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2章 卓球をはじめよう!
008話 全国レベルと、世界レベルと ①
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SIDE:YUNO
「フォアフォアでいい?」
「はい」
絵東先輩の呼びかけに答える。
カットマンのカット練習は、利き手側のフォアハンドカットと逆側のバックハンドカットの両方を均等に行う。人によってはバックハンドの方が多く練習する人もいる。先輩がサウスポーなこともありバックハンドのカットの方がやりやすいと思うが、まずは久しぶりなので基本のフォアカットから行う。
先輩のサーブを台上で行う短い下回転打法であるツッツキで返すと、すぐにオープンスタンスで台から距離を取って構える。
先輩がツッツキを上回転のドライブで打ち返してくるところを、しっかりと右足を打点から垂直になる位置に構え、重力を利用しながら腕を真下に振り下ろす。
ボールを切るような打球感。
自分の打ったボールが糸を引くような弾道を描く感覚。
半年以上のブランクがあっても、やっぱり私はカットマン鈴原柚乃だ。
しばらくフォアハンドのカットを打った後、今度はバックハンドのカットを打つ。通常はバックハンドでドライブを打つのは難しいので相手にバック側へ回り込んで打ってもらうのだけど、先輩はサウスポーなのでそのままフォアハンドの強烈なドライブで打ち返してもらえる。相手の上回転の回転量が多いほど、こちらもカットを打っていて気持ちがいい。
バックでもしばらくカット打ちの練習をしたところで、絵東先輩から声を掛けられる。
「ゆのち、全道でどれくらいまでいったん?」
「道大会は出たことないです」
「えーマジかー。カットの基礎打ちだけ見てたら全国レベルだと思うけど」
「最後の中体連予選、市の四回戦でみのりちゃんに負けたのが最高です」
「あー」
先輩が声を出すとちらりと稔里ちゃんの方に目線を送る。
「それはトーナメント運が悪かったわ。アリス、カット打ちなら全国レベルだから」
「はい、すごい上手でした」
カット打ち「なら」ということは、先輩の目から見ると稔里ちゃんのそれ以外は全国レベルには達していないのだろうか。
少し休憩して会話が続いていたところに、前原先生がやってくる。
「みんな上手ですね。休部になるまで卓球部の顧問を六年間やっていましたが、男子を含めてもこんなに上手な生徒はいませんでしたよ」
私がふと疑問に思っていたことを口にする。
「前原先生は以前に卓球されてたんですか? 初心者って言われてましたが休部後もずっと顧問続けられてたんですよね」
「あはは、私自身は本当に全くの初心者ですよ」
先生は照れ笑いといった感じの笑みを浮かべると、想像外の話題を出してくる。
「オリンピックで団体銅メダルのメンバーだった藤堂香って知ってますか?」
「え、はいもちろん」
藤堂香選手といったら前々回のオリンピックで日本女子が卓球の団体戦でメダルを取ったときのキャプテンだ。引退後もテレビの解説や、卓球以外でもネット配信のゲストなどでよく見かける有名人だ。
「私、香と中学高校が一緒だったんですよ」
「ええ!?」
急にすごい話が出てくる。
「もちろん私は卓球部ではないですよ。香は卓球で、私は合唱で推薦がある同じ私立校に通っていたんです。仲も良くて、よくお互いの大会の応援に行ったりしていました」
「初耳。それでナオミちゃん卓球好きって言ってたんだ」
絵東先輩も驚いている。こんな身近にオリンピックメダリストが出てくることなんて一生のうち今だけかもしれない。
「卓球の試合はテレビや配信があるときはほぼ全部観ています。だから目だけはきちんと顧問できると思っていますよ」
最初に練習メニュー立てたりは協力すると話してた気がするけど、本当のトップレベルを知っている先生だったなんて。運動は苦手そうとか思ってしまってごめんなさい。私は心の中で謝る。
「そんな私の目から見ても絵東さんと有栖川さんはさすがに全国経験者ですね。基礎打ちだけでも今までうちの高校の卓球部にいた子たちとは全然違うのがわかります」
「はえーそうなんですね」
一旦休憩に入った美夏がこっちにやって来ながら相槌を入れる。歩くのにも細かくステップを入れて重心移動の確認をしながらやって来る。
「工藤さんは未経験者の初日の一時間でここまで上達できるものなんですね。見ていて一番びっくりしました」
「はい、ボールの質もどんどん良くなってました」
先生の言葉に美夏の相手をしていた稔里ちゃんが続ける。美夏のスポーツおばけっぷりは高校でも健在のようだ。
「そして鈴原さん。カットの球筋は絵東さん有栖川さんと同じく全国レベルに見えました。こんな上手なカットマンの子を見るのは初めてかもしれません」
「うん、ゆのちのカットはマジで自信持っていいよ」
「あ、ありがとうございます!」
