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第3章 堕ちる太陽
6.苛立ち
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その夜、藤田重政は苛立ちを隠すことなく、本丸から二の丸への通路を早足で進んだ。
今宵は澄長のお渡りの日であり、あらかじめ昼間のうちに竹丸へ、いつもの時刻に中奥へ来るようにと伝えておいた。
しかし、約束の時刻を過ぎても、竹丸は現れなかった。
迷いでも生じたか、あるいは恐怖で足がすくんだか。
──いずれにせよ、もっと厳しく躾けてやらねば。
二の丸新御殿の入口にも馬廻の詰所があり、澄長付きの馬廻衆が詰めている。
藤田は顔を知られているため、いつものように太刀を預けて殿からの使いだと告げれば、それ以上あれこれ詮索されることなく中に入ることができた。
竹丸の部屋へと続く廊下の曲がり角に入ると、進行方向から一人の男がぬっと姿を現した。
澄長の小姓頭、弥三郎だった。
「これは藤田殿。かような時刻に、いかなるご用向きで?」
弥三郎は慇懃な態度を崩さないが、その立ち位置は、明らかに藤田の行く手を阻んでいる。
「織部竹丸殿に、少々伝え忘れた儀がございましてな」
藤田は笑顔で答えた。
「竹丸殿は、あいにくと体調を崩し、早々に休んでおります。若様より、何人たりとも近づけるなと命じられております。お引き取り願えますか?」
それは疑問の形をとっていたものの、弥三郎の声と表情は固く、異論を挟む余地はなかった。
その背後、暗がりの奥から、もう一人の気配──おそらく清太郎であろう──が、こちらの様子を窺っているのに藤田は気づいていた。
──ほう、番犬がついたか。
藤田は一瞬、目を細めたが、すぐに愛想の良い笑みを浮かべた。
「左様でございますか。では、また日を改めるといたしましょう。お大事にとお伝えください」
一礼すると、藤田はあっさりと踵を返した。
ここで揉め事を起こしても藪蛇だ。
それに、この反応こそ、ある種の「成果」を示していると直感した。
今宵は澄長のお渡りの日であり、あらかじめ昼間のうちに竹丸へ、いつもの時刻に中奥へ来るようにと伝えておいた。
しかし、約束の時刻を過ぎても、竹丸は現れなかった。
迷いでも生じたか、あるいは恐怖で足がすくんだか。
──いずれにせよ、もっと厳しく躾けてやらねば。
二の丸新御殿の入口にも馬廻の詰所があり、澄長付きの馬廻衆が詰めている。
藤田は顔を知られているため、いつものように太刀を預けて殿からの使いだと告げれば、それ以上あれこれ詮索されることなく中に入ることができた。
竹丸の部屋へと続く廊下の曲がり角に入ると、進行方向から一人の男がぬっと姿を現した。
澄長の小姓頭、弥三郎だった。
「これは藤田殿。かような時刻に、いかなるご用向きで?」
弥三郎は慇懃な態度を崩さないが、その立ち位置は、明らかに藤田の行く手を阻んでいる。
「織部竹丸殿に、少々伝え忘れた儀がございましてな」
藤田は笑顔で答えた。
「竹丸殿は、あいにくと体調を崩し、早々に休んでおります。若様より、何人たりとも近づけるなと命じられております。お引き取り願えますか?」
それは疑問の形をとっていたものの、弥三郎の声と表情は固く、異論を挟む余地はなかった。
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藤田は一瞬、目を細めたが、すぐに愛想の良い笑みを浮かべた。
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