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9話
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「お邪魔します……」
マリのマンションの部屋はモノトーンで統一されたシックな部屋だった。意外な気はしたが、黒よりも白やグレーの多いモノトーンであることと、ピンクやブルーの花が飾ってあるのがマリらしかった。
いつもマリから香るフローラルな甘い香りがする部屋を想像していたが、少しばかり思っていた香りが違った。フローラルな香りも確かにするのだが、いつもほんのわずかにマリに交じるマリのウッドの香りがかなり強い。
フローラルな匂いの香水を愛用していて、ルームフレグランスがウッディ系なのかもしれない。
それなら普段マリに僅かにウッディ系の香りが混ざるのも頷ける。
出されたスリッパは真っ白でふわふわでそれはマリらしいなと思うと違和感も泡のように弾けた。
可愛らしいアイテムに思わず千晶の頬もゆるむ。
リビングのソファで座っていると、ちいさなトレーにマグカップをのせてマリは戻ってきた。
「これ、体温まるお茶なの」
そう言って渡されたマグカップのお茶を千晶はひと口飲んだ。ジンジャーの香りがして、冷えた体に染み渡るようだった。
「おいしい……」
思わず千晶が呟くとコートを脱いでニットのワンピース姿になったマリが隣に座った。
大きなブラウンの瞳がじっと千晶を見つめる。
「ちーくん、相馬さんのこと忘れたいの?」
マリは千晶の柔らかな髪に指を絡めながら見た目を裏切るハスキーな声で尋ねる。
「忘れ……たい……」
千晶の言葉にマリはゆっくりとその長いまつげを伏せて細く、長く息を吐いた。
「わかった。いいよ。アタシと相馬さんのこともっとちーくんにいっぱい考えて決めてほしかったけど、ちーくんが相馬さんのこともう忘れたいなら、アタシが手伝ってあげるよ」
マリは何かを決心したようにゆっくりと伏せていた長いまつげをひらめかせた。
「もっと、ゆっくりちーくんの気持ちを待ってあげたかったけど……アタシも焦ってきちゃった……他の人にちーくん取られたり……ましてや番にされたりしちゃったら……アタシ狂っちゃうかも……」
いつものハスキーなマリの声よりもっと低い声に千晶が驚いて顔を上げる。
「マリちゃん……?」
隣に座るマリの髪はいつもどおり甘くて優しい女の子の匂いがした。
つやつやとしたグロスが色っぽいマリのくちびるが近くなって、千晶の心臓が早鐘のように脈打つ。
マリの綺麗に塗られたスモーキーブルーの爪の載る指先が優しく頬にそえられて、そっと千晶のくちびると重なった。
にゅる、とグロスが滑る感触に更に胸が高鳴る。
「んんっ……」
マリの舌がくちびるの隙間からするりと潜り込んで千晶の躯はびくん、と震えてしまう。
「んっ……」
粘膜の感触に千晶が思わず声を漏らすと今度はマリの舌は柔らかく濡れた千晶の咥内の粘膜を舐められて擽られる。マリの舌が千晶の舌の付け根、余すところなく舐められる。震える舌をじゅ……と吸われると頭が真っ白になった。
御山の薬の効果を抑えられるように抑制剤をしっかり飲んだはずなのに、腹の奥からたらたらと体液が溢れて下着を濡らしたのがわかって、千晶は思わずソファに置かれたクッションをぎゅっと掴んだ。くちゅくちゅとマリの舌は生き物のように動いて咥内を掻き回す。
「や……マ……マリちゃんっ……ちょ……待っ………んぁ」
思わずマリの胸に手を突っ張ってキスを止める。
「ちーくん、かぁわいい声……」
ふふっとマリは蠱惑的に笑うと、もう一度千晶のくちびるを塞いだ。
息も上手く吐けないほどに、粘膜を舐められて、腕を張ってもしなやかなマリの躯はびくとも動かせなかった。
「んんっ……」
ようやくマリのくちびるから解放されたとき、千晶は座ったままでキスをしてよかったと心から思った。
もし立ってキスをしていたら完全に腰が抜けてしまったに違いない。そんなの凄く格好悪い。
「ちーくんのくちびるにアタシのグロスいっぱい付いちゃったね……色っぽくて興奮しちゃう……ねぇ。ちーくんが思ってたのと違う?」
マリのキスで衝撃を受けて思考がままならない千晶を見て、マリは心底愛しそうに微笑んだ。
「ほんと、可愛い……ベッドルーム、連れていくね……」
マリはそう言うと、ソファの上の千晶を軽々と抱き上げた。
「え? マリちゃん?!」
思わずぎゅっと掴まったマリのノースリーブニットから覗く腕は細く、肌はなめらかできめ細かい感触なのに、しなやかな鞭のような筋肉がしっかりと張り詰めているらしくとても硬い。
細身であるのは同じだが、マリに反して筋肉の付きづらい痩せた千晶の躯は易々と抱えられてしまう。
「いい子にしててね。落っこちたら大変よ」
千晶が自分の状況を理解するまえに寝室に到着する。寝室は更にフローラルとウッディが不思議に混ざり合った匂いが強くなる。そしてその香りの向こうにとっぷりと濃いアルファの匂いがした。その香りはマリもアルファであることを思い出させるだけでなく、もう一つの大切なものも思い出させてくれそうだった。ずれたパズルのピースが千晶の中ではまりそうになったとき。
「うあ……っ」
柔らかなシルクがなめらかな感触の真っ白いベッドの上に優しく、でもやや強引に押し倒された。
「ちーくん、捕まえちゃった……」
