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第3章 堕ちる太陽
2.違和感(2)
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静寂が落ちた部屋で、澄長は立ち上がり、竹丸の前に歩み寄ると、その場に片膝をついた。
主君としてあるまじき振る舞いだが、今は構ってはいられなかった。
彼は両手で竹丸の顔を包み込み、無理やり上を向かせた。
「竹丸、私はそなたの主だ。そなたを守るのが私の役目だ。だから、正直に申せ。何があった?」
竹丸の大きな目に、じわりと涙が滲む。
それでも彼は口を真一文字に結び、何もないと言わんばかりに必死に首を横に振るだけだった。
ここ数日、澄長は千鶴の寝所で夜を過ごした。
その間、竹丸はどこにいたのだろうか。
澄長の胸の奥で、冷たい疑惑が急速に凝固していく。
──まさか……父上が、また……?
しかし、竹丸は己が小姓だ。
実千代とは立場が違う。
澄長の中で、父への疑念と、それを否定したい願いがせめぎ合う。
実千代は御部屋殿──藩主の「御手付き小姓」として、本丸常御殿の中奥に立派な部屋をあてがわれ、父に仕えていた。
父が実千代を玩具のように弄んでいたことは知っていた。
しかし、澄長が実千代に心を寄せれば寄せるほど、父の加虐心に油を注ぎ、実千代をより深く苦しめることになると知らされて、その想いを封印するしかなかった。
それから数年。
十八になった実千代は、寵童としては盛りを過ぎたとみなされ、飽きられたのだろう。
澄長に届いたのは、彼が投獄され、獄死したという無機質な報せだった。
あの時の無力感──無辜な少年が父の手によって壊されていくのを知りながら、何もできず、見殺しにしたという罪悪感が、焼けた鉄のように喉元に込み上げてきた。
「竹丸、何があっても、そなたを想う気持ちは変わらぬ。私が必ず、そなたを守る」
澄長は竹丸を強く抱きしめ、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
竹丸は堰を切ったように涙を流し、澄長の肩に顔を埋めて嗚咽した。
だが、己が身に何が起きたのか、それが誰の仕業なのかについては、ついに一言も語らなかった。
主君としてあるまじき振る舞いだが、今は構ってはいられなかった。
彼は両手で竹丸の顔を包み込み、無理やり上を向かせた。
「竹丸、私はそなたの主だ。そなたを守るのが私の役目だ。だから、正直に申せ。何があった?」
竹丸の大きな目に、じわりと涙が滲む。
それでも彼は口を真一文字に結び、何もないと言わんばかりに必死に首を横に振るだけだった。
ここ数日、澄長は千鶴の寝所で夜を過ごした。
その間、竹丸はどこにいたのだろうか。
澄長の胸の奥で、冷たい疑惑が急速に凝固していく。
──まさか……父上が、また……?
しかし、竹丸は己が小姓だ。
実千代とは立場が違う。
澄長の中で、父への疑念と、それを否定したい願いがせめぎ合う。
実千代は御部屋殿──藩主の「御手付き小姓」として、本丸常御殿の中奥に立派な部屋をあてがわれ、父に仕えていた。
父が実千代を玩具のように弄んでいたことは知っていた。
しかし、澄長が実千代に心を寄せれば寄せるほど、父の加虐心に油を注ぎ、実千代をより深く苦しめることになると知らされて、その想いを封印するしかなかった。
それから数年。
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澄長に届いたのは、彼が投獄され、獄死したという無機質な報せだった。
あの時の無力感──無辜な少年が父の手によって壊されていくのを知りながら、何もできず、見殺しにしたという罪悪感が、焼けた鉄のように喉元に込み上げてきた。
「竹丸、何があっても、そなたを想う気持ちは変わらぬ。私が必ず、そなたを守る」
澄長は竹丸を強く抱きしめ、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
竹丸は堰を切ったように涙を流し、澄長の肩に顔を埋めて嗚咽した。
だが、己が身に何が起きたのか、それが誰の仕業なのかについては、ついに一言も語らなかった。
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