俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる

ゆなな

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俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる〜B面〜

B面3

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「コータぁ、俺あんまし上手くないから後ろの方やっとくね。前の方コータ行って」
「おけ。なっちゃん2もあんまプレイしてないって言ってたもんね」
「うん。買ってからちょっとは練習したんだけど」
「いーよ、いーよ。じゃ始めよっか」 
 二人でコータのベッドに並んでゲームを始める。
 黒がベースのコータの部屋。シンプルだけど、キラキラのコータの髪がよく映える彼の部屋はいつものシトラスがちょっとだけ甘くて俺はそれだけでヤラれてしまいそうだった。
 ドキドキする胸を抑えてゲームのスイッチをオンにする。
「真琴のこと待たなくてもいいの?」
「うーん。まこちゃん後輩に宿題教えてって頼まれたからちょっと遅くなるって。待ってても暇だし、やろ」
 そう言って俺たちはカラフルなゲームの世界に入っていった。

「もー、なっちゃんヘタだなぁ」
 何度もキルされてばかりの俺をコータが笑う。
「だって、買ったばっかだもん。前のやつコータみたいにやってたわけじゃないし」
 ちょっとだけ頬を膨らます。
「ごめん、ごめん。拗ねないで。じゃ、一旦抜けてなっちゃんに教えてあげるから許して」
 そう言って綺麗な瞳で俺を覗き込むから、また俺の心臓はどきりと脈打つ。
「しょ……しょうがないなぁ。それで許してやるよ」
 コータはかっこよくてそれでいて可愛くて。怒れるわけなんてないんだけど、俺はちょっとだけ調子に乗ってそう言ってみた。
「んじゃ、ココきて。なっちゃん」
 そう言ってコータが移動を指示した場所は、何とコータの脚の間だった。
「そこぉ?!」
 驚いて俺は目を丸める。
「うん。後ろからなら、なっちゃんのプレイしてる指と画面同時に見れるからアドバイスしやすいでしょ」

 いいから、おいで。

 コータの目が優しく細められた。
 そっと手招きされた俺は、魔法の呪文に掛けられたようにフラフラと立ち上がって、少し広げられたコータの脚の間に座った。
「よし。じゃあちょっとプレイしてみ?」
 そう言ってコータは俺の肩に顎を乗せた。
 頬が触れ合いそうなほど近い。
 まるで背中から抱き締められているみたいな体勢。
 プレイが始まったけれど、コータの吐息が頬をくすぐって、シトラスが強く香って正直それどころじゃない。
「なっちゃんのブキ、飛距離短いから相手との距離考えて上手く隠れて……っほら、敵こっち来たから隠れて……っ」
 コータが俺の手に自分の手を重ねるようにして、俺のゲームを操作する。
 コータの逞しい胸がぴったり俺の背に合わさって、後ろから抱き締められているみたいで、心臓が壊れてしまいそうだった。
「そんで、相手が近付いてきたらギリギリのとこまで我慢して……」
 説明してくれる声もいつもより低くて、密着したところが熱くて、コータの香りがいつもより濃厚で……
 まるでお風呂でのぼせたみたいになった俺は、何が何だかもうわからなくなる。
「なっちゃん、今っ……今撃って!」
「ふぇ……? いま……?」
「あっほら、今だってっ……」
 コータが密着してくるせいでわけがわからなくなった俺がぽやぽやしていると、コータが俺の指を強く押すようにして攻撃のコマンドを出した。
「今の距離とタイミングわかった? 自分のブキの飛距離把握して攻撃のタイミング掴むんだよ」
 そう言ってコータは俺をぎゅっと抱き締めるみたいに腕に力を入れた。
「なっちゃん、細いなー。俺の腕の中にすっぽりじゃん」
「え……あ……はぁ?」
 あまりのことに俺の頭はショートしたみたいになる。
 そのときだった。
「わ……っ」
 コータのポケットに入っていたスマホが震えて、くっついていた俺にまで振動が伝わった。
「あ……まこちゃんかな」
 コータの口から出たその名前に俺の体はぎくり、と強張った。
 腕の中の俺の様子には気付かないコータはポケットからスマホを取り出して、受け取ったメッセージに目を走らせる。
「えー……まじか……」
 明らかに落胆したコータの声。
「ど……どうしたの……?」
「まこちゃん、今日来れないって……」
 悲しそうにコータが言う。
「へ……っ? 何で?」
 真琴は先約を反故したりするようなタイプじゃないので、驚いて俺は聞いた。
「後輩くんちにお泊りだってさ……」
 コータが吐いた溜息に深い悲しみを感じて、俺の胸はずきり、と痛んだ。友達が他の友達の家に泊まるからと言って、普通はこんなに悲しそうにしない。
 そして、俺はコータが真琴の家に泊まると聞くと胸が痛むから、コータの気持ちがわかりすぎるほどわかってしまった。
 元々真琴に敵うはずがないとわかってるのに、はっきり突きつけられるのはいつもきつい。
 コータはぎゅうぅっと俺を抱き締めて溜息を吐く。
「元気だしてよ、コータ……ゲーム続きしよ? お菓子も食べようよ」
 俺だって改めて失恋を突き付けられて泣きたいくらい辛かったけど、悲痛な顔をするコータを励ましたくて声を絞り出す。
「まこちゃん、俺らよりもアイツといる方が楽しいのかなぁ……」
 コータの声を聞いて、泣いているのかと思って俺は慌てて振り返る。
「うわっ……っ」
 くるりと世界が回ったかと思うと、コータのベッドの上に転がされた俺の胸の辺りにコータは顔を埋めていた。
「……寂しいよ……なっちゃん、慰めて……」
 俺の目の前にはキラキラのコータの髪。
 ベッドからはコータのシトラスがいっぱい香って、でも、胸はずきずき痛くって、わけがわからなくなる。
 
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