどの義理は果たした。その孫がどんな目に遭おうと、当家の与り知らぬことにございまする」
「わかっておる。ただ、藩が傾くような騒ぎにだけはするな」
内蔵助はそこで一息つくと、苦々しく先を続けた。
「竹丸一人の命なら、泣こうが喚こうが知らん顔でよいが、若様が御寵愛されているがゆえに厄介なのだ。若様は山坂藩の次代を担う御方、お守りせねばならぬ」
「心得ております」
小十郎は静かに一礼した。
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