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1巻
1-3
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熱が下がったという彼女の母親も玄関先に顔を見せ、笑顔で自分達を送り出してくれた。
これが彼のためのおしゃれではないことが、残念でならなかった。借りて来た猫のようにしとやかに変貌した奈津子を車に乗せ、落花の湯に向かう間も、行く先を変更できないか本気で考えてしまったほどだ。
さらにクロークにコートを預ける段になって、もっと驚かされた。
彼女は半袖のワンピースを着ていた。胸元をV字に重ね合わせるそのデザインは、角度によっては胸の谷間が見えそうで目のやり場に困った。仕方なく下を向くと、今度はワンピースの裾からすらりと伸びた脚に目が吸い寄せられる。
どちらかというと品の良いデザインだが、仕事中の実務を重視した服との落差が激し過ぎて、雅臣は急に落ち着かなくなった。しかも席は隣同士で、ますますそわそわさせられる。他の招待客がにやにやしながら、「お似合いですなあ」などとふざけたことを言ったりしたが、そのたびに奈津子は笑みを浮かべて「御冗談を!」と否定した。
「課長、ちゃんとお料理召し上がってますか?」
「ああ」
ぶっきらぼうに返事して、雅臣はグラスのノンアルコール飲料を苦々しげに飲んだ。
「ほんとに? でもお料理がほとんど減ってませんよ。生物はお嫌いでしたっけ?」
そう言うと彼女は、雅臣のほうに体を寄せて料理を覗き込んだ。
さっきから奈津子を見ないように努力している雅臣に、奈津子は時折声をかけてきた。
すんなりとした彼女の二の腕が上着の袖をかすめ、白い胸元が雅臣の胸に近づく。すると胃のあたりがもやっとし、さらにもっと下の方がぎゅぎゅっと強張るのを感じた。雅臣は歯を食いしばってその衝動に耐える。
「俺のことは気にしなくていい」
素っ気なく言ったが、頬のあたりに感じる彼女の視線は動かない。
「そんなわけにはいかないです。あたしは課長をお助けするために一緒に来たんですから」
「お助けって、何だぁ?」
向かい側から御園浩輔が声をかけてきた。奈津子と同い年だと聞くが、童顔でたれ目なせいか、もっと若く見える。
「えーと、なんだったかな。とにかく支配人に言われたの。課長を助けてあげてとかなんとか」
「望月支配人はそんなこと言ってないし、俺は君の助けを必要としてない」
「またすぐ、そういう可愛くないことを言って……」
奈津子はぐっと雅臣に体を寄せて、下から覗き込むようにして彼を見上げる。
彼女のまとう甘い香りが雅臣を包み、挑戦的な目が雅臣を煽る。彼の向かいでは御園不動産の社長が、こちらを見ながらくすくすと笑っていた。浩輔の父親だというこの男は、グレーのしゃれたスーツにメガネをかけた、絵に描いたような好人物だ。
雅臣は大きくため息をもらした。奈津子はすでに酔っている。まともに相手をしてはいけない。
「飲みたいんなら、好きなだけ飲めよ。帰りは心配しなくていいから。アワビが食べたいんなら俺の分もやる」
ケンカする気になれず、そんなふうに言うと、奈津子にまじまじと見られる。
「どうしちゃったんですか? そんなに親切だなんて課長らしくないですよ」
「悪かったな。いつもは不親切で」
二人とも大きな声だったので、周りから笑いが起こった。
「椎谷さんは、普段は優しくないのかい?」
斜め向かいに座った、緑川という男が奈津子に尋ねた。彼は御園社長と同世代の民宿経営者だ。
「ええ、それはもう! 吉岡、アレ持ってこいだの、コレをやっとけだの、人使いが荒いんです」
またしても笑いが起こる。いつの間にか、広間の半分くらいの人間が雅臣たちに注目していた。
「でも、仕事に対して厳しいというだけで、椎谷さんご自身は優しい方です。副支配人の体調が悪いから、その分の仕事を全部引き受けちゃうし、昨日なんて外で具合が悪くなったうちの母を、車で家まで送ってくれたんですよ」
「おい、吉岡――」
「うちに来るお客様には、椎谷さんのそういう優しさが伝わるんです。だから人気なんです。そうですよねー。課長」
……完全に酔ってるな、この女。でなければ、褒め殺しのつもりか。
けれど。ほんのりと頬を染めて無邪気に語る奈津子を見ていると、不思議と心が和んだ。このひと月ほど、彼の心を悩ませる問題がたくさん持ち上がっていたが、そんなもの忘れてしまいそうになる。
しかし和んだ気分はすぐに消えた。ビールを手にした片岡社長が、浩輔の後ろに立ったのだ。
「ここは、盛り上がってるねえ」
白髪交じりのごつい赤ら顔。メタリックな銀色のジャケットを着た片岡の後ろには、娘のモエが立っている。片岡はビールの瓶と雅臣の顔を交互に見ながら、がらがら声で言った。
「今夜も飲まないとはカタイお人だね、椎谷さんは。それはそうと、例の返事はいつ聞かせてくれるんだい?」
周囲が途端に静まり返る。単刀直入に切り出され、雅臣はこめかみが疼くのを感じた。
「何のお返事でしょうか」
わざと惚けてみたが、片岡は大げさに眉間にしわを寄せて、浩輔の肩越しに顔を突き出した。
「またまた照れちゃって、モエの婿になる件ですよ。ずっとお願いしてるじゃないですか」
「婿?」
奈津子が素っ頓狂な声をあげ、目を見開いて雅臣のほうを向く。
「婿って、課長。モエちゃんと結婚するんですか?」
「バカ、誤解するな!」
つい、大声で否定してしまう。周囲の目が一斉に自分に向けられ、気まずくなる。
発端は先月の食事会だった。初めての出席ということもあって、雅臣は片岡とその取り巻きたちに、三次会まで連れ回された。そこでしつこく家族のことを聞かれ、実家が鎌倉で、すでに結婚をした弟がいることを話した。途端に片岡が、モエの婿にならないかと言い出したのだ。
酒の席でのたわごとだと思ったら、翌日親子でオーベルジュに現れて、支配人を交えて真剣に考えて欲しいと言い出す始末。今日奈津子の同伴を承知したのは、彼女を送るという口実があれば、早々に退散できると考え直したからだ。だが、そう上手くはいかないらしい。
「何度も申し上げましたが、そのお話はお受けすることはできません」
できるだけやんわりと断った。望月の話では、片岡はモエに婿を取らせようと何度も見合いをさせているが、すべて断られているそうだ。片岡家の財産は魅力的でも、この父と娘が相手ではたいていの男は尻込みしてしまうのだろう。
ただオーベルジュは片岡から土地を貸りている。変に機嫌を損ねて、契約を打ち切られたら困るので、慎重に相手をしろと望月から言われていた。
「またまた、つれないことを。家は弟さんに継いでもらえばいいじゃないの。白岬が気に入ったと言ってたし、安心してうちに婿に来れますよ。そうだよなあ、モエ」
