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2章 卓球をはじめよう!
008話 全国レベルと、世界レベルと ②
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***
それぞれの組み合わせで基礎打ちをしたところで、今日の練習は早めに終わることとなった。
稔里ちゃんが相手の時にも少しカットを打たせてもらった。先輩の言う通りやっぱり稔里ちゃんのカット打ちは一級品だった。あれだけ綺麗に打ち返されると、逆に稔里ちゃん相手に打ち負けなければ他の人には絶対打ち負けないという自信になりそうだ。
「なんかさー」
「なにミカ?」
最後は私と美夏の組み合わせだったので、普通にフォアのラリーで今日の練習を締めようとしていたところだった。
「ゆののボールって一瞬ラケットにくっついてない? パイセンや有栖川ちゃんと比べてボールが返ってくるのがワンテンポ遅い気がするんだよね」
始めた初日でそれがわかるなんて、やっぱり美夏はスポーツの天才だ。
明日は美夏のラバーを買うことだし、私はちょっとしたことを思い付いた。
「絵東さんみのりちゃんすいません、ちょっとだけいいですか?」
「ん、どしたー?」
「明日ミカのラバー選びだし、ラバーの差を知ってほしくて」
そう言うと私は小走りに用具室へ向かう。卓球台の横の箱に、無造作に体育の授業用であろうラケットが何本か入っている。その中から一本を取ると、美夏の元へ戻る。
「ミカ、次ちょっとこのラケットで打ってみて」
「ん、学校の備品のやつ? わかったー」
私がサーブでボールを送り出すと、ミカが一日で身に付けたしっかりとこなれたフォームでレシーブを打つ。
だが、打った瞬間不思議そうな表情をする。こちらの狙い通りだ。
「なんだこれ、板とゴムでボール打ってる感じする」
板とゴムでボールを打つ感じ。とてもよくわかる表現だ。
「これが授業とか遊び用のラケットとラバー。最初の練習がこれだとフォームから何からおかしくなるでしょ?」
「うん、ゆのと有栖川ちゃんがすごい顔して止めたのがわかった!」
「私、すごい顔してた……?」
「声はキレイにハモったよね。はいじゃ次私のラケット使って。みのりちゃん相手してもらっていい?」
美夏に私のラケットを貸し、みのりちゃんにラリーの相手を頼む。今日一番長い時間打ち合っていたからこそ、ラバーの差がわかるはずだ。
「わ! ボールくっつく!」
美夏がさっきと同じくらい、いやそれ以上に驚く。
「そう、私は回転をかけるために表面が粘着性のラバーを使っているの。だから一瞬ボールがくっつくという表現は正解だよ」
粘着性ラバー、ゴムの表面に粘り気がありそれが摩擦力を生むラバーはカットマン特有のものだ。私のスペアラケットで練習させたくなかったのも、このラバーに変に慣れさせたくなかったからだ。
「へー、ラバーでこんなに変わるんだ。面白いね」
「最後はみのりちゃんのでもう一回感覚戻そうか。ごめんねみのりちゃん付き合わせちゃって」
「いいえ、工藤さんやりましょう」
「うん!」
***
初日の練習を終えた帰り道。
稔里ちゃんは地下鉄通学なので最初にさよならをし、絵東先輩とも途中で別れる。先輩は隣の中学の学区だったので、マリ女に行っていなければ中学から同じ区で対戦していたかもしれなかった。
美夏と二人きりになる。
「ふふふーん♪」
「何よ気持ち悪い」
「いや、卓球楽しかったなーって」
それは何より嬉しい感想だった。
陸上競技からバレーボールバスケットボール、サッカーにソフトボールまでなんでもできてしまうスポーツ万能人間の美夏にとって、高校で卓球部を選んだことを後悔して欲しくはなかった。
「みのりちゃんも絵東さんも本当に上手いから、二人を見てたらすぐに上達できるよ」
「うん、それもなんだけど」
美夏がカバンを両手で後ろ手に持ち直してこちらを見る。
「やっぱり、ゆのと一緒に卓球できるっていうのが、サイコーに楽しい!」
美夏の、屈託のない笑顔。
卓球部に誘ったときの美夏の言葉を思い出す。私は恥ずかしくなってきたので話題を変える。
「そういうのはいいから。明日は道具買いに行くから寝坊しないでよ」
「ゆの起こしに来てよー」
「行かない! 寝坊する前提で話しないの。おばさんに目覚まし忘れないようにお願いしておくからね」
中学までと変わらない二人での帰り道も、一緒に卓球をやった後だとこんなにも楽しいんだ。
