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五章
四十七話
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それを見ていた虎之助が軽く微笑み、ベッドに腰を掛ける。
「……お前は、本当に良い奴だな」
涙を流す美波に対し、言葉を漏らす。
そして、虎之助は言葉を確かめるようにゆっくり続ける。
「本当はな。北条大雅にもお前にも気づかれずに、事を済ませるつもりだったんだ。それで事が済んだら……俺はすぐに消えるつもりだった」
虎之助が虚空を見つめながら言葉を投げる。
大雅の顔で浮かべるその表情は、決して大雅では出すことの出来ない悲哀を含んでいた。
『事、というのは?』
美波が訊く。
「お前の前世は間違いなく、俺の知っている八千代だ。そして、俺は人の前世の魂を蘇らせることが出来る。それはお前みたいな幽霊であっても可能だ」
虎之助が一度口の中に溜まった唾を飲み込む。
「俺がやりたいのは一時的に八千代を降ろし、生前訊けなかったことを訊くこと。それが出来るのであれば、俺はすぐにこの世から去る。勿論、この体は北条大雅に返す。それは絶対に約束する」
想像も出来ない能力と虎之助の強い思いに、美波の思考は追い付いていなかった。
――私の前世が八千代? 前世の魂を降ろす力? 訊けなかったことを訊く? 突然そんな事を言われてもついていけない。というか、幽霊となってしまった私が思うのもどうかと思うが、春豊さんといい、この虎之助といい、私の周りには降霊術に長ける変人しかいないのだろうか。降霊ってそんな簡単にできるものなのだろうか……。
美波が一度天を仰ぎ、肺に取り込んだ空気を大きく吐き出す。
現状に嘆かざるを得ない気持ちをぶら下げながら、突然のご都合主義的な展開に美波はどうするべきか、を整理しながら考える。
――大雅の体を返してもらうためには虎之助の後悔を解消する必要がある。そのために私の前世らしい八千代の魂を私の体に降ろす必要がある。それが出来れば虎之助はこの世を去るという。過去を語ってくれた虎之助の表情や思いを考えると、信じてもいいかもしれない。……でも……。
美波は悩んでいた。
――もし、万が一、虎之助さんが私を騙していて、八千代を呼んだ段階で私の意識を戻すことなく、そして大雅に体を返すこともなく、八千代と一緒に死ぬまで生きていく、と考えていたら……私にはどうすることも出来ない。それならば、他の方法で虎之助さんを消した方がいいのではないか。春豊さんならその方法を知っているかもしれないし。
その様子を見る虎之助がふっと息を吐いた後、自嘲気味な笑みをこぼす。
「まあ、無理もないか。こんな得体の知れない奴に突然こんな事を言われても……」
大雅の顔でその表情をする虎之助に奥歯を噛みしめる。
そして、応募した賞の結果を見て呟く大雅の顔を思い出していた。
「どうせ僕の小説なんて何の面白みもない自己満小説に過ぎないんだよ、いくら頑張っても、何をどうしようと、もう、ははっ……」
そう呟く大雅の表情はまさに今、目の前にある表情そのものだった。
一度や二度の挫折で弱音を吐いて自嘲するその表情が美波は一番嫌いだった。
『…………協力しても構いません』
「ほ、本当か⁉」
虎之助が目を大きく開き口角を上げ、高い声を上げる。
『でも、少しだけ待ってもらってもいいですか? 一つだけその道に詳しい人に確認したいことがあるので』
美波は虎之助の目の前に人差し指を突き立て言う。
「春豊だろう。勿論、構わないさ!」
虎之助は力強く頷く。
その光の灯った瞳に美波の心臓がきゅっと締め付けられる。
自分が幽霊になってから約二ヶ月弱が経過した。
――これからどれだけここにいられるか分からない。いつまで大雅の表情を見ていられるか分からない。けれど、はっきりしていることは、いつかはこの世から消えなくてはいけないのだという事実。
そう思うと、たとえ中身が虎之助であっても、そんな大雅の表情ひとつひとつが恋しくてたまらなかった。