オレンジ色のスリップドレスを着たモエが、「ええ」と父に相槌を打つ。彼女とは、オーベルジュで記念写真を撮るくらいしか接点がない。そんな相手といきなり結婚できるわけがない。
「まあまあ片岡さん、そういうのは内輪の席でやりなさい。椎谷さんが困ってらっしゃるよ」
「御園さんは、黙っててよ。俺はね、椎谷さんに聞いてるんだよ。――椎谷さん、うちのモエじゃ不満かね。ちょっとデカいけど、いいコだぞ」
御園社長の取り成しを、片岡はばっさり切り捨てる。仕方がないので、雅臣はもう一度丁寧にかつはっきりと伝えた。
「僕のような若輩には、身に余るお話です。しかし、お受けすることはできません」
その言葉に片岡は、急にふてくされたブルドッグのような顔に変わる。
「理由はなんなの? モエが気に入らないっての?」
「そういうわけでは」
「うちの婿になったら、一生食いぶちの心配はないんだよ?」
「と、仰られましても……」
「じゃあ、なによ。何が不満なの。まさか決まった相手がいるってのかい?」
決まった相手。
雅臣は吸い寄せられるように、隣の奈津子を見た。彼女はこの状況についていけないのか、ぽかんと口をあけたまま雅臣を見ていた。つややかな彼女の唇が彼の視線を釘づけにする。
その瞬間、雅臣の中で何かが弾け、ある決心が固まった。
「はい。実は今まで隠していましたが、僕には結婚を約束した女性がおります」
おおお! っと場内が盛り上がる。しかし、それを片岡は笑い飛ばした。
「その手には乗りませんよ、椎谷さん。まあ、そう照れないで、一度両家で食事でもしましょうや。ご両親も、きっとモエを気に入りますよ」
「本当なんです、片岡社長。僕は彼女を愛しています。その彼女を捨てて他の女性と結婚することなどできません」
「へぇ、相手はどんな人ですかね。前の会社のお知り合いですかな? それともこの白岬の?」
雅臣はためらうことなく奈津子の手を掴んだ。この半年の間、ずっと触れたいと願っていた手だ。ようやく自分の心に素直になれる。
そのままキョトンとする奈津子を立ち上がらせると、肩に手を回して自分のほうに引き寄せた。
「ここにいる吉岡奈津子さんです。隠していましたが、彼女が僕の恋人であり、未来の妻です」
一瞬広間の中がしんとして、すぐに大歓声が沸き起こる。次いで、皆に拍手された奈津子が言葉にならない叫びをあげた。
だから来るなと言ったんだ。でも、もう遅い。君も道づれにしてやるからな。
「じょ、冗談じゃないですよ、いったい何考えてるんですか!」
奈津子は怒りのあまり体の震えが止まらなかった。
この男、モエの父の迫力に負けて、頭がおかしくなったらしい。
「何が恋人ですか、何が未来の妻ですか。あたしを……あたしをなんだと思ってるんですか!」
「騒ぐな。車に乗るまで我慢しろ。文句は二人きりになってから聞いてやるから」
「椎谷さん!」
抵抗してみたが、雅臣は奈津子の肩を抱くようにして、落花の湯のロビーをずんずんと歩いて行く。
先ほど拍手と歓声が渦巻く宴会場から、奈津子が飲み過ぎて気分が悪くなったという理由で退席してきた。いきなり恋人だと言われた瞬間、何が起こったか理解できなかった。片岡社長とモエの呆然とした顔。手を叩き大喜びする浩輔。涙ぐみながら雅臣の両手をしっかりと握り、この子を頼むよと言った浩輔の父。
ようやく事態を理解した奈津子が否定しようとした途端、雅臣が耳元に囁いた。
「いいか、何も言うな。黙って俺の言うことに頷いていろ。命令だ」
命令。そう上司の命令。縦社会の中で生きる日本のビジネスマンは、上司の命令に逆らえないのだ。
「いいから俺にベタベタくっついてろ。俺たちは恋人なんだぞ」
「ベタベタって……」
奈津子は絶句した。赤いじゅうたんが敷き詰められ、天井にはぎらぎらのシャンデリアが吊るされたロビーには、宿泊客はもちろん、掃除のオバちゃんや他の従業員もいる。ケンカしていたら、恋人宣言は嘘だとばれてしまう。混乱のあまり足元がふらついてしまったが、それを支えるように雅臣にいっそう強く抱き寄せられた。その結果、彼の体温とか腕の力強さといった男性的な魅力を急に意識して、さらに足がもつれそうになる。
信じられない。こんなことをする男だったなんて。
やっと雅臣の車にたどり着くと、奈津子は押し込められるようにして助手席に乗せられた。ドアが閉められた瞬間、ようやく普段の彼女に戻る。
「どうしてあんな嘘ついたんですか! あたし、困ります。というか、これは椎谷さんとモエちゃんたちの問題でしょ? 巻き込まないでください!」
「もう、俺一人の手に負えないんだ」
雅臣は運転席に座ったまま言い放つと、怒りをあらわにするように髪をかきあげた。
「先月の食事会のあと、いきなり娘の婿になれと言い出した。うちと片岡社長の関わりを考えれば、無下に突っぱねることもできない。それをいいことに片岡社長は仕事中に何度も電話をかけてくるし、娘のほうはあの通りちょくちょくオーベルジュに顔を出す。ほとほと困ってるんだ」
「そうだったんですか……。支配人はそれを知ってたから、あたしが助けになるって言ったんですね」
近頃ご機嫌ナナメだったのは、こんな災難に巻き込まれていたからだ。少しだけ彼に同情した。
モエには二人の姉がいるが、どちらも結婚して家を出ている。だから片岡社長はモエに婿を取り、家業を継がせたいらしい。それで片っぱしから見合い相手を捜しているという噂は聞いていたが、まさか雅臣に目をつけるとは思わなかった。
「俺を気の毒だと思うなら、しばらく恋人のふりをしてくれないか。俺たちが結婚を約束してると言ったら、さすがの親子も黙り込んだ」
「でもこんな嘘、すぐにばれます。だって、あたしと課長は職場ではケンカばかりだし――」
「ばれやしないさ。みんな簡単に信じ込んだじゃないか。何しろ君が、俺は優しい人だと力説してくれたからな。あの後みんなが俺たちを見る目が変わった。気付かなかったのか?」
「いいえ……だってあたし、そんなつもりで言ったんじゃありません」
「でもみんなは信じた。明日からは二人の関係をオープンにして、あの親子に見せつける。向こうが諦めて、手を引くまで嘘をつき通すんだ」
「そんなの、無茶です!」
奈津子はぶんぶんと首を左右に振る。たとえ嘘でも、こんな男の恋人役なんて耐えられない。
「無茶でも無理でも、もうやるしかない!」
いつもの厳しい口調で言う雅臣に、奈津子は両肩を掴まれシートの背に押し付けられた。彼女が逃げられないように覆いかぶさってくる。
「君は飯倉リゾートサービスの社員だ。このオーベルジュの利益を最優先に考えろ。個人の感情論はどうでもいい。もし俺がモエの婿になったら、オーベルジュを去らなきゃならない。百歩譲って残れたとしても、君は間違いなくクビにされる。片岡モエは君に嫉妬してるからな」
「嫉妬?」
モエが奈津子に写真を撮らせないのは、いつも雅臣のそばにいる彼女に嫉妬しているから?