まだ初日で軽く打っただけだ。でも、逆に軽く打っただけの方が身に沁みついているものが出る。それが褒められているというのは嬉しい。
「じゃ、ペア変えてもう少し打って行こうか」
「フォアフォアでいい?」
「はい」
絵東先輩の呼びかけに答える。
カットマンのカット練習は、利き手側のフォアハンドカットと逆側のバックハンドカットの両方を均等に行う。人によってはバックハンドの方が多く練習する人もいる。先輩がサウスポーなこともありバックハンドのカットの方がやりやすいと思うが、まずは久しぶりなので基本のフォアカットから行う。
先輩のサーブを台上で行う短い下回転打法であるツッツキで返すと、すぐにオープンスタンスで台から距離を取って構える。
先輩がツッツキを上回転のドライブで打ち返してくるところを、しっかりと右足を打点から垂直になる位置に構え、重力を利用しながら腕を真下に振り下ろす。
ボールを切るような打球感。
自分の打ったボールが糸を引くような弾道を描く感覚。
半年以上のブランクがあっても、やっぱり私はカットマン鈴原柚乃だ。
しばらくフォアハンドのカットを打った後、今度はバックハンドのカットを打つ。通常はバックハンドでドライブを打つのは難しいので相手にバック側へ回り込んで打ってもらうのだけど、先輩はサウスポーなのでそのままフォアハンドの強烈なドライブで打ち返してもらえる。相手の上回転の回転量が多いほど、こちらもカットを打っていて気持ちがいい。
バックでもしばらくカット打ちの練習をしたところで、絵東先輩から声を掛けられる。
「ゆのち、全道でどれくらいまでいったん?」
「道大会は出たことないです」
「えーマジかー。カットの基礎打ちだけ見てたら全国レベルだと思うけど」
「最後の中体連予選、市の四回戦でみのりちゃんに負けたのが最高です」
「あー」
先輩が声を出すとちらりと稔里ちゃんの方に目線を送る。
「それはトーナメント運が悪かったわ。アリス、カット打ちなら全国レベルだから」
「はい、すごい上手でした」
カット打ち「なら」ということは、先輩の目から見ると稔里ちゃんのそれ以外は全国レベルには達していないのだろうか。
少し休憩して会話が続いていたところに、前原先生がやってくる。
「みんな上手ですね。休部になるまで卓球部の顧問を六年間やっていましたが、男子を含めてもこんなに上手な生徒はいませんでしたよ」
私がふと疑問に思っていたことを口にする。
「前原先生は以前に卓球されてたんですか? 初心者って言われてましたが休部後もずっと顧問続けられてたんですよね」
「あはは、私自身は本当に全くの初心者ですよ」
先生は照れ笑いといった感じの笑みを浮かべると、想像外の話題を出してくる。
「オリンピックで団体銅メダルのメンバーだった藤堂香って知ってますか?」
「え、はいもちろん」
藤堂香選手といったら前々回のオリンピックで日本女子が卓球の団体戦でメダルを取ったときのキャプテンだ。引退後もテレビの解説や、卓球以外でもネット配信のゲストなどでよく見かける有名人だ。
「私、香と中学高校が一緒だったんですよ」
「ええ!?」
急にすごい話が出てくる。
「もちろん私は卓球部ではないですよ。香は卓球で、私は合唱で推薦がある同じ私立校に通っていたんです。仲も良くて、よくお互いの大会の応援に行ったりしていました」
「初耳。それでナオミちゃん卓球好きって言ってたんだ」
絵東先輩も驚いている。こんな身近にオリンピックメダリストが出てくることなんて一生のうち今だけかもしれない。
「卓球の試合はテレビや配信があるときはほぼ全部観ています。だから目だけはきちんと顧問できると思っていますよ」
最初に練習メニュー立てたりは協力すると話してた気がするけど、本当のトップレベルを知っている先生だったなんて。運動は苦手そうとか思ってしまってごめんなさい。私は心の中で謝る。
「そんな私の目から見ても絵東さんと有栖川さんはさすがに全国経験者ですね。基礎打ちだけでも今までうちの高校の卓球部にいた子たちとは全然違うのがわかります」
「はえーそうなんですね」
一旦休憩に入った美夏がこっちにやって来ながら相槌を入れる。歩くのにも細かくステップを入れて重心移動の確認をしながらやって来る。
「工藤さんは未経験者の初日の一時間でここまで上達できるものなんですね。見ていて一番びっくりしました」
「はい、ボールの質もどんどん良くなってました」
先生の言葉に美夏の相手をしていた稔里ちゃんが続ける。美夏のスポーツおばけっぷりは高校でも健在のようだ。
「そして鈴原さん。カットの球筋は絵東さん有栖川さんと同じく全国レベルに見えました。こんな上手なカットマンの子を見るのは初めてかもしれません」
「うん、ゆのちのカットはマジで自信持っていいよ」
「あ、ありがとうございます!」
まだ初日で軽く打っただけだ。でも、逆に軽く打っただけの方が身に沁みついているものが出る。それが褒められているというのは嬉しい。
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