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2章
2話
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その後残りの雑用を片付けると、普通の会社員よりはやや早めの午後5時に高弥は病棟を出た。
当直を終えて帰ろうとしたら、 容態が急変した患者のオペの助手をしろと沢村に捕まって、さらに雑用を押し付けられて夕方になってしまった。丸一日働き詰めだとぶつぶつ呟きながら、病院の駐輪場に停めてあるお気に入りの自転車に跨がる。
白衣を脱ぎTシャツにハーフパンツ姿の高弥はインターンどころか、 高校生くらいにしか見えないと常日頃から年下の看護師達にまでからかわれている。
軽快に自転車を漕いでスーパーに寄ると、買い物を済ませ帰路につく。
まだまだ暑い橙色の西日を浴びながら、相変わらずのアパートの前に自転車を置く。すぐ傍に止められているのは見覚えがありすぎるバイク。
(やっぱり……)
2階に上がって自室のドアを捻るときちんと戸締まりして出た筈のドアの鍵は開いていた。
わざとらしく大きなため息を吐きながら家の中に入る。
広くない部屋なので、廊下と居室を隔てるドアを開けるとすぐに見馴れた人物を高弥のベッドの上に見付ける。
「 約束があったんじゃないんですか?」
そう言って人に仕事を押し付けたくせに、と睨み付けながら小さなキッチンで買い物の中身を冷蔵庫に押し込む高弥。
「あー、マリんとこ行こうと思ったんだけどな、もう夕方じゃん?あいつ出勤する時間だなーと思って」
高弥のベッドの上に寝転びながら高弥のゲーム機でゲームに興じてる男は振り返りもせずに、夜の街で働く女の名前を平気で口にする。
酷いときはベタベタに甘い香水の匂いをこれでもかと纏わせ、酩酊した状態で真夜中にやってくるときもあるくらいなので、マシな方かと思いながら、部屋に散らかされた空のビールの缶やスナック菓子のゴミを溜め息混じりに拾い集める。
「勝手に人んちのお菓子食べ散らかさないでもらえます?」
眉間に皺を寄せながら文句を言ったところで、ゲームに夢中な男は右から左である。
狭いだのボロいだの文句を言うくせにいつの間にか高弥の部屋に居座るようになり、盗んだ鍵は当然のように高弥には返さず自由に使っている。
「犯罪だっつーの」
ブツブツ言いながらとりあえず、汗をシャワーで流してさっぱりしてから調理を始める。
汗を流してしまうと、急に空腹を感じた。兎に角早く夕ご飯を食べたい。
手早く食べられる冷やし中華の具材を刻んでいる間に、麺を茹でるお湯を大きな鍋に沸かす。
ちょっと奮発したフルーツトマトにナイフを入れていると、
「お。冷やし中華。いいな。ビールあと何本残ってたっけ?」
と、いつの間にかゲームを中断した男がフラフラとキッチンに現れる。
「沢村先生の分も作るなんて言ってないですけど」
高弥が言うと、
「とかなんとか言って3食入りの麺買ってんじゃん。お前1食分で俺2食分ってことだろ?」
「ぶー。違いますぅー。 お買い得な冷やし中華の麺は大抵3食入りなだけで、 俺の今日のと明日の分の食料です。残った分は休日のランチ用に取っておきます。なので沢村先生の分はありません」
「またまたぁ。 あ、紅生姜入れといて。この前たこ焼きやったときに買ったの余ってんだろ」
沢村はそう言うと冷蔵庫の中からビールと茹でた枝豆を取り出して、またベッドの上に戻る。
「ベッドの上は飲食禁止!」
トマトの次はトントンと小気味良く胡瓜を刻みながら高弥が怒っても、 沢村は何処吹く風で、ベッドの上に寝そべって缶ビールのプルタブを引く。
家主の言うことなど何一つ聞かない男は今度はテレビのリモコンを弄り出して野球にチャンネルを合わせる。
高弥も夕食をつつきながら、野球を観ようと思っていたので、それ以上は文句を言わず、溜め息だけ吐いてテレビの前の小さなテーブルに夕食を並べるべく、テーブルを拭く。
今日と明日の食料と言ったけどやっぱり2日続けて冷やし中華が嫌なだけだし。 休日のランチ用に残しておいたって結局食べ忘れて捨てることが多いからもったいないし。
ぶつぶつと言い訳も一緒に二人分の夕食をテーブルに並べていく。
「お、旨そう。お前の冷やし中華さー、肉が焼豚じゃなくて鶏の胸肉蒸したやつなの、貧乏くさいと思ったけどさっぱりしててうまいんだよな。あ、ビールお代わり」
「飲み物は沢村先生が用意して下さい」
「えー先輩にそんなこと言う?」
「普通の先輩は後輩の家で毎日のようにご飯食べたりしません。あ、俺にもビールお願いします」
「へーへー」
いつの間にか高弥の部屋に持ち込まれたゆるゆるのスウェットの中に手を潜らせて腹をボリボリと掻きながら沢村は冷蔵庫に向かう。 病院での姿とは大違いのだらしない姿。私服のジーンズ姿は足も長い沢村に似合っていて密かに高弥は気に入っているがこの家でオシャレなどする気は毛頭ないようで、いつもこのスウェットばかり履いている。