「それだけじゃない。下手すれば、オーベルジュが乗っ取られるかもしれないぞ? あの親子なら金に物を言わせて、強引に買い取るぐらいやりかねない。そうすればこの旅館のようなド派手な内装に変えられるか、ラブホテルにされるかもしれない。それでもいいのか?」
「いいえ、それは……」
「だったら、恋人のふりをしろ。あいつらの前で俺たちの関係を見せつけて、諦めさせろ!」
雅臣がぐっと顔を近づけて迫る。頬や口元に彼の視線を感じて、緊張しすぎて鳥肌が立ちそうになる。
奈津子は泣きたくなった。片岡社長のやり方も強引だが、雅臣の言い分はもっと強引だ。いや、無茶苦茶だ。オーベルジュのことを持ち出されたら断れないではないか。
「――もちろん、タダでとは言わない」
ふいに雅臣の表情が和らいだ。それまで鬼のような形相でたたみかけて来たのに、急にトーンダウンした。
「もし恋人役を引き受けてくれたら、すべてが片付いた時には君を昇進させてやる。そうだ、俺と同じ課長にしてやる。そうしたら俺にあごでこき使われることもなくなるぞ。どうだ?」
「し、椎谷さんにそんな権限はないです。本社の人事が承認しなきゃ――」
「幸い本社の人事にコネがある。そちらに頼めば君の昇進なんて朝飯前だ。もし断られたら、今度は飯倉電鉄の上層部にかけ合ってやるよ」
「ほ、ほんとですか?」
「本当だ。約束する。だから恋人のふりをしてくれ、頼む。俺はまだ結婚なんてしたくないんだ」
苦渋の顔。こんな雅臣を見るのは初めてで、奈津子は少しだけ心を動かされた。
「でも、いつまで恋人のふりをするんですか? 周りにはどう説明したら……」
「片岡親子が諦めたら、ほとぼりをさまして別れたことにすればいい。今は嘘がばれないように、君のお母さんも職場のみんなも騙すしかない」
騙す。母を欺く。周囲に嘘をつく。そんな酷いことをさせる気か、この男。でも、昇進の話は確かに魅力的だ。
「吉岡、課長になりたくないのか! 昇進したら昇給もするんだぞ。君のあのポンコツ車を、ぴかぴかの新車に買い替えられるんだぞ!」
雅臣の怒涛の攻撃に奈津子は動悸が激しくなり、抗議ができなくなる。昇進、昇給、新車、新築。頭の中に金への執着と野心の嵐が吹き荒れ、気付けばこう口にしていた。
「なりたい……です……。私、課長になりたい、です。椎谷さんの……恋人のふりをします!」
「よし、いい子だ。じゃあまず、恋人のふりの手始めとして言ってみろ。『雅臣さん』と」
「ま、まさおみさん……」
お母さん、天国のお父さん、ごめんなさい。奈津子は課長になりたくて、悪魔と取引しました。
心の中で両親に土下座する。そこでルームミラーを見上げた雅臣の表情が険しくなった。
「くそ、あのオヤジめ……。吉岡、俺に抱きつけ」
「ええ?」
雅臣が起き上がり、奈津子にも見えるようにミラーの向きを変えた。暗くてはっきりとは分からないが、人影が映っているような気がしなくもない。
「いいから抱きつけ。そしてキスしろ。本気でだぞ。あっちに見せつけてやるんだ」
「無理です。いきなりそんなことできません!」
奈津子は全力で拒否する。彼とキスするくらいなら、蛇やカエルとキスするほうがましなくらいだ。
「キスも契約のうちだ。昇進したくないのか!」
「それはオプションです!」
「つべこべ言うな。君は中途半端な仕事をするような奴なのか?」
「んもう……!」
こうなったらもうヤケだ。奈津子は体を起こして、雅臣の唇に乱暴に自分の唇を押し当てた。唇が触れた瞬間、柔らかくて温かな感触に体の奥がぞくっとなる。けれどそれを相手に悟られまいと、閉ざしたままの唇をさらに押し付け、こわごわと彼の上着の袖のあたりを手で掴む。
しかし、雅臣は唇を離すと奈津子の体を押し返してきた。
「こんな、子どもみたいなキスしかできないのか?」
その声には侮辱が込められていたが、普段の冷ややかさは感じられなかった。雅臣は暗く翳った目で奈津子を射すくめたまま、力強く抱きしめてきた。奈津子は抵抗したが力で押さえつけられ、強引に口づけられる。激しく唇が吸われ、舌が差し込まれてきた。押し返そうとしても、肩も腕も力強くてびくともしない。
「か、かちょ――」
「雅臣だ。俺たちは恋人だぞ」
声をもらした隙に、また深く口づけられた。雅臣の舌がさらに奥まで滑り込み、奈津子の舌と絡み合う。逃げようとしても無駄で、執拗で貪欲な雅臣の舌が彼女のすべてを呑み込もうとした。
体を密着させられ、口内を蹂躙され続ける。体の力が抜け、甘いしびれが全身を駆け抜けていく。あまりにも激しいキスに息ができなくなって、奈津子は意識を失いかけた。
こんな雅臣を知らなかった。彼女が知っている椎谷雅臣という男は、見た目は美麗だが、中身は意地悪で神経質で超ナルシスト。だけど、最近になって優しい一面もあることを知った。そして今、キスだけでイカされそうなほどのテクニックを持っていることも、身を以て思い知らされている。
ショックが通り過ぎると、奈津子の中にあった快感と欲望が目を覚ます。薄手のワンピース越しに乳房が彼の胸に押し当てられていて、強く抱きしめられるたび、胸の先端が疼いた。とっくに下着の中で、石ころのように硬く尖っていることだろう。
そしてもっと下のほうの――彼女の体の中心部も、じわりと熱く疼き始めた。
その感覚に身を任せていると、彼の唇が喉元に滑り降り、二度三度と首筋に口づける。生暖かい舌の感触が彼女の中の欲望をさらに刺激した。
「……行ったみたいだ。さすがの社長も、車内を覗きこむような野暮な真似はしなかったな」
奈津子を胸に抱いたまま、雅臣が静かに呟く。頭がぼんやりしていたので、彼の腕の力が緩んだことも気付かなかった。
「大丈夫か。奈津子」
「は? なつこ?」
慌てて顔を上げると、ルームミラーに自分の姿が映っていた。髪は乱れてぐちゃぐちゃで、カシュクール風のワンピースの胸元がはだけ、ブラがあらわになっている。奈津子は慌てて胸元を押さえた。
「なんなら、場所を変えて続きをやるか? 物足りないって顔をしてるぞ」
にやりと雅臣が笑った。確かに笑った。かっとなった奈津子は思い切り彼の頬をひっぱたいた。
「ふ、ふざけないで、一刻も早く家に送ってください。でないと警察を呼びますから!」
4
お前は俺の恋人だ、奈津子。キスも契約のうちだ――
