それはとても、甘い罠

ゆなな

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それは、とてもあまい罠

2話

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「シンデレラ、今日も帰しちゃったんですか。」
 深い海の底をイメージした店に戻ると、カウンターでシェーカーを振る大学生のアルバイト、ハヤトに声をかけられる。
「シンデレラ?」
「悠くんですよ。いつも12時きっかりに帰るから、みーんなオーナーのシンデレラって呼んでますよ。」
「そうか」
 意味深長に笑うリョウ。
「それにしても、長いですよね。俺、オーナーってこういう一人にこだわった恋愛しないヒトだと思ってました」
  Deep blueのイメージにぴったりと合うため、即採用となってから2年ほど経つハヤトも、リョウに合わせて笑いながらシェーカーを振る。
「悠くんと手ぇ、繋ぎました?」
「いや……アイツ、手なんか繋いだらイッちまいそうなくらい敏感だからな」
「まじっすか。Deep blueのリョウさんが手も繋がず半年間大事に大事にしてるなんて……ウケる。言って回ってもいい?」
「笑ってろ。まぁ、そのうちな」
「そのうち?」
「あまやかして、あまやかして……俺なしじゃ生きていけないようにトロトロにしてから……」
「してから?」
「欠片も残さず、喰うんだよ」
 くくくっと笑うリョウ。
 そして、あまいのみものが僅かに残っている悠の使ったグラス。長い指先ですっ……とグラスを取ると、喉を鳴らして残りを飲み干した……悠の使ったグラスはまるで砂糖で出来ているのではないかと思うほど、あまくて……ぺろりとグラスの縁を舐めた、いやらしいリョウの仕草に。
「怖ぇー!」
「言うなよ、アイツに。」
 人差し指をくちびるに当てて、横目でハヤトを見遣る仕種はゾッとするほど艶かしい。
「俺だって命は惜しいから大人しくしときます」
 ハヤトの言葉にそれはそれは楽しそうにリョウが笑った。そのとき胸ポケットにある電話が震えた。画面に出る名前にまで、顔がにやけるリョウを恐ろしいものを見るような目で見るハヤトを無視して画面を美しい指先でタップすると
『リョウさん、家に着きました』
 鼓膜が溶けそうなほど、あまい声が耳の中に響いた。
 だから、とびきりあまい声でささやき返した。
「おかえり、悠。」
 きみはもう、罠の中。
 俺は簡単に逃がしたり、しないよ。
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