はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

文字の大きさ
17 / 106
2章 卓球をはじめよう!

008話 全国レベルと、世界レベルと ②

しおりを挟む
***

 それぞれの組み合わせで基礎打ちをしたところで、今日の練習は早めに終わることとなった。
 稔里ちゃんが相手の時にも少しカットを打たせてもらった。先輩の言う通りやっぱり稔里ちゃんのカット打ちは一級品だった。あれだけ綺麗に打ち返されると、逆に稔里ちゃん相手に打ち負けなければ他の人には絶対打ち負けないという自信になりそうだ。

「なんかさー」
「なにミカ?」

 最後は私と美夏の組み合わせだったので、普通にフォアのラリーで今日の練習を締めようとしていたところだった。

「ゆののボールって一瞬ラケットにくっついてない? パイセンや有栖川ちゃんと比べてボールが返ってくるのがワンテンポ遅い気がするんだよね」

 始めた初日でそれがわかるなんて、やっぱり美夏はスポーツの天才だ。
 明日は美夏のラバーを買うことだし、私はちょっとしたことを思い付いた。


「絵東さんみのりちゃんすいません、ちょっとだけいいですか?」
「ん、どしたー?」
「明日ミカのラバー選びだし、ラバーの差を知ってほしくて」

 そう言うと私は小走りに用具室へ向かう。卓球台の横の箱に、無造作に体育の授業用であろうラケットが何本か入っている。その中から一本を取ると、美夏の元へ戻る。

「ミカ、次ちょっとこのラケットで打ってみて」
「ん、学校の備品のやつ? わかったー」


 私がサーブでボールを送り出すと、ミカが一日で身に付けたしっかりとこなれたフォームでレシーブを打つ。
 だが、打った瞬間不思議そうな表情をする。こちらの狙い通りだ。

「なんだこれ、板とゴムでボール打ってる感じする」
 
 板とゴムでボールを打つ感じ。とてもよくわかる表現だ。

「これが授業とか遊び用のラケットとラバー。最初の練習がこれだとフォームから何からおかしくなるでしょ?」
「うん、ゆのと有栖川ちゃんがすごい顔して止めたのがわかった!」
「私、すごい顔してた……?」
「声はキレイにハモったよね。はいじゃ次私のラケット使って。みのりちゃん相手してもらっていい?」

 美夏に私のラケットを貸し、みのりちゃんにラリーの相手を頼む。今日一番長い時間打ち合っていたからこそ、ラバーの差がわかるはずだ。

「わ! ボールくっつく!」

 美夏がさっきと同じくらい、いやそれ以上に驚く。

「そう、私は回転をかけるために表面が粘着性のラバーを使っているの。だから一瞬ボールがくっつくという表現は正解だよ」


 粘着性ラバー、ゴムの表面に粘り気がありそれが摩擦力を生むラバーはカットマン特有のものだ。私のスペアラケットで練習させたくなかったのも、このラバーに変に慣れさせたくなかったからだ。

「へー、ラバーでこんなに変わるんだ。面白いね」
「最後はみのりちゃんのでもう一回感覚戻そうか。ごめんねみのりちゃん付き合わせちゃって」
「いいえ、工藤さんやりましょう」
「うん!」


***

 初日の練習を終えた帰り道。
 稔里ちゃんは地下鉄通学なので最初にさよならをし、絵東先輩とも途中で別れる。先輩は隣の中学の学区だったので、マリ女に行っていなければ中学から同じ区で対戦していたかもしれなかった。

 美夏と二人きりになる。

「ふふふーん♪」
「何よ気持ち悪い」
「いや、卓球楽しかったなーって」

 それは何より嬉しい感想だった。
 陸上競技からバレーボールバスケットボール、サッカーにソフトボールまでなんでもできてしまうスポーツ万能人間の美夏にとって、高校で卓球部を選んだことを後悔して欲しくはなかった。

「みのりちゃんも絵東さんも本当に上手いから、二人を見てたらすぐに上達できるよ」
「うん、それもなんだけど」

 美夏がカバンを両手で後ろ手に持ち直してこちらを見る。

「やっぱり、ゆのと一緒に卓球できるっていうのが、サイコーに楽しい!」


 美夏の、屈託のない笑顔。
 卓球部に誘ったときの美夏の言葉を思い出す。私は恥ずかしくなってきたので話題を変える。

「そういうのはいいから。明日は道具買いに行くから寝坊しないでよ」
「ゆの起こしに来てよー」
「行かない! 寝坊する前提で話しないの。おばさんに目覚まし忘れないようにお願いしておくからね」


 中学までと変わらない二人での帰り道も、一緒に卓球をやった後だとこんなにも楽しいんだ。
 そう思った気持ちは、口には出さずに大事にしまいこんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...