雅臣に押し倒されて、キスをされる寸前のところで目が覚めた。慌ててベッドの上に起き上がった奈津子は、パジャマの上から胸を押さえる。心臓がドキドキしていた。
大丈夫。今のは夢よ。彼はここにはいないわ。落ち着いて――
すでに夜は明けているが、目覚ましをセットした時刻まで余裕があった。ほっと胸を撫で下ろし、もう一度布団にもぐる。頭がずきずきしているが、二日酔いじゃない。寝不足なのだ。
昨夜はなかなか眠りにつけなかった。眠ろうと努力しても、雅臣の顔が思い浮かんでしまうのだ。
夢だけど、夢じゃない。昨夜のキスは本物だ。
恥ずかしさに布団の中で目を閉じると、薄暗い車内で奈津子を熱っぽく見つめていた雅臣の顔が、またしても浮かんでくる。同時に彼の唇の柔らかい感触や、抱きしめられた時の腕の力強さが、生々しく蘇ってきた。
どうしよう。大変なことになった……
今日から奈津子は雅臣の恋人。もちろん偽りのではあるが。
「隠れてずっと、付き合ってきた。人に聞かれたらそう答えろ」
ゆうべ、別れ際に雅臣はこんなふうに提案してきた。彼が白岬に来たのは去年の秋。彼が奈津子にひと目惚れして、熱烈なアタックを開始し、奈津子が根負けした形でクリスマスには二人の交際が始まった。そんな流れにしておけという。さらに、
「結婚については相談しているところだと言っておけ。そうでないと、片岡親子につけ込まれる」
とも言われた。
あの短時間で、よくぞこんな嘘を思いつくものだ。恋人のふりをしろと言われても、彼については親会社から出向して来た三十二歳の独身男ということ以外、住所と携帯の番号とメールアドレスしか知らない。これは単に、同じ職場だから連絡先を知っているだけのこと。
雅臣の住まいは白岬の西隣に位置する、美原市のマンションとなっている。駅からはやや距離があるが、かつて奈津子が通っていた県立高校の近くだ。
生まれや家族についても知らないが、あの宴会の時に弟がいると片岡社長が言っていた。ちょっと見てみたい気はする。雅臣の弟なら、かなりのイケメンではないだろうか。ただし似ているのは顔だけで、性格は別であって欲しいと願う。
これからのことを想像すると、気が滅入る。だけど、言う通りにするしかない。あんな大勢のいる前で、恋人宣言をしてしまったのだ。今日明日にでも、噂は町中に広まるだろう。一美からは、昨夜のうちに何通か立て続けにメールが届いているくらいだし。
もう後には引けない。それに雅臣は、奈津子の昇進を約束してくれた。彼を信じて、芝居を演じるしかないだろう。
あれこれ考えているうちに目覚ましが鳴り始めたので、二度寝を諦めてベッドから出た。着替えを手に階下に下りると、すっかり体調の良くなった桃子が、キッチンから飛んできた。
「おはよう、奈津子。ねえねえ、昨日の食事会はどうだったの?」
「おはよ、お母さん。その話は、帰ってからゆっくり話すから。シャワー浴びて来るね」
桃子の追及から逃げるように、奈津子はバスルームに飛び込んだ。昨日は雅臣が迎えに来たので、桃子はご機嫌だった。よほど彼が気に入ったとみえる。この母に嘘をつかなくてはならないなんて。
今日は日曜だが奈津子は仕事。桃子は通っている料理サークルの仲間同士で、少し遅めの花見に行く予定だ。仕事から帰ったらすぐに、雅臣が恋人だと説明しなくてはならない。桃子は大喜びするだろう。でもこれはすべて嘘。昇進したいがために、彼女が納得の上で雅臣と交わした契約――取引だ。いずれ別れたとき、桃子をがっかりさせるに違いない。
建てつけの悪くなった引き戸を力任せに閉め、手早くパジャマを脱ぎ捨てた。
くよくよしてもしょうがない。急がないと仕事に遅れる。
――けれど。車で家を出た頃には、再び決心が揺らぎ始めた。
あの雅臣の恋人役を演じるだなんて。考えただけでもぞっとする。
それに昨夜の食事会にいた人たちは、酒のせいもあって雅臣の言葉を信じたが、あの場にいなかった町の人々がこんな芝居に引っ掛かるとは思えない。
例えば一美。すでに届いたメールは三十通を超え、電話だけでも十回ほどかかってきている。何を言われるか怖くてすべて無視しているが、あれだけミソノで愚痴っていたら、雅臣が恋人だなんて簡単には信じないだろう。
その雅臣は、今日は休みだ。昨夜の別れ際、かっかしたまま彼の車を降りたが、確か「明日の朝礼が始まる前に電話をする」と言っていた。その時にやっぱり無理だと断ろう。彼だってひと晩寝たら、気が変わっているかもしれないし。
そう思うと少し気が楽になったので、いつものように町役場の前にあるコンビニに立ち寄った。
あれこれ眠気撃退ドリンクを手に取り物色していると、顔なじみの女性店員が笑顔で駆けてきた。
「奈津子ちゃん、聞いたわよー」
彼女は、奈津子の隣家の主婦の珠実。このコンビニで週に数日、早朝のシフトに入っている。
「椎谷さんと結婚するんだって?」
「え? な、何ですか。急に」
奈津子はびっくりしてドリンクの瓶を落としそうになる。
「惚けなくてもいいじゃない。ゆうべの落花の湯の宴会で、椎谷さんがみんなの前で宣言したんでしょ? 〝奈津子さんが未来の妻です〟……って。うちのオーナーも呼ばれてて、さっき聞いたのよぉ。いやあ、カッコいいわね! アタシも、その場で見たかったなあ……」
うふふと笑い、珠実は奈津子の肩をばしばしと叩いた。
顔から血の気が引いていく。忘れていた。ホテルや民宿関係者だけではなく、コンビニや飲食店のオーナーも、昨夜の食事会に参加していたのだ。
「実はねえ、そんなことじゃないかなって思ってたのよ。だってぇ、一昨日椎谷さんが、お母さんを車で送って来てたでしょ? アタシ見てたのよ。三人でおうちの中に入って行くのを」
「ま、待って。違うんです、あれは、ただ、その……」
「照れないの! 奈津子ちゃんはお母さんのために毎日朝早くから頑張ってるじゃない。あんな素敵なだんな様を捕まえても、バチは当たらないって。で、結婚の日取りは? 新居はどうするの?」
珠実は、奈津子と雅臣が結婚するのだと信じ切っているようだ。
「本当にそこまではまだ決まってないんです。あ、あたし仕事に遅れるんで、これで!」
急いで会計を済ませると、奈津子は逃げるように店を飛び出した。
冗談じゃないわ。結婚の予定なんてあるわけない。あいつは恋人なんかじゃないってのに!