美波は込み上げる涙を虎之助に見られないようそっと拭き、壁をすり抜け外へ出た。
「……お前は、本当に良い奴だな」
涙を流す美波に対し、言葉を漏らす。
そして、虎之助は言葉を確かめるようにゆっくり続ける。
「本当はな。北条大雅にもお前にも気づかれずに、事を済ませるつもりだったんだ。それで事が済んだら……俺はすぐに消えるつもりだった」
虎之助が虚空を見つめながら言葉を投げる。
大雅の顔で浮かべるその表情は、決して大雅では出すことの出来ない悲哀を含んでいた。
『事、というのは?』
美波が訊く。
「お前の前世は間違いなく、俺の知っている八千代だ。そして、俺は人の前世の魂を蘇らせることが出来る。それはお前みたいな幽霊であっても可能だ」
虎之助が一度口の中に溜まった唾を飲み込む。
「俺がやりたいのは一時的に八千代を降ろし、生前訊けなかったことを訊くこと。それが出来るのであれば、俺はすぐにこの世から去る。勿論、この体は北条大雅に返す。それは絶対に約束する」
想像も出来ない能力と虎之助の強い思いに、美波の思考は追い付いていなかった。
――私の前世が八千代? 前世の魂を降ろす力? 訊けなかったことを訊く? 突然そんな事を言われてもついていけない。というか、幽霊となってしまった私が思うのもどうかと思うが、春豊さんといい、この虎之助といい、私の周りには降霊術に長ける変人しかいないのだろうか。降霊ってそんな簡単にできるものなのだろうか……。
美波が一度天を仰ぎ、肺に取り込んだ空気を大きく吐き出す。
現状に嘆かざるを得ない気持ちをぶら下げながら、突然のご都合主義的な展開に美波はどうするべきか、を整理しながら考える。
――大雅の体を返してもらうためには虎之助の後悔を解消する必要がある。そのために私の前世らしい八千代の魂を私の体に降ろす必要がある。それが出来れば虎之助はこの世を去るという。過去を語ってくれた虎之助の表情や思いを考えると、信じてもいいかもしれない。……でも……。
美波は悩んでいた。
――もし、万が一、虎之助さんが私を騙していて、八千代を呼んだ段階で私の意識を戻すことなく、そして大雅に体を返すこともなく、八千代と一緒に死ぬまで生きていく、と考えていたら……私にはどうすることも出来ない。それならば、他の方法で虎之助さんを消した方がいいのではないか。春豊さんならその方法を知っているかもしれないし。
その様子を見る虎之助がふっと息を吐いた後、自嘲気味な笑みをこぼす。
「まあ、無理もないか。こんな得体の知れない奴に突然こんな事を言われても……」
大雅の顔でその表情をする虎之助に奥歯を噛みしめる。
そして、応募した賞の結果を見て呟く大雅の顔を思い出していた。
「どうせ僕の小説なんて何の面白みもない自己満小説に過ぎないんだよ、いくら頑張っても、何をどうしようと、もう、ははっ……」
そう呟く大雅の表情はまさに今、目の前にある表情そのものだった。
一度や二度の挫折で弱音を吐いて自嘲するその表情が美波は一番嫌いだった。
『…………協力しても構いません』
「ほ、本当か⁉」
虎之助が目を大きく開き口角を上げ、高い声を上げる。
『でも、少しだけ待ってもらってもいいですか? 一つだけその道に詳しい人に確認したいことがあるので』
美波は虎之助の目の前に人差し指を突き立て言う。
「春豊だろう。勿論、構わないさ!」
虎之助は力強く頷く。
その光の灯った瞳に美波の心臓がきゅっと締め付けられる。
自分が幽霊になってから約二ヶ月弱が経過した。
――これからどれだけここにいられるか分からない。いつまで大雅の表情を見ていられるか分からない。けれど、はっきりしていることは、いつかはこの世から消えなくてはいけないのだという事実。
そう思うと、たとえ中身が虎之助であっても、そんな大雅の表情ひとつひとつが恋しくてたまらなかった。
美波は込み上げる涙を虎之助に見られないようそっと拭き、壁をすり抜け外へ出た。
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