84 / 106
7章 全道大会へ向けて
040話 新目標と、切り替えと ②
しおりを挟む
「ミカは今日から私とツッツキ練習ね」
「なんで一回戦なんかで負けるのって刈屋さん怒ってた」
団体戦で全国経験者のマリ女の刈屋さんと激闘を繰り広げた美夏は、個人戦の一回戦でひたすらツッツキをしてくるノーシードの選手相手に凡ミス連発で敗れていた。
「うん、試合後に通路で会ってめっちゃ怒られた」
「そうやってすぐ会話できる仲になっちゃうのはミカらしいけど」
私は一回試合をしたくらいの人とすぐに話せたりはしない。高校入学初日の稔里ちゃんとのやりとりを思い出す。
今はそんな私の話は後回しだ。先輩に尋ねる。
「今日から練習どうしましょうか。みのりちゃん右の攻撃型と練習できないし、ダブルスも私とミカじゃどうしようもないし」
私と美夏が組んだダブルスは、こちらが私のカットや美夏のスピードドライブを決めれば、相手はこちらのコースが重なるコースに打ち込んできて、と言えば聞こえは良いが、要はぐだぐだの泥仕合の末に一回戦敗退していた。とても全道から全国を目指すダブルスの相手にはならない。
「それは地区予選の前もそうだったし、今さら変える必要はないよ。高速ラリーは私が相手するしゆのちはしっかりカットマンやってくれれば良いし。それに打ち合いだけならくどみかも十分アリスの相手できるよ」
「ツッツキなければ大丈夫っす!」
「じゃミカはみのりちゃんと打ち合って、私とは全部ツッツキ練習ね」
本当に運動神経が良いとこんな変な成長をするのかと呆れる以上に感心してしまう。
「あと、今日は後からナオミちゃん来て話があるって」
「何の話ですか?」
「さぁ。全員来ますよねって聞かれたからハイって答えておいたよ」
***
先輩の話通り、全道大会前だからといって特別な練習はすることなく、普段通りに卓球部の練習は進んだ。変わったことといえば昨日一日休んだので基礎打ちの割合がいつもより少し多いくらいだ。
やがて、練習も終盤になったところで前原先生が第二体育館にやって来る。そのまま終了時間まで私たちの練習を見てくれた後、最後に全員を集める。
「皆さんお疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
「三週間後に絵東さんと有栖川さんのダブルス、有栖川さんはシングルスも、全道大会が控えています。今後はそこへ向けて練習していきますが」
そこで先生は少し間を空ける。
「二週間後の土曜日。ちょうど大会の一週間前ですが、皆さん予定は特にないですか?」
「うん? 一週間前だし普通に練習していると思うけど」
絵東先輩の答えに全員が頷く。いくら試合には出ない私と美夏でも貴重な練習相手。四人しかいないヤマコー卓球部はこれから毎日全道まで皆で練習だ。
「良かったです。実は、ちょうど日曜に札幌でイベントがあるという話だったので前乗りできないかダメ元で聞いたらOKをもらえたんです」
「まえのり?」
話が見えないので美夏がオウム返しをする。私も頑張って文脈をつなごうとする。誰かが札幌に用事があって、その前の日が土曜日で……?
「香。藤堂香が、内緒で土曜日ウチに一日臨時コーチで来てくれることになりました」
一瞬の間。
「えー!?」
四人の声がぴたりと揃う。
前原先生の元同級生で、日本一にもなっているオリンピック卓球女子団体メダリスト。
そんな人と、卓球ができるなんて。
「なんで一回戦なんかで負けるのって刈屋さん怒ってた」
団体戦で全国経験者のマリ女の刈屋さんと激闘を繰り広げた美夏は、個人戦の一回戦でひたすらツッツキをしてくるノーシードの選手相手に凡ミス連発で敗れていた。
「うん、試合後に通路で会ってめっちゃ怒られた」
「そうやってすぐ会話できる仲になっちゃうのはミカらしいけど」
私は一回試合をしたくらいの人とすぐに話せたりはしない。高校入学初日の稔里ちゃんとのやりとりを思い出す。
今はそんな私の話は後回しだ。先輩に尋ねる。
「今日から練習どうしましょうか。みのりちゃん右の攻撃型と練習できないし、ダブルスも私とミカじゃどうしようもないし」
私と美夏が組んだダブルスは、こちらが私のカットや美夏のスピードドライブを決めれば、相手はこちらのコースが重なるコースに打ち込んできて、と言えば聞こえは良いが、要はぐだぐだの泥仕合の末に一回戦敗退していた。とても全道から全国を目指すダブルスの相手にはならない。
「それは地区予選の前もそうだったし、今さら変える必要はないよ。高速ラリーは私が相手するしゆのちはしっかりカットマンやってくれれば良いし。それに打ち合いだけならくどみかも十分アリスの相手できるよ」
「ツッツキなければ大丈夫っす!」
「じゃミカはみのりちゃんと打ち合って、私とは全部ツッツキ練習ね」
本当に運動神経が良いとこんな変な成長をするのかと呆れる以上に感心してしまう。
「あと、今日は後からナオミちゃん来て話があるって」
「何の話ですか?」
「さぁ。全員来ますよねって聞かれたからハイって答えておいたよ」
***
先輩の話通り、全道大会前だからといって特別な練習はすることなく、普段通りに卓球部の練習は進んだ。変わったことといえば昨日一日休んだので基礎打ちの割合がいつもより少し多いくらいだ。
やがて、練習も終盤になったところで前原先生が第二体育館にやって来る。そのまま終了時間まで私たちの練習を見てくれた後、最後に全員を集める。
「皆さんお疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
「三週間後に絵東さんと有栖川さんのダブルス、有栖川さんはシングルスも、全道大会が控えています。今後はそこへ向けて練習していきますが」
そこで先生は少し間を空ける。
「二週間後の土曜日。ちょうど大会の一週間前ですが、皆さん予定は特にないですか?」
「うん? 一週間前だし普通に練習していると思うけど」
絵東先輩の答えに全員が頷く。いくら試合には出ない私と美夏でも貴重な練習相手。四人しかいないヤマコー卓球部はこれから毎日全道まで皆で練習だ。
「良かったです。実は、ちょうど日曜に札幌でイベントがあるという話だったので前乗りできないかダメ元で聞いたらOKをもらえたんです」
「まえのり?」
話が見えないので美夏がオウム返しをする。私も頑張って文脈をつなごうとする。誰かが札幌に用事があって、その前の日が土曜日で……?
「香。藤堂香が、内緒で土曜日ウチに一日臨時コーチで来てくれることになりました」
一瞬の間。
「えー!?」
四人の声がぴたりと揃う。
前原先生の元同級生で、日本一にもなっているオリンピック卓球女子団体メダリスト。
そんな人と、卓球ができるなんて。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる