かきまぜないで

ゆなな

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番外編SS

TSUWARI

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*嘔吐表現あります。苦手な方は閲覧をご注意下さい*


「ただいまー……高弥?」
 玄関で声を掛けると体調がいいときはパタパタとスリッパを鳴らして高弥は出てくる。僅かな物音が聞こえるので、ソファでうたた寝しているわけでもなさそうだ。
 トイレにうっすらとした灯りが点いていて、ドアも細く開いていた。沢村は洗面所で手を綺麗に洗って、洗面器に湯を張るとトイレのドアを開けた。そこに予想どおり電気も点けずに踞っている高弥を見付けた。
「おーい、高弥ー。大丈夫かぁ?」
 声を掛けて電気を点けると
「で……電気点けな、でぇ…… 見な、で欲し……」
 振り返った高弥の顔を見て沢村は眉をひそめた。
「わーお、見事に真っ青じゃん。いつからこうしてた? こうなったら電話しろっつたろーが」
「ご……めんなさ……っ うぇ……ごほ……っ」
 ひっきりなしに襲ってくる吐き気にえずくようにして高弥は咳き込んだ。
「悪ぃ、 心配しただけで怒ってねぇよ」
 背中をさすってやると酷く躯が冷えていた。
「また上手く吐けねぇの?」
 ただでさえ細身の背中が、ここのところいっそう頼りなくなったように思える。
 高弥は口許を押さえたまま、頷いた。
「今日……っ上手く、吐けなくて……」
 上手く吐くことができないと、気持ち悪いのが治まらず、ずっと吐き気と戦うことになる。
 息も絶え絶えにそう言って、普段は見せたことのない表情で沢村を見上げる。
「指突っ込んで吐くの出来ねぇ?」
 背中をさすりながら沢村が尋ねると、高弥は左右にかぶりを振った。
「俺がやってやるから、くち、開けろ」
 沢村が言うと、いっそう激しく高弥はいやいや、というようにかぶりを振る。その子供のときのようなしぐさは、無邪気なようでいて、どこか艶かしく見えるのは昔から変わらないなと沢村は思う。
 それでも強引に吐かせるのは躊躇うものがあるが、そうしなければ冷えた躯で高弥はずっと踞っているだろうと思い些か強引に顎を捕らえる。
「や……っ……それ、や、らぁ……」
 嫌がるのを無理に口の中に二本の指を突っ込む。逃げる舌を押さえ、熱くぬめる喉の奥まで揃えた指先を強引に押し入れた。
 濡れた柔らかな咥内の粘膜が指に絡む感触に、沢村の背にぞくぞくとした興奮が駆け昇った。
 その後高弥は顔を伏せると苦しそうに喘ぎながら高弥は胃の中にわずかに残って高弥を苦しめていた残留物を吐き出す。
 しばらくして、顔を上げた高弥の涙や胃液で汚れた顔を、洗面器に用意したお湯にタオルで濡らして拭ってやる。自分でやる、とタオルを取るかと思ったが、疲れ果ててしまったのか、まるで子供のように従順にされるがままだった。
 自分の精を散々受けたせいでこんなことになっているのだと思うと、己の底の見えない欲望が満足気に低く笑った。



 うがいをしたいという高弥を洗面所に連れて行ったあと、ほんの少しだけ白湯を飲ませてからベッドに運んだ。
 白湯を吐き出さずにわずかでも飲めたことにホッとしつつ、柔らかな布団の中に一緒に潜る。
「や……やだって言ったのに」
「無理やりやって悪かったって。でも楽になったろ?」
 沢村がそう言うと高弥はぎゅっと沢村のシャツの胸の辺りを掴む。
「あんなみっともないの、見られるのやだったのに……っ」
 大粒の涙がポロポロと頬を濡らす。
「あー、もう泣くなって。みっともなくねぇよ」
 よしよし、と頭を撫でても高弥の涙は止まらない。
「汚いし……っ」
「汚くもねぇ。むしろ可愛かったっつーの」
 大丈夫だ、とぎゅっと抱き締めると
「可愛いわけないじゃん、ばか」
憎まれ口が聞こえた。
「はいはい、俺は馬鹿ですよ。いいから少し寝ろ、真っ青だぞ」
 それさえも可愛いと思うから沢村は中々重症だな、と自分で思う。
「……嘘。  ごめんなさい。ばかじゃない。いっぱい面倒見てもらってごめんなさい」
 今度は蚊の鳴くような声で言う。いつもの高弥からは考えられないほどのジェットコースターのような感情の乱高下。
「謝ることじゃねぇよ。謝るんだったら」
 沢村は軽く高弥のくちびるにちゅ、とキスして
「コレのがいい」
そう沢村が言うと、高弥はゴシゴシ自分のくちびるをこすって
「……さっき吐いたから汚いのに……っ」
とまた声を震わせる。
「汚くないっつった。ちゃんとゆすいだろ?ま、ゆすいでなくても俺は高弥なら全然気になんねぇけどな」
 そう言ってもう一度くちびるを落とす。本当は舌を突っ込んでめちゃくちゃに咥内掻き回したいけど、抱き締めた躯から胃の辺りがひくひくと痙攣しているのが伝わってきて沢村はぐっと耐える。
「ばか、変態」
「今さらだろうが」
 高弥の悪態に沢村が応えると、
「うそ、そんなことも思ってない。ごめんなさい」
 おでこをぐりぐりと沢村に押し付けながら高弥が再び謝る。
「はいはい」
「今、 面倒くさいヤツって思ってる……」
「思ってねぇよ。ぐずぐずなのすげぇ可愛くてどうしてやろうかと思ってる」
 なだめるように背をさすって、髪に指を潜らせてこめかみの辺りにくちびるを落とす。可愛くて、可愛くてたまらないのはどうやったら伝わるんだろうか。
「うー……、そんなんしないで。優しくされんのやだ……」
 いやいやとかぶりを振る高弥に沢村は低く笑う。
「何? 酷くされんのが好きなの? ドMやのー」
「なんでもやらしい方に結びつけんな。嫌い」
 沢村の胸をドンドンとこぶしで叩く高弥。
「はいはい、わかりました。下ネタはやめるから」
 いやいやと言っても全然本気ではないことがわかるから、沢村は腕の中に高弥を閉じ込めたまま、おでこやまぶたにもキスを落とす。
 優しいキスに少し目がとろんとしてきた高弥が呟くように
「嫌い、じゃない……」
と言った。
「え? 下ネタが?」
「違う、ばか……沢村先生のこと、嫌いって言ったのはうそってこと」
 高弥はそう言うと、静かに沢村の胸に顔を埋めた。本格的に眠くなってきたようだ。
「わぁってるって。高弥の嫌い嫌いは好きのうち、好きって言うのは愛してるって意味だもんな?」
 からかうような口調で背中をポンポン、と叩いてやると
「 ……うん、沢村せんせぇ……すき………」
 高弥のとろとろと甘く眠りに溶けそうな声。それからすぐに、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
「え? 今何て? 好きっつった?」
 沢村が聞き返すも返ってくるのは寝息だけで。
「寝ろっつたけどこのタイミングかよ……あーくそ、やられた……」
 めちゃくちゃに抱き締めたい衝動に駆られたが、束の間の休息を得ている高弥を起こすことはできなくて、沢村史上最高に優しく抱き寄せて、腕の中で安心して眠る頬にくちびるを落とした。
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