(俺もまぁこの人にとっちゃこのスウェットみたいなもんなんだろうな)
鼻歌混じりに冷蔵庫を漁る姿を横目で見ながら高弥はそう思った。
当直を終えて帰ろうとしたら、 容態が急変した患者のオペの助手をしろと沢村に捕まって、さらに雑用を押し付けられて夕方になってしまった。丸一日働き詰めだとぶつぶつ呟きながら、病院の駐輪場に停めてあるお気に入りの自転車に跨がる。
白衣を脱ぎTシャツにハーフパンツ姿の高弥はインターンどころか、 高校生くらいにしか見えないと常日頃から年下の看護師達にまでからかわれている。
軽快に自転車を漕いでスーパーに寄ると、買い物を済ませ帰路につく。
まだまだ暑い橙色の西日を浴びながら、相変わらずのアパートの前に自転車を置く。すぐ傍に止められているのは見覚えがありすぎるバイク。
(やっぱり……)
2階に上がって自室のドアを捻るときちんと戸締まりして出た筈のドアの鍵は開いていた。
わざとらしく大きなため息を吐きながら家の中に入る。
広くない部屋なので、廊下と居室を隔てるドアを開けるとすぐに見馴れた人物を高弥のベッドの上に見付ける。
「 約束があったんじゃないんですか?」
そう言って人に仕事を押し付けたくせに、と睨み付けながら小さなキッチンで買い物の中身を冷蔵庫に押し込む高弥。
「あー、マリんとこ行こうと思ったんだけどな、もう夕方じゃん?あいつ出勤する時間だなーと思って」
高弥のベッドの上に寝転びながら高弥のゲーム機でゲームに興じてる男は振り返りもせずに、夜の街で働く女の名前を平気で口にする。
酷いときはベタベタに甘い香水の匂いをこれでもかと纏わせ、酩酊した状態で真夜中にやってくるときもあるくらいなので、マシな方かと思いながら、部屋に散らかされた空のビールの缶やスナック菓子のゴミを溜め息混じりに拾い集める。
「勝手に人んちのお菓子食べ散らかさないでもらえます?」
眉間に皺を寄せながら文句を言ったところで、ゲームに夢中な男は右から左である。
狭いだのボロいだの文句を言うくせにいつの間にか高弥の部屋に居座るようになり、盗んだ鍵は当然のように高弥には返さず自由に使っている。
「犯罪だっつーの」
ブツブツ言いながらとりあえず、汗をシャワーで流してさっぱりしてから調理を始める。
汗を流してしまうと、急に空腹を感じた。兎に角早く夕ご飯を食べたい。
手早く食べられる冷やし中華の具材を刻んでいる間に、麺を茹でるお湯を大きな鍋に沸かす。
ちょっと奮発したフルーツトマトにナイフを入れていると、
「お。冷やし中華。いいな。ビールあと何本残ってたっけ?」
と、いつの間にかゲームを中断した男がフラフラとキッチンに現れる。
「沢村先生の分も作るなんて言ってないですけど」
高弥が言うと、
「とかなんとか言って3食入りの麺買ってんじゃん。お前1食分で俺2食分ってことだろ?」
「ぶー。違いますぅー。 お買い得な冷やし中華の麺は大抵3食入りなだけで、 俺の今日のと明日の分の食料です。残った分は休日のランチ用に取っておきます。なので沢村先生の分はありません」
「またまたぁ。 あ、紅生姜入れといて。この前たこ焼きやったときに買ったの余ってんだろ」
沢村はそう言うと冷蔵庫の中からビールと茹でた枝豆を取り出して、またベッドの上に戻る。
「ベッドの上は飲食禁止!」
トマトの次はトントンと小気味良く胡瓜を刻みながら高弥が怒っても、 沢村は何処吹く風で、ベッドの上に寝そべって缶ビールのプルタブを引く。
家主の言うことなど何一つ聞かない男は今度はテレビのリモコンを弄り出して野球にチャンネルを合わせる。
高弥も夕食をつつきながら、野球を観ようと思っていたので、それ以上は文句を言わず、溜め息だけ吐いてテレビの前の小さなテーブルに夕食を並べるべく、テーブルを拭く。
今日と明日の食料と言ったけどやっぱり2日続けて冷やし中華が嫌なだけだし。 休日のランチ用に残しておいたって結局食べ忘れて捨てることが多いからもったいないし。
ぶつぶつと言い訳も一緒に二人分の夕食をテーブルに並べていく。
「お、旨そう。お前の冷やし中華さー、肉が焼豚じゃなくて鶏の胸肉蒸したやつなの、貧乏くさいと思ったけどさっぱりしててうまいんだよな。あ、ビールお代わり」
「飲み物は沢村先生が用意して下さい」
「えー先輩にそんなこと言う?」
「普通の先輩は後輩の家で毎日のようにご飯食べたりしません。あ、俺にもビールお願いします」
「へーへー」
いつの間にか高弥の部屋に持ち込まれたゆるゆるのスウェットの中に手を潜らせて腹をボリボリと掻きながら沢村は冷蔵庫に向かう。 病院での姿とは大違いのだらしない姿。私服のジーンズ姿は足も長い沢村に似合っていて密かに高弥は気に入っているがこの家でオシャレなどする気は毛頭ないようで、いつもこのスウェットばかり履いている。
(俺もまぁこの人にとっちゃこのスウェットみたいなもんなんだろうな)
鼻歌混じりに冷蔵庫を漁る姿を横目で見ながら高弥はそう思った。
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