それはとても、甘い罠

ゆなな

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それは、とてもあまい罠

3話

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(あ……これも……)
 あまりの的中ぶりに定期試験中だというのに悠は思わず声を漏らしかけた。
(リョウさんの予想問題と殆ど一緒だ………)
 蒼い海の中をイメージしたような大人っぽい彼の店の片隅。数学の解説をしているとは思えないほどセクシーなバリトンを思い出す。
 試験中にも拘わらず、教えてもらったときの記憶に溺れそうになって慌てて頭を軽く振って問題に集中する。
 (ここまで問題を予想してもらって、外したらカッコ悪い……)
 そう思ってシャープペンシルを試験用紙の上に

*****

 ずっと優等生であった悠だが、ここ半年は週に二度ほどDeep blueというクラブに予備校の後立ち寄っていた。そこの若きオーナーであるリョウ。
 半年ほど前にDeep blueに続く階段に行く当てもなく茫然と座っていたところで悠は彼に出会った。
 いや、拾われたと言った方が相応しいかもしれない。店の前の階段に下らない苛めに疲れ果てて雨と涙に濡れたまま悠はその日、座っていた。

『きみは俺の後輩かな』 
 濡れた学ランの襟に付いている余りに有名すぎる学校の校章を指摘して、声を掛けてきたのがリョウだった。あまりに美しく低く響いた声を悠は現実のものとは思えず、階段に座ったまま眠ってしまって夢を見ているのかと思ったほどだった。
 悠が顔を上げるとまるで雑誌の中から飛び出てきたのではないかと思えるくらい美しい男が其処に居た。
 黒い髪をタイトにセットして、背は180センチ後半台であろうか、悠より相当上に目線があった。
 加えて何よりカラーコンタクトでは到底表現出来ないであろう透明度の高い蒼い瞳は、この世のものとは思えない美しさであった。驚きのあまり悠の涙も止まってぼんやりと見つめてしまった。
 返事もできずにいる悠にリョウはくくくっと笑うと…
『懐かしいな。数学科の高野先生には随分お世話になったんだけど、知ってる?』
 わかりやすく興味深い授業をしてくれるベテラン教師の名前に、金縛りにでもあったかのようになっていた悠の時間も動き出す。
『あ……高野先生………今俺、数学担当してもらっています』
『そうなんだ。懐かしいなぁ。高野先生わかりやすくて、いいだろ?あと、英語科の森山は同級生だったよ』
『え?森山先生と同級生って……森山先生意外と若い……?』
 驚いて思わず心の声が飛び出てしまう。
 だって担任でもある森山先生は30才とっくに超えてると思ってたんだ……
 目の前の美しい男はどう見ても20代だ。
『あはは。ねぇ、きみ。もし時間あったら俺の店、此処なんだけど寄って行かないか。その制服を見たら少し懐かしい話を聞きたくなった』
 担任の名前を出されたことで警戒心が薄らいだことと、夜遊びを知らない悠でさえも耳にしたことのある店を示されたこともあってか、誘われるままDeepblueと刻まれたシルバープレートがあしらわれた扉の向こうにある深い海に足を踏み入れた。
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