「え……」
千晶の上に覆い被さるマリはとびきり妖艶に微笑んだ。
マリのマンションの部屋はモノトーンで統一されたシックな部屋だった。意外な気はしたが、黒よりも白やグレーの多いモノトーンであることと、ピンクやブルーの花が飾ってあるのがマリらしかった。
いつもマリから香るフローラルな甘い香りがする部屋を想像していたが、少しばかり思っていた香りが違った。フローラルな香りも確かにするのだが、いつもほんのわずかにマリに交じるマリのウッドの香りがかなり強い。
フローラルな匂いの香水を愛用していて、ルームフレグランスがウッディ系なのかもしれない。
それなら普段マリに僅かにウッディ系の香りが混ざるのも頷ける。
出されたスリッパは真っ白でふわふわでそれはマリらしいなと思うと違和感も泡のように弾けた。
可愛らしいアイテムに思わず千晶の頬もゆるむ。
リビングのソファで座っていると、ちいさなトレーにマグカップをのせてマリは戻ってきた。
「これ、体温まるお茶なの」
そう言って渡されたマグカップのお茶を千晶はひと口飲んだ。ジンジャーの香りがして、冷えた体に染み渡るようだった。
「おいしい……」
思わず千晶が呟くとコートを脱いでニットのワンピース姿になったマリが隣に座った。
大きなブラウンの瞳がじっと千晶を見つめる。
「ちーくん、相馬さんのこと忘れたいの?」
マリは千晶の柔らかな髪に指を絡めながら見た目を裏切るハスキーな声で尋ねる。
「忘れ……たい……」
千晶の言葉にマリはゆっくりとその長いまつげを伏せて細く、長く息を吐いた。
「わかった。いいよ。アタシと相馬さんのこともっとちーくんにいっぱい考えて決めてほしかったけど、ちーくんが相馬さんのこともう忘れたいなら、アタシが手伝ってあげるよ」
マリは何かを決心したようにゆっくりと伏せていた長いまつげをひらめかせた。
「もっと、ゆっくりちーくんの気持ちを待ってあげたかったけど……アタシも焦ってきちゃった……他の人にちーくん取られたり……ましてや番にされたりしちゃったら……アタシ狂っちゃうかも……」
いつものハスキーなマリの声よりもっと低い声に千晶が驚いて顔を上げる。
「マリちゃん……?」
隣に座るマリの髪はいつもどおり甘くて優しい女の子の匂いがした。
つやつやとしたグロスが色っぽいマリのくちびるが近くなって、千晶の心臓が早鐘のように脈打つ。
マリの綺麗に塗られたスモーキーブルーの爪の載る指先が優しく頬にそえられて、そっと千晶のくちびると重なった。
にゅる、とグロスが滑る感触に更に胸が高鳴る。
「んんっ……」
マリの舌がくちびるの隙間からするりと潜り込んで千晶の躯はびくん、と震えてしまう。
「んっ……」
粘膜の感触に千晶が思わず声を漏らすと今度はマリの舌は柔らかく濡れた千晶の咥内の粘膜を舐められて擽られる。マリの舌が千晶の舌の付け根、余すところなく舐められる。震える舌をじゅ……と吸われると頭が真っ白になった。
御山の薬の効果を抑えられるように抑制剤をしっかり飲んだはずなのに、腹の奥からたらたらと体液が溢れて下着を濡らしたのがわかって、千晶は思わずソファに置かれたクッションをぎゅっと掴んだ。くちゅくちゅとマリの舌は生き物のように動いて咥内を掻き回す。
「や……マ……マリちゃんっ……ちょ……待っ………んぁ」
思わずマリの胸に手を突っ張ってキスを止める。
「ちーくん、かぁわいい声……」
ふふっとマリは蠱惑的に笑うと、もう一度千晶のくちびるを塞いだ。
息も上手く吐けないほどに、粘膜を舐められて、腕を張ってもしなやかなマリの躯はびくとも動かせなかった。
「んんっ……」
ようやくマリのくちびるから解放されたとき、千晶は座ったままでキスをしてよかったと心から思った。
もし立ってキスをしていたら完全に腰が抜けてしまったに違いない。そんなの凄く格好悪い。
「ちーくんのくちびるにアタシのグロスいっぱい付いちゃったね……色っぽくて興奮しちゃう……ねぇ。ちーくんが思ってたのと違う?」
マリのキスで衝撃を受けて思考がままならない千晶を見て、マリは心底愛しそうに微笑んだ。
「ほんと、可愛い……ベッドルーム、連れていくね……」
マリはそう言うと、ソファの上の千晶を軽々と抱き上げた。
「え? マリちゃん?!」
思わずぎゅっと掴まったマリのノースリーブニットから覗く腕は細く、肌はなめらかできめ細かい感触なのに、しなやかな鞭のような筋肉がしっかりと張り詰めているらしくとても硬い。
細身であるのは同じだが、マリに反して筋肉の付きづらい痩せた千晶の躯は易々と抱えられてしまう。
「いい子にしててね。落っこちたら大変よ」
千晶が自分の状況を理解するまえに寝室に到着する。寝室は更にフローラルとウッディが不思議に混ざり合った匂いが強くなる。そしてその香りの向こうにとっぷりと濃いアルファの匂いがした。その香りはマリもアルファであることを思い出させるだけでなく、もう一つの大切なものも思い出させてくれそうだった。ずれたパズルのピースが千晶の中ではまりそうになったとき。
「うあ……っ」
柔らかなシルクがなめらかな感触の真っ白いベッドの上に優しく、でもやや強引に押し倒された。
「ちーくん、捕まえちゃった……」
「え……」
千晶の上に覆い被さるマリはとびきり妖艶に微笑んだ。
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