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第3章 堕ちる太陽
5.乱れる心
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その夜、澄長は竹丸を寝所に召し出した。
今朝の出来事──竹丸の怯えが、重苦しい澱となって二人の間に沈殿していた。
竹丸が父に汚されたのではないかという疑念。
そして、澄長がそれを疑っていることに、竹丸が気づいているという事実。
それは、二人の目の前に、これみよがしにぶら下がっているにもかかわらず、二人は示し合わせたように、それが見えないふりをしている。
澄長が竹丸の寝衣を脱がせると、二の腕の内側のやわらかな皮膚に、何者かに強く掴まれたような指の痕が赤い痣となって残っていた。
それを目にした時、澄長は目眩のような衝撃に襲われた。
頭では理解している。
竹丸は被害者であり、何の落ち度もないことを。
しかし、理屈と感情は別ものだった。
行燈のあかりがゆらめく薄暗い寝所で、白い褥の上にいると、父の腕の中で、竹丸がどのような痴態をさらしたのかという妄想に襲われる。
昼間の光の下では無視できたそれは、夜の闇が落ちると、毒蛇のようにむくりと首をもたげてくる。
父・虎長は、人の心と体を操る術に長けた古狸だ。
暴力だけではない。
熟達した手練手管で責められ、若く未熟な竹丸は、快楽に乱れ、あさましい姿を晒したのではないか。
──私には見せたことのない顔を、父には見せたのだろうか。
その昏い想像が脳裏をよぎるたび、澄長の心は、焼けつくような焦燥で乱された。
澄長は、その嫉妬にふりまわされるままに竹丸を抱いた。
父の影を振り払い、その痕跡を塗りつぶそうとするかのように、爪が竹丸の肌に食い込む。
竹丸は、澄長の指から伝わる気持ちが、いつもの慈しむような愛情ではないことを、敏感に感じ取った。
そこにあるのは、独占欲と、汚されたものへのわずかな嫌悪、そして疑心。
その荒々しい愛撫は、皮肉にも、竹丸が封印しようとしていた虎長との記憶を呼び覚ました。
脳裏に蘇る屈辱と痛み、そして強制された快楽の記憶。
竹丸は、愛しくてたまらないはずの澄長の腕の中で、吐き気がするほどの嫌悪に襲われた。
──嫌だ、やめて……!
叫び出しそうになる衝動を、竹丸は必死に堪えた。
ここで澄長を拒否すれば、すべてが終わる。
竹丸は心を肉体から切り離し、ただの物言わぬ人形となって、嵐が過ぎ去るのを待つ道を選んだ。
澄長は、腕の中の竹丸が、心を閉ざし、石のよう硬くなるのを感じた。
体温を感じる。
息遣いも聞こえる。
しかし、竹丸の心はここにはなかった。
──なぜだ、竹丸、父に抱かれた時はこうではなかったはずだ。
澄長は、竹丸が遠ざかるのを感じれば感じるほど、さらに追いすがるように、激しく掻き抱いた。
父が与えた快楽を、自分の手で上書きし、打ち消さなければならないという強迫観念が、彼を駆り立てる。
だが、澄長が激しく求めれば求めるほど、その情熱は刃となって竹丸の心を傷つけ、孤独へと追いやっていくことに、彼は気づきもしなかった。
今朝の出来事──竹丸の怯えが、重苦しい澱となって二人の間に沈殿していた。
竹丸が父に汚されたのではないかという疑念。
そして、澄長がそれを疑っていることに、竹丸が気づいているという事実。
それは、二人の目の前に、これみよがしにぶら下がっているにもかかわらず、二人は示し合わせたように、それが見えないふりをしている。
澄長が竹丸の寝衣を脱がせると、二の腕の内側のやわらかな皮膚に、何者かに強く掴まれたような指の痕が赤い痣となって残っていた。
それを目にした時、澄長は目眩のような衝撃に襲われた。
頭では理解している。
竹丸は被害者であり、何の落ち度もないことを。
しかし、理屈と感情は別ものだった。
行燈のあかりがゆらめく薄暗い寝所で、白い褥の上にいると、父の腕の中で、竹丸がどのような痴態をさらしたのかという妄想に襲われる。
昼間の光の下では無視できたそれは、夜の闇が落ちると、毒蛇のようにむくりと首をもたげてくる。
父・虎長は、人の心と体を操る術に長けた古狸だ。
暴力だけではない。
熟達した手練手管で責められ、若く未熟な竹丸は、快楽に乱れ、あさましい姿を晒したのではないか。
──私には見せたことのない顔を、父には見せたのだろうか。
その昏い想像が脳裏をよぎるたび、澄長の心は、焼けつくような焦燥で乱された。
澄長は、その嫉妬にふりまわされるままに竹丸を抱いた。
父の影を振り払い、その痕跡を塗りつぶそうとするかのように、爪が竹丸の肌に食い込む。
竹丸は、澄長の指から伝わる気持ちが、いつもの慈しむような愛情ではないことを、敏感に感じ取った。
そこにあるのは、独占欲と、汚されたものへのわずかな嫌悪、そして疑心。
その荒々しい愛撫は、皮肉にも、竹丸が封印しようとしていた虎長との記憶を呼び覚ました。
脳裏に蘇る屈辱と痛み、そして強制された快楽の記憶。
竹丸は、愛しくてたまらないはずの澄長の腕の中で、吐き気がするほどの嫌悪に襲われた。
──嫌だ、やめて……!
叫び出しそうになる衝動を、竹丸は必死に堪えた。
ここで澄長を拒否すれば、すべてが終わる。
竹丸は心を肉体から切り離し、ただの物言わぬ人形となって、嵐が過ぎ去るのを待つ道を選んだ。
澄長は、腕の中の竹丸が、心を閉ざし、石のよう硬くなるのを感じた。
体温を感じる。
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しかし、竹丸の心はここにはなかった。
──なぜだ、竹丸、父に抱かれた時はこうではなかったはずだ。
澄長は、竹丸が遠ざかるのを感じれば感じるほど、さらに追いすがるように、激しく掻き抱いた。
父が与えた快楽を、自分の手で上書きし、打ち消さなければならないという強迫観念が、彼を駆り立てる。
だが、澄長が激しく求めれば求めるほど、その情熱は刃となって竹丸の心を傷つけ、孤独へと追いやっていくことに、彼は気づきもしなかった。
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