かっかしそうになるのを堪えて、車を飛ばしてオーベルジュに着いた。どうやら予想以上に速いスピードで、昨夜のことが町に広まっているようだ。もしかしたら、母の耳にも入ってしまうかもしれない。いや、それよりオーベルジュのみんなだ。若くて独身の男性上司と付き合ってるとばれたら、陰でどんなことを言われるかわかったものではない。女が多い職場は怖いのだ。
そうなったらまずい。どう言い逃れしたらいいのかと思うと、再び頭痛がぶり返してきた。
これが彼のためのおしゃれではないことが、残念でならなかった。借りて来た猫のようにしとやかに変貌した奈津子を車に乗せ、落花の湯に向かう間も、行く先を変更できないか本気で考えてしまったほどだ。
さらにクロークにコートを預ける段になって、もっと驚かされた。
彼女は半袖のワンピースを着ていた。胸元をV字に重ね合わせるそのデザインは、角度によっては胸の谷間が見えそうで目のやり場に困った。仕方なく下を向くと、今度はワンピースの裾からすらりと伸びた脚に目が吸い寄せられる。
どちらかというと品の良いデザインだが、仕事中の実務を重視した服との落差が激し過ぎて、雅臣は急に落ち着かなくなった。しかも席は隣同士で、ますますそわそわさせられる。他の招待客がにやにやしながら、「お似合いですなあ」などとふざけたことを言ったりしたが、そのたびに奈津子は笑みを浮かべて「御冗談を!」と否定した。
「課長、ちゃんとお料理召し上がってますか?」
「ああ」
ぶっきらぼうに返事して、雅臣はグラスのノンアルコール飲料を苦々しげに飲んだ。
「ほんとに? でもお料理がほとんど減ってませんよ。生物はお嫌いでしたっけ?」
そう言うと彼女は、雅臣のほうに体を寄せて料理を覗き込んだ。
さっきから奈津子を見ないように努力している雅臣に、奈津子は時折声をかけてきた。
すんなりとした彼女の二の腕が上着の袖をかすめ、白い胸元が雅臣の胸に近づく。すると胃のあたりがもやっとし、さらにもっと下の方がぎゅぎゅっと強張るのを感じた。雅臣は歯を食いしばってその衝動に耐える。
「俺のことは気にしなくていい」
素っ気なく言ったが、頬のあたりに感じる彼女の視線は動かない。
「そんなわけにはいかないです。あたしは課長をお助けするために一緒に来たんですから」
「お助けって、何だぁ?」
向かい側から御園浩輔が声をかけてきた。奈津子と同い年だと聞くが、童顔でたれ目なせいか、もっと若く見える。
「えーと、なんだったかな。とにかく支配人に言われたの。課長を助けてあげてとかなんとか」
「望月支配人はそんなこと言ってないし、俺は君の助けを必要としてない」
「またすぐ、そういう可愛くないことを言って……」
奈津子はぐっと雅臣に体を寄せて、下から覗き込むようにして彼を見上げる。
彼女のまとう甘い香りが雅臣を包み、挑戦的な目が雅臣を煽る。彼の向かいでは御園不動産の社長が、こちらを見ながらくすくすと笑っていた。浩輔の父親だというこの男は、グレーのしゃれたスーツにメガネをかけた、絵に描いたような好人物だ。
雅臣は大きくため息をもらした。奈津子はすでに酔っている。まともに相手をしてはいけない。
「飲みたいんなら、好きなだけ飲めよ。帰りは心配しなくていいから。アワビが食べたいんなら俺の分もやる」
ケンカする気になれず、そんなふうに言うと、奈津子にまじまじと見られる。
「どうしちゃったんですか? そんなに親切だなんて課長らしくないですよ」
「悪かったな。いつもは不親切で」
二人とも大きな声だったので、周りから笑いが起こった。
「椎谷さんは、普段は優しくないのかい?」
斜め向かいに座った、緑川という男が奈津子に尋ねた。彼は御園社長と同世代の民宿経営者だ。
「ええ、それはもう! 吉岡、アレ持ってこいだの、コレをやっとけだの、人使いが荒いんです」
またしても笑いが起こる。いつの間にか、広間の半分くらいの人間が雅臣たちに注目していた。
「でも、仕事に対して厳しいというだけで、椎谷さんご自身は優しい方です。副支配人の体調が悪いから、その分の仕事を全部引き受けちゃうし、昨日なんて外で具合が悪くなったうちの母を、車で家まで送ってくれたんですよ」
「おい、吉岡――」
「うちに来るお客様には、椎谷さんのそういう優しさが伝わるんです。だから人気なんです。そうですよねー。課長」
……完全に酔ってるな、この女。でなければ、褒め殺しのつもりか。
けれど。ほんのりと頬を染めて無邪気に語る奈津子を見ていると、不思議と心が和んだ。このひと月ほど、彼の心を悩ませる問題がたくさん持ち上がっていたが、そんなもの忘れてしまいそうになる。
しかし和んだ気分はすぐに消えた。ビールを手にした片岡社長が、浩輔の後ろに立ったのだ。
「ここは、盛り上がってるねえ」
白髪交じりのごつい赤ら顔。メタリックな銀色のジャケットを着た片岡の後ろには、娘のモエが立っている。片岡はビールの瓶と雅臣の顔を交互に見ながら、がらがら声で言った。
「今夜も飲まないとはカタイお人だね、椎谷さんは。それはそうと、例の返事はいつ聞かせてくれるんだい?」
周囲が途端に静まり返る。単刀直入に切り出され、雅臣はこめかみが疼くのを感じた。
「何のお返事でしょうか」
わざと惚けてみたが、片岡は大げさに眉間にしわを寄せて、浩輔の肩越しに顔を突き出した。
「またまた照れちゃって、モエの婿になる件ですよ。ずっとお願いしてるじゃないですか」
「婿?」
奈津子が素っ頓狂な声をあげ、目を見開いて雅臣のほうを向く。
「婿って、課長。モエちゃんと結婚するんですか?」
「バカ、誤解するな!」
つい、大声で否定してしまう。周囲の目が一斉に自分に向けられ、気まずくなる。
発端は先月の食事会だった。初めての出席ということもあって、雅臣は片岡とその取り巻きたちに、三次会まで連れ回された。そこでしつこく家族のことを聞かれ、実家が鎌倉で、すでに結婚をした弟がいることを話した。途端に片岡が、モエの婿にならないかと言い出したのだ。
酒の席でのたわごとだと思ったら、翌日親子でオーベルジュに現れて、支配人を交えて真剣に考えて欲しいと言い出す始末。今日奈津子の同伴を承知したのは、彼女を送るという口実があれば、早々に退散できると考え直したからだ。だが、そう上手くはいかないらしい。
「何度も申し上げましたが、そのお話はお受けすることはできません」
できるだけやんわりと断った。望月の話では、片岡はモエに婿を取らせようと何度も見合いをさせているが、すべて断られているそうだ。片岡家の財産は魅力的でも、この父と娘が相手ではたいていの男は尻込みしてしまうのだろう。
ただオーベルジュは片岡から土地を貸りている。変に機嫌を損ねて、契約を打ち切られたら困るので、慎重に相手をしろと望月から言われていた。
「またまた、つれないことを。家は弟さんに継いでもらえばいいじゃないの。白岬が気に入ったと言ってたし、安心してうちに婿に来れますよ。そうだよなあ、モエ」