そう思った気持ちは、口には出さずに大事にしまいこんだ。
それぞれの組み合わせで基礎打ちをしたところで、今日の練習は早めに終わることとなった。
稔里ちゃんが相手の時にも少しカットを打たせてもらった。先輩の言う通りやっぱり稔里ちゃんのカット打ちは一級品だった。あれだけ綺麗に打ち返されると、逆に稔里ちゃん相手に打ち負けなければ他の人には絶対打ち負けないという自信になりそうだ。
「なんかさー」
「なにミカ?」
最後は私と美夏の組み合わせだったので、普通にフォアのラリーで今日の練習を締めようとしていたところだった。
「ゆののボールって一瞬ラケットにくっついてない? パイセンや有栖川ちゃんと比べてボールが返ってくるのがワンテンポ遅い気がするんだよね」
始めた初日でそれがわかるなんて、やっぱり美夏はスポーツの天才だ。
明日は美夏のラバーを買うことだし、私はちょっとしたことを思い付いた。
「絵東さんみのりちゃんすいません、ちょっとだけいいですか?」
「ん、どしたー?」
「明日ミカのラバー選びだし、ラバーの差を知ってほしくて」
そう言うと私は小走りに用具室へ向かう。卓球台の横の箱に、無造作に体育の授業用であろうラケットが何本か入っている。その中から一本を取ると、美夏の元へ戻る。
「ミカ、次ちょっとこのラケットで打ってみて」
「ん、学校の備品のやつ? わかったー」
私がサーブでボールを送り出すと、ミカが一日で身に付けたしっかりとこなれたフォームでレシーブを打つ。
だが、打った瞬間不思議そうな表情をする。こちらの狙い通りだ。
「なんだこれ、板とゴムでボール打ってる感じする」
板とゴムでボールを打つ感じ。とてもよくわかる表現だ。
「これが授業とか遊び用のラケットとラバー。最初の練習がこれだとフォームから何からおかしくなるでしょ?」
「うん、ゆのと有栖川ちゃんがすごい顔して止めたのがわかった!」
「私、すごい顔してた……?」
「声はキレイにハモったよね。はいじゃ次私のラケット使って。みのりちゃん相手してもらっていい?」
美夏に私のラケットを貸し、みのりちゃんにラリーの相手を頼む。今日一番長い時間打ち合っていたからこそ、ラバーの差がわかるはずだ。
「わ! ボールくっつく!」
美夏がさっきと同じくらい、いやそれ以上に驚く。
「そう、私は回転をかけるために表面が粘着性のラバーを使っているの。だから一瞬ボールがくっつくという表現は正解だよ」
粘着性ラバー、ゴムの表面に粘り気がありそれが摩擦力を生むラバーはカットマン特有のものだ。私のスペアラケットで練習させたくなかったのも、このラバーに変に慣れさせたくなかったからだ。
「へー、ラバーでこんなに変わるんだ。面白いね」
「最後はみのりちゃんのでもう一回感覚戻そうか。ごめんねみのりちゃん付き合わせちゃって」
「いいえ、工藤さんやりましょう」
「うん!」
***
初日の練習を終えた帰り道。
稔里ちゃんは地下鉄通学なので最初にさよならをし、絵東先輩とも途中で別れる。先輩は隣の中学の学区だったので、マリ女に行っていなければ中学から同じ区で対戦していたかもしれなかった。
美夏と二人きりになる。
「ふふふーん♪」
「何よ気持ち悪い」
「いや、卓球楽しかったなーって」
それは何より嬉しい感想だった。
陸上競技からバレーボールバスケットボール、サッカーにソフトボールまでなんでもできてしまうスポーツ万能人間の美夏にとって、高校で卓球部を選んだことを後悔して欲しくはなかった。
「みのりちゃんも絵東さんも本当に上手いから、二人を見てたらすぐに上達できるよ」
「うん、それもなんだけど」
美夏がカバンを両手で後ろ手に持ち直してこちらを見る。
「やっぱり、ゆのと一緒に卓球できるっていうのが、サイコーに楽しい!」
美夏の、屈託のない笑顔。
卓球部に誘ったときの美夏の言葉を思い出す。私は恥ずかしくなってきたので話題を変える。
「そういうのはいいから。明日は道具買いに行くから寝坊しないでよ」
「ゆの起こしに来てよー」
「行かない! 寝坊する前提で話しないの。おばさんに目覚まし忘れないようにお願いしておくからね」
中学までと変わらない二人での帰り道も、一緒に卓球をやった後だとこんなにも楽しいんだ。
そう思った気持ちは、口には出さずに大事にしまいこんだ。
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