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2章
3話
しおりを挟む嫌々動いた割にはご丁寧に冷やしたグラスに注がれたビールが高弥の前に置かれた。
冷やし中華に休みの日に作り冷凍しておいたものを焼いた餃子、 枝豆やわかめスープが並んだ食卓に高弥は溜め息を吐く。 一人だったら冷やし中華だけで済ませただろう夕食。
無意識に品数を増やしてしまった自分に高弥は舌打ちをしてしまいたいような気分だったが、テレビからどっと上がった歓声に顔を上げる。
「お!タイムリーじゃね?」
「いけ!三塁回れ!」
「いった!いった!セーフ?!」
「セーフ!!」
「よし!」
応援するチームの得点場面に思わずハイタッチする。
「やー、いいわー。ロメオが故障リストに入ったからもう今季は期待できねぇかなって思ってたけど」
「ルーキーの伊東いいっすよね!」
「な。チャンスの場面で打てんのな。打線繋がるようになったもんな。あー、餃子うめぇ。ビールに合うわー」
尚も続くチャンスのシーン。
「でも次三好かぁ。打ちますかねぇ」
「ここんとこ調子悪いもんなー。 つーか、このトマトに掛かってんの何?すげぇ旨い」
「バルサミコ酢で作ったドレッシングです。っと、ゴロだぁ」
「やっぱ三好調子悪ぃな」
「ですね。でもまぁピッチャー陣調子いいからこの点差でもいけそうじゃないですか?」
贔屓のチームの好調な様子に、冷えたビールも滑らかに喉を通る。
「3点もありゃ余裕で山下が抑えるだろ」
「ですよね。今年断トツですもんね。セーブ王かな」
「セーブ王だろうな。 もう二位に10セーブ以上差ぁついてるし」
盛り上がりながら応援している間に食事は進む。そして、今日は絶好調らしい二人の応援しているチームが相手チームに大差をつけて勝負がついた頃には、食事を終えて満足気に寝そべる肉食獣のように沢村は横になってうとうとしていた。
「沢村先生、寝るなら歯磨きしないと」
食器を片付けた高弥が声を掛けると
「あー、うん……」
眠たそうな生返事が沢村から返ってくる。
「ほら、歯ブラシ持ってきましたから、磨いて下さい」
そう言ってうとうとする沢村の横に座り、恋人でもないのにいつの頃からか洗面所に置かれるようになった歯ブラシを沢村の目の前で振ってみせた。
するともぞもぞと沢村は頭を動かして横に座る高弥の膝の上に頭を乗せて。
「……何のマネですか……」
「磨くの面倒くせぇから高弥磨いて」
とんでもないことを言い出した沢村に高弥は眉を顰める。
「……嫌です」
「この前はやってくれたじゃん」
「あんたがベロベロに酔ってて前後不覚だったからじゃないっすか。ったく子供じゃあるまいし」
文句を言っているにもかかわらず、膝の上で口を開けて待たれると、やらなきゃいけないような気になってくる。
ため息一つ吐いたあと些か乱暴に歯ブラシを男の口に突っ込む。
「いってーな」
「やってもらってるくせに、うるさい」
そうは言ったものの高弥は元来の性格から雑にも出来ず、丁寧に磨いてやる。
磨いてやること数分。
「はい、出来ました。濯いで来てください」
高弥がそう言うと、さすがに濯がないと気持ちが悪いのか沢村も漸く重い腰を上げた。
すると暫くして沢村が手に高弥の歯ブラシを片手に現れた。
「お陰さまで目ぇ覚めたからお礼に高弥のやってやるよ」
「は?結構です。自分でやりますから……っわ」
ニヤニヤ近寄ってきた沢村は、器用に高弥の足を払って床に転がした。
痛くないように巧いこと転がされた高弥の上に沢村は乗り掛かる。
「ほら、あーん、してみ?」
「ふぁ……ひゃめてくだひゃいっ」
高弥のくちびるの端を長い指に引っ張られる。
僅かに空いたくちびるの隙間から長い指が射し込まれて、咥内の粘膜を擽られた。
「ひ……っ」
思わず口を開けると歯ブラシを突っ込まれた。
「ほら、大人しくあーんしろって」
何が楽しいのか、笑いながら高弥の咥内で歯ブラシを動かす。
そんなに長い時間ではなかったが、高弥にとってはとても長く感じられ、終わるや否や脱兎のごとく逃げ出した。
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