オレンジ色のスリップドレスを着たモエが、「ええ」と父に相槌を打つ。彼女とは、オーベルジュで記念写真を撮るくらいしか接点がない。そんな相手といきなり結婚できるわけがない。
「まあまあ片岡さん、そういうのは内輪の席でやりなさい。椎谷さんが困ってらっしゃるよ」
「御園さんは、黙っててよ。俺はね、椎谷さんに聞いてるんだよ。――椎谷さん、うちのモエじゃ不満かね。ちょっとデカいけど、いいコだぞ」
御園社長の取り成しを、片岡はばっさり切り捨てる。仕方がないので、雅臣はもう一度丁寧にかつはっきりと伝えた。
「僕のような若輩には、身に余るお話です。しかし、お受けすることはできません」
その言葉に片岡は、急にふてくされたブルドッグのような顔に変わる。
「理由はなんなの? モエが気に入らないっての?」
「そういうわけでは」
「うちの婿になったら、一生食いぶちの心配はないんだよ?」
「と、仰られましても……」
「じゃあ、なによ。何が不満なの。まさか決まった相手がいるってのかい?」
決まった相手。
雅臣は吸い寄せられるように、隣の奈津子を見た。彼女はこの状況についていけないのか、ぽかんと口をあけたまま雅臣を見ていた。つややかな彼女の唇が彼の視線を釘づけにする。
その瞬間、雅臣の中で何かが弾け、ある決心が固まった。
「はい。実は今まで隠していましたが、僕には結婚を約束した女性がおります」
おおお! っと場内が盛り上がる。しかし、それを片岡は笑い飛ばした。
「その手には乗りませんよ、椎谷さん。まあ、そう照れないで、一度両家で食事でもしましょうや。ご両親も、きっとモエを気に入りますよ」
「本当なんです、片岡社長。僕は彼女を愛しています。その彼女を捨てて他の女性と結婚することなどできません」
「へぇ、相手はどんな人ですかね。前の会社のお知り合いですかな? それともこの白岬の?」
雅臣はためらうことなく奈津子の手を掴んだ。この半年の間、ずっと触れたいと願っていた手だ。ようやく自分の心に素直になれる。
そのままキョトンとする奈津子を立ち上がらせると、肩に手を回して自分のほうに引き寄せた。
「ここにいる吉岡奈津子さんです。隠していましたが、彼女が僕の恋人であり、未来の妻です」
一瞬広間の中がしんとして、すぐに大歓声が沸き起こる。次いで、皆に拍手された奈津子が言葉にならない叫びをあげた。
だから来るなと言ったんだ。でも、もう遅い。君も道づれにしてやるからな。
「じょ、冗談じゃないですよ、いったい何考えてるんですか!」
奈津子は怒りのあまり体の震えが止まらなかった。
この男、モエの父の迫力に負けて、頭がおかしくなったらしい。
「何が恋人ですか、何が未来の妻ですか。あたしを……あたしをなんだと思ってるんですか!」
「騒ぐな。車に乗るまで我慢しろ。文句は二人きりになってから聞いてやるから」
「椎谷さん!」
抵抗してみたが、雅臣は奈津子の肩を抱くようにして、落花の湯のロビーをずんずんと歩いて行く。
先ほど拍手と歓声が渦巻く宴会場から、奈津子が飲み過ぎて気分が悪くなったという理由で退席してきた。いきなり恋人だと言われた瞬間、何が起こったか理解できなかった。片岡社長とモエの呆然とした顔。手を叩き大喜びする浩輔。涙ぐみながら雅臣の両手をしっかりと握り、この子を頼むよと言った浩輔の父。
ようやく事態を理解した奈津子が否定しようとした途端、雅臣が耳元に囁いた。
「いいか、何も言うな。黙って俺の言うことに頷いていろ。命令だ」
命令。そう上司の命令。縦社会の中で生きる日本のビジネスマンは、上司の命令に逆らえないのだ。
「いいから俺にベタベタくっついてろ。俺たちは恋人なんだぞ」
「ベタベタって……」
奈津子は絶句した。赤いじゅうたんが敷き詰められ、天井にはぎらぎらのシャンデリアが吊るされたロビーには、宿泊客はもちろん、掃除のオバちゃんや他の従業員もいる。ケンカしていたら、恋人宣言は嘘だとばれてしまう。混乱のあまり足元がふらついてしまったが、それを支えるように雅臣にいっそう強く抱き寄せられた。その結果、彼の体温とか腕の力強さといった男性的な魅力を急に意識して、さらに足がもつれそうになる。
信じられない。こんなことをする男だったなんて。
やっと雅臣の車にたどり着くと、奈津子は押し込められるようにして助手席に乗せられた。ドアが閉められた瞬間、ようやく普段の彼女に戻る。
「どうしてあんな嘘ついたんですか! あたし、困ります。というか、これは椎谷さんとモエちゃんたちの問題でしょ? 巻き込まないでください!」
「もう、俺一人の手に負えないんだ」
雅臣は運転席に座ったまま言い放つと、怒りをあらわにするように髪をかきあげた。
「先月の食事会のあと、いきなり娘の婿になれと言い出した。うちと片岡社長の関わりを考えれば、無下に突っぱねることもできない。それをいいことに片岡社長は仕事中に何度も電話をかけてくるし、娘のほうはあの通りちょくちょくオーベルジュに顔を出す。ほとほと困ってるんだ」
「そうだったんですか……。支配人はそれを知ってたから、あたしが助けになるって言ったんですね」
近頃ご機嫌ナナメだったのは、こんな災難に巻き込まれていたからだ。少しだけ彼に同情した。
モエには二人の姉がいるが、どちらも結婚して家を出ている。だから片岡社長はモエに婿を取り、家業を継がせたいらしい。それで片っぱしから見合い相手を捜しているという噂は聞いていたが、まさか雅臣に目をつけるとは思わなかった。
「俺を気の毒だと思うなら、しばらく恋人のふりをしてくれないか。俺たちが結婚を約束してると言ったら、さすがの親子も黙り込んだ」
「でもこんな嘘、すぐにばれます。だって、あたしと課長は職場ではケンカばかりだし――」
「ばれやしないさ。みんな簡単に信じ込んだじゃないか。何しろ君が、俺は優しい人だと力説してくれたからな。あの後みんなが俺たちを見る目が変わった。気付かなかったのか?」
「いいえ……だってあたし、そんなつもりで言ったんじゃありません」
「でもみんなは信じた。明日からは二人の関係をオープンにして、あの親子に見せつける。向こうが諦めて、手を引くまで嘘をつき通すんだ」
「そんなの、無茶です!」
奈津子はぶんぶんと首を左右に振る。たとえ嘘でも、こんな男の恋人役なんて耐えられない。
「無茶でも無理でも、もうやるしかない!」
いつもの厳しい口調で言う雅臣に、奈津子は両肩を掴まれシートの背に押し付けられた。彼女が逃げられないように覆いかぶさってくる。
「君は飯倉リゾートサービスの社員だ。このオーベルジュの利益を最優先に考えろ。個人の感情論はどうでもいい。もし俺がモエの婿になったら、オーベルジュを去らなきゃならない。百歩譲って残れたとしても、君は間違いなくクビにされる。片岡モエは君に嫉妬してるからな」
「嫉妬?」
モエが奈津子に写真を撮らせないのは、いつも雅臣のそばにいる彼女に嫉妬しているから?
