はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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7章 全道大会へ向けて

040話 新目標と、切り替えと ②

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「ミカは今日から私とツッツキ練習ね」
「なんで一回戦なんかで負けるのって刈屋さん怒ってた」

 団体戦で全国経験者のマリ女の刈屋さんと激闘を繰り広げた美夏は、個人戦の一回戦でひたすらツッツキをしてくるノーシードの選手相手に凡ミス連発で敗れていた。

「うん、試合後に通路で会ってめっちゃ怒られた」
「そうやってすぐ会話できる仲になっちゃうのはミカらしいけど」

 私は一回試合をしたくらいの人とすぐに話せたりはしない。高校入学初日の稔里ちゃんとのやりとりを思い出す。

 今はそんな私の話は後回しだ。先輩に尋ねる。

「今日から練習どうしましょうか。みのりちゃん右の攻撃型と練習できないし、ダブルスも私とミカじゃどうしようもないし」

 私と美夏が組んだダブルスは、こちらが私のカットや美夏のスピードドライブを決めれば、相手はこちらのコースが重なるコースに打ち込んできて、と言えば聞こえは良いが、要はぐだぐだの泥仕合の末に一回戦敗退していた。とても全道から全国を目指すダブルスの相手にはならない。


「それは地区予選の前もそうだったし、今さら変える必要はないよ。高速ラリーは私が相手するしゆのちはしっかりカットマンやってくれれば良いし。それに打ち合いだけならくどみかも十分アリスの相手できるよ」
「ツッツキなければ大丈夫っす!」
「じゃミカはみのりちゃんと打ち合って、私とは全部ツッツキ練習ね」

 本当に運動神経が良いとこんな変な成長をするのかと呆れる以上に感心してしまう。

「あと、今日は後からナオミちゃん来て話があるって」
「何の話ですか?」
「さぁ。全員来ますよねって聞かれたからハイって答えておいたよ」


***

 先輩の話通り、全道大会前だからといって特別な練習はすることなく、普段通りに卓球部の練習は進んだ。変わったことといえば昨日一日休んだので基礎打ちの割合がいつもより少し多いくらいだ。


 やがて、練習も終盤になったところで前原先生が第二体育館にやって来る。そのまま終了時間まで私たちの練習を見てくれた後、最後に全員を集める。

「皆さんお疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
「三週間後に絵東さんと有栖川さんのダブルス、有栖川さんはシングルスも、全道大会が控えています。今後はそこへ向けて練習していきますが」

 そこで先生は少し間を空ける。

「二週間後の土曜日。ちょうど大会の一週間前ですが、皆さん予定は特にないですか?」
「うん? 一週間前だし普通に練習していると思うけど」

 絵東先輩の答えに全員が頷く。いくら試合には出ない私と美夏でも貴重な練習相手。四人しかいないヤマコー卓球部はこれから毎日全道まで皆で練習だ。

「良かったです。実は、ちょうど日曜に札幌でイベントがあるという話だったので前乗りできないかダメ元で聞いたらOKをもらえたんです」
「まえのり?」

 話が見えないので美夏がオウム返しをする。私も頑張って文脈をつなごうとする。誰かが札幌に用事があって、その前の日が土曜日で……?


「香。藤堂香が、内緒で土曜日ウチに一日臨時コーチで来てくれることになりました」

 一瞬の間。

「えー!?」

 四人の声がぴたりと揃う。


 前原先生の元同級生で、日本一にもなっているオリンピック卓球女子団体メダリスト。
 そんな人と、卓球ができるなんて。
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