「それだけじゃない。下手すれば、オーベルジュが乗っ取られるかもしれないぞ? あの親子なら金に物を言わせて、強引に買い取るぐらいやりかねない。そうすればこの旅館のようなド派手な内装に変えられるか、ラブホテルにされるかもしれない。それでもいいのか?」
「いいえ、それは……」
「だったら、恋人のふりをしろ。あいつらの前で俺たちの関係を見せつけて、諦めさせろ!」
雅臣がぐっと顔を近づけて迫る。頬や口元に彼の視線を感じて、緊張しすぎて鳥肌が立ちそうになる。
奈津子は泣きたくなった。片岡社長のやり方も強引だが、雅臣の言い分はもっと強引だ。いや、無茶苦茶だ。オーベルジュのことを持ち出されたら断れないではないか。
「――もちろん、タダでとは言わない」
ふいに雅臣の表情が和らいだ。それまで鬼のような形相でたたみかけて来たのに、急にトーンダウンした。
「もし恋人役を引き受けてくれたら、すべてが片付いた時には君を昇進させてやる。そうだ、俺と同じ課長にしてやる。そうしたら俺にあごでこき使われることもなくなるぞ。どうだ?」
「し、椎谷さんにそんな権限はないです。本社の人事が承認しなきゃ――」
「幸い本社の人事にコネがある。そちらに頼めば君の昇進なんて朝飯前だ。もし断られたら、今度は飯倉電鉄の上層部にかけ合ってやるよ」
「ほ、ほんとですか?」
「本当だ。約束する。だから恋人のふりをしてくれ、頼む。俺はまだ結婚なんてしたくないんだ」
苦渋の顔。こんな雅臣を見るのは初めてで、奈津子は少しだけ心を動かされた。
「でも、いつまで恋人のふりをするんですか? 周りにはどう説明したら……」
「片岡親子が諦めたら、ほとぼりをさまして別れたことにすればいい。今は嘘がばれないように、君のお母さんも職場のみんなも騙すしかない」
騙す。母を欺く。周囲に嘘をつく。そんな酷いことをさせる気か、この男。でも、昇進の話は確かに魅力的だ。
「吉岡、課長になりたくないのか! 昇進したら昇給もするんだぞ。君のあのポンコツ車を、ぴかぴかの新車に買い替えられるんだぞ!」
雅臣の怒涛の攻撃に奈津子は動悸が激しくなり、抗議ができなくなる。昇進、昇給、新車、新築。頭の中に金への執着と野心の嵐が吹き荒れ、気付けばこう口にしていた。
「なりたい……です……。私、課長になりたい、です。椎谷さんの……恋人のふりをします!」
「よし、いい子だ。じゃあまず、恋人のふりの手始めとして言ってみろ。『雅臣さん』と」
「ま、まさおみさん……」
お母さん、天国のお父さん、ごめんなさい。奈津子は課長になりたくて、悪魔と取引しました。
心の中で両親に土下座する。そこでルームミラーを見上げた雅臣の表情が険しくなった。
「くそ、あのオヤジめ……。吉岡、俺に抱きつけ」
「ええ?」
雅臣が起き上がり、奈津子にも見えるようにミラーの向きを変えた。暗くてはっきりとは分からないが、人影が映っているような気がしなくもない。
「いいから抱きつけ。そしてキスしろ。本気でだぞ。あっちに見せつけてやるんだ」
「無理です。いきなりそんなことできません!」
奈津子は全力で拒否する。彼とキスするくらいなら、蛇やカエルとキスするほうがましなくらいだ。
「キスも契約のうちだ。昇進したくないのか!」
「それはオプションです!」
「つべこべ言うな。君は中途半端な仕事をするような奴なのか?」
「んもう……!」
こうなったらもうヤケだ。奈津子は体を起こして、雅臣の唇に乱暴に自分の唇を押し当てた。唇が触れた瞬間、柔らかくて温かな感触に体の奥がぞくっとなる。けれどそれを相手に悟られまいと、閉ざしたままの唇をさらに押し付け、こわごわと彼の上着の袖のあたりを手で掴む。
しかし、雅臣は唇を離すと奈津子の体を押し返してきた。
「こんな、子どもみたいなキスしかできないのか?」
その声には侮辱が込められていたが、普段の冷ややかさは感じられなかった。雅臣は暗く翳った目で奈津子を射すくめたまま、力強く抱きしめてきた。奈津子は抵抗したが力で押さえつけられ、強引に口づけられる。激しく唇が吸われ、舌が差し込まれてきた。押し返そうとしても、肩も腕も力強くてびくともしない。
「か、かちょ――」
「雅臣だ。俺たちは恋人だぞ」
声をもらした隙に、また深く口づけられた。雅臣の舌がさらに奥まで滑り込み、奈津子の舌と絡み合う。逃げようとしても無駄で、執拗で貪欲な雅臣の舌が彼女のすべてを呑み込もうとした。
体を密着させられ、口内を蹂躙され続ける。体の力が抜け、甘いしびれが全身を駆け抜けていく。あまりにも激しいキスに息ができなくなって、奈津子は意識を失いかけた。
こんな雅臣を知らなかった。彼女が知っている椎谷雅臣という男は、見た目は美麗だが、中身は意地悪で神経質で超ナルシスト。だけど、最近になって優しい一面もあることを知った。そして今、キスだけでイカされそうなほどのテクニックを持っていることも、身を以て思い知らされている。
ショックが通り過ぎると、奈津子の中にあった快感と欲望が目を覚ます。薄手のワンピース越しに乳房が彼の胸に押し当てられていて、強く抱きしめられるたび、胸の先端が疼いた。とっくに下着の中で、石ころのように硬く尖っていることだろう。
そしてもっと下のほうの――彼女の体の中心部も、じわりと熱く疼き始めた。
その感覚に身を任せていると、彼の唇が喉元に滑り降り、二度三度と首筋に口づける。生暖かい舌の感触が彼女の中の欲望をさらに刺激した。
「……行ったみたいだ。さすがの社長も、車内を覗きこむような野暮な真似はしなかったな」
奈津子を胸に抱いたまま、雅臣が静かに呟く。頭がぼんやりしていたので、彼の腕の力が緩んだことも気付かなかった。
「大丈夫か。奈津子」
「は? なつこ?」
慌てて顔を上げると、ルームミラーに自分の姿が映っていた。髪は乱れてぐちゃぐちゃで、カシュクール風のワンピースの胸元がはだけ、ブラがあらわになっている。奈津子は慌てて胸元を押さえた。
「なんなら、場所を変えて続きをやるか? 物足りないって顔をしてるぞ」
にやりと雅臣が笑った。確かに笑った。かっとなった奈津子は思い切り彼の頬をひっぱたいた。
「ふ、ふざけないで、一刻も早く家に送ってください。でないと警察を呼びますから!」
4
お前は俺の恋人だ、奈津子。キスも契約のうちだ――
雅臣に押し倒されて、キスをされる寸前のところで目が覚めた。慌ててベッドの上に起き上がった奈津子は、パジャマの上から胸を押さえる。心臓がドキドキしていた。
大丈夫。今のは夢よ。彼はここにはいないわ。落ち着いて――
すでに夜は明けているが、目覚ましをセットした時刻まで余裕があった。ほっと胸を撫で下ろし、もう一度布団にもぐる。頭がずきずきしているが、二日酔いじゃない。寝不足なのだ。
昨夜はなかなか眠りにつけなかった。眠ろうと努力しても、雅臣の顔が思い浮かんでしまうのだ。
夢だけど、夢じゃない。昨夜のキスは本物だ。
恥ずかしさに布団の中で目を閉じると、薄暗い車内で奈津子を熱っぽく見つめていた雅臣の顔が、またしても浮かんでくる。同時に彼の唇の柔らかい感触や、抱きしめられた時の腕の力強さが、生々しく蘇ってきた。
どうしよう。大変なことになった……
今日から奈津子は雅臣の恋人。もちろん偽りのではあるが。
「隠れてずっと、付き合ってきた。人に聞かれたらそう答えろ」
ゆうべ、別れ際に雅臣はこんなふうに提案してきた。彼が白岬に来たのは去年の秋。彼が奈津子にひと目惚れして、熱烈なアタックを開始し、奈津子が根負けした形でクリスマスには二人の交際が始まった。そんな流れにしておけという。さらに、
「結婚については相談しているところだと言っておけ。そうでないと、片岡親子につけ込まれる」
とも言われた。
あの短時間で、よくぞこんな嘘を思いつくものだ。恋人のふりをしろと言われても、彼については親会社から出向して来た三十二歳の独身男ということ以外、住所と携帯の番号とメールアドレスしか知らない。これは単に、同じ職場だから連絡先を知っているだけのこと。
雅臣の住まいは白岬の西隣に位置する、美原市のマンションとなっている。駅からはやや距離があるが、かつて奈津子が通っていた県立高校の近くだ。
生まれや家族についても知らないが、あの宴会の時に弟がいると片岡社長が言っていた。ちょっと見てみたい気はする。雅臣の弟なら、かなりのイケメンではないだろうか。ただし似ているのは顔だけで、性格は別であって欲しいと願う。
これからのことを想像すると、気が滅入る。だけど、言う通りにするしかない。あんな大勢のいる前で、恋人宣言をしてしまったのだ。今日明日にでも、噂は町中に広まるだろう。一美からは、昨夜のうちに何通か立て続けにメールが届いているくらいだし。
もう後には引けない。それに雅臣は、奈津子の昇進を約束してくれた。彼を信じて、芝居を演じるしかないだろう。
あれこれ考えているうちに目覚ましが鳴り始めたので、二度寝を諦めてベッドから出た。着替えを手に階下に下りると、すっかり体調の良くなった桃子が、キッチンから飛んできた。
「おはよう、奈津子。ねえねえ、昨日の食事会はどうだったの?」
「おはよ、お母さん。その話は、帰ってからゆっくり話すから。シャワー浴びて来るね」
桃子の追及から逃げるように、奈津子はバスルームに飛び込んだ。昨日は雅臣が迎えに来たので、桃子はご機嫌だった。よほど彼が気に入ったとみえる。この母に嘘をつかなくてはならないなんて。
今日は日曜だが奈津子は仕事。桃子は通っている料理サークルの仲間同士で、少し遅めの花見に行く予定だ。仕事から帰ったらすぐに、雅臣が恋人だと説明しなくてはならない。桃子は大喜びするだろう。でもこれはすべて嘘。昇進したいがために、彼女が納得の上で雅臣と交わした契約――取引だ。いずれ別れたとき、桃子をがっかりさせるに違いない。
建てつけの悪くなった引き戸を力任せに閉め、手早くパジャマを脱ぎ捨てた。
くよくよしてもしょうがない。急がないと仕事に遅れる。
――けれど。車で家を出た頃には、再び決心が揺らぎ始めた。
あの雅臣の恋人役を演じるだなんて。考えただけでもぞっとする。
それに昨夜の食事会にいた人たちは、酒のせいもあって雅臣の言葉を信じたが、あの場にいなかった町の人々がこんな芝居に引っ掛かるとは思えない。
例えば一美。すでに届いたメールは三十通を超え、電話だけでも十回ほどかかってきている。何を言われるか怖くてすべて無視しているが、あれだけミソノで愚痴っていたら、雅臣が恋人だなんて簡単には信じないだろう。
その雅臣は、今日は休みだ。昨夜の別れ際、かっかしたまま彼の車を降りたが、確か「明日の朝礼が始まる前に電話をする」と言っていた。その時にやっぱり無理だと断ろう。彼だってひと晩寝たら、気が変わっているかもしれないし。
そう思うと少し気が楽になったので、いつものように町役場の前にあるコンビニに立ち寄った。
あれこれ眠気撃退ドリンクを手に取り物色していると、顔なじみの女性店員が笑顔で駆けてきた。
「奈津子ちゃん、聞いたわよー」
彼女は、奈津子の隣家の主婦の珠実。このコンビニで週に数日、早朝のシフトに入っている。
「椎谷さんと結婚するんだって?」
「え? な、何ですか。急に」
奈津子はびっくりしてドリンクの瓶を落としそうになる。
「惚けなくてもいいじゃない。ゆうべの落花の湯の宴会で、椎谷さんがみんなの前で宣言したんでしょ? 〝奈津子さんが未来の妻です〟……って。うちのオーナーも呼ばれてて、さっき聞いたのよぉ。いやあ、カッコいいわね! アタシも、その場で見たかったなあ……」
うふふと笑い、珠実は奈津子の肩をばしばしと叩いた。
顔から血の気が引いていく。忘れていた。ホテルや民宿関係者だけではなく、コンビニや飲食店のオーナーも、昨夜の食事会に参加していたのだ。
「実はねえ、そんなことじゃないかなって思ってたのよ。だってぇ、一昨日椎谷さんが、お母さんを車で送って来てたでしょ? アタシ見てたのよ。三人でおうちの中に入って行くのを」
「ま、待って。違うんです、あれは、ただ、その……」
「照れないの! 奈津子ちゃんはお母さんのために毎日朝早くから頑張ってるじゃない。あんな素敵なだんな様を捕まえても、バチは当たらないって。で、結婚の日取りは? 新居はどうするの?」
珠実は、奈津子と雅臣が結婚するのだと信じ切っているようだ。
「本当にそこまではまだ決まってないんです。あ、あたし仕事に遅れるんで、これで!」
急いで会計を済ませると、奈津子は逃げるように店を飛び出した。
冗談じゃないわ。結婚の予定なんてあるわけない。あいつは恋人なんかじゃないってのに!
かっかしそうになるのを堪えて、車を飛ばしてオーベルジュに着いた。どうやら予想以上に速いスピードで、昨夜のことが町に広まっているようだ。もしかしたら、母の耳にも入ってしまうかもしれない。いや、それよりオーベルジュのみんなだ。若くて独身の男性上司と付き合ってるとばれたら、陰でどんなことを言われるかわかったものではない。女が多い職場は怖いのだ。
そうなったらまずい。どう言い逃れしたらいいのかと思うと、再び頭痛がぶり返